6th-haven_FILE04:believe

【file//:testimony0x1441BE7_016.rvm>lorded】
【PLAY>】

【*建築工 男性(42) 018区画整備区域】
【ああ、たしかにいたよ、四体くらいかな】
【そんな大きくない、膝の辺りくらいかな】
【よくわかんねえけど、右往左往してて、目を離したら居なくなってた】
【嘘じゃねえよ、砂に足跡も残ってた】
【信じてくれよ】

【*難民 女性(推定25) 038区画スラム】
【確かにいたよね、一匹だった】
【夜中にガリガリうるさいもんでさ、そこのカーテンから顔出したの、怒鳴ってやろうて】
【したらさ、あいつが壁に張り付いて、コンクリ削ってたわけ】
【こっちに気づいたら、チャチャッと居なくなったわ】
【別に金欲しさに出鱈目言ってんじゃないのよ】
【信じて頂戴よ】

【*難民 男性(10) 038区画スラム】
【見たよ、いっしゅんだった】
【赤い色してた】
【あいつ、あそこでネズミを食べてたんだ】
【すぐにとんで、いなくなっちゃった】
【ほらあれ、あのくさったネズミのあたり】
【べつにしんじなくていいよ、みんなウソだって言うんだから】

【都市復興プロジェクト参加者 男性(24) 044区画瓦礫破砕場】
【昨日も見かけた、確かにうちでも使ってるタイプのキャリアだったんだけど】
【なんか色がちがうし、IDもなんか……】
【あッ!? ほ、ほらアレ! あれが

【>PAUSE】



第六ヘイヴン013区画。

大戦中も比較的被害が少なく堅牢な建造物が多かったこの地区は、当時より難民の受け入れのために外部の瓦礫を材料にして乱暴な増築が繰り返されてきた。
自動的に居住地を作り出す重機によって未だ成長を続けているこの奇形の摩天楼の一角にディーゼルの棲み家は存在する。
窓から差す違法クリニックの広告の光が時おり部屋を柔らかなオレンジ色に照らしていて、何処と無く夕日が差し込んでいるようでもある。

徐に覚醒したディーゼルの視覚野に、オレンジ色に染まった自身のベッドが飛び込んでくる。
その上で熟睡している友人はだらしのない寝姿で、深くゆっくりとした呼吸音も確認できた。

サイボーグになっても、稀に寝返りは打つし寝言をつぶやくことだってある。
脳波に睡眠を表すパターンが現れるとボディも自然とスリープモードに入り省電力化し、身体に接続されたケーブルにて充電が行われる。
スリープモードとはいえ半覚醒する脳や血液の偏りの解消のために、小さく身体を動かすよう巧みにプログラムされているのだ。
例え見た目が大きく変わってしまったとしても、辛うじて残ったオリジナルの部分のために変わらず振る舞おうとする機械の身体の恩恵によって、まだ彼らは生物としてのアイデンティティを保ち続ける。

食物にしたって巧みに作られていた。
消化器を持たない彼らの身体に構いもせずに、脳は活動のための栄養素を要求する。
脳に必要なカロリーやブドウ糖は小さなカートリッジにペースト化して封入されていて、食事はそれを交換するだけの無味乾燥なものに成り下がった。
それで満足することのない満腹中枢の為に、カートリッジには接続時に味覚と満腹中枢を一定時間刺激する疑似クオリアプログラムが内蔵されていて、ものによってはフルコースを食べたような気分まで味わえる。

アルコール等の嗜好品に関してはより進んでいて、肝臓の無い彼等が代謝出来ない物質としてのアルコールは一切体内に入ってこない。
替わりに同じく疑似クオリアで作られたバーチャルな酒と言うものが産み出され、多彩な味覚と共に一時的に脳の働きを阻害して“酔い”を作り出す。
これを流用し様々な付与効果を追加したものを“ドラッグ”と呼ぶのであるが、流通するドラッグの多くが素人プログラマーの手によるもので如何なる不具合を抱えているのか判らないために良識ある人間はまず使用しない。



泥酔した友人を抱えて帰宅したディーゼルは、ジェイクの寝姿に不思議な“嬉しさ”を覚える。
ニヒリストを気取りながらも元が穏和で御人好しな性格で、と言うよりは、イヌ科動物の本能と言うべきか、気を許す人間になにかを施すのが好きだからだ。
ジェイクとはそれなりに長い付き合いで、その上で比較的分かりやすいパーソナリティを理解している。

曰く“強固な心の鎧を持ってはいるが、中の心は傷だらけ”。

そしてこの分析結果は自分にも跳ね返る。
ディーゼルとジェイクとは、なにか根本的な部分で相似しているのだ。

だから御人好しのディーゼルは、ジェイクを無視出来ない。

あのテロリストの一件以来、二人は一緒に呑む回数が増えた。
その都度ジェイクが泥酔し、独りでの帰宅が困難になる。
ディーゼルが自宅の側の店を紹介した所ジェイクがそれを気に入ってしまったので、そうなれば自然とジェイクはディーゼルの部屋で介抱される。

いつも通りのプロセス。
いつも通りのルーティン。

悪い気はしなかった。

時計アプリケーションによれば未だ深夜の三時だった。
ディーゼルは再び光学センサーをスリープさせて自身も深い眠りに沈んでいく。

「……あ?」

だがセンサーがシャットダウンする直前、ディーゼルは違和感を覚えて処理を中断させた。

直後。

「ぬわあああああああ!?」

轟音と共に、窓の外、隣の過剰増築雑居ビルを巨大な質量を持つなにかが抉った。
ガラスは割れ、排ガス臭い風が吹き込み、けたたましいサイレンが悲鳴を挙げる。
そして先程まで部屋を包んでいたオレンジの明かりも僅かの点滅の後に消えて、青い闇が部屋を包んだ。

「なな、なんだッ!?」

爆音を察知した各センサーにより半ば強制的に覚醒させられたジェイクが狼狽える。

「お、おいジェイク、なんだあれ!? なんだあれ!?」

パニック寸前のディーゼルがジェイクに駆け寄ってしまうのもイヌ科の性か。

「……マジか……」

二人が思わず肩を寄せて震えるその視線の先。
窓の外では、10m四方はありそうな機械仕掛けのダニのごとき四角い“重機”が、真紅の身体を支える無数に生えた脚のごとき作業肢を蠢かせ、隣接する雑居ビルを文字通り“貪って”いたのだった。



「災難だったわねえ」

WARPのインフォメーションセンター内でラウリンは同情の微笑みを見せた。

「ねーさんとこ、大丈夫だったの」

「娘の働いてた託児所が潰されちゃって泣きわめいてたわ、子供たちはみんな無事だったらしいけどね」

「だよなあ。命が助かっただけいいよなあ……」

ジェイクはがっくりと肩を落とした。

昨夜二人が目撃した重機の暴走事故は四ヶ所で同時発生した。
件の巨大重機が投下された013区画がもっとも被害が大きく、他の三区画では前々から目撃証言のあった謎の小型重機暴走事件と同型のものが街を襲った。
流石の大惨事に世界政府も即座に自衛軍を派遣し、怪獣映画の如く暴れまわった巨大重機は数発の榴弾を受けて爆発炎上、沈黙した。

夜が明けて尚被害の範囲は解っていないが、局所が壊滅的被害を受けた程度であり総面積的にはそれほど広くないらしいと言うのは明け方のニュースで明らかにされた。
そしてジェイクが自分の塒にしていた無人の雑居ビルも白蟻に食い尽くされたが如く倒壊したため、ジェイクはしばらくディーゼルと泣く泣く同居する羽目になる。

「出た?」

「うん出た、やっぱりそうみたい」

後頭部に通信ケーブルをぶら下げたままのディーゼルが、ラウリンの向けたモニターを覗き込んだ。

「Gantz-Graf2000……」

「techno-nation社がオートアーキテクチャブランドAutechreから一番最初にリリースしたモデルで、生産数はすごく少ない上に制御プログラムに問題があって解体処分されたの。でも今回投下されたこの機体は製造コードに該当しないのよ」

「え、techno-nationてその辺のトラブル続きで倒産したよね、なのに現行品?」

「目撃が相次いでる採掘ドローンのkernkraft400も、製造ナンバーと捕獲された機体のシリアルが一致してないの。新たに製造されてるのかしら」

「まさかあ」

「……あのさあ!」

そのやり取りを不思議そうな雰囲気で見つめていたのはジェイクだった。

「全然話がわかんねえ!」




techno-nation社。
技術大国の名を冠する作業用ドローン開発販売の大手だった。
第三ヘイヴン立ち上げの辺りから頭角を現してきたこの企業の商品は、構造がシンプルかつ堅牢で、フレキシビリティの面では他社品に劣るものの、比較的安価で耐用年数が極めて長いという重機としての理想条件を満たしていたため、堅実に着実に建築・製造業界でのシェアを確立していった。
そんな中、おそらく世の教育水準がもう少しマシになるころには歴史の教科書にその名を記すであろうほどのベストセラーを記録したのが、件の原発解体完全対応型ドローンkernkraft400である。
高放射線環境下でも故障無く、最大四年はメンテナンスフリーで稼働できると詠われたこの三本脚のドローンは、背面ユニットの交換によって用途を変更できるという、原発解体に留まらず建築分野全般を視野に入れたフレキシビリティへの意欲的なアプローチが行われた。
ユニット交換の必要はあれど、一台で解体・建築・保守点検が可能でかつ小型、と言う良いとこ取りの商品は、従来品より値が張るものの一時生産が追いつかまないまでの販売数を誇ったらしい。

だが、その余りの販拡に対して業界の反感を買ったのか、技術大国の栄華は思わぬかたちで散ることとなる。

kernkraft400で使用されていた旧式のOSのサポートが終了するその年、ovalと名付けられた新たな言語で開発されたフレキシブルなOSが発表され、重機産業でも各メーカーが一斉に対応商品のリリースを行った。
かねてから脆弱性を指摘されていたkelnkraft400にも対応が求められたが、この新OSは既存のAIアプリケーションと悉く相性が悪く、オーダープライオリティ管理が上手く行かずに想定外の命令を実行するなどの暴走事故が相次いだ。
相次ぐクレームに企業イメージを損なったtechno-nationは盛り返しを狙ってovalプロセスに対応した新AIの開発を急いだが、その第一段となるGunts-Graf2000においては旧OSを新OS上でエミュレートするという急場凌ぎ的なぞんざいさでリリースされ、余計に世の反感を買った。

こうして打開策が見つからないままtechno-nationは経営破綻し倒産した。

「んで、このkernklaft400てのが割と中古屋で出回っててさあ」

「じゃなくて、それが何で突然大挙して襲ってくるんだよ」

「さあ?」

首を傾げるディーゼルにジェイクはため息を吐く。

「盗品の可能性は?」

「盗難届けは出てないし、不法投棄品を流用してるセンもなくはないけど、他に目立った関連情報ないのよ」

ラウリンがモニターを睨みつつ厚い唇でそう語る。

「techno-nationの亡霊なのかしら」

「それじゃあ技術大国つーよりゾンビ王国だな」

「気になるのは、重機の色」

再び二人にラウリンがモニターを向けた。

「目撃情報は総じてボディカラーが赤いと証言してるんだけど、当時のカタログでレッドカラーのタイプは確認できないの、特注品なのかもしれないけど、それにしては数が……」

「昨日の怪獣ダニも赤っつーか、オレンジみたいな色してたぜ」

「ええ、それもカタログ該当なし、重機が黄色いのは警戒色だからだけど、一応これも警戒色なのかしらね」

ラウリンが一つため息をついて、綺麗にセットされた髪を撫で付ける。

「ごめんね、こちら側でもあまり詳細は掴めてないのよ」

「いいよ、ねーさん」

「各PMCに鎮圧依頼出てるから配当少ないかも、それでいいの?」

「んーまあ」

ジェイクは頭を抱えつつ踵を返した。

「さすがに家潰されてムカついてるからさ」



“獣医”ことトム=ジェイソンのクリニックは017区画の路地裏にひっそりと存在する。
看板すら無い雑居ビルの裏口に俗世から隠れるように居を構えたトムと言う人物は、世間一般の常識で言えば変人に部類される。

トムに言わせれば、人生を楽しむコツは“アプローチを変えること”だそうだ。
医学博士号を持ちながら、趣味は機械製品のレストアとエンジニア的。
それが高じてサイボーグ医療に手を染めてからも、他人に出来ることをわざわざ極める謂れはないと、企業が一時狂ったように開発していた動物ベースの生体兵器の救済とサイボーク化治療というニッチにも程がある筋に手を伸ばし、結果としてディーゼルはそのお陰で命を拾っている。
故に彼は世俗には変人と扱われようと、ディーゼルにとっては父親に等しいリスペクトの対象であった。

「珍しく悩んでいるな」

広くなってしまった額に拡大鏡を押し退けて、口髭を掻きながらトムは語りかけた。

「相方の様子がよくわかんねえんだよ」

ディーゼルは手慰みに、トムが放置している何らかの外殻を弄びながら答える。

「今まで仕事のことで悩む素振りとかなかったし、何にそんな執着するのか……いや、別に執着はしてないんだけど……引っ掛かるらしくてさ」

「ほう……悪縁でも出来たかな」

「エン?」

「非可逆的な関係性のことさ」

テスターの針を繊細な指先で丁寧に回路に沿わせ、短絡が無いかを探っていく。

「縁と言うものは必ずしも狙って結べるものではない……何か人知の及ばぬ力が働き、人生を大きく変えることもあるやも知れん。バタフライ効果よろしく僅かの空気の対流が遥かの大地で嵐になるように」

「非現実的なハナシ」

「ああ、だが現実に起こっている。縁は無常だ、何が継起と成るかも解らぬまま、何時の間に結ばれ、何時の間に解ける……一期一会という言葉もあるな、同一言語圏の文化だが」

「流行りのゼンってヤツ?」

「そうかもしれんな」

再びトムはゴーグルを掛けて、鏝先で半田を流していく。
立ち上る白い煙が僅かの光源の下でゆらゆらと巻いていく。

「例えば俺とお前の関係性だ、お前は俺と出会うことなど僅かにも思わなかっただろうが、今はこうして言葉を操りコミュニケーションを取ることもできる」

「たしかになあ……おれあの時死んでたはずだし」

「だが命を拾い、俺とお前の関連性は継続していて、更には尚も拡大を続けている……思い起こせばなかなかに神秘的でないかね?」

「ジェイクの場合は?」

「彼はどうも不運らしいからな、悪縁に囚われたのかもしれん」

再びトムはゴーグルを外して溜め息を吐く。

「俺は彼に会ったことは無いが、お前の話を聞く限り、今時珍しい程のお人好しらしいからな……我が身になって考えてしまうのだろう」

「でもよ、もういい加減おれたちプロだぜ? そんなセンチメント……」

「プロフェッショナルとプロセッサを誤認しているのか? どの道を極めようと人間は人間だ、感情論を捨て置いて思考するのは困難だし最良とは限らんよ」

鏝先を濡らしたスポンジに押し付け冷却すると、トムはゴーグルを外して机に置き、ゆっくりと肩を回した。

「そして悩むものが“人間”だ」

出来上がった基盤が何かはわからない。
トムの趣味からしてとんでもない骨董品かもしれない。
彼の部屋は至るところにこのようなものが転がっていて、それらが全て彼の一部のようなものだ。

「先生」

ディーゼルは弄んでいた部品を机に置いた。

「おれは、人間かな」

前掛けを外し、立ち上がった所で掛けられた思わぬ言葉に、トムは改めてディーゼルに向き返った。

「……俺の定義でいいのかね」

「うん」

「そうだな……お前は確かに肉体は機械だし、脳は狼かもしれないが」

歩み寄るトムは微かに微笑んでいた。

「人が二足歩行をし、手で道具を扱える知性をもち、かつ他者について思い悩むものであるなら」

そしてその手がディーゼルの、角張った頭部を撫でながら、彼は最後にこう結んだ。

「お前はもう人間だよ」



クリニックからの帰路は、敢えて暴走ドローンの目撃証言が在ったルートに変更した。
昨夜の大規模暴走事件の被害域にも重なるこの場所では、幾つかのビルにカートゥーン調で描かれたチーズを連想する乱雑な虫食い穴が認められる。
それよりも前に目撃があったのは旧サブウェイステーションから四方に延びる商業コリドーの一角だった。
誰かがアート感覚で積み上げたディスプレイ上でリピートするヴィンテージなエアロビクスの映像を横目に、ディーゼルは割れた階段を特に感慨も無く下っていく。

「……あ」

その下の柱に項垂れる男は顔見知りだった。

「やあ、おっさん」

「……」

円筒頭のサイボーグはゆっくりと顔を上げた。

「……よォ、でけえの……」

「タバコ要るかい?」

「 ……ああ」

ディーゼルは黒パーカーのポケットからクシャクシャの紙パッケージを取り出した。

「四本、まだ残ってるぜ」

「やるよ、それなりに好みの味だったから」

「……ありがてえ……」

円筒頭はカタカタと機械的に揺れる手でタバコをくわえようとして一本取りこぼした。

「……悪ィけどよ、点けてくんねェか……」

「……あいよ」

ディーゼルは大きな手で老人の手から煙草を一本取り出して、火を点けてくわえさせてやった。

「ああ……うめえ……」

「そうかい」

ディーゼルの目に、円筒頭の老人はどう見ても健康には見えなかったのだが、彼はあえてそれ以上の詮索をしなかった。

「……kernkraft400……」

「あ?」

「探してんだろ、金になるからな」

白煙を吐き出しながら老人が言う。

「なんでまた急に……」

「そんな気がしただけさ」

老人はディーゼルを見据えて語りだす。

「あのドローンはよく出来てたが……言うほどの聞かん坊ってわけでもねーのよ……なんせ」

白煙はなおも日の差し込むコリドーの中で踊っている。

「俺ァ最後の日までtechno-nationに勤めてたんだからな」



老人の昔話は日暮れまで続いたが、程よい情報をディーゼルに提供したところで話しつかれたと言って眠ってしまった。
多少なり気にする部分はあったものの、“縁”の話を聞いた後のディーゼルは僅かに慎重になっていた。
別に老人が疫病神だからというわけではなく、ただ、それほどの人知の及ばぬ力の働きに対して懐疑的になっていたためで、ある意味で臆病風が吹いたのかもしれない。

ただでさえ今、強い縁で結ばれていると信じたい相棒の扱いについてこれほど悩んでいる彼に、それほどのリソースは残っていなかったのだ。

だからせめて、彼は孤独な老人の昔話に耳を傾けた。
プロセッサではないプロの仕事として。

「……」

だがプロ気取りの彼にだって、目の前の状況に悩むことがある。
あえて通常のルートを外して第二の目的地点を通過するところ、古い用水路のあたりで彼はどう対処すべきかに困る状況にあった。

「……あれ、なんだ……」

思わず声に出してしまい咄嗟に身を隠す。

そして改めてソリトンレーダーを起動して状況把握に努めてみる。

“それ”が行っているのは、首の長い水鳥が優雅に水を飲んでいるかのように表現していいのかもしれない。
もっとも水鳥が殆ど死滅した今でそう表現するのは余りに詩的かもしれないが。
少なからず、意味のある行動ではない。

オレンジ色の巨体。
長い首。
鈍く輝く嘴。
引きずられた腸。
三本の腕らしきもの。

ここに居て良いものではない。

どこと無く有機的に見えるグロテスクさで身をよじりながら、

「……ッ!?」

その“精密作業用ロボットアーム”は獰猛な爪先をあたかも嘴の様に構え、這いずる様に襲い掛かった。



釈然としない自分の気持ちに対する八つ当たりと憂さ晴らしの対象にするには、今回の案件に巻き込まれたことはある意味では幸運だったと思っていた。
初めは確かに気が紛れたには紛れたが、
大分場に慣れてルーティンワークになってくると、生じたリソースの余りを使ってまた余計な処理が間に挟まってくる。
昨夜のドローン群の潜伏していた残りの掃射は予想より数が多く難儀していた。

何より気になることがある。
ドローンの行動がより高度になってきているのだ。
一体の処理に手間取っていると死角から別の一体が襲ってくる。
まるで社会性昆虫の高等戦術だ。

【NOTICE/LAURYN_NOLAND】
【ごめんなさい、おまたせ】
【kernkraft400は互いにネットワークを構築していて、親機からの指令を伝搬するように出来てるの】
【戦術データが親機に送信されてアップデートされてるのかも】

【>女王蟻がどっかに潜んでるってこと?】

【ええ、でも、衛星を経由しててあたしではお手上げ】
【ワンちゃんは一緒じゃないの? 彼の専門よ】

【>NOTICEに返信がない】

【okay、サービスでこちらから呼び掛けといてあげる】
【-OFF LINE-】

十分な弾数を用意してきたつもりだったが、対象の耐久性は想像を僅かに上回っている。
その上残弾より先にSMGのフレームが遊び出しているのも問題だった。
ジリ貧になるのは目に見えている。
先日の研究所攻防で深い考え無しに使ってしまったECMグレネードで思いの外赤字を出してしまった後悔で置いてきてしまったのも失敗だったかもしれない。
相次ぐギャンブル運の無さにジェイクは歯噛みする思いだった。

「【censord】めが」

頼れる自分の脚も非ヒューマノイド型のドローンにも通用するかどうか。
だがそのシミュレーションもできないまま携行火器が悲鳴を上げた。

「ッ、冗談だろッ!?」

現在のメイン火器で初のジャムにジェイクは咄嗟の機転を求められた。
もちろんお世辞にも最良の選択だったとは言えなかった。
だが背に腹は変えられぬ状況下、神経反射的にチャージしていたアークジェットに点火し、宙を舞う。
人工ダイヤ刃グラインダーを高速回転させながら飛び込んできたドローンを見事なオーバーヘッドキックで粉砕した直後、別方向から飛び込んできたドローンに体当たりされ、コントロールを失う。
地面に叩きつけられる直前でアークジェットを点火し体勢を整えたが、飛びかかるドローンは彼の腕や足に次々と取りついていく。

「やべッ……!」

思わぬ重心変動により着地を失敗したジェイクに、再び別のドローンのカッターが迫る。

刹那。

「うわあああああああ!」

聞きなれた悲鳴。

交通法違反速度で走る巨体。

それを追う……

「……あぇ!?」

それを追う、巨大ななにか。

一瞬ジェイクは図鑑にあった駝鳥か何かかと思った。
だが、相棒を追うそれは、見れば見るほど生物からかけ離れる。

そして、一瞬足を止めたその存在と、目があった、気がした。

「わ、うわ、わああああああッ!?」

機械駝鳥改め巨大なロボットアームは腸のように千切れたコードを引きずりながら、その爪を構える。

そして。

「あああ……ッ!?」

鋭く慈悲無き爪先が、ジェイクを狙うカッタードローンを遥かに吹き飛ばす。

「……へ!?」

追われていた筈のディーゼルも、その光景をどう判断すべきか戸惑った。
ロボットアームが、ジェイクに取りつくドローンを次から次へ引き剥がしていく。
虫を啄む鳥の様に。

「……ッ!?」

最後のドローンを無惨に引きちぎり、完膚無きまで叩きのめして、ロボットアームは咆哮した。
ビープ音を増幅し可聴域を遥かに超えた周波数で放たれたそのノイズはイコライザ上で計測出来ないまでの波形を示したが、そのなかにあるパターンを見いだしたプログラムが自動的にそれを抽出し、リアルタイムで補正を掛けた。

【ャナイ、機械ジャナイ、機械ジャナイッ!】

【人間ダ、僕ハ人間ダ、人間ナンダ!】

【信ジテクレヨォオオオォォォッ!】




悪夢を見た。
家族に、仲間に、人間であることを認めて貰えなくなる夢だ。

夢の中のジェイクは蜘蛛の姿をしていた。
機械で出来た蜘蛛だった。
誰にも言葉は通じなかった。

目覚め際。
場面は突然、数時間前の現場のフラッシュバックに切り替わる。
人間であることを主張しながら咆哮したロボットアームは、そのまま突然機能停止し崩れ落ちた。

ジェイクはその様を呆然と見つめていた。

目覚めたジェイクの身体はいつも通りだったが、ひとつ違うのは隣に見慣れたダークグレーの巨体が身を横たえていて、その重機のような腕が自分の身体を完全にホールドしていたことだ。

まだ少し見慣れぬ天井。
窓から挿す復旧工事の明かり。
殺伐とした夢とは対照的に柔らかな薄闇が周りを包んでいて、却って夢の中の様に静かだった。

「……起きたか」

腕の主が平然と訪ねる。

「なにしてんの」

あっけにとられてそう応える。

「魘されてたから」

「マジか……ていうか、なにしてんの」

「駄目だった?」

「だからどーしてこうなってんだよ」

多少なりの狼狽もあったのか、支離滅裂になりつつある会話を鑑みてひとまずジェイクはひと呼吸置いた。

「……今何時」

「まだ23時過ぎだよ」

「……変なことしてねえよな」

「定義による」

「キスとかセックスとか」

「それはまだ」

ディーゼルの返答にジェイクは拳で応答した。

「……あのさあ」

「うん」

「……」

ジェイクは抗議するつもりだったが少しだけ言葉を選んだ。
僅かに高い体表温度にシーツの冷たさが心地よくすら感じる。

「オレ達の関係ッてさ……つまり、どうなの」

唐突な言葉にディーゼルは少し考えた。

「え、同業者」

「そうじゃなくてさ」

ジェイクの身体を抱いたままディーゼルは首を傾げている。

「……ただの同業者が飯も呑みの時でも一緒に居てさ、ましてや同じベッドで寝てるような関係って、なんだろうなって話で」

「状況次第ではふつうじゃねえの?」

「いや、そうじゃ……いやまあ、状況的にはそうかもしれねーけど」

「どうした、何が言いたいんだよ」

逆に訪ねられジェイクは言葉に詰まる。
対するディーゼルは何か楽しげに訪ね直す。

「……なんか特別な関係が良いって話?」

「ど、どーいう話だよ」

何故か自分でも良くわからないまま狼狽えたジェイクは背を向ける。

「そーだなー、単純に友達ってのも味気ないよなあ」

「いや、いいよ、友達で」

「なんかそう言うアドホックな関係性よりかはもうちょい複雑性が高いような気がするんだよ」

ディーゼルはジェイクを執拗に抱き寄せる。
額を撫でる手を払い除けようとして、のし掛かる重い腕に阻まれた。

「そうだなあ……」

「や、もういいよ」

「おれさあ」

「聞けよ」

「お前の事、大好きだよ」

息を呑むかのごとき数秒の間。

「……それは、告白?」

「告白? おれはお前が好きなんだっての」

リソース不足で強制終了寸前の処理が行われているかのごとき十数秒の間。

「……そうか」

そしてジェイクは絞り出すように答えた。

「……え、なに、駄目だった?」

「や、なんつーか、いや……そうじゃないけど……」

「おれは、お前のこと」

「待て待て待て、わかった、わかったから」

明らかにディーゼルは尻尾を振っている。
冗談なのか、本気なのか。
確かなのは、身を抱く腕の心地よさ。

「……お前だったら、おれの飼い主になって欲しいと思うよ」

「待てって、だか……飼い主?」

「うん、飼い主」

今度は別の処理に数秒の間が必要だった。

「……なにそれ」

とりあえずジェイクは訪ねた。

「おれさ、お前と毎日いるとすげー楽しいし、お前となら毎日いてもいいと思うし」

「お、おう」

「……お前が落ち込んでるとさ、なんかしてやりたくなるんだよ」

「……や、ありがたいけどさ、飼い主って表現はどうなんだよ、なんか却ってフェティッシュだよ」

「おれ他にいい表現しらねーもん、人と狼の関係で」

そうだった。
人の言葉を巧みに操っても、ディーゼルの常識基底は狼のそれなのだ。
とは言え。

「だからって飼い主ってさあ、狼としての尊厳はどこに消えたんだよ、犬扱いされるの嫌いだったろ」

「お前だからいいんだよ、お前にだったら」

「マジか……まあ、お前がそれでいいなら、いいけど」

ジェイクは改めて相棒の顔を見ようと身を返した。
その直後、ディーゼルの外骨格に包まれた厳めしい顔が接触してくる。

「……なにしてんの」

「いや、ちがうんだよ、舌があればベロベロしてやりたいとこなんだよ」

「勘弁してくれよ……」

ディーゼルは何度も何度もジェイクにキスを繰り返した。
そうしている内に、ジェイクはなんだか愉快な気持ちになってきた。

飼い主と飼い狼という関係にはやはり(様々な意味合いを含めて)釈然としない部分があるものの。

あの悪夢に比べれば、ジェイクはそう悪い気はしなかった。



ロボットアームの暴走は、制御プログラムに癒着していた別のファイルに起因する。
それは転写されたとおぼしき、生体脳と硬電脳との間で情報をやり取りするためのクオリア信号シーケンスだった。

『通常、このファイルは一時的に揮発性メモリにキャッシュされ、他のファイルの呼び出しを行った後に即座に消去される』

二人とラウリンの見つめるモニタの向こうでトムが解説する。

『このキャッシュは生体脳がもつプリミティブな情報を機械語に翻訳する橋渡しをする。それがAIに癒着し不正な処理を行わせる可能性は十分ありうる……内容が曖昧なので、どのような処理を行うかは未知数だがね』

「だからロボットアームが自分が人間だとか主張するようになるのか?」

『かなり極端な症例だ』

頷きながらトムが答えた。

『このロボットアームの制御プログラムはかなり大きな欲求が転写されていた』

「欲求?」

『生存欲だよ』

トムは髭を撫でながら語り始める。

生体脳と硬電脳の間では、曖昧な情報をやり取りする為の疑似クオリアインターフェイスが仲介している。
このユーザーインターフェイスの開発の背景には、ある現在の科学においても説明し得ない不可思議な現象の存在がある。

サイボーグ技術の革新とも言える脳直結型マイクロ量子コンピュータ、所謂“硬電脳”のソフトウェア面での臨床試験中、被験体であるクローン猿の脳波に極めて顕著な“斑(ムラ)”が生じた。
初め猿の様子に変わった点は見られなかったが、電脳と切断されたと同時に猿は脳障害に似た症状を示しやがて死亡してしまった。
猿が繋がれていた電脳では何らかの処理が引き続き行われていて、別のマシン上に構築された“仮想の脳”に参照させてみると、死んだ猿の失われていた一部がその中に再現されていることがわかった。

当初科学者、及び医師達は、直結した量子コンピュータ上で脳の働きがミラーリングされているのだと考えた。
しかし、後々分析が進んでいくと、単純に脳のコピーが取られている訳ではないという仮説が生じた。

人間の心の所在地、精神の在処同様に未だ正解にたどり着いていないこの問題に今最も有力な仮説。

仮想脳拡張。

量子コンピュータ内の余剰リソース上で、脳から発せられる何らかの信号が疑似クオリアに作用し、仮想的なニューラルネットワークを構築してしまうという半ばオカルトじみた仮説である。
疑似脳化した硬電脳ネットワークが脳と連動して振る舞う様になると、脳は自らの機能の半分を直結した疑似脳上に移設してしまう。
これは一種の機能代償と考えられ、硬電脳の領域全てに脳機能が断片化されて分散してしまう。
使われなくなった脳ニューロンは次第に死滅し、結果としてアルツハイマーに類似した病的症状が現れる。
これは疑似ニューロンが生体脳のフレキシビリティに対応出来ないためで、結果として被験体の脳機能は停止してしまう。
詳しいメカニズムは不明のまま、量子脳仮説やその他オカルティックな見解などと結び付き、真相は闇の中に隠れたまま被験体の脳死という事実だけが明らかになった。
このことからこの現象は人間の不死化や上位シフトの研究には結び付くこと無く、忌避すべき重大な欠陥として研究される。

そうして生まれた疑似クオリアインターフェイスは、硬電脳と生体脳を直結させずに入出力させるための関門として機能している。
人間の脳がクオリアとして格納している曖昧な情報を、言語野を参照しながら電脳内でやりとりするこのインターフェイスの揮発性メモリには、複写されたクオリアの残滓が断片化されて格納されている。
この残滓は、物理ディスク上の断片化ファイル同様に、復元すればひとつのクオリアとなる場合がある。

件の暴走ロボットアームのAIに癒着していたファイルは、このような疑似クオリアファイルだった。

「誰かが工場のアームにわざわざ直結して死んだってこと?」

ジェイクにくっついたままのディーゼルが訪ねる。

『経緯はわからない。労働者のプロレタリア的抗議としてのメッセージなのか、悪戯に直結してキルスクリーンの先に消えてしまった者の末路なのか』

「少なからず、ノーヒントでは無いみたいよ」

コンソールを操作したラウリンが笑顔で答えた。

「ロボットアームの製造番号から納入先が割れたわ、悲しきプロレタリアの正体、拝みに行ってくる?」



元々から砂漠だったこの地域は文明というものの誕生から人の居住を許さなかった。
昼夜の寒暖差は激しく、水は無く、作物は育たない。
憧れの第七ヘイヴンは、この不毛の大地の遥か先にあるという。

「仕事ついでに家族に会ってく?」

自動操縦の輸送ヘリ内で、装備を確認しながらディーゼルはジェイクに訪ねる。

「ビザが無い」

そっけなくジェイクは返した。

「……ごめん」

「いいよ、別に……気持ち悪いな」

「ごめんてば」

「だから妙に謝るなッて意味だよ、お前らしくない」

ディーゼルの視界にはジェイクの頭上にスマイルマークが浮かんで見えているのであるが、それでもしでかしたという気持ちは消えなかった。

「よくやるよなあ」

「なにが?」

話題を変えようとディーゼルが切り出した。

「こんな砂漠越えて、その先に第七ヘイヴンがあるなんてさ」

「ユートピアのイメージってそうなんじゃねーの? 砂漠のオアシスみたいなさ」

「なんで人間てカタチから入ろうとするんだろ……」

ディーゼルは窓の外を見下ろして言葉を詰まらせた。

「何?」

「いやさあ、目的地見えたんだけど」

ジェイクも続いて窓からの視界に絶句した。

「……なんで、歩いてんの……?」



techno-nation本社第一プラント。
軍用陸戦プラットホームを改装増築して築かれた巨大な蟻塚は、ヘイヴンの移動に伴って常に移動してきた。
techno-nationが倒産した翌日、プラットホームは一夜にして社長一族と共に姿を消した。
その“夜逃げ工場”は、今、暴走ドローンを吐き出しながら、第七ヘイヴンを目指して“歩いている”。
強力な電磁サスペンションを備えた四対のアウトリガーを昆虫のように動かしながら、着実に歩みを進めていく。

「移動式プラットホームを利用してるとは聞いてたけど、機能が生きてたとは……」

「よく所在地わかったなあ」

「アームの識別番号から回線めぐって、衛星通信の履歴からアタリつけたんだよ、もっと頻繁に通信してたらもっと早く気づけたかもね」

その実、ディーゼルはプラントに関する情報を件の老人から転送されていた。
彼はプラントの逃亡によって職を失った一人で、この捜索方法はまだ彼が若く情熱に溢れていた頃に試みたものだった。
抗議のために乗り込むつもりが自衛装備からの攻撃を受けて命からがら逃げ出したらしい。

【!!CAUTION:目標施設 上部 動態反応】

突然の通知にディーゼルは我に返った。
輸送ヘリの光学センサーが捉えた映像がクローズアップする。

「やべえ」

「何?」

「撃ってくる」

同時に施設屋上が光り、加速されたなにかがヘリを掠めて振動させる。

「何で生産工場が大砲積んでるんだよッ」

「元軍用なんだってば、自警の為に残したんだろうさ!」

AI任せだったヘリの操縦権を奪い取り、ディーゼルは砲撃を回避しながら最適な侵入ルートを演算する。
二発、三発。
恐らくレールガンであろう何かが再びヘリを掠める。
屋上には巨大な電磁カタパルト、巨大ダニ怪獣を投げ飛ばしたのは恐らくこれなのだろう。

「あージェイクさん」

「はい何でしょう」

「VTOLお好きですか」

「しゃーねーなー」

ジェイクは二丁のSMGをしっかりとホールドし、覚悟を決める。

「よし、退避プログラミング完了、カウント3で」

「okey、地面とキスしないことを祈るぜ」

「よし、3、2、1ッ」

二人がヘリから身を投げる。
ディーゼルに直結していたケーブルが抜けると同時にヘリは猛スピードで上昇した。
風切り音。
眼下に砂漠。
大きくなるプラットホーム。

【NOTICE/JAKE_JETTISON】
【着地点は】

【>まかせといて】

【え】

乱気流とヘリ目掛けて飛んでいく砲弾の隙間を落下しながら、ディーゼルは対爆コートをはためかせジェイクの腕を掴む。
そしてそのまま抱き抱えると、両脚部のマルチチャンバー内に仕込んでいた使い捨て化学ロケットに点火して落下の衝撃を相殺、一階層分の天井を貫いて着地した。

「……浮かれすぎじゃね?」

「王子さまっぽくかっこ良く着地する予定だったんだけどなあ」

急降下でふらつき、瓦礫に足を取られつつ、デッドウェイトになるロケットを投棄し、ディーゼルはジェイクを降ろす。

「頼むぜ王子さま」

ジェイクの睨む先、暗がりから群れを成してドローンの一団が現れる。

「で、どーするよ」

「ドローンコントロールを阻害する、適当な端末を制圧」

「アイアイ」

聞くが早いか、ジェイクはSMG下部にマウントしたランチャーから景気良くEMCグレネードを二発撃ち込んだ。
バラバラと崩れ落ちていくドローンを蹴散らしながら、二人はプラント内部を走り抜ける。
脳内で同期している施設マップに互いの意図するところをアイコン化して配置しながら、流動的に状況を対処する。

【NOTICE/JAKE_JETTISON】
【2ブロック先】

【>okey、そこでRUN】

走りながらディーゼルは脇に抱えたランチャーから特殊弾頭を一発壁面に撃ち込んだ。
着弾地点から花火のごときフレアの光と高熱が溢れだし、ドローンはそれに気をとられ物陰に隠れた二人に気づかない。
ディーゼルは壁面を乱暴に引き剥がし緊急端末を露出させる。

「だから浮かれすぎじゃね?」

「これは通常対応」

「マジか、ごめん」

即座にディーゼルは対爆コートの下にくくりつけたデコイデッキからケーブルを引き延ばし、端末に接続する。

「RUN」

「はいよ」

ディーゼルは“転じた”。
だが彼は即座に物理ケーブルを引き抜いてしまう。

「どうした?」

「ネットワークが電子崩壊してる、こっからじゃ無理だ」

「どーすんだよ」

「プラントの中枢部にシステムのメインフレームがあるはずなんだ、そっから修復を試みる。あるいはそこを押さえれば終わるかも」

「okey」

二人は再び走り出した。
運悪くフレアを無視した一部のドローン群と交戦しつつ、二人はプラントの中心部を目指す。
作業台のビス打ち機から放たれたニードルをディーゼルが纏う強化ケブラーの対爆コートが防ぎ、応じるように放たれたグレネードがそれらを粉砕する。
本来はパワードスーツに着せるという非常にマニアックな対爆コートの下には彼の電子戦装備が秘められていた。
残電力を温存したいが安全性を優先して、彼は強烈なジャマーを起動する。
ドローンの動きは明確に鈍くなり、活路を見いだした二人は尚も走る。

「んッ」

ジェイクが感じた違和感に遅れてディーゼルも異変に気づく。
サーバールームに続くホール前から、突然ドローン群の姿が消えた。

「なんだよこの演出、見るからにボス部屋じゃねーかよ」

ホールは各セクションに通じるエレベータとメインシャフトで構成され、サーバールームはシャフトの先端部に近い場所に存在する。
二人の脚には歩行するプラントの振動が鈍く伝わってくる。
残された時間は少ない。

「行けよ」

ジェイクは相棒に告げた。

「お前は?」

「袋小路攻められたら終わりだろうが、そっちは専門外だし」

「……」

ディーゼルは踵を返す。

「……あとさ」

「ん?」

「云い忘れたけど、オレ、それなりにお前のこと信じてるから」

「……そうかい」

「勘違いすんなよ」

ディーゼルはシャフトに向けて駆けた。
だが。

「ッ!?」

口を開けたエレベーターの内部が、赤く蠢く何かで埋め尽くされていた。

「どうし……」

「逃げろッ!!」

ディーゼルが引き返すとほぼ同時に、エレベーターから赤いドローンが吹き出してきた。
見たことのないタイプ。
研究所防衛戦で遭遇した飛行タイプドローンの亜種のようで、赤いボディの下には数本の脚、あたかも蟹を連想する。
脚を折り畳み飛行する蟹の甲羅から鋭い回転式カッターが三本飛び出し二人を襲う。
まるでカートゥーンニンジャのシュリケンを彷彿とさせた。

「明らかに武装じゃねえか、やっぱりボスか?」

蟹ドローンはECMグレネードの効果範囲を明確に避けて飛行する。
ディーゼルはその動きに違和感を覚えた。

「おう、この動き、どっかしらにボスがいるらしいぜ」

「……ふぅん、俺がボスキャラってねェ、不法侵入者はそっちなんだけどさ」

突然の声。

「...ou should feel what I feel...You should take what I take...You sh...」

鼻唄混じりに影から現れる人影。
それに群がるドローン。
姿を見せた隻腕のサイボーグの失われた右腕に、ドローンはグロテスクに集結していく。
攻撃的なデザイン、ドローン同様の鮮やかなオレンジレッド。
大量のドローンに群がられたままゆっくりと歩み寄る姿に強い不快感を覚える。

「あいつ……」

ディーゼルは視界に写る男の姿を検索エンジンにアップロードする。

「ハァ……やれやれだぜ、久々の我が家だってェのによ……」

男に群がる蟹ドローンはやがて互いを保持し合い、新しい形を紡ぎ始める。

「俺はね、博愛主義者なんだ」

そして凝り固まったドローンは、男の長大な片腕として振るまい、異形の腕は力任せに降り下ろされ、シャフトへ通じる通路の一部を抉り取った。

「ッ!」

攻撃をかわしたジェイクは即座にマシンガンを掃射したが、男の腕を構成するドローンの塊に阻まれた。

「おうおう、俺のコイビトになにすんだよ」

銃弾を受け機能停止したドローンを脱落させながら、分離した他のドローンがカッターを回転させつつ襲いかかる。

「てめえらドローンの良さ何もわかってねえホント」

必死にドローンと交戦するジェイクに対して男は首筋のソケットにドラッグプログラムの保存されたメモリを差し込む程の余裕を見せていた。

「俺さぁ、ミニマルなモノが好きなんだよ、単細胞生物とかさあ、ドローンもそうだ、単純なのにさ、より集まると知性とか感じちゃうじゃん、マジたまんねえ」

「誰と喋ってンだよ!」

ディーゼルはランチャーからグレネードを発射したが、男を中心に回転するドローンの壁に阻まれた。

「主張してンだよ、うるせえな、俺は最悪の気分なんだよ【censored】野郎共に隠れ家荒らされてさあ!」

「じゃあお前がドローン暴走事件の黒幕って訳か」

「アー、半分アタリ? ッても俺はなんもしてねーがな、プラントが勝手に暴走してンのさ」

ドラッグが効いてきたのか、男は僅かに身を震わせながら応える。
同時に攻撃的だったドローンの動きが終息し、再び男の腕へ戻っていく。
ダウナー系のドラッグだろうか、ジェイクは警戒した。

「じゃあ自宅止めんの手伝えよ、メーワク被ってんだぜ」

「冗談、こんな楽しいことそう無ぇんだからよ、テメーらが来なけりゃこちとらハイで居られたんだ」

「てめえがハイになれれば他はどうでもいいって寸法か」

「状況を最大限に楽しんでるだけさ、他にどんな楽しみかたがあるんだよ、この【censored】なワールドによォ」

少なからず対象がサイコパスであることさえ確認できればそれ以上の理由は不要だった。
同時に自身の根幹にある怒れる正直者の部分が少しだけ馬鹿らしくなった。
この男の言う通りに生きられればどれほど気楽だろうか。

抉られていく居住区。
顔も知らぬラウリンの娘の涙。
想像上の第七ヘイヴンを包む赤い嵐。
家族の顔。

一頻りのイメージが過ぎ去った後に怒れる正直者はこう反論した。

「……ヒトで無しめ。」

次の瞬間にジェイクは床を溶かし空中に跳んだ。
上昇最大点で水泳の飛び込みよろしく身体を回転させ、再点火。
空中に直角の奇跡を描いて二発のECMグレネードを撃ち込んだ。

「なにッ」

咄嗟に防御したのが祟り、半数以上のドローン塊が脱落、自身もセンサー系にダメージを受けたのか男はよろめいた。

「行けッディーゼルッ!」

相棒の声に我に返るとディーゼルは再びエレベーターに向けて走り出す。

「こん【censored】がァァア!」

激昂した隻腕の男の叫びに呼応して、シャフトの一部を破壊しながらあの巨大ダニが出現した。
グラグラと不安定に振動する足場によろめきながら、ジェイクは鋭く敵を見据えている。



上昇するエレベーターのなかで独りになったディーゼルは、突如去来した心細さを頭を振って追い出した。
歩行するプラットホームとは別種の振動に相棒の身を案じつつ、成すべきを成すことを優先してマインドを切り替える。

到着したサーバールームは見るからに不正規の改造が施されていた。
乱雑に何らかの機材に直結されたコンピュータ郡も何処が無事なのかわからない。
下手に接続すれば破損箇所に自衛的に展開された“氷”で自我を破壊されかねない。

「……ッ」

その出鱈目に拡張されたサーバールームの一角に、有機系の異臭を関知する。
ディーゼルは慎重に、その元へ歩み寄った。
薄暗闇に浮かび上がるブルーのビニールシート。
彼はその端を握り、剥ぎ取った。

「……」

同時に十数匹の蠅らしき虫が飛び去った。
その下に隠されていた男の肉体は、口の横や指の間を蛆虫に喰われて半ば腐敗している。
しかし男は今だ生きており、見開かれ、乾燥し白く曇った左右の瞳を、時おり細かく痙攣させている。
歳は二十代前半、ギーグの典型のようなファッション。
排泄物の乾いた強い刺激臭、直結後数日は経過しているのは間違いない。

「……」

身代わり防壁のデッキを介して、ディーゼルはギーグ青年の後頭部にインプラントされた硬電脳のアクセスポートに接続する。
青年の脳を介するのがプラントメインフレームへの一番安全なルートだと考えた。
この直結された青年がプラント暴走の原因なのはおおよそ間違いなく、そのルートは未だに繋がっているからこそ、彼の一部が一連のプログラムに癒着し、狂わせているのは明白なのだから、そこからメインフレームに侵入し、すべてのプログラムを停止させれば事件は終息するだろう。
それはあくまでも言い訳であって、彼を救いたいという気持ちが多少なりディーゼルを行動させた。
いずれにせよ、事態は終息させる。
ディーゼルはひとつ息をつき、そして“転じる”。

多くの領域が不正処理のために生じた破損ファイルで埋め尽くされ、参照できる部分は少ない。
ギーグの用語で言う“キルスクリーン”と呼ばれる情報過負荷で脳死した人間の硬電脳に状態は似ていたが、彼は一応、まだ生きている。
幸いにも電脳の物理メモリに損傷は無い、とりあえずのアイディアは試せそうだった。

クラッシュした諸々のアプリケーションが電脳の通常起動を阻害している。
OSの種類とバージョンは何とか辿ることが出来たので、物理メモリ上でOSをエミュレートさせ、本来の電脳を迂回して生体脳へのアクセスルートを構築させてみる。
物理身体の状態が余りにも悪いため、最悪、まともなコミュニケーションはとれないかも知れない。
ディーゼルは自身も使用している、トム謹製の仮想言語野シミュレータをコピーしてプログラムにマウントする。

【……011……ッ……め……】

生体脳と硬電脳間でリフレインしていた情報が先ず言語化されていく。

【……い夢を観たんだ】
【皆が僕を機械だって言うんだ】
【僕は違う、人間なんだって叫ぶ】
【でも、誰にも聞こえない】
【ふと、窓に写る姿を見た】
【そしたら、僕は、機械だったんだよ】

ディーゼルの生体脳が記憶した青年の姿を元にして、空間内に電脳が青年の像を結んで認識させる。
肉体の損傷部位はノイズ化されていたが、青年は不思議と穏やかな顔をしていた。

【父親が自殺したのは四年前だ】
【ここの労働者で、激務に追われてた】
【ある日、父親がロボットアームが追ってくるって叫び出した】
【たぶん、ノイローゼだったんだと思う】
【飛び降り自殺だった。知らされたのは三日後だったよ】

訪ねるでもなく紡がれる言葉。
ディーゼルが空間内で展開している検索エンジンが、青年の脳のキャッシュから必要な情報を抽出して表している。
青年の個我はそこには無い。

【ハッカーになったのはかっこよかったから】
【別に復讐とか、そんなつもりはなくて】
【ネットの噂通りにこの場所を見つけた】
【目当てはtechno-nationの帳簿データだった】
【カネを持ってそうな連中を食い物にしてやるつもりだったんだ】

少年はもはや彼の言葉ではない真実を淡々と語る。
ディーゼルは黙っていた。
いや、語りかける必要はない。
疑問が生じた瞬間に検索エンジンは関連する情報を開示してくれる。

【……いや、ちがうな】

青年は頭を振った。

【もしかしたら、復讐したかったのかも】

開示されたログには、確かに青年がやたらと内部ネットワークに深入りしていた形跡がある。
帳簿に関連して、従業員の勤怠状況や給料明細、その他裁判の証拠として提出出来そうなファイルを物色していた様子だった。

【コーデックのやたら古い“氷”に触れてしまったんだ】
【対応するコーデックが無いせいで防壁は検知しなかった】
【その時、電脳のOSがクラッシュして、切断出来ないまま意識が飛んだんだ】

青年はそのまま脳を焼かれて死ぬはずだった。
だが。

【怖い夢を観たんだ】
【皆が僕を機械だって言うんだ】
【僕は違う、人間なんだって叫ぶ】
【でも、誰にも聞こえない】
【ふと、窓に写る姿を見た】
【そしたら、僕は……】

強い悲しみの感情を示すシグナルはディーゼルにも共有されている。
青年は今、ディーゼルの脳を一部を借りてまでしないと言葉を発することが出来ないまでに脳を損傷している。
だが、それでも今、彼の物理身体は涙を流しているだろう。

壊れてしまった脳のなかにも、循環器の中にも無い。
心は果たして、ヒトのどこにあるのだろう。
ディーゼルはどうしようもない感情を受け流す。

【きっとそれは、夢じゃないんだと思う】
【たぶん今、僕の脳機能の殆どはプラントのサーバーに断片化されて散り散りになっていて】
【勝手にドローンにアップロードされて、それが戻ってきたんだと思う】

検索エンジンが青年自身の見解をヒットし出力する。
それは既成事実ではない、青年の遺した言葉。

【>ダメモトで最適化プログラムを走らせてみようか】

答えを期待せずそう問いかけた。

【……いいんだ、もう、僕の脳は人間に戻れない】

青年は笑った。

【でも……ありがとう】

ディーゼルは僅かの間沈黙し、ひとつの小さなファイルを青年に差し出した。
その小さな黒い立方体を青年は受け取り、静かに目を閉じた。
強く、深く、溢れかえるような悲しみが伝わってきた。
踏みとどまりたい気持ちを振り払い、観測用のプローブボットプログラムだけを残して、ディーゼルは青年とのネットワークを切断した。

プラントのネットワークから急速離脱したディーゼルに、プローブが顛末を転送してくる。
青年が起動した“氷”アプリケーションが、彼を取り込んでいたプラントのメインフレーム全体に展開増殖し、ネットワークに接続されていたすべてのデータは内部から溢れだす黒い棘にズタズタに切り裂かれ、自身を保持する媒体を失った“氷”もまた、黒い砂粒のようなデータ残滓だけを残して崩れ去った。
そしてそれを実況していたプローブもそれに巻き込まれて消えた。

すべて、静かになった。
プラントの歩行振動も、下階の戦闘も、
恐らく街に蔓延るドローン群も、
そして、世に翻弄された一人の青年の人生も。

物理世界に戻ったディーゼルは、表情なく全ての生理活動を停止した青年の亡骸から視線を反らし、埃に汚れた手で自身の光学センサーを伏せた。



不安定な足場に引っ掛かったままGuntz-Graf2000は機能停止し、同時にプラントが急停止した慣性により墜落、プラント底部に大穴を開けて爆発炎上した。
戦闘を繰り広げていた二人もバランスを崩して転倒し、互いに間合いを外れてしまう。

「やりやがったな【censored】が」

「オレの相棒は優秀なのさ」

上階からはさらに工作ドローンが雨のように降ってきている。
発電所も急停止しただろうし、二次災害の可能性は否定できない。

「チッ、シケてやがるぜ」

「あッ!?」

赤い男は出来上がった大穴に向けて身を投げた。
プラント底部を抜けた辺りで何らかの飛翔体が男の身体を捉え、高速で飛び去るのが見えた。

「……【censored】」

呪い言葉を一つ吐いて、ジェイクは向き返る。
丁度ディーゼルがシャフトを伝って降りてきた所だった。

「奴は?」

「逃げられた、意味わかんねえ」

「そうだ、アイツ、意外な有名人だったぜ」

NOTICEでwhois検索結果が共有される。

【登録名:KEYTH_PRODIGY】
【フリーランス・デストラクター(自称)】
【罪状:殺人、公共物破損、過失傷害他3822件】
【DEAD OR ALIVE】

「キース、プロディジィ……」

「“ドローンマスター”さ、事故に見せかけて不要物を“ぶち壊す”壊し屋だよ」

「次見たらこっちが壊してやる」

「……そうさな」

瓦礫に座したままディーゼルは返した。

「……そろそろ、行かないとヤベエかもよ」

「……ああ」

そこでようやく、ジェイクはディーゼルが酷く沈んでいるのに気がついた。

「……」

少し思索した後、ジェイクは静かに歩みより、その太く前傾しがちの首に腕を回した。

「おい」

「あん?」

「何……してんだよ」

「……お前には、こうするのが一番いいのかなって」

ディーゼルを抱擁したままジェイクは答えた。

「……【censored】野郎が……」

ディーゼルもまた、その腕を相棒の背に回す。

「……泣いてんのかよ」

「……サイボーグが、泣くわけねえ」

だがディーゼルは、ジェイクの腕の中で小さく肩を震わせていた。
元の身体であった頃ですら、経験の無い事であった。



旧サブウェイステーション商業コリドーの一角に積まれていたディスプレイには、名もなきアーティストにとって余程センセーショナルだったのか、先日潰したtechno-nationの移動プラントが立ち止まったまま静かに炎上しているニュース映像がリピートされている。
ディーゼルは僅かにそれを視界に入れた後、ポケットの中の真新しい煙草のパッケージをその指で弄びながら、軽快に階段を降りていく。
ふと目的の柱の元を、厳重にシーリングされた二体の医療サイボーグが周囲を除染しているのに気づいた。

「じいさん、知らない?」

「御家族の人?」

「や、ただの顔見知り」

サイボーグの返しで大体の察しはついた。

「……脳白癬だってよ」

「昔のサイボーグ体は対菌テストもいい加減だったろうからなあ」

「兄ちゃんも定期的に髄液交換と検診受けろよ」

「あ、うん……」

医療サイボーグ二体は談笑しながら立ち去って行った。

「……」

そんなはずはないと解っていたが、ディーゼルには柱にもたれ掛かる老人の輪郭がまだそこに残っているかのような気がした。
恐らくそれは叶わない願いのようなものだと彼は自身に言い聞かせると、柱の根本にそっと煙草の箱を立てて遺した。
そうしてひとつ溜め息を吐くと、静かに立ち上がり地上を目指す。
今日もまた父親の薄暗い隠れ家のなかで、日暮れまで禅問答をすることになるのだろう。
彼は胸に去来する、やり場のない、清々しいほどのやるせなさを引き連れたまま、崩れた天井から差し込む日の光を仰ぎ見る。



【file//:6th_haven#04"believe".mnq>END OF LINE】
【>exit】


最終更新:2019年09月07日 10:28