達成動機の理論

マレーらが社会要求リストを作る際に”達成”を含ませたことから始まり(1938年)、マックレランドによって”社会の経済発展と達成動機の検討”や達成動機を高めるための訓練プログラムの開発(1960年代)など、実際問題を扱うことに関心がよせられていった。一方で、アトキンソンによって個人差としての達成動機の高低と他性行動との関連について、数理モデルの提唱と実験検討が行われた(1960年代)。

このマレー、マックレランド、アトキンソンがだした理論から始まり、様々な研究領域から派生的に研究が行われた。そのため、理論体系や言葉、解釈の統一性が乱れる結果となり、若手研究者が自分の研究に適した理論を正しく参考にするためにも、理論の統合や概念の差別化、言葉の解釈、統一が必要とされている。

達成動機のおおまか枠組み

基本的な志向性の違いによって、達成動機理論を分類した場合、大きく3つに分類できる。
  1. 動機理論志向
  2. 期待ー価値理論志向
  3. 目標理論志向

動機理論志向

特定した動機の存在有無と水準から、達成動機づけが行われるとする理論。

動機理論志向は、動機の質の違いからさらに3つに分類できる
1.達成動機理論やテスト不安に関する諸理論にあたり、直接に達成事態への接近・回避を扱う。
2.内発的動機理論にあたり、広い意味での学習への動機づけ、もしくは環境探索の動機づけから達成行動の説明を行う。
3.自尊心の維持・高揚を扱う社会心理学の理論あたり、達成場面での様々な行動を、失敗から自己を防衛する行動方略の選択・遂行過程として記述し、解釈の枠組みをもうける試みである。

期待ー価値理論志向

刺激に対する認知的処理から”期待”と”価値(感情)”が現れ、いずれか、または両方の水準によって達成動機づけが行われるとする理論。
アトキンソンやロッターなどの期待×価値モデル(Expectancy-Value Model)に属する理論群である。
期待×価値モデルは、ある行動をしようとする傾向の強さは、その行動から一定の結果(または目標)が得られる期待の強さと、個人に対してもつ結果の価値の高さによって決定されるとしている。

また、期待×価値モデル以外にも、統制感(perceived control, control beliefs)など広い意味での期待概念を含む理論(学習無力感や自己効力理論など)がある。

目標理論志向

達成者がもつ目標の表象の特質とその機能に基づいて、達成者自身が意図的に達成動機づけのあり方を決定する考え。

伝統的な達成動機研究では、目標、そして要求水準や課題選択といった目標に関する概念も同次元における量的水準とされてきた。
これに対し、ニコラスやドゥエックは”達成もしくは熟達すること自体”と”自尊心の維持・高揚”を質の異なる2種類の目標として仮定した。環境条件の変化や個人の認知傾向が、いずれかの目標を優先するかに影響し、達成行動に規定を行うと考えたである。


参考・引用文献
「達成動機の理論と展開」続・達成動機の心理学 宮本美佐子、那須正行(編) 1995年


最終更新:2009年02月14日 22:22