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20110221(月) 15:02:38 - (2011/03/06 (日) 05:02:14) のソース

**&color(blue){禁断の間}

ラザムの使徒には、絶対に開けてはいけない禁断の間があった。
『何人たりとも開けてはならぬ』
教団の実質的な権力者であった高位神官イオナが、教団の関係者達へと強く念を押す。
どの地域に移っても、その禁断の間はイオナによって定められた。
しかし、つい最近、転がり込むように教団の下へとやってきた一人のエルフの少女、ローニトークはその事を知る由もない。
おっちょこちょいでドジで間抜けで臆病で、大よそエルフ族とは思えない彼女は、さっそくラザムの使徒が駐留する屋敷で迷子になっていた。
「はわわわっ。ここどこですか」
屋敷内を一通り案内してもらったにも関らず、盛大に迷う。手当たり次第に扉を開け、部屋の中を確認しては廊下を進んでいた。
そして、彼女はイオナが定めた禁断の間へと、ついに辿り着いてしまうのであった。
ひっそりと静まり返った廊下の端に、カンテラの灯火に照らされた漆喰の扉が鈍く黒光りをしていた。
柄を握る。その時、ローニトークの耳に室内から何やらくぐもった声が聞こえたような気がした。
背筋をビクッと震わせる。それでも、迷子になり焦燥感に囚われていた彼女にとって、中に誰かいるのではという安堵の気持ちの方が強かった。
手にした柄に力を込め、なるべく音を立てないように静かに扉を引く。僅かな金属が響き、隙間が出来上がった。そして、はっきりとした声が聞こえた。
「おほほ。ホルスはとんだ変態でございますわね」
「ああ……イオナ、もっとだ……もっと」
「様をつけなさい!」(ヒュン!ピシッ!!)
空を切る音に続いて、何かが弾けたような音が響いた。
音が鳴る度に男のうめき声がする。それは苦痛に耐えているという風ではなく、むしろ歓喜のような声であった。
ローニトークはホルスという言葉に耳を奪われた。ラザムの使徒で慕う男の名である。傍にはあの優しい神官イオナも居るらしい。
安心して彼女は扉を力一杯に開いた。それが彼女の禁断の扉になるとも知らずに。

突然、室内に姿を現した乱入者にイオナとホルスの表情が凍りつく。二人の視線を浴びたローニトークもまた凍りついていた。
両者に長い沈黙が訪れてからどれだけの刻が経ったのか、互いに目を瞬きさせていたローニトークが我に返ると、慌てて外へと飛び出そうとした。
「はわわわわ……おおお、おじゃましましたっ」
詳しくは知らないが、何となく二人の状況は彼女にも理解できている。自分がとんだ場面に出くわしてしまった事だけは確かだった。
顔が熱くなるのを感じながら、踵を返して足早に立ち去ろうと一歩を踏み出した時、鋭い音と共に足に何かが纏わり付くのを感じた。
体勢を崩し、宙を掴むように手を振り回しながら顔面から床に倒れこむ。
「むぎゃ!!」
思い切りに軸足を払われたローニトークは、咄嗟の事で受身を取りそこね鼻をしたたかに打ちつけた。
「いたたたた……」
鼻をさする。幸いにも鼻血は出ていないようであった。それでも、鼻腔がつーんと沁みている。足に纏わり付いた感触はなんだろうと、目頭に涙を浮かべながら視線をやった。
「わきゃあっ!?」
ローニトークの足に蛇が這っていた。少なくとも、彼女にはそう見えた。だが、実際は皮製のただの長い紐である。そうとは知らず、振り払おうと手を伸ばすしては何度も引っ込めた。
何回か格闘してからそれを払う事に諦めたのか、足をばたばたと振りながら這うように扉へと向かう。だが一向に前に進まない。ずるずるとその場で滑っているだけで、まるで前に進めなかった。
背後で薄笑いを浮かべて鞭をいなし、彼女を操っているイオナの姿があろうとは、ローニトークは露とも知らないのである。
ずる、ずる、と引っ張られる。懸命に窮地を脱しようとローニトークは頑張った。床に手を伸ばしては、その指に力を込め少しでも前へ前へともがく。
頭の中に「ファイト、一発!」という謎の言葉が浮かんできた。
しかし、現実というのは実に残酷である。必死に頑張る彼女を嘲笑うかのように、視界の先に広がる漆喰の扉が音を立ててゆっくりと閉まり始める。驚いて顔を見上げた。
そこには、口元に不敵な笑みを湛え、扉を閉めるホルスの姿があった。

その後、エルフの少女の姿を見た者は誰もいなかった。

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- むむむ、微妙だな。ローニきえちゃったの?  -- 名無しさん  (2011-03-03 19:01:23)
- これはおふざけで書いた物ですので、申し訳ありませんが不相応ですので削除します。  -- 名無しさん  (2011-03-06 05:02:14)
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