第一章・御伽の国
1
一枚、二枚と紅葉が落ちる。
ラディウスはそれを一枚拾い上げると、指先でくるりくるりと弄んだ。鮮やかな紅葉の色彩は、人々の目を、心を優しく楽しませてくれる。
くるり、くるりとしばらくの間そうやって遊んでいたが、やがて飽いたのかラディウスはぱっと手を離した。紅葉はひらりふわりと弧を描き、音も無く、カサリとも言わずに地面に落ちた。強い風が吹いて、ラディウスは飛ばされそうになった耳当て帽を左手でそっと押えた。
そして耳当て帽をきゅっと被り直し、小粋なブーツをカツンと言わせて立ち止まる。
「……ナラティヴ。…変な名前」
国名を見て、呟いた。
もう一度、ふわりと風が吹いた。
「少しか楽しませてよね、物語」
別に期待はしていないけれど、とラディウスは舞台上の役者のように呟いた。ひらりひらりと、紅葉が落ちた。
カサリと、静かに泣きながら。
ラディウスはそれを一枚拾い上げると、指先でくるりくるりと弄んだ。鮮やかな紅葉の色彩は、人々の目を、心を優しく楽しませてくれる。
くるり、くるりとしばらくの間そうやって遊んでいたが、やがて飽いたのかラディウスはぱっと手を離した。紅葉はひらりふわりと弧を描き、音も無く、カサリとも言わずに地面に落ちた。強い風が吹いて、ラディウスは飛ばされそうになった耳当て帽を左手でそっと押えた。
そして耳当て帽をきゅっと被り直し、小粋なブーツをカツンと言わせて立ち止まる。
「……ナラティヴ。…変な名前」
国名を見て、呟いた。
もう一度、ふわりと風が吹いた。
「少しか楽しませてよね、物語」
別に期待はしていないけれど、とラディウスは舞台上の役者のように呟いた。ひらりひらりと、紅葉が落ちた。
カサリと、静かに泣きながら。
・
ナラティヴと言う国――僕は“御伽の国”と呼んでいたんだけど――あの国はなかなか楽しかったよ。正直なところ、あんまり期待はしていなかったんだけどね。でもナラティヴではアレも一つ見つかったし、アタリだったな。
ああ、それでね、僕があの国のことを“御伽の国”と呼んでいる理由なんだけど、うーん……、なんて言えば良いのかなあ。なんかね、童話的なんだよ。建物とか、景色とか、空気とか、そういうのがまるで童話の世界から抜け出してきたような感じでさ。もしかして物語の世界にでも迷い込んでしまったのだろうか、って錯覚しそうになるんだ。そこの影から小人か妖精でも出てきそうだな、なんて思ってしまうくらいにね。どうしてかな、あの国はどこか現実味が無かったんだよ。どこが、とは言えないんだけど。ええと、あの感じは…希薄、と言うのかな。はっきりと存在していないような感じだった。例えるなら、砂漠で見る蜃気楼のような…。
あの国はまるで、幻のようなんだ。
ほら、良くあるじゃないか。ありがちな古いホラー小説とか、幽霊や妖精なんかの出てくるような小説でさ。
とある小さな村の宿屋に泊まった次の日の朝、目を覚ますと地面に寝ていて村自体がすっかり跡形も無くなっていた、なんて話がさ。もちろんそんな冗談みたいなことは無かったんだけど、なんだかそんな雰囲気だったんだよ。
ああ、そうだ。そこでね、僕は“赤ずきん”に出会ったんだ。
すらりと背が高くて、目鼻立ちのはっきりした凄く綺麗な子だったんだけど、妙に婀娜っぽい子でね。白いレースで縁取りされた真っ赤なずきんが、なんだか酷く、不釣合いだった。
ああ、それでね、僕があの国のことを“御伽の国”と呼んでいる理由なんだけど、うーん……、なんて言えば良いのかなあ。なんかね、童話的なんだよ。建物とか、景色とか、空気とか、そういうのがまるで童話の世界から抜け出してきたような感じでさ。もしかして物語の世界にでも迷い込んでしまったのだろうか、って錯覚しそうになるんだ。そこの影から小人か妖精でも出てきそうだな、なんて思ってしまうくらいにね。どうしてかな、あの国はどこか現実味が無かったんだよ。どこが、とは言えないんだけど。ええと、あの感じは…希薄、と言うのかな。はっきりと存在していないような感じだった。例えるなら、砂漠で見る蜃気楼のような…。
あの国はまるで、幻のようなんだ。
ほら、良くあるじゃないか。ありがちな古いホラー小説とか、幽霊や妖精なんかの出てくるような小説でさ。
とある小さな村の宿屋に泊まった次の日の朝、目を覚ますと地面に寝ていて村自体がすっかり跡形も無くなっていた、なんて話がさ。もちろんそんな冗談みたいなことは無かったんだけど、なんだかそんな雰囲気だったんだよ。
ああ、そうだ。そこでね、僕は“赤ずきん”に出会ったんだ。
すらりと背が高くて、目鼻立ちのはっきりした凄く綺麗な子だったんだけど、妙に婀娜っぽい子でね。白いレースで縁取りされた真っ赤なずきんが、なんだか酷く、不釣合いだった。
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