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羽根あり道化師
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羽根あり道化師

氷の国③

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ayu

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ぴたりと、アリスは足を止めてラディウスに向き直った。
「ラディ、ここでお別れしよう。申し訳無いけれど、貴方をあたしの家に連れて行くわけには行かないから」
そう言って、アリスはわずかに口角を上げた。小さく肩をすくめて見せるその姿は、何故だか懇願しているように見えた。
お願いだから、とアリスは無言のまま訴え掛ける。
「…分かった。それじゃあ、ここでお別れだね。――さようなら、アリス」
「…さようなら」
アリスの淡いブルーの瞳は、わずかに潤んでいた。
「…ラディ、目を瞑ってくれる?」
言われた通りに目を瞑り、ラディウスは思った。
もしかしたら、アリスは家族に逢うことをあまり期待していないのかもしれないな、と。

「――チェリオ!!」

その声に、ラディウスははっとして目を開いた。遠くの方に、はたはたと翻る鮮やかな赤が見えた。色あせた灰色の町並みに映える、真っ赤なずきん。
その赤は悲しくなるくらい綺麗で、鮮やかで…。
「――あれ?」
何も入っていなかったはずのポケットがわずかに膨らんでいることに気が付いた。中には、ぐしゃぐしゃに丸められた紙切れと、小さな巾着袋。
『ありがとう』
紙を開くと、たった一言、そう書かれていた。巾着袋を開けてみると、キラリと、何か赤く光る物が顔を出した。
ラディウスはそれを手に取り、俯いた。
「…君はもう、三年間もコレに振り回されていたんだね」
ごめんね、と呟いて、ラディウスは灰色にくすんだ空を見上げる。まっさらな青空が、酷く恋しかった。夕暮れの紅が、懐かしかった。
にゃあ。
後ろを見ると、消炭色の猫がいた。猫はじっと、僕を見つめている。
「…チェシャ。お前、一緒に行ったんじゃなかったのか?」
にゃあ。
もう一度鳴いて、チェシャはふいと空を見上げた。
その姿はまるで、夜更けを待っているように見えた。暗闇の優しさを求めているように見えた。
「心配しているの?」
猫は、応えなかった。
「…そうだよね」
ラディウスはチェシャの横に腰を降ろし、そっと目を細める。
チェシャの瞳も、鮮やかな青なのだと気が着いた。消炭色の毛並みを静かに撫でながら、ラディウスは再び空を見上げた。
「君はペットじゃなくて、友達なんだもんね」
アリスとの一時の旅は、まるで夢のようだった。

         ・

君との約束を守ることは、本当に難しい。今までの人たちは、どうにか傷付いてしまう前にココロのカケラを譲ってもらうことが出来た。
カケラを集めるため、たくさんの交渉をした。泥棒のような真似もした。だけど、もうダメみたいだ。もう時は過ぎてしまった。
君の“ココロのカケラ”は、必ず誰か人の手へと渡る。そしていつも、手にした人を幸せをもたらす。手にした人の望む幸せを、恵んでいく。けれどある時からはその幸せを静かに穏やかに、けれど確実に奪っていく。
…あの時から、もう四年と半年が過ぎた。あの時十二歳だった僕は、もう十七歳になろうとしている。
あと一つ。あと一つ見つけ出すことが出来れば、僕は君に会うことが出来るんだ。ディストレス、早く、君に逢いたいよ。



第三章星の国

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