序章・始まりの場所
眩しい。
太陽が地上へ注ぐ眩しさに何度か瞬き、僕は腕で日差しを遮った。
夏の盛りだ。太陽は明るい。
色鮮やかに、華やかに咲いている背の高い向日葵が、真っ赤な太陽にじいっと熱い視線を送っている。太陽はきっと照れているのだ。だからあんなにも、目眩がしそうなほどキラリキラリと暑く眩しく輝いているのだろう。愛しい人に想いを寄せる女性のように、向日葵はいつまでもいつまでも太陽を見つめ続ける。
そう言えば、向日葵の花言葉は『私は貴方を見つめ続ける』だったか。確か『情熱』という意味も持っていたように思う。全く、前向きな花だ。太陽までの距離は果てしなく遠いというのに。なのにずっと、向日葵は諦めることなく思い人を見つめ、想い人のもとへ少しでも近付こうと背伸びする。なんて健気で一途な花なのだろう。
ああ実に、この季節は実に清々しい。
この燃えるような暑ささえなければ、本当に素晴らしい季節だと思う。鳥も虫も、どの季節に見るよりも生き生きとしているように見える。木漏れ日の下など、日差しの届かないところから眺めているだけならば、全く、これほど美しい季節はない。生命の美しさを感じるには、最も適した季節であるといえるだろう。
僕はほうっと深く息を吐いた。肩から斜めに掛けた大きな鞄から鍔のついた耳当て帽を取り出し、きゅっと被った。影の中に顔を隠し、この耳当てがなければもう少し涼しいかもしれないなと思った。
小粋なブーツはカツンとひとつ音を立て、大きな木の前で立ち止まる。
太陽が地上へ注ぐ眩しさに何度か瞬き、僕は腕で日差しを遮った。
夏の盛りだ。太陽は明るい。
色鮮やかに、華やかに咲いている背の高い向日葵が、真っ赤な太陽にじいっと熱い視線を送っている。太陽はきっと照れているのだ。だからあんなにも、目眩がしそうなほどキラリキラリと暑く眩しく輝いているのだろう。愛しい人に想いを寄せる女性のように、向日葵はいつまでもいつまでも太陽を見つめ続ける。
そう言えば、向日葵の花言葉は『私は貴方を見つめ続ける』だったか。確か『情熱』という意味も持っていたように思う。全く、前向きな花だ。太陽までの距離は果てしなく遠いというのに。なのにずっと、向日葵は諦めることなく思い人を見つめ、想い人のもとへ少しでも近付こうと背伸びする。なんて健気で一途な花なのだろう。
ああ実に、この季節は実に清々しい。
この燃えるような暑ささえなければ、本当に素晴らしい季節だと思う。鳥も虫も、どの季節に見るよりも生き生きとしているように見える。木漏れ日の下など、日差しの届かないところから眺めているだけならば、全く、これほど美しい季節はない。生命の美しさを感じるには、最も適した季節であるといえるだろう。
僕はほうっと深く息を吐いた。肩から斜めに掛けた大きな鞄から鍔のついた耳当て帽を取り出し、きゅっと被った。影の中に顔を隠し、この耳当てがなければもう少し涼しいかもしれないなと思った。
小粋なブーツはカツンとひとつ音を立て、大きな木の前で立ち止まる。
「やあ、久しぶりだね」
木の上には瑞々しく広がる葉の中に隠れて家がある。
かつてぶら下がっていた縄梯子は、風か何かに煽られ落ちたのか、もう既に無くなっていた。
誰が住んでいる訳でもないけれど、僕はここに来る度にこうして声を掛けるのだ。住む人の居ないこの廃れた場所。木の上にあるくたびれた木造の家は、なんだか酷く、懐かしい。この場所へ来るたび、僕は酷く悲しくなる。
ここは僕の、始まりの場所だから。
泣き出しそうになるのを堪え、僕は地面に座り大きな木の幹にゆったりと背を預けた。旅に出たその日から、僕は泣くのを止めたから。泣いてはいけないと、僕は自分に課したから。
ひんやりと優しい木の冷たさに、僕はそっと目を細めた。
旅から旅の根無し草。
そんな僕が、年に一度、この為だけに帰ってくるのだ。
「今年も、たくさんの国を回ったよ」
一晩を掛けてたくさんの話をして、僕はまた旅に出る。
大きな鞄を斜めに掛けて、耳当て帽をきゅっと被って、小粋なブーツをカツンと言わせて、僕はまた一歩二歩と歩き出す。
旅から旅の根無し草。
この仕事が終わるまで、僕は一つ所には居られない。
おや、遠くに飛行機雲が。
ずうーっと真っ直ぐに、どこまでも限りなく、長く遠くに続く飛行機雲。突き抜けるような青空に、よく映える白。
一体何処まで続くのかと聞いてみたくなるような、迷いなく伸びる、一本の長い長い白線。
これはまるで、僕の旅路のようだ。
そう思って、僕はほんの少しだけ微笑んだ。年に一度のささやかな休息は、これにておお仕舞い。
一歩一歩着実に、一つ一つ確実に進めていこう。
かつてぶら下がっていた縄梯子は、風か何かに煽られ落ちたのか、もう既に無くなっていた。
誰が住んでいる訳でもないけれど、僕はここに来る度にこうして声を掛けるのだ。住む人の居ないこの廃れた場所。木の上にあるくたびれた木造の家は、なんだか酷く、懐かしい。この場所へ来るたび、僕は酷く悲しくなる。
ここは僕の、始まりの場所だから。
泣き出しそうになるのを堪え、僕は地面に座り大きな木の幹にゆったりと背を預けた。旅に出たその日から、僕は泣くのを止めたから。泣いてはいけないと、僕は自分に課したから。
ひんやりと優しい木の冷たさに、僕はそっと目を細めた。
旅から旅の根無し草。
そんな僕が、年に一度、この為だけに帰ってくるのだ。
「今年も、たくさんの国を回ったよ」
一晩を掛けてたくさんの話をして、僕はまた旅に出る。
大きな鞄を斜めに掛けて、耳当て帽をきゅっと被って、小粋なブーツをカツンと言わせて、僕はまた一歩二歩と歩き出す。
旅から旅の根無し草。
この仕事が終わるまで、僕は一つ所には居られない。
おや、遠くに飛行機雲が。
ずうーっと真っ直ぐに、どこまでも限りなく、長く遠くに続く飛行機雲。突き抜けるような青空に、よく映える白。
一体何処まで続くのかと聞いてみたくなるような、迷いなく伸びる、一本の長い長い白線。
これはまるで、僕の旅路のようだ。
そう思って、僕はほんの少しだけ微笑んだ。年に一度のささやかな休息は、これにておお仕舞い。
一歩一歩着実に、一つ一つ確実に進めていこう。
期限は、あと一年。
第一章御伽の国