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あの後、すぐにバレたよ。オデットの偽物だってね。私の周囲からさぁっと人が引いた。永遠の愛を誓ったはずの王子までもが後退った。それで、私は笑ったんだ。自分でどうしたら良いのかさっぱり分からなくて、とにかく笑った。情けなくて、心細くてさ。でも私にもプライドってものがあるから、それを悟られないように私は虚勢を張って思いきり高笑いした。
そして、こう言ったんだ。残念だったねえ、アンタの愛しいオデットはどこかへ飛んで行ってしまったみたいだ、ってね。でもね、本当は泣きたかったんだ。私はこれから、何のために生きればいいんだって。泣きたかった。泣いて、全部吐き出してしまいたかった。だって私は、自分の役目を終えてしまったんだよ?その時点で。
オデットを騙したことよりも王子を騙したことよりも、何よりも、私は自分の役割がなくなったってことがすごく辛くて苦しかった。だけど誰も私を殺してはくれないし、自分で死ぬほどの勇気も度胸もない。
…だから私はこうして、ここに引き篭もって暮らしているんだ。
そして、こう言ったんだ。残念だったねえ、アンタの愛しいオデットはどこかへ飛んで行ってしまったみたいだ、ってね。でもね、本当は泣きたかったんだ。私はこれから、何のために生きればいいんだって。泣きたかった。泣いて、全部吐き出してしまいたかった。だって私は、自分の役目を終えてしまったんだよ?その時点で。
オデットを騙したことよりも王子を騙したことよりも、何よりも、私は自分の役割がなくなったってことがすごく辛くて苦しかった。だけど誰も私を殺してはくれないし、自分で死ぬほどの勇気も度胸もない。
…だから私はこうして、ここに引き篭もって暮らしているんだ。
・
十日間、ラディウスは話を聞き続けた。
オディールはありがとう、と言った。長い間、話を聞いてくれてありがとう、と。そしてラディウスに赤い欠片を渡した。
「……前に言っていたお願い、してもいいか?」
ラディウスはにこやかに頷いた。オディールはまた、ありがとうと言って笑った。
「それじゃあ、」
オディールはラディウスに派手な装飾の剣を手渡し、笑顔のままに言った。
「私を殺してくれ」
ラディウスは悲しげに目を伏せ、それは出来ないと答えた。そして、剣を返して笑った。ごめんね、と。
「僕に出来るのは、“ココロのカケラ”を君から切り離すことだけだよ」
ラディウスはもう一度笑った。ごめんね、と。
「分かった」
「――オディール?」
スッと剣を構え、オディールはラディウスに切り掛かった。ラディウスは腰からナイフを引き抜き、それを防いで叫んだ。
「どうして!?」
「意地でも殺してもらう!!」
剣が頬を掠め、ラディウスは痛みにちっと舌打ちをした。オディールは眉を寄せ、ラディウスを睨みつける。
「本気を出して。でないと、アンタを殺してしまうかもしれない。本気を出さないと、アンタは友人を…ディストレスを殺すことになるよ」
言いながらまたオディールは切り込んでくる。明らかに急所を狙った動きに、ラディウスはナイフを握る手に力を込めた。何か冷たいものが背筋に走った。
「私は死にたいんだ!何の役割も与えられずに生きることなんか出来ない!」
――苛々する。
剣をかわしながらラディウスはオディールの手に細かな傷を付けた。その痛みで剣を落としてくれればと思って。けれどオディールは剣を握り続けた。剣を振いながら、泣いていた。
「生きる理由がないんだ私には!殺せ!頼むから助けてくれ!」
「………痛いけど、我慢して」
呟き、ラディウスは剣を避けると、剣を持つオディールの手にナイフの柄を叩きつけた。ゴキ、と骨の折れるような鈍い音がして、オディールは剣を落とし、わずかに呻いた。
「その考え、鬱陶しくて嫌いだ」
頬の傷を手の甲で荒っぽく拭い、ラディウスは剣を蹴飛ばして遠ざけるとオディールを見下ろした。
「ぐずぐず煩いよ」
役割くらい、探せばいくらでも転がっているんだから。そう言って、オディールの首筋に手刀を落とした。オディールは意識を失った。
「……君はいつから、“ココロのカケラ”に振り回されていたの…?」
オディールはありがとう、と言った。長い間、話を聞いてくれてありがとう、と。そしてラディウスに赤い欠片を渡した。
「……前に言っていたお願い、してもいいか?」
ラディウスはにこやかに頷いた。オディールはまた、ありがとうと言って笑った。
「それじゃあ、」
オディールはラディウスに派手な装飾の剣を手渡し、笑顔のままに言った。
「私を殺してくれ」
ラディウスは悲しげに目を伏せ、それは出来ないと答えた。そして、剣を返して笑った。ごめんね、と。
「僕に出来るのは、“ココロのカケラ”を君から切り離すことだけだよ」
ラディウスはもう一度笑った。ごめんね、と。
「分かった」
「――オディール?」
スッと剣を構え、オディールはラディウスに切り掛かった。ラディウスは腰からナイフを引き抜き、それを防いで叫んだ。
「どうして!?」
「意地でも殺してもらう!!」
剣が頬を掠め、ラディウスは痛みにちっと舌打ちをした。オディールは眉を寄せ、ラディウスを睨みつける。
「本気を出して。でないと、アンタを殺してしまうかもしれない。本気を出さないと、アンタは友人を…ディストレスを殺すことになるよ」
言いながらまたオディールは切り込んでくる。明らかに急所を狙った動きに、ラディウスはナイフを握る手に力を込めた。何か冷たいものが背筋に走った。
「私は死にたいんだ!何の役割も与えられずに生きることなんか出来ない!」
――苛々する。
剣をかわしながらラディウスはオディールの手に細かな傷を付けた。その痛みで剣を落としてくれればと思って。けれどオディールは剣を握り続けた。剣を振いながら、泣いていた。
「生きる理由がないんだ私には!殺せ!頼むから助けてくれ!」
「………痛いけど、我慢して」
呟き、ラディウスは剣を避けると、剣を持つオディールの手にナイフの柄を叩きつけた。ゴキ、と骨の折れるような鈍い音がして、オディールは剣を落とし、わずかに呻いた。
「その考え、鬱陶しくて嫌いだ」
頬の傷を手の甲で荒っぽく拭い、ラディウスは剣を蹴飛ばして遠ざけるとオディールを見下ろした。
「ぐずぐず煩いよ」
役割くらい、探せばいくらでも転がっているんだから。そう言って、オディールの首筋に手刀を落とした。オディールは意識を失った。
「……君はいつから、“ココロのカケラ”に振り回されていたの…?」
・
オディールの手の応急処置を行い、ラディウスはさして多くもない荷物をまとめて旅立ちの準備をした。
耳当て棒をきゅっと被って小粋なブーツをかつんと言わせ、大きな鞄を肩から掛ける。欠けた所のないココロの結晶を胸元で握って、扉を開く。
かつて共に歩いた一人の少年を想いながら。
もう一度その隣を歩くことが出来るかもしれないと、懐かしい人を思いながら。
耳当て棒をきゅっと被って小粋なブーツをかつんと言わせ、大きな鞄を肩から掛ける。欠けた所のないココロの結晶を胸元で握って、扉を開く。
かつて共に歩いた一人の少年を想いながら。
もう一度その隣を歩くことが出来るかもしれないと、懐かしい人を思いながら。
「――え?」
一陣の風が吹いた。
ラディウスの金髪をふわりと撫で、姿を消す。そして消えた風に代わって現れたのは、見覚えのある薄闇の部屋。蝋燭の薄青い炎がラディウスを迎える。
「な、どうし…、う、うわっ」
何故か床に落ちていた布に足を取られて尻もちをつく。だが、その痛みも感じないほどにラディウスは驚いていた。尻もちをついた状態のまま、きょろきょろと辺りを見渡す。間違いない。…いや。これは、間違えようがない。
「お帰り、良く帰ったね」
そこは、あの魔女の部屋だった。
ラディウスの金髪をふわりと撫で、姿を消す。そして消えた風に代わって現れたのは、見覚えのある薄闇の部屋。蝋燭の薄青い炎がラディウスを迎える。
「な、どうし…、う、うわっ」
何故か床に落ちていた布に足を取られて尻もちをつく。だが、その痛みも感じないほどにラディウスは驚いていた。尻もちをついた状態のまま、きょろきょろと辺りを見渡す。間違いない。…いや。これは、間違えようがない。
「お帰り、良く帰ったね」
そこは、あの魔女の部屋だった。
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