第三章・躑躅
確かに、世界に不思議は数多い。世界各国、各地にミステリースポットなんてものがあり、各地に七不思議なんてものがある。それらを列挙していけばもう数に限りがない。でもまあ、そんなところにわざわざ足を運んだりしなくてもそこらに不思議は転がっている。
…たとえば、こんな具合に。
僕はちらりと後ろを見た。…何故だろう。僕が立ち止まるとその子も立ち止まる。僕が歩くとその子も歩く。僕が走るとその子も走り、僕が振り返るとその子も振り返る。僕の後ろには当然その子がいる。けれど、その子の後ろには誰もいない。あるのは何の変哲もない街並みと赤く染まった空と雲だけ。一体何がしたいのか。
おかっぱ頭で古風な顔立ちの女の子。服はYシャツに黒のネクタイ、ベストに短パン。それに黒の皮靴。まるで親戚の結婚式に行く男の子だ。しかしその恰好が妙にしっくりと馴染んでいる。とても可愛らしい子なのだが、何をしたいのかがさっぱり分からない。
新手のストーカーか、もしくは迷子か、ただ遊んでいるだけなのか。…ここははっきりと聞いてみるべきだろうか。迷子ならば交番に連れて行かねば。
僕は肩越しにその子を眺める。
「……」
女の子はちらりとこっちを見て、そしてすぐにもとの方向を見る。…これは、ただ遊んでいるだけ説が有力だろうか。
「…あのぅ」
唐突に、女の子は口を開いた。…もちろん、僕に後頭部を見せながらだ。そして当然、その子の視線の先には誰もいない。これは僕が話しかけられたと思っていいのだろうか。
「あのぅ」
「…ええと、僕に話しかけているの、かな?」
女の子は誰もいない空間に向かってこくこくと頷く。
「それじゃあ、こっちを向いてもらえるかな?話し難いからさ」
「あぁ、気付きませんでした」
くるりと踊るように方向転換をし、ぺこりと綺麗な礼をする。見れば見るほど人形のような子だ。表情があまりないからだろうか。
「あのさ、どうして君は僕の後を付いてくるのかな?何か用事でもあるの?」
出来る限り優しく言う。女の子は一切表情を変えずに口を開いた。
「…私たちを見る人がいると聞いたので、興味が湧きました。一度眺めてみようと思いまして、尾行させていただきました」
「尾行ならせめて隠れて着いて来て欲しかったな」
言うと、女の子はまたくるりと方向転換をし、僕に背を向ける。そしてくぅっと伸びをした。
「よい人で安心しました。それでは」
「…君は、」
振り返り、女の子はわずかに目を細める。
…たとえば、こんな具合に。
僕はちらりと後ろを見た。…何故だろう。僕が立ち止まるとその子も立ち止まる。僕が歩くとその子も歩く。僕が走るとその子も走り、僕が振り返るとその子も振り返る。僕の後ろには当然その子がいる。けれど、その子の後ろには誰もいない。あるのは何の変哲もない街並みと赤く染まった空と雲だけ。一体何がしたいのか。
おかっぱ頭で古風な顔立ちの女の子。服はYシャツに黒のネクタイ、ベストに短パン。それに黒の皮靴。まるで親戚の結婚式に行く男の子だ。しかしその恰好が妙にしっくりと馴染んでいる。とても可愛らしい子なのだが、何をしたいのかがさっぱり分からない。
新手のストーカーか、もしくは迷子か、ただ遊んでいるだけなのか。…ここははっきりと聞いてみるべきだろうか。迷子ならば交番に連れて行かねば。
僕は肩越しにその子を眺める。
「……」
女の子はちらりとこっちを見て、そしてすぐにもとの方向を見る。…これは、ただ遊んでいるだけ説が有力だろうか。
「…あのぅ」
唐突に、女の子は口を開いた。…もちろん、僕に後頭部を見せながらだ。そして当然、その子の視線の先には誰もいない。これは僕が話しかけられたと思っていいのだろうか。
「あのぅ」
「…ええと、僕に話しかけているの、かな?」
女の子は誰もいない空間に向かってこくこくと頷く。
「それじゃあ、こっちを向いてもらえるかな?話し難いからさ」
「あぁ、気付きませんでした」
くるりと踊るように方向転換をし、ぺこりと綺麗な礼をする。見れば見るほど人形のような子だ。表情があまりないからだろうか。
「あのさ、どうして君は僕の後を付いてくるのかな?何か用事でもあるの?」
出来る限り優しく言う。女の子は一切表情を変えずに口を開いた。
「…私たちを見る人がいると聞いたので、興味が湧きました。一度眺めてみようと思いまして、尾行させていただきました」
「尾行ならせめて隠れて着いて来て欲しかったな」
言うと、女の子はまたくるりと方向転換をし、僕に背を向ける。そしてくぅっと伸びをした。
「よい人で安心しました。それでは」
「…君は、」
振り返り、女の子はわずかに目を細める。
「私はツツジ」
僕の言葉を遮り、そう答えた。そしてその直後、全力疾走で逃げ出した。…“駆け出した”っていう感じじゃない。何かに追われているような、そんな必死さがあったから。
…それにしても。
…それにしても。
『私はツツジ』
あぁそうか、と合点がいった。
桜の木の公園の近くに、庭に躑躅を植えている家があったはずだ。
『私たちを見る人がいると聞いたので、興味がわきました』
桜の木の公園の近くに、庭に躑躅を植えている家があったはずだ。
『私たちを見る人がいると聞いたので、興味がわきました』
どうやら花もまた、人間と変わりはないらしい。
菫へ