羽根あり道化師

第二章 零に戻った旅路

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第二章 零に戻った旅路



光が収束した。テラスには強い風が吹きつけ、作用した魔術の強さを物語っていた。鏡をかざしていた国王の姿はもはやそこにはなく、側近イシュナードのみがその場に立ち尽くす。



「う…」

うめき声をあげ、瞳を開いたレオナルドは周囲を見渡し、首を数回横に振った。テラスにいたはずの自分が、森の中で倒れていたのだ。瞬間移動の魔術だったのだろうか、と思案をめぐらす。

「おい、だいじょうぶかよ?」

聞き覚えのある声にレオナルドは振り返る。黒いマントがまず、眼に入った。どこかで見たことのある、だが色が違うブーツが、そして、視線が上に行くごとに、やはりどこかで見たことのある服が目に入る。もちろん、それら全て色だけが違った。全てが闇のような黒色なのだ。最後に目に入った姿は、よく覚えている、少年の姿だった。長い黒い髪、赤い瞳。

「ヴァイス―…」
「よかった、意識はあるみたいだな。」
「違うわ。私が回復呪文をかけたからよ。」
「そうだったのか、俺は魔術に疎いからな…迷惑かけるぜ、プリアラ。」

プリアラ、の名にレオナルドはヴァイスの隣へ視線をやる。藍色の髪の落ち着いた女性の姿が見えた。しかし、ヴァイスにしてもプリアラにしても、違う。あの旅をしていた姿では、ない。ヴァイスはまず、服も違っているし、耳が見えない。彼はハーフエルフだったのだから、耳が尖っている筈だ。そしてプリアラもまた、ヤミネコなのだから、人の姿をとっていても耳は猫のままのはずだ。だが、その耳も見えない。
それにしても、ヴァイスの言葉が気になった。『魔術に疎い』とはどういうことだろうか。先の旅で、彼はあふれる才能と、英知とで魔術を操り、彼らの旅を助けてくれたはずだ。

「あんた、名前は?」
「何言ってるんですか!レオンですよ!そんな他人みたいに…」
「他人じゃない。それにあなたね、こんな見てくれでも、この方は一応王子なの。敬ってあげてくれないかしら?」
「…あのなあ。」
「ええっ?」
「ええって、お前よ…俺の名前をつぶやいたじゃねえか。ミルディアン王国第二王子、ヴァイス…確かに俺だが?」
「?!えぇっ…ええぇ?!」
「あらら、混乱しているみたいね。」
「そんな?!君は、神官じゃ…?」
「俺みたいなのが神官?!ははっ、笑わせるぜ。こんな信仰心の薄い神官がいてたまるかってんだ。」

混乱が深まる。ヴァイスが、王子?なぜ、とレオナルドは考えるが全く見当も付かない。その様子を察してか、ヴァイスが声をかけた。

「なんか、ワケありみたいだな。…レオンとかいったか?近くの村まで一緒に行こうぜ。俺でよかったら力になるよ。」
「ちょっと、王子!もたもたしていていいの?カーム様に先を越させるわよ。」
「だーいじょうぶ。あいつは自信家だけど、実力なんてねぇからな!」

ヴァイスとプリアラに導かれ、レオナルドは歩き出す。暫く二人の後姿を見ていたが、ここでレオナルドははっと気が付いた。

「あ、あれぇ?!」
「?どうした。」
「い、いいえ…」

自分の姿を見て、驚愕の声を上げてしまったのだ。白い神官の服を着ている。ここで、ようやく気が付いた。自分はヴァイスと立場が全く逆になっているのだ。その証拠にヴァイスは剣を持つ王子と名乗っているし、自分は杖を持っている。

「どうなっているんでしょう…」

軽いめまいを覚えつつ、レオナルドは二人の後を追うのだった。


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