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羽根あり道化師
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善意の殺人者

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善意の殺人者





 休み時間、あたしは鞄から文庫本を取り出し、そのついでに教室をぐるりと見回した。この世界に、あたしの居場所はどこにもない。
 あたしはいつも一人。友達もいないし、お情けで話しかけてくれるような子もいない。可愛くないし、チビだし、暗いし、勉強も出来ないし。いいトコなんてどこにもない。毎日毎日、楽しくない。学校に行っても、目立たないように自分の席に座って本を読んでいるだけ。休み時間が嫌い。グループ活動も嫌い。楽しそうに笑っている人を見ると腹が立つ。ただ羨んでいるだけなんだって、分かってはいる。そんなことで、人を恨んじゃいけないってことも分かってる。だってこれは、あたしが自分でその場所に着くようにしてしまったことだから。誰にも文句は言えない。人みしりが激しくて、他人と話すときは緊張してどもってしまうし、うっかりいらないようなことまで言ってしまう。
 あーあ、魔法使いでも現れないかしら。杖をさっと振って、この真っ暗な人生をぱあっと華やかにしてくれる魔法使い。シンデレラに出てくる魔法使いのおばあさん。出来れば、永遠に続く魔法。誰か、掛けてくれないかしら。
「――ね、今、変わりたいと思ったでしょ?」
 後ろから、囁くような声。あたしは驚いて振り返った。
「思ったよね?」
 …同じクラスの子だ。…えと、名前は…。
「僕はね、魔法使いなんだよ。考えていることが、分かっちゃうんだ。」
「魔法使い?」
「放課後、屋上に来てよ。魔法を掛けてあげる」
 彼はそう言って、友人の方に駆けていった。…名前、なんだっけ。



「やぁ、来たね」
「…魔法使い…って、なんか、ちょっと…気になったから」
 彼はにこっと笑って、ポケットの中に手を突っ込んだ。
「僕の名前、分かる?」
「…」
 少し間をおいて、あたしは左右に首を振った。ごめんなさい、とわずかに目を伏せる。…同じクラスなのに、なんだか申し訳ない。
「そっか。そうだよね。分からないよね。いつも他人に興味なんかないって顔してつまらなそうにしているのにたまに羨ましくて堪らないって表情をするんだ。そのくせクラスの人の名前すらまともに覚えてなくて、自分をかまってくれない周りの人たちをちょっと恨んだりしているんだ。でもそれがいけないことだって言うのは自分でもわかっているんだよね」
 あたしは呆然と、彼を見つめる。
「でも自分で何とかしようとは全然考えなくて、誰かどうにかしてくれないかなーって他力本願なことを思ってるんだよね」
 にっこりと、彼は笑った。
「君は一度死んだ方がいいよ。自分で死ぬ勇気がないなら、僕が殺してあげるよ」
 ポケットから、ナイフが出てきた。先の鋭い、小型のナイフ。…こんなもので、本当に人が死ぬんだろうか。刃渡りは精々十センチ程度。ああ、でも彼はなんだか慣れていそうだし、上手くやるのだろうか。
「今さ、死にたくないとも思わなかったでしょ?やっぱり死ぬべきだね。死にたくないって思わなくなったら、人間は終わるんだよ」
 一歩、二歩、三歩。
 ゆっくりとあたし近づいてくる。
 一歩、二歩、三歩。
 ゆっくりとあたしは後ずさる。
「じゃあね」
 冷血な声。迷いのない動き。あたしは、動けなくなった。足が動かない。…どうして?…どうして?――怖い!!

 かしょん。

「…え?」
 腹部に、わずかな衝撃。ただ軽く、腹部を叩かれたような、そんな感じ。
「…あれ?」
 ナイフの刃は柄の方に引っ込んでいた。
「――さて、君は今死んでしまいました。お腹にナイフを刺されて血みどろです。そのままぽっくり死んでしまいました。…三、二、一。はい、今君は生まれ変わりました。今までをリセットすることができます。どうしますか?」
 彼はあんぐりと口を開けたあたしの頭を撫で、どうするの?と首を傾げた。
「あ、たし…は、」
「『あたしは』?」
「…あたし、は…変わり、たい。…あたしは、変わりたい!!」
「じゃあ、変われるね。君ね、前髪切ってコンタクトにするだけで大分可愛くなると思うよ。それから、とりあえず誰かに話し掛けてみなよ。みんな、結構気さくな人ばかりだからさ」
 へたと、あたしはその場に座り込んでしまった。彼はじゃあね、とさっきと同じように言って、あたしに背を向けた。あたしはしばらくそのままで、動けなかった。そして、今更ながら死にたくなかったな、と思いいたった。
 …変われるだろうか。あたしでも。
 きっと、変われるだろう。
 取り敢えず、髪を切りに行こう。それから、コンタクトにしよう。そして…。そしてそれから、みんなの名前を覚えよう。
ちゃんと、彼と自己紹介がしたいから。




                                 END


突発的に書いた。製作時間30分。…何だこの男。

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