羽根あり道化師

0章 俺サマとその他大勢

最終更新:

vice2rain

- view
メンバー限定 登録/ログイン

もう、本当に本当に昔の物語で―俺も覚えているかどうかあやふやな所なんだけれど。それでも、なんでだろうな。最近になって思う事が多いんだ。「あの時、本当に楽しかったな」って…。いや、別に今だって楽しいんだぞ?

あ…今、こっそり笑っただろ?年だな、って。はは、お前に言われたくねぇよ。
まあ、でもな…それも否定はしないさ。この見た目だけれど、エルフの血っていうのはどうも厄介だな。すこしは見た目相応の言動もしてみたほうがいいんだろうか。

まあ、少し俺の思い出話につきあってくれるくらいは構わないだろ?
そう時間はとらせないからさ…ほら、座って。時間はとらせないつもりだけど、退屈しないようにお茶でも出すから。



…紅茶でいい?俺、あんまりコーヒー好きじゃないんだよね。…そう?悪いな。
お前はコーヒー好きそうな感じに見えたから悪いけど…。



年くうと、どうしてこうも「昔は俺はワルだった自慢」がしたくなるんだろうな?お前はずいぶん俺の事を立派な人間だと思ってるみたいだけれど、それはそれは滅茶苦茶な奴だったんだぞ?だから、この話をしたいわけだ。

とりあえずだ。あの時…俺は二人の仲間と冒険していた。ああ、そういえば今と同じ。あの時も、剣士と魔術師といっしょに冒険したんだったなあ…ずいぶん偶然だよな。ああ、でも。あの時の剣士はお前と違って……そうだ、そいつらの紹介からしようか?

一緒にいた剣士、な。王子様だったんだ。ミルディアンって呼ばれた騎士たちの国の第二王子。結構細身の王子だったと思うけど、大剣を片手で軽々と扱ってたし、なんていうか…言葉悪いけど「馬鹿力」って言葉が本当に似合うような…。いや、王子様だからゴリラとかそーいう感じでもないんだけど…。特徴といえば、そうだなあ、太陽みたいなブロンドの髪と真っ青な晴れの空みたいな瞳。良くも悪くも、あいつは天気の良い空みたいなイメージの奴だったんだよ。たまに、眩しすぎて辛いこともあったけどな…。ただ、ちょっとまっすぐすぎる子だった。物事を一直線にしか見られない、まじめで一途だけど、それが人を傷つけることがあることを…最初は知らないくらい未熟な子だったんだろうな。

…そういう人のことを、お前はどう思う?あの時の俺は…凄く凄くそれが嫌だったのかもしれないけれど、今となっては羨ましい限りだよ。

ああ、それから。魔術師の方はこれまた偶然だけど女の子だった。こっちはな、夕暮れがだんだん闇に変わっていく時の、あの夜空みたいな紺色の髪と、同じ色の瞳が特徴的な子だった。その子は普通の人間じゃあなくてな。「使い魔」って知ってるか…?魔術師が従える、動物なんだけど。そいつは「使い魔」だったんだよ。力の強い使い魔は人間の形になって、思考を持つことが稀にあるって聞いていたけど、そう。その子はまさにそれだったわけだ。なんというか…お前が見たら頭抱えるくらいのじゃじゃ馬だったと思うぞ。魔術師なのに結構力技だったり、あくどいことも全然平気にやるし。でも、それって今考えたら…不安とか、怖い気持ちを隠してるからだったのかもしれない。あの子は、素直に甘えるとか…そういうのがすごく苦手そうな感じだったからな。

そんなところか、俺があの頃一緒に旅をした仲間は。

…ん?なんだ?俺のこと?そ…それは…自分の事を紹介しろと言われてもなあ…
ましてや過去の俺か…話をしながら思い出すつもりだったんだけどな…

俺は…あの頃は、まだ聖司祭なんて役職についていなくて神学校を卒業した後は「巡回僧」のまま気楽に世界を巡ってた。神様に仕える連中はどうも真面目なのが多くてね、ほとんどの巡回僧は布教活動やら慈善活動に力をいれて、2・3年くらいでどこかの教会に配属される准僧侶くらいにはなるんだけど。俺は…その、フラフラしてて特になにもしてなかったもんだからかれこれ90年くらいは…巡回僧だったんだよ。笑うなら笑ってくれ。性格はずいぶんひねくれてたんじゃないかな。まあ…その理由もあとから話すよ。すごく、俺は不安定だったんだよ。あの頃は。自分の事がすごく嫌いだったんじゃないかなとも思う。自分の事を嫌ってる奴が、他の奴を心底大切に思うことはきっとできないだろ?…今?さあ、どうなったんだろうな。それも一緒に話していこうか。

紅茶のおかわりは?
そうか。それじゃあ話を始めるか。…それは、俺がまだ孤児院のお手伝いをしていて、ちょっと退屈を感じ始めたある日のことでした。

記事メニュー
ウィキ募集バナー