羽根あり道化師

2章 俺サマと怖い女の子

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vice2rain

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正味な話、俺はあんまり女の子にいい思い出がなかった。
あっ、違うからな、モテないワケじゃねーよ!
俺の記憶にある女の子といえば、かなり喧嘩っ早い子だったり、人の耳つねったり、3人も集まればぺちゃくちゃマシンガントーク、おませな上に泣き虫で、わがままで、扱いづらくて、振り回されて。
あっ、違うからな、俺がへタレなんじゃねーよ!
・・・へタレだったかな、俺・・・?

とにかく、やっぱり例に漏れず、女って怖い。



2章 俺サマと怖い女の子



 レオンとの旅が始まった。あいつは元々ミルディアンからそう遠くはない王国ベイリスを目指すつもりだったらしい。本当にこいつは大丈夫なのだろうか、俺たちが出くわした東の森とベイリスは、真逆の方向だ。もし仮に、こいつが地球を一周できたなら、こいつはベイリスに辿り着いただろう。あまりにも無謀すぎる気がするが。
 この先の旅にかなりの不安を覚えながら、俺が正しい道をレオンに教え、水すら持っていなかったこいつの装備を整えるべくミルディアン城下町へひとまず戻り、あれこれ買い出しに廻った。これだから世間知らずの王子サマってやつは。

「わー、これ干からびてますよ、大丈夫なのかな。」
「・・・これは干し肉だよ。干からびてて当然。お前なー、俺と会わなかったら絶対東の森で生き残ってもどっかで死んでたぞ。」

 市場を見て歩くたびにレオンはあれこれ指をさして俺の髪やらマントやら耳やらを引っ張りやがる。やめてくれ。回りの人間の視線が痛すぎた。仮にもこいつはこの王国の王子だった。

「・・・レオン、さっさと買い物すまそうかー?」
「えー」
「えーじゃないの!水は持ったな?干し肉も持ったな?野宿用のランプも持ったな?テントはあるな?!」
「全部ありますよ。」
「よーし、ちょっとそれもって着いてきてくれ。」

 この人ごみの中でアレをやったとあれば、速攻で他の冒険者に目をつけられる。こう見えても、俺は結構売れっ子なんだ。こと白魔術に関しては、俺に勝てる奴なんてそうそういない。

「こんな所にまだ用があるんですか?人なんか全然いない。」
「人がいないから好都合なんだよ。よっ、と。」

 俺が荷物を指差せば、荷物は一瞬で掻き消えた。といっても、消滅させたわけじゃない。旅はなるべく身軽に行きたい。そう思った俺がだいぶ前に作ったオリジナルの魔法だった。テントとか、ランプとかってアレ結構重くてかさばるし。緑色の服を来た有名なゲームの勇者みたいに収納力はないしね。魔法って、本当に便利だ。

「わっ、ヴァイス!なんで荷物消したんですかぁー!?っていうか君今なにやったの!?」
「収納しただけだよ。いつでも取り出せる。もしかして、レオン・・・魔法見たことね―の?」
「な、ないです。宮廷魔導師もあまり顔を合わせないので。」
「・・・・・・まぁ、そのうち慣れてくれよ。」

 レオンの世間知らずっぷりにあきれているとき、後ろに何か気配を感じた気がした。人のものとは到底思えないが、殺気でもない。いったいなんだ?大体人のものでない気配ならモンスターのものだけど、モンスターなんて殺気の塊みたいなものじゃないか。がさがさという叢をかきわけて進む音がする。その音は確実に、俺たちの方へ向かっているようだ。さすがのレオンもこれには気がついたらしい。首をかしげてなんの音でしょうね?と暢気に俺に言った。そのときだ。叢から何か黒いものが飛び出した。

「?なん・・・・」
「にゃー」
「わあー、ネコだ。ヴァイス、黒猫ですよ!可愛いですねー。」

 よりによって黒猫!?黒ネコといえば不吉の象徴じゃねーか!旅の初日にこんなのに出くわして喜ぶ奴なんざオメーくらいだよバカ王子!放心状態の俺もよそに、レオンといえばネコと戯れようとしている。が、ネコは明らかにそれを嫌がりガリガリと引っかこうとしている様子が見て取れた。どうやらレオンの鈍感力は某元首相も評価してくれそうだ。

「レオン、こんな所でちんたらやってねーで今日行けるとこまで行くぞ。でねーとお前の兄貴に先を越されちまうぜ。」
「大丈夫ですよー、あの人野心は人一倍ですが、実力はほぼありませんから。」

 さわやかな顔して、さらっと黒いこと言うんだな。

「もー、大人しくしてください、黒猫さんっ!これじゃあ遊べないよ。」
「レオ「黒猫さんじゃないっ!」

 レオンが戯れていたネコはいつの間にやら姿を消し、変わりにそこに青い髪の女の子が立っていた。女の子といっても、耳は人間やエルフのようなものではなく、ネコの耳。そんな彼女をレオンはしゃがんだまま見上げている。俺も女の子を暫く見て、ようやくわかった。っていうか、見たのは久しぶりだったから、思い出すのに時間が掛かっただけなんだけれど。

「・・・ヤミネコ?!」
「?」
「ええ、そうよ。プリアラっていうの。よろしくね。」

なんでヤミネコがこんな所にいるんだ?使い魔だろ?使い魔って魔術師の近くにいるもんだろ?だけど魔術師いないだろ?なんかガサガサいってるだろ?ん、ガサガサ?

プリアラの現れた叢の奥から獰猛そうな唸り声を上げて黒い影が三匹飛び出した。魔物じゃなさそうだ。これは幻術。だけど、実体を伴っているし、なんていえばいいのか。とにかく、敵のようだ。だけど街の中にこんなヤツらが忍び込めるんだろうか?思考は後だ、と思って駆け出したがその前に黒い影の二つはドガンという小さな爆発音とともに木っ端微塵にくだけちってしまった。俺はまだ動いてない、ぞ?もう1つの影は意外にもレオンが、すっと立ったまま太刀を抜き、切り裂いたらしい。こう見ると、王子らしさがやっとでてきた感じがする。じゃあ他の2つの影は・・・

「もう、うざったいったら。」

やっぱりですか。

「ふふ、私これでも結構強いのよ。」

心も読めるってか。

「まあ、ね。魔術師が秘密のまじないをつかってたりしない限りは読めるわ。とくにあなたのように単純そうなおサルさんは、ね♪」

・・・。・・・サルって言うなー!誰がサルだ誰が!っていうか心読むのはやめやがれっ!まったく!レオンの奴はさっきまでの王子らしさはどこへやら、へらへら笑いながらお怪我はありませんか~、なんていってやがる。

「大丈夫よ、ありがと。あなたたち見たところ冒険者みたいだけど、名前は?」
「僕はレオンで、彼はヴァイス。サガルマータを目指して旅をはじめ」
「ちょーーーーーーっ!何いっちゃってんだよバカ王子!お前なー!旅人は旅の目的を隠すんだぞ、普通は!」

誰か常識人を呼んできてくれ、なるべく普通の、どこにでも居そうな奴!

「へえ・・・そうなんですか。」
「あら、偶然ね。私も同じ目的で旅をしているのよ。どうかしら、一緒に行かない?」

なんだよそのちょっと買い物に行こうとしたら友達と会ったから一緒に行こうぜみたいなノリは!俺は賛成できねーな。

「さっきの黒い影。お前を追ってたんだろ?それに魔術師はどうしたんだ?」
「・・・魔術師・・・ね・・・あなたたち、北の魔術師を知っているかしら?」

この世界には東西南北にそれぞれ有名な魔術師が一人ずつ居た。その中の北の魔術師といえば、美しい女性で、氷の魔術のエキスパートらしい。たしか、名前はフィルシア。別名、氷の女王。もしかして、プリアラは北の魔術師に仕えていたのか。

「ええ、私は北の魔術師に仕えていたの。だけど・・・あの人は、いろいろな町から綺麗な女性を連れ去って、氷付けにするの。そして、今自分が使っている体に飽きたら乗り換えて・・・って言う風に、いつも自分を美しいままにしようとするためだけに魔法を使っているのよ。だけど最近は好みの女性が見当たらないらしくて、ついに私も氷付けにさせられそうに・・・。怖くなって、逃げてきたわ。南にいけば、フィルシアの魔力も弱まるし。そして・・・逃げている途中でサガルマータにある神の力の話を聞いたの。それを使えば、私は自由になれる。自由になれば、フィルシアに一発くれてやることもできるでしょ?」

なるほど、動機はわかった。美しくあるために手段は選ばない、か。やっぱ女って怖い。やっぱり俺はプリアラが仲間に加わることに賛成はできない。確かにこれだけ強い魔法を使える仲間がいるのは心強いが、リスクも大きい。北の魔女の魔力は相当あるはずだ。いくら南に行けば弱まるからといって、北にいかなければならなくなる場合のことを考えれば、そのリスクは想像以上に負担になるはずだ。却下!

「悪いけどプリアラ・・・」
「わかりました、一緒に行きましょう!」
「わぁ、ありがとう!よろしくね、レオン、ヴァイス!」

・・・仕方ねえなあ。いざとなったら・・・。
いや、いざという時なんて来ないようになればいいんだけれどね。だけど、俺も腹をくくろう。それにプリアラもかなりの力を持っているし、レオンも見たところそこそこ剣術の心得があるみたいだから。

長話と戦いとのせいで、日は傾きかけていた。これじゃあ今日の目的地までは到底間に合いそうもない。仕方なく俺たちはミルディアン市内に宿を取って明日旅立つことにした。俺はレオンと相部屋、プリアラはその隣にいる。夕食を取った後はすぐに部屋にひっこんで俺は旅の道具の整備をし、レオンは剣を研いでいた。

「レオン、お前さー・・・けっこう剣術の腕はあるみたいだけど、あれじゃあ1対1でしか通用しねえよ?相手は騎士じゃなくて、魔物なんだから全体と戦う気持ちで。あと盾が遊んでる。あれじゃあただのお荷物になってるから上手に使えよ。」

口で言うほどレオンの欠点は目立たないが、そのわずかな欠点でさえ、冒険をしているときの命取りになりかねないことだってある。ここで注意しておかないと、笑えないことになってしまうかもしれないし。結構素早い動作であまりよく見れなかったからちゃんとした指導はこれ以上はできないけれど、まあこれくらい言っておけば大丈夫だろう。俺の助言をレオンは謙虚に受け止めてくれた。にっこりと笑ってうなずくと、感心したように言う。

「ぼーっとしてたように見せておきながら、実は見ていたんだね。それに君はもしかして剣術の心得もあるのかな?」
「だーかーらーっ、ガキ扱いはやめろって!んー、実は結構ぼーっとしてたんだけどね・・・。まぁこれくらいは見られるさ。俺のダチに剣士がいて、そいつが強かった。それだけだ。」

レオンとその後暫く話していたが、夜10時の鐘がなるとすぐにレオンはベッドに篭ってしまい、寝息が聞こえてきた。ガキはお前じゃねーか!といいたいが、眠ってる人間に何を言っても無駄だ。俺は荷物を再び空間から取り出して、いじくりだした。荷物の奥のほうに、固い金属の感触を感じる。久しぶりに見たものだ。球形のそれは卵のようで、だが色は冷たい青みを帯びたメタリックの光を放つ。レオンが眠っていることをもう一度確かめると、俺はその卵を半分に割った。卵の中から薄い光が現れ、小さな映像が飛び出してきた。映像の中には、緑色のおかっぱ頭のハーフエルフの少女と、2つの剣を背負った黒髪の騎士が楽しそうに乗馬をしている様子が映っていた。不思議な光が漂う森の中で馬に乗っている彼らは幻影みたいだ。ため息をついてその映像を見ていた俺は気づかなかった。後ろにレオンがいたことに。あいつから声をかけられてやっと我に戻ったくらいだったから。

「ん~、ヴァイスの剣士のお友達ってこの人ですかー?」
「?!レオンーーーーーっ?!あー、びっくりした。オバケかと思ったじゃんか。・・・ま、そんなトコ。ホラホラ明日は早いぜ?寝るぞ寝るぞー!」

本当に、マジビビった。青い光に照らされたレオンが一瞬オバケに見えたんだし。ふわぁ~い、と寝ぼけた返事を返すレオンを見送って、俺も荷物を片付けてベッドに入った。明日からは本格的な冒険をまたはじめなきゃならない。そうだ、感傷にひたってる暇なんて、俺に残されては居なかった。

明日目指すのは冒険者の街、アロブレット。
俺たちの長い旅はもうすぐ始まるんだ。


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