羽根あり道化師
3章 俺サマと愉快な仲間たちと西の魔女
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vice2rain
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東西南北、四方に君臨する四大魔法使い。俺はかなりの魔力を持ってるって自負してるけど、あいつらにはきっと適わないだろう。なんといっても凄いのは、その魔力の及ぶ範囲の広さ。地球の半分までなら軽く魔力を行使してしまう。ゆえに、もし普通のエルフやハーフエルフがそんな魔力を手に入れてしまえば、たちまち世界はひっくり返るような混乱に包まれるだろう。そんなんでも、均衡を保っていることから考えるに、極悪と思われる北の魔女も、案外無欲なほうなのかもしれない。やってることはともかく、彼女はとりあえず自分が美しくさえいれば満足する。と、まあ人間離れした思考の持ち主ばかりな四大魔法使いである・・・と、思い込んでいた。そのときまでは。
3章 俺サマと愉快な仲間たちと西の魔女
プリアラを仲間に加え、俺たちの旅は少々ハイスピードでスタートを切った。このあたりではまだ北の魔女の魔力が及ぶので、普通ならば全然なんてことのない平原も凶暴な影と戦い、少々凶暴化させられたモンスターたちを蹴散らしながら、かつ日が沈む前に次の街へゆかなければならないので、大急ぎで通らなければならなかった。だからといってプリアラを責めることは出来ない。あいつが北の魔女から抜け出したのは当然の事・・・。人間の感情をもつ、プリアラなら。そう割り切って、俺たちは走っていた。戦闘用に開発された脚力を増強する補助魔法がこんな形で役に立つとは思わなかった。脚力が増せば、当然走る速度もかなり上がる。そのために、モンスターたちと戦う時間のリスクを負っても、まだ時間に余裕のある形で旅を進めることはできていた。
「この魔法っ、かなり、使い勝手がっ、いいわねっ・・・今度教えてっ!」
「無理っ、だろっ・・・お前黒魔導師だろうがっ!これは白魔術っだっ!」
「っていうかっ・・・僕っ、もうダメっ、ですっ!」
「ばっきゃろっ!ここで止まったらっまたっ戦闘っだろうがー!」
「無理っ、だろっ・・・お前黒魔導師だろうがっ!これは白魔術っだっ!」
「っていうかっ・・・僕っ、もうダメっ、ですっ!」
「ばっきゃろっ!ここで止まったらっまたっ戦闘っだろうがー!」
脚力は上がっても体力が上がるわけではない。当然ながら俺たちはへとへとになりながら走っている。とくにレオンは、鎧やら剣やら重いものをたくさんもっているから大変そうだった。たしかにこれならきつい。・・・少々魔力をくって俺が辛くなるかもしれないけど、仕方ない。
「プリアラっ、まだっお前は余力っあるかっ!?」
「私はっあまり感覚とかっないからっ大丈夫!」
「わかった・・・」
「私はっあまり感覚とかっないからっ大丈夫!」
「わかった・・・」
レオンに指先を向けて魔力で浮かせ、俺はそれを担いではしった。レオンは最初唖然としていたが、次第に楽しむようになってきたらしい。普通の人間じゃ空中浮遊なんてことあまりないし。・・・楽しむくらいだったら走りやがれっ!
「疲れがっとれたならっおろしてもいいだろっ!!」
「あ、はいー。大丈夫です。っていうか、もう少しで街ですよー!」
「あ、はいー。大丈夫です。っていうか、もう少しで街ですよー!」
こいつの言葉に俺は随分励まされた。レオンを下ろして3分、それ以後モンスターや影と戦うことはなく、街についた。西の果ての町、ダウンバルト。この街を境に西へ行くと荒野が広がり、その荒野に西の魔女は住んでいるという。西の魔女に着いても北の魔女と同じく情報はあまり知られていない。っていうか、四大魔法使いの情報をもっているやつなんているかどうかも怪しいが。何はともあれ宿の確保と情報収集が先決だから(ついでに腹も減ったし)ギルドの戸を叩いて宿の予約をしておいた。それから。
「これからどうする?やっぱり私は情報集めをしたほうがいいと思うの。」
「そうですね、僕もそう思います」
「よーし、じゃあギルドの地下に直行だな。」
「えっ、それなら外に出たほうが」
「いや、冒険者に聞いたほうが」
「冒険者に情報を渡すときは自分の情報も渡すものでしょ。あまりめぼしい情報なんか・・・」
「いや、単純に腹減ったから地下に行きたいだけなんだけど・・・いいだろいいだろいいだろー?!さっきの戦いで多分ヴァイス君一番頑張ったよ!努力賞あげようよ!いやマジ本当にお願いします!俺腹減ったら戦ができねぇ、ってあれ?諺?」
「・・・わ、わかったから地下にいこうか。ね、プリアラもそれでいいですか?」
「しかたないわね・・・。このオサルさんときたら。いいわ。行きましょ。いざとなったら他の冒険者をふんじばって情報をせしめればいいのよ。」
「・・・・・・そ、それ、違法・・・・・・」
「何か言ったかしら、レオン?」
「・・・いえ・・・・・・」
「メシーーーー!」
「そうですね、僕もそう思います」
「よーし、じゃあギルドの地下に直行だな。」
「えっ、それなら外に出たほうが」
「いや、冒険者に聞いたほうが」
「冒険者に情報を渡すときは自分の情報も渡すものでしょ。あまりめぼしい情報なんか・・・」
「いや、単純に腹減ったから地下に行きたいだけなんだけど・・・いいだろいいだろいいだろー?!さっきの戦いで多分ヴァイス君一番頑張ったよ!努力賞あげようよ!いやマジ本当にお願いします!俺腹減ったら戦ができねぇ、ってあれ?諺?」
「・・・わ、わかったから地下にいこうか。ね、プリアラもそれでいいですか?」
「しかたないわね・・・。このオサルさんときたら。いいわ。行きましょ。いざとなったら他の冒険者をふんじばって情報をせしめればいいのよ。」
「・・・・・・そ、それ、違法・・・・・・」
「何か言ったかしら、レオン?」
「・・・いえ・・・・・・」
「メシーーーー!」
一応弁解しておこう。ヒトにとって食事というものは非常に大切だ。世間じゃ水と塩さえあればいきていくなんていうバカな理論を組み立てている輩もいるようだが、俺はそうは思わない。バランスのとれた食事を3食とることによって、脳に栄養がいく。脳に栄養がいくということは、神経系が活発に運動するということだ。神経系が活発に運動するということは、中枢も活発に運動するということになる。中枢が活発に運動すれば、冒険者にとって必要な条件反射に磨きがかかる。さらに、魔法を使うものについてはさらに重要な集中、いわゆるコンセントレーションがしやすくなる状態を維持することが出来る。また豚肉などによく含まれるビタミンBなどにより筋細胞にも栄養がいくことからレオンのような剣士にも機敏かつ鋭い動きができるという利点があり・・・つまりは!メシをくうこと=人生に必須項目!人間は飯を食うために働き、働くために飯を食うんだ!よし。
「とりあえず、ワインを貰うわ。」
え?プリアラさん昼間っからアルコール入っちゃいますか?マジっすか?
「僕は・・・じゃあ、紅茶とクラブハウスサンドを。」
「・・・俺はそうだな、とりあえずハンバーグランチとエッグカレーとアラビア―タとグラタン、ミックスピザそれからパエリアだけ。全部大盛りで。後からデザート頼むから。・・・あっ、お茶も!」
「・・・俺はそうだな、とりあえずハンバーグランチとエッグカレーとアラビア―タとグラタン、ミックスピザそれからパエリアだけ。全部大盛りで。後からデザート頼むから。・・・あっ、お茶も!」
メニューから好きなものを選んで言った俺を2人は凝視した。なんだよ、その眼は。
「ヴァイスって結構大食いなんですねー。」
と、暢気にレオン。が、隣の方の視線がコワイ・・・なぜに?!
「・・・ヴァイス、あなた私のこと馬鹿にしてる?」
「は?なんで!?」
「あなたねー・・・そんな高カロリーなものばっかり選んで、挙句の果てには全部大盛り?!しかもデザートもですって?!ふざけているわ!私なんてダイエットに全身全霊を注いでいるのに全く気にしてないヴァイスはなんでそんなに細いのよォーーーーーー!」
「は?なんで!?」
「あなたねー・・・そんな高カロリーなものばっかり選んで、挙句の果てには全部大盛り?!しかもデザートもですって?!ふざけているわ!私なんてダイエットに全身全霊を注いでいるのに全く気にしてないヴァイスはなんでそんなに細いのよォーーーーーー!」
プリアラのエクスプロージョンストレートがダブルで俺にヒットした。こいつは痛い。かなりダメージを受けた。椅子ごとひっくりかえって、壁にまで打ち付けられた俺はよろよろと立ち上がる。普通の店ならば客たちは途端に慌てふためくのだろうが、ギルドの地下といえば血気盛んな冒険者ばかりであるから、むしろこの騒動を楽しもうとしているものばかりだった。
「いたたたた、プリアラー、何お前そんなに怒ってんの?っていうかな、俺ももうちょっとがっちり体型になりてぇよ。むしろコンプレックスだよ。太りたくても太れぐほぁ」
「覚悟しなさいヴァイス・・・アンタに乙女心がわかってたまりますかーーーー!」
「いいぞいいぞやれーーー!」
「そうだそうだー!」
「覚悟しなさいヴァイス・・・アンタに乙女心がわかってたまりますかーーーー!」
「いいぞいいぞやれーーー!」
「そうだそうだー!」
早くも騒動を煽るヤツらが現れだした。だがここで仲間にぶっ殺されるわけにもいかない。(しかも原因が体格の話で)俺は大人しくその場に正座して頭を床につけた。いわゆる土下座だ。別に俺のプライドにはノーダメージ。命のためならなんだってするぜ?
「マジッすんまっせーん!俺、あれだけ食べないと生きていけないんですッ!」
「・・・・・・もう、わかったわよ、ほら。食事もきたわ。食べましょう。」
「・・・怖かったなあ・・・。ヴァイス、大丈夫ですかあ?」
「(バカ、これ以上プリアラのカンにさわるようなこと言うな!)」
「・・・・・・もう、わかったわよ、ほら。食事もきたわ。食べましょう。」
「・・・怖かったなあ・・・。ヴァイス、大丈夫ですかあ?」
「(バカ、これ以上プリアラのカンにさわるようなこと言うな!)」
もう何も言うまい、と思い俺は黙って並べられた食事を食べた。とりあえずデザートを頼むことはやめておいた。俺が食べ終わる頃にはみんなももう食べ終わっているかと思ったが、レオンはまだクラブハウスサンドの一枚目を食べ終わったところで、プリアラもまだワインがグラスに残っていた。
「お前ら・・・遅くね?」
「あなたが早いのよ。何よ、フードファイター気取り?」
「微妙に古いですよプリアラ。それにしても本当に早いですね。胃袋ブラックホールですか?」
「微妙に古いぜ、レオン。俺に取っちゃ普通なんだけどねー。」
「あなたが早いのよ。何よ、フードファイター気取り?」
「微妙に古いですよプリアラ。それにしても本当に早いですね。胃袋ブラックホールですか?」
「微妙に古いぜ、レオン。俺に取っちゃ普通なんだけどねー。」
俺たちが暫く話をしていると変なおじさんが俺たちの前に現れた。別に悪そうなオヤジではないが。背中に大きな斧をしょっているところから、冒険者だということがわかる。っていうか、斧よりも頭が気になる。かなり大きな体格をしていて強そうなのに、頭はバーコードだ。寂しい・・・。中年男の哀愁漂う頭だった。本来なら笑ってやりたいが、ごめん、笑えすらしない。
「・・・で?あんた何?」
「いやあ、さっきのケンカ見ててなあ!お嬢ちゃん強いじゃないか。」
「ふふ、ありがとう。」
「あんたたちも冒険者だろう?若いのに凄いな。俺もそこそこベテランの冒険者でね。面白いものを見せてもらったし情報を少しくらいならあげられるよ。」
「いやあ、さっきのケンカ見ててなあ!お嬢ちゃん強いじゃないか。」
「ふふ、ありがとう。」
「あんたたちも冒険者だろう?若いのに凄いな。俺もそこそこベテランの冒険者でね。面白いものを見せてもらったし情報を少しくらいならあげられるよ。」
ケンカの後に情報を貰うという例は珍しくはない。冒険者という者は得てしてケンカが大好きだ。このオヤジも例外ではないのかもしれない。とりあえず、あまり期待しないで聞いてみた。
「ん・・・そうだな、北の魔女について、何か知っていないか?」
「北の魔女ねえ、えらい綺麗な姉ちゃんらしいけどねえ。それくらいか。」
「北の魔女ねえ、えらい綺麗な姉ちゃんらしいけどねえ。それくらいか。」
まあ、これは当然だろう。こんな答えが返ってくるのは計算済みだ。ここから誘導尋問をして・・・
「ではサガルマータ到達に必要なことについて知っていませんか?!」
・・・レオン―――――――!このバカッ!なんてことしてくれやがったんだよ!直球で行くなってアレほど言ったのに!プリアラはこいつを抑止するどころか頷いて聞きたがっていやがる!少しは考えろよ・・・!だが意外にもオヤジは豪気に笑って答えた。
「あんたたちそんな目標を持ってたのか!がはは、俺の知ってることでよかったら教えるぞ!なんでも、四大魔法使いのうちだれかが、サガルマータに行くために必要なカギをもっているらしい・・・。サガルマータに行くには、世界の中央にあるウードレイ山を登らなきゃならない。だが、その山頂に着いたところで、そのカギがなけりゃサガルマータにはいけないんだとよ。まずは西の魔法使いにでも会ってみたらどうだ?ここからだと近いしな!まあ、俺もこれは聞いた話だから、嘘か本当か、知らないが。」
「・・・そうか。ありがとう。じゃ、おっさんあんたも頑張れよ!」
「お前たちもなー!」
「・・・そうか。ありがとう。じゃ、おっさんあんたも頑張れよ!」
「お前たちもなー!」
おっさんのエールを背中に受けて俺たちは取った部屋へ戻った。戻ってすぐにプリアラが俺たちの部屋をノックし、入ってくる。表情は少し硬かった。
「さっきの話だけど・・・ちょっと鵜呑みにいもできないわね。」
「まあ、あのおっさんも嘘か本当かわからないって言ってたしな。」
「それだけじゃないわ。」
「・・・?何か、気に掛かることでもあったんですか?」
「ええ。あの人斧を背負っていたわりに・・・心が読めないのよ。」
「まあ、あのおっさんも嘘か本当かわからないって言ってたしな。」
「それだけじゃないわ。」
「・・・?何か、気に掛かることでもあったんですか?」
「ええ。あの人斧を背負っていたわりに・・・心が読めないのよ。」
おかしい。プリアラが心を読めないのはエルフの血を持つもの・・・つまり魔法使いだけだ。だが、あのおっさんは完全に人間だった。俺はエルフの血を持っているからわかる。なのに、なぜ心が読めない?可能性として挙げられるものといえば・・・誰かに魔法で心を隠すようにしてもらったのか、それかあのおっさんが人間でないか・・・つまり人間を模して作られたもの・・・か。だとすれば、なぜ俺たちに情報を与える?合点が行かない。王族とヤミネコがいるとはいえ、表面上単なる一冒険者の俺たちをわざわざそこまでして罠にかけようとする奴なんて、そうそういないだろう。
「多分、北の魔女の仕業ではないと思うわ・・・。あの人がやるならもっと綺麗な人を作ったでしょうから。とにかく・・・あまり期待しないほうがいい。それだけよ。」
「だけど、行き先も当分ははっきりしないだろ?西の魔女に会いに行くっていうのはやっぱり得策だろ。」
「そうですね。どうです、プリアラ?」
「・・・そうね。北の魔女の館で西の魔女について見たことがあったんだけど、なんだか優しそうなおばさんだったから、きっと大丈夫ね。うん、行きましょう。」
「だけど、行き先も当分ははっきりしないだろ?西の魔女に会いに行くっていうのはやっぱり得策だろ。」
「そうですね。どうです、プリアラ?」
「・・・そうね。北の魔女の館で西の魔女について見たことがあったんだけど、なんだか優しそうなおばさんだったから、きっと大丈夫ね。うん、行きましょう。」
翌日、俺たちは荒野に向けて旅立った。ダウンバルトから地図によれば3kmのところに幻影の砂漠がある。そこを抜けなければ西の魔女のいる場所には辿り着けない。幻影の砂漠というのは、その人物の深層心理に潜む闇や過去を具現化する(といっても砂でだが)場所で、あまりに長くいすぎると、廃人になりかねない危険な場所だ。だが、腕のいい魔術師ならば幻術を打ち破る術も得ているので多少はなんとかなるだろう。とくにプリアラがこっちにはいるし、俺もいる。だが、俺の幻術を他の2人に見られることだけは避けなきゃいけない。本来なら俺だって見たくはなかったんだ。
砂漠に入ったとたん、当然のように幻術は現れたレオンの目の前にはあいつの兄と思しき人。そしてプリアラの前には北の魔女と思しき女の人が。レオンは動揺していたが、プリアラが冷静に幻術を解いて、何とかなった。砂で出来たモンスターたちと戦いながら二人はどんどん進む。俺も幻術を破ろうと呪文を唱えた。が・・・
砂漠に入ったとたん、当然のように幻術は現れたレオンの目の前にはあいつの兄と思しき人。そしてプリアラの前には北の魔女と思しき女の人が。レオンは動揺していたが、プリアラが冷静に幻術を解いて、何とかなった。砂で出来たモンスターたちと戦いながら二人はどんどん進む。俺も幻術を破ろうと呪文を唱えた。が・・・
『兄貴!』
「ヴァイス!何しているのよ!早く・・・もう、仕方ないわね・・・!」
「・・・ッ・・・あ・・・アリ・・・ア・・・・・・・・・、あ、悪い、プリアラ!」
「廃人になるところだったじゃないの!あんなに砂漠に入る前は余裕ぶっていたのに!」
「ご、ごめん・・・。」
「大丈夫?ヴァイス。先を急ぎましょう。」
「あ・・・ああ・・・・・・。」
「・・・ッ・・・あ・・・アリ・・・ア・・・・・・・・・、あ、悪い、プリアラ!」
「廃人になるところだったじゃないの!あんなに砂漠に入る前は余裕ぶっていたのに!」
「ご、ごめん・・・。」
「大丈夫?ヴァイス。先を急ぎましょう。」
「あ・・・ああ・・・・・・。」
深層心理、か・・・。改めて、俺は人の心というものが怖くなった。もう、完全に消したと思っていたが。砂嵐はまだ吹き荒れている。つまり、幻影の砂漠をまだ越えられていないということだ。たくさんのモンスターが現れたが、所詮は砂だから軽く剣で突付いてやればもろく崩れ去っていった。砂嵐の向こうに、一瞬キラリと光るものが見える。きっと、あれこそが西の魔女の家に違いない!
「もう少し、ですね!」
「そうね・・・、急ぎましょう!」
「そうね・・・、急ぎましょう!」
そのときだった、砂の中から巨大な影。砂で出来たものだということはわかっていても、その存在感は圧倒的だった。身の丈は、俺たちの12,3倍といったところか。巨大な龍が姿をあらわしたのだ。この砂漠で、人の深層心理にあるもの以外のものが湧き上がることはない。それが現れたということは、レオン、プリアラ、そして俺の誰かがこの大きな龍を潜めているという・・・現れだ。
「・・・逃げましょう!こんなの、相手にしていられないわ。」
「逃げるな。」
「ヴァイス!」
「逃げては・・・いけない。」
「逃げるな。」
「ヴァイス!」
「逃げては・・・いけない。」
ほぼ無意識的に、俺は突っ立ったまま、口を開いた。仲間の批難する声が聞こえるが、内容はあまり頭に入っていない気がした。
「逃げたりなんか・・・できるものか。だが・・・」
負けたりなども、できるものか!
俺がそう叫んだ瞬間龍は崩れ去った。そのあと暫く俺はぼーっとしていたらしいが、レオンが俺を引っ張って幻影の砂漠を抜けてくれたらしく、西の魔女の家で俺は目を覚ました。あたりの風景とは裏腹に、家の中は温かみのある造りだった。作りかけのパッチワークや糸を紡ぐための機械があり、鍵針が魔法で動いてせっせと編物をしていた。チェックのテーブルクロスのかけられたテーブルにレオンとプリアラはかけていて、紅茶を飲んでいる。俺の眠っていたベッドもパッチワークで全て作られていた。この西の魔女というのは、裁縫が得意らしい。
「あ、気がついたのね。」
プリアラが俺を振り返った。レオンもほっとしたように歩み寄ってくる。
「よかった、無事だったんですね。」
「無事も何も・・・砂ごときにやられてたまっかよ。」
「砂と侮る人は大勢います。が・・・あのような大きな幻影に内面から打ち勝つ人を見たのは初めてですよ、ヴァイスさん。相当な精神力を使ったでしょうね、尊敬します。」
「無事も何も・・・砂ごときにやられてたまっかよ。」
「砂と侮る人は大勢います。が・・・あのような大きな幻影に内面から打ち勝つ人を見たのは初めてですよ、ヴァイスさん。相当な精神力を使ったでしょうね、尊敬します。」
聞いた事のない声が俺を呼んだ。いつのまにか、クッキーをもった太ったおばさんが俺の前に現れていて、その人が俺に話したのだとようやく理解できる。そうか、この人が西の魔女・・・。なんか、どこにでもいそうなおばさんなんだけど。
「あんたが、西の魔女・・・マルラだな?」
「そうです。話はプリアラさんとレオンさんから聞きました。サガルマータを目指すということも。プリアラさんは自由の為に、レオンさんは、国のために。では私からあなたに問います。あなたはいったい何のために目指すというのですか。」
「あんたなら俺の心を読むことも出来るんじゃないのか?」
「そうです。話はプリアラさんとレオンさんから聞きました。サガルマータを目指すということも。プリアラさんは自由の為に、レオンさんは、国のために。では私からあなたに問います。あなたはいったい何のために目指すというのですか。」
「あんたなら俺の心を読むことも出来るんじゃないのか?」
俺は試すように、マルラに言ってみたが、マルラは首をふると視線を落とした。そして再び口を開く。
「そうですね。私は人の心を読むことが出来ます。そこにいる、プリアラさんと同じように。そして私に尽くしてくれる使い魔ガエリレルのように。失礼ながら眠っているあなたの心を読ませていただきました。」
「なら、わかってるだろ?」
「ええ。わかっています。ですが、わかっていることはあなたのサガルマータに行きたい理由ではありません。」
「なら、わかってるだろ?」
「ええ。わかっています。ですが、わかっていることはあなたのサガルマータに行きたい理由ではありません。」
・・・まずい。俺は直感的にそう思った。さすがは力のある西の魔女だ。もしかしたら・・・
「あなたは、深層心理の上に、何枚もの嘘の心理を重ねていますね?」
「・・・お見通し、ってわけか。」
「ヴァイス?君は・・・」
「レオンさん。参考までに言いますが、深層心理の上に嘘の心理を重ねることは珍しいことではありません。事実、商人の人はほとんどがそうしています。長く冒険をしているヴァイスさんも同じでしょう。ですが、ここまで多くの心理を重ねることによって深層心理を隠そうとしたのははじめてのケース。あなたはもしかしたら、過去に恐ろしい体験をしているのかもしれませんね・・・。ごめんなさい、思い出させるようなことを言って。あなたが消したいのはこの過去・・・私はそう推測します。四大魔法使いはサガルマータに行くものの理屈をしっかりとかみ締めなければその道を開いてあげることができないのです。」
「・・・お見通し、ってわけか。」
「ヴァイス?君は・・・」
「レオンさん。参考までに言いますが、深層心理の上に嘘の心理を重ねることは珍しいことではありません。事実、商人の人はほとんどがそうしています。長く冒険をしているヴァイスさんも同じでしょう。ですが、ここまで多くの心理を重ねることによって深層心理を隠そうとしたのははじめてのケース。あなたはもしかしたら、過去に恐ろしい体験をしているのかもしれませんね・・・。ごめんなさい、思い出させるようなことを言って。あなたが消したいのはこの過去・・・私はそう推測します。四大魔法使いはサガルマータに行くものの理屈をしっかりとかみ締めなければその道を開いてあげることができないのです。」
そういうことか。あー、ビビッた。別にバレてやましいことなんてないけど、いろんな秘密話されたらたまったもんじゃない。西の魔女が思ったよりも良心的で良かった!
「さて・・・サガルマータに行くために必要なキー・・・星界の封印というのですが・・・それは私の元にありました。」
「あった、ということは・・・今はないんですか?」
「・・・ええ。数日前に、妙な男が押し入り、奪い取ってしまったのです。私の力をもってしても、取り返すことはできませんでした。」
「そんな・・・!マルラさんでもダメなら、どうすれば!」
「いえ、もしかしたら私だからこそ・・・できなかったのかもしれません。私の力は熱と砂を操る力。それが効かなかったのですから・・・」
「それ以外の力を使えば、取り返すことも出来るかもしれないんですね?」
「そうです。私があなたたちに出来るのはその男の風貌を教えることと、サガルマータへ続く道を切り開くお手伝いをすることだけ。これをお持ちなさい。」
「あった、ということは・・・今はないんですか?」
「・・・ええ。数日前に、妙な男が押し入り、奪い取ってしまったのです。私の力をもってしても、取り返すことはできませんでした。」
「そんな・・・!マルラさんでもダメなら、どうすれば!」
「いえ、もしかしたら私だからこそ・・・できなかったのかもしれません。私の力は熱と砂を操る力。それが効かなかったのですから・・・」
「それ以外の力を使えば、取り返すことも出来るかもしれないんですね?」
「そうです。私があなたたちに出来るのはその男の風貌を教えることと、サガルマータへ続く道を切り開くお手伝いをすることだけ。これをお持ちなさい。」
マルラは俺たちに赤い鈴を手渡した。乾いた金属音がなる、あまり綺麗とはいえない音の鈴だった。
「これを鳴らせば、私の力の及ぶ限りお手伝いしましょう。熱と砂を上手に使ってください。そして、これが男の特徴です。」
何もなかった空間からぱっと石版があらわれこげたような匂いがすると石版に男の顔と、文字とが浮かび上がってきた。男は、というよりそいつはかなりのおじいさんだった。髭面で、紳士的な顔つきだが、どこか怪しい匂いのするタイプだ。シルクハットを被り、スーツを着ている、かなり目立つ風貌である。しかも武器らしい武器も持たず、ステッキ一本だけを持っている。手品しのような感じもするが、こんな丸腰で西の魔女の家に押し入るなど相当な魔力を持っている奴に違いない。
「ありがとうございます、マルラさん。私たち、絶対サガルマータに行きます!」
「ええ、応援しています。」
「ああ・・・帰りもあの砂漠を抜けなきゃいけないんですよね・・・」
「心配には及びません。帰りはガエリレルに送らせましょう。そして、北の魔女を避けるように南へお行きなさい。この男と北の魔女、行動は別でしょうが一緒に出くわしてしまえばあなたたちに危険が生じます。回避できる危険は回避すべきです。そして、北の魔女以外の魔法使いにも手紙を送っておきましょう。協力を、募ってみます。」
「悪いな、ありがとう!」
「ええ、応援しています。」
「ああ・・・帰りもあの砂漠を抜けなきゃいけないんですよね・・・」
「心配には及びません。帰りはガエリレルに送らせましょう。そして、北の魔女を避けるように南へお行きなさい。この男と北の魔女、行動は別でしょうが一緒に出くわしてしまえばあなたたちに危険が生じます。回避できる危険は回避すべきです。そして、北の魔女以外の魔法使いにも手紙を送っておきましょう。協力を、募ってみます。」
「悪いな、ありがとう!」
マルラの使い魔、ガエリレルは大きなライオンだった。炎の鬣にビビってレオンは恐る恐る乗ったのだが、乗ってみると別に熱を感じない。マルラによると、ガエリレルが信頼している相手に熱は伝わらないのだという。百獣の王の背中に俺たちは乗り、颯爽と砂漠を駆け抜け―そして、今度は南に向かって旅立つのだった。