羽根あり道化師
6章 俺サマとトップシークレットとジジィ
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vice2rain
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無と孤独。似ているようで、違う。
無は無以外の何にもなりえないからだ。
孤独は在る。在って初めて在るものだ。
だが、孤独は無へとつながっている。
だから、人は孤独が怖いんだ。
無は無以外の何にもなりえないからだ。
孤独は在る。在って初めて在るものだ。
だが、孤独は無へとつながっている。
だから、人は孤独が怖いんだ。
6章 俺サマとトップシークレットとジジィ
何も見えなくなった後、何秒か、はたまた何日、何年か・・・全然わからないが俺は眼を開けた。眼を開けることが出来た。つまり、体が元通り戻ったようだった。なんともいえぬ嬉しさを感じたのもつかの間、俺は目を開け、口を開く以外の何も出来ない状態にされていることがわかった。両手足を縛られ、無造作に横たえられていた。冷たい石畳の部屋。窓はなく、鎖がたくさんぶら下がっている。白骨死体がいくつかあって、そのうちいくつかは真新しかった。真新しいといえばまだ聞こえはいいものの、腐敗した肉やらあまり眼にしたくないものがぶら下がっているから少々吐き気を覚えた。この死体の大きさから、大人のそれではないことがわかる。極悪非道・・・地獄絵図だ。だけど、こういう景色を見たのは初めてじゃない。慣れたわけではないけれど普通の人が思う感情よりはずっと冷静に俺は横たわった。少し遠くのほうにはなまなましい血のついた斧がいくつかおいてある。その様子からして、あれは脅しの道具どころではないなと内心あざ笑った。
カツーン、カツーンという音が聞こえ始める。足音ではないだろう。カツーンという音と別に足音が聞こえるから。杖、かな。
カツーン、カツーンという音が聞こえ始める。足音ではないだろう。カツーンという音と別に足音が聞こえるから。杖、かな。
その音を立てた主を見て、俺は目を丸くした。あ、大丈夫。レオンとプリアラでしたとかいうオチじゃないから。
「少々痛ぶりすぎました。」
「・・・お前ッ・・・・・・」
「いやあ、可愛らしい子供を見つけるとちょっと苛めたくなっちゃいますよね、手加減ってものを知らなくてすみません。まああなたなら手加減しようがありませんが。」
「・・・・・・マルラの家に押し入った強盗っていうのはお前だな?」
「・・・お前ッ・・・・・・」
「いやあ、可愛らしい子供を見つけるとちょっと苛めたくなっちゃいますよね、手加減ってものを知らなくてすみません。まああなたなら手加減しようがありませんが。」
「・・・・・・マルラの家に押し入った強盗っていうのはお前だな?」
俺の目の前に立った人の良さそうな紳士的爺さんは孫にでも笑いかけるかのように優しく笑い、こっくりと頷いた。そしてその優しい笑みからは想像もつかないほど残酷なことを口にする。
「そうです。あの女性は幼くありませんから嬲り殺しても面白くなさそうでしてね、放置しました。ワタクシの野望のために必要な道具をもっているようでしたからお邪魔させていただきました。」
「神の力か?お前にはかなりの力があるようだが、なぜそれを求めてるんだ?」
「おや、わかりませんか?力あるものこそ力に貪欲。違いますか?」
「知らないな。俺子供だからそんなのわかんないんだよねー。」
「ますます面白い人だ、あなたはついさっきワタクシに『大人だ』と言い切ったでは在りませんか。」
「でもお前は子供だって言っただろう。」
「そうですね、そうでした。」
「神の力か?お前にはかなりの力があるようだが、なぜそれを求めてるんだ?」
「おや、わかりませんか?力あるものこそ力に貪欲。違いますか?」
「知らないな。俺子供だからそんなのわかんないんだよねー。」
「ますます面白い人だ、あなたはついさっきワタクシに『大人だ』と言い切ったでは在りませんか。」
「でもお前は子供だって言っただろう。」
「そうですね、そうでした。」
今思い出したかのように爺さんはなんども頷いて、同じ事を繰り返し呟いていた。あまりにも普通すぎるその動作に、逆に寒気を覚えた俺は注意深く、口を開く。
「で・・・俺を嬲り殺したくなったわけ?」
「そうですね。時間をかけてゆっくり嬲り殺すのもまた1つの楽しみとしていけるでしょう。ですが」
「・・・」
「そうですね。時間をかけてゆっくり嬲り殺すのもまた1つの楽しみとしていけるでしょう。ですが」
「・・・」
不快な笑みが目に入った。優しそうな老紳士というものはこれほどまでに怖いものに変貌しうるんだろうか。
「あなたには暗黒が多すぎる。闇が多すぎる。近いものを感じました。そういう方を放っておけないのですよ。」
「よく知ってるじゃねーか。それで?」
「どうです、あなたの力はとても重宝します。ワタクシと共に神の力を得ませんか。あなたと旅をしている王子とヤミネコ・・・彼らは光の心を持ちすぎている。あなたの闇を知ったとき、あなたの罪・・・そうですね、原罪とでもいいますか―それに触れたとき、あなたはきっと彼らから見放されるでしょう。」
「どうかな。あいつら、過干渉におせっかいだし。」
「もう一度孤独を味わいたいか?」
「よく知ってるじゃねーか。それで?」
「どうです、あなたの力はとても重宝します。ワタクシと共に神の力を得ませんか。あなたと旅をしている王子とヤミネコ・・・彼らは光の心を持ちすぎている。あなたの闇を知ったとき、あなたの罪・・・そうですね、原罪とでもいいますか―それに触れたとき、あなたはきっと彼らから見放されるでしょう。」
「どうかな。あいつら、過干渉におせっかいだし。」
「もう一度孤独を味わいたいか?」
老紳士は突然泉のほとりで見たあの男に姿を変え、あの不快な顔を俺に近づけてにやりと笑った。孤独、という言葉を聞いて心底怯え上がった俺の様子を楽しむようにクツクツと笑うと、また老紳士に姿を変えた。
「大変素直でよろしいですね。ワタクシにはあなたのことがようくわかるのですよ。」
「俺のことが?例えばどんなだ。」
「あなたが人間ではないことが。」
「そりゃ誰でもわかる。耳、とんがってるからな。」
「俺のことが?例えばどんなだ。」
「あなたが人間ではないことが。」
「そりゃ誰でもわかる。耳、とんがってるからな。」
俺は挑発するように笑った。この爺さんに俺を殺す気がないとわかったからかもしれない。
「エルフではないことが。」
「良く気づいたな、俺はハーフエルフだ。」
「いえいえ、ハーフエルフだなんてとんでもない。あなたはそれですらない。」
「良く気づいたな、俺はハーフエルフだ。」
「いえいえ、ハーフエルフだなんてとんでもない。あなたはそれですらない。」
心臓が早鐘のように打った。言うな、それ以上言わないでくれ。心の中の警報がけたたましく響く。俺はそれに絶えるように顔をしかめた。その様子をなおも老紳士は楽しそうに見ていて、そして、言わないで欲しかった言葉をそうとわかって言った。心臓をナイフでえぐられるような痛みが鋭く走る感覚がした。
「あなたは龍の遺伝子をもっていらっしゃいますね。」
「・・・言うなッ・・・!たのむ・・・から・・・・・・それ以上・・・」
「ワタクシの楽しみを奪わないで頂きたい。心臓を刺されでもしない限りすぐに怪我を治してしまうその身体。傷つけるには内面を傷つけるしかないのですからね・・・。局所的に違う遺伝子を持つ者、ドラゴンキメラ、そうだ・・・マクムート、とも呼びますね。そして、太古における呼び名は『人間兵器』。随分探しましたよ、唯一の実験成功例がいるということがわかってから。」
「どうしてだ、どこで、どうしてそれを知った?!」
「ワタクシは全で、無ですから。調べられぬ物はないのです。たとえどんなに時間が掛かろうとも。」
「・・・くそッ、この、クソジジィ!」
「なんとでも。ああ御可愛そうに!哀れなヴァイス!その身に受けた希望の龍の鱗こそ原罪であり、その身に受けた力こそ原罪であり、その身在る事すら原罪・・・罪にまみれるあなたを慕うものはもう誰もいまい・・・。あの時あなたは自らその道を選んでしまったのだから!」
「俺は、そんなことはもういいんだ。後悔なんかしねぇよ。・・・これが、罪を償う唯一の道だろ。」
「そうですかそうですか。それではなぜレオンとプリアラと旅をしたのです?新たに罪を重ねるというのか。」
「・・・言うなッ・・・!たのむ・・・から・・・・・・それ以上・・・」
「ワタクシの楽しみを奪わないで頂きたい。心臓を刺されでもしない限りすぐに怪我を治してしまうその身体。傷つけるには内面を傷つけるしかないのですからね・・・。局所的に違う遺伝子を持つ者、ドラゴンキメラ、そうだ・・・マクムート、とも呼びますね。そして、太古における呼び名は『人間兵器』。随分探しましたよ、唯一の実験成功例がいるということがわかってから。」
「どうしてだ、どこで、どうしてそれを知った?!」
「ワタクシは全で、無ですから。調べられぬ物はないのです。たとえどんなに時間が掛かろうとも。」
「・・・くそッ、この、クソジジィ!」
「なんとでも。ああ御可愛そうに!哀れなヴァイス!その身に受けた希望の龍の鱗こそ原罪であり、その身に受けた力こそ原罪であり、その身在る事すら原罪・・・罪にまみれるあなたを慕うものはもう誰もいまい・・・。あの時あなたは自らその道を選んでしまったのだから!」
「俺は、そんなことはもういいんだ。後悔なんかしねぇよ。・・・これが、罪を償う唯一の道だろ。」
「そうですかそうですか。それではなぜレオンとプリアラと旅をしたのです?新たに罪を重ねるというのか。」
流れるような調子で、言葉を続ける老紳士は晴れやかに、明朗に俺のことを責めつづけた。ホンットマジムカツク、こいつ。俺が言葉に詰まれば詰まるほど、この老紳士は楽しそうだった。
「あなたは頭がよろしい少年ですからね、嬲りがいがあるんです。」
「そいつはどーも。」
「さて、サガルマータへ到達するための仲間になったということで話を進めますが。」
「お前は仲間を縛りつづけるのか。SMプレイか、コノヤロゥ。」
「ほっほっほ、なんと口汚い。ワタクシは悲しゅうございます。」
「あのな・・・俺、こんなにドSな老紳士は見たことないぞ。」
「ワタクシも、ワタクシに捕らえられてこんなに威勢の良い少年は初めてです。さて、話を戻しますがサガルマータに到達し、ワタクシは願い事をかなえるつもりでございますが、それにはあなたの協力がぜひとも必要なのですよ。」
「そいつはどーも。」
「さて、サガルマータへ到達するための仲間になったということで話を進めますが。」
「お前は仲間を縛りつづけるのか。SMプレイか、コノヤロゥ。」
「ほっほっほ、なんと口汚い。ワタクシは悲しゅうございます。」
「あのな・・・俺、こんなにドSな老紳士は見たことないぞ。」
「ワタクシも、ワタクシに捕らえられてこんなに威勢の良い少年は初めてです。さて、話を戻しますがサガルマータに到達し、ワタクシは願い事をかなえるつもりでございますが、それにはあなたの協力がぜひとも必要なのですよ。」
俺に、協力しろと?どういう協力かはわからないが旅をすることになったのならこのジジィから逃げ出すことも可能になる。もしかするとこのジジィの持っている星界の封印をぶんどってしまえるかもしれない。
「で、何をすればいい。」
「サガルマータにいくまでは、あなたは何をしなくてもいいのですよ。ただワタクシについてこれば。あなたの協力が必要なのはワタクシの願い事のことです。ワタクシは不老不死が欲しいのです。ワタクシもエルフゆえに長命ですがいつか、そう遠くない未来に命尽きるでしょう。今まで幾多の黒魔術を駆使してワタクシは寿命を延ばしてきたのですがそれも億劫になりましてね。そこで、あなたの罪をワタクシが背負って差し上げようと思ったのです。」
「つまり、俺のドラゴンキメラとしての遺伝子がお前に移動してくれればいいわけだ。それを望むんだな。」
「そうです。そうすればあなたは存在を許される存在に!ワタクシの夢もかなってめでたしめでたし。」
「そいつはいい考えだな。」
「サガルマータにいくまでは、あなたは何をしなくてもいいのですよ。ただワタクシについてこれば。あなたの協力が必要なのはワタクシの願い事のことです。ワタクシは不老不死が欲しいのです。ワタクシもエルフゆえに長命ですがいつか、そう遠くない未来に命尽きるでしょう。今まで幾多の黒魔術を駆使してワタクシは寿命を延ばしてきたのですがそれも億劫になりましてね。そこで、あなたの罪をワタクシが背負って差し上げようと思ったのです。」
「つまり、俺のドラゴンキメラとしての遺伝子がお前に移動してくれればいいわけだ。それを望むんだな。」
「そうです。そうすればあなたは存在を許される存在に!ワタクシの夢もかなってめでたしめでたし。」
「そいつはいい考えだな。」
こんなジジィがドラゴンの力を手に入れたら世界がどうなるか、考えるだけでもぞっとする。すくなくとも世界中の子供たちがこの部屋に押し込められて、嬲り殺されるのがオチだろう。渡してたまるか。でも、今はここを抜けるためにもノるしかないか。
俺は同意の意を述べようとした。