羽根あり道化師

8章 俺サマと弱点克服

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vice2rain

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ひとまず危機を乗り越えた俺たちは南の町ハイトバーグへ到着したのだった。
だからといってリゾートを楽しむわけにはいかない。

…んじゃないのかなぁ諸君んん!



8章 俺サマと弱点克服



「わー、日差しが気持ちいいですねー」
「日焼けが心配だけれどあったかいところはいいわね。このジュースおいしいわ。」

……お前らァァアアア!旅はどーした旅は!
これから南の魔術師に会いに行くんじゃなかったっけえぇぇぇぇ?!
と、俺の突っ込みむなしく、俺たちがハイトバーグに到着して早二日経っていた。うそか本当かはわからないが、プリアラが言うにはマルラがこの何日かで連絡をよこす予感がするらしい。
仕方なくリゾートに滞在していた俺たちの元にマルラの使い魔が訪れたのはその日の夕方のことだった。
メラメラと燃える鬣に手紙が燃やされていないことを確認し、小包が消し炭になっていないことを確認して受け取ると、俺たちはすぐに中身を確認してみる。

小包の中からは青いマラカスと黄色いベルが出てきた。どちらも魔力のかかっているもので、マルラからもらったあの赤い鈴と同じような感じのものだ。ということは、南・東の魔法使いの協力を得ることができたってことだな!

「えーっと、手紙、読みますねー。」

『皆さん お元気で旅を続けていますか。
こちらは いつもと変わらずに 相変わらずパッチワークに精を出しています。
新しい服が縫い終わったら 皆さんの分も送りますからね。
皆さんのために 南の魔法使いと東の魔法使いに連絡をいれておきましたよ。
二人とも快諾してくれました。よかったですね。
青いマラカスは南の魔法使いの風の力と水の力を
そして黄色いベルは東の魔法使いの雷の力を借りることができるそうです。
旅をしていると 食事の栄養バランスが偏ることがよくあるようです。
ヴァイスは 旅慣れているから少し安心できると思うのですが
やっぱり 心配な面もあります。大人ぶっていてもまだまだ子供ですからね。
きちんと ご飯食べて 眠って それからけんかしないように仲良く旅をしなさい。
何かあったら必ず連絡するのよ。
いつでも帰ってきていいんだからね。
                       では。』

「…では、じゃねえええええええええ!なんだよ最後の方!お袋かっつーの!ってかそこォ!何感動しちゃってんの?!お前らのお袋マルラじゃねーだろぉお!」
「ヴァイスあなた…血も涙もないわね…」
「プリアラだけには言われたくな―いえ、なんでもないです。」

レオンはハンカチで目をぬぐいながら手紙を大切そうにしまった。プリアラも目を軽くこすると、今度はにこやかに笑ってみせる。つられてレオンが笑ったのを見て、俺もなんかどうでもよくなってきた。

「それにしてもマルラをはじめとする四方の魔術師の魔力はかなりの戦力になるわ。魔法の使えないレオンだって行使できるんですもの。だからといって、レオンに全部持たせるのも危険よね…」

確かに。プリアラのいうとおりだ。大きな力を一箇所に集めるということは奪われる可能性も紛失する可能性もかなりたかくなるリスクを負う。ましてやレオン。なくさないわけがない!とにかく、大きな力はなるべく分散させて持つにこしたことはないんだ。

「じゃあ私は赤い鈴を持つわ。レオン、ベルをもって。ハイ、ヴァイス。」
「ちょっとまて!もし、もしもだ、戦闘中に俺が南の魔術師の力を借りたくなったらだ!敵のまん前でマラカス振れってことか?!オイオイオイオイ冗談じゃねえよ!俺の二枚目キャラが破綻するだろーが!レオンに持たせろよレオンにー!」
「えぇ~、僕よりもヴァイスのほうが似合い」
「だー、いうないうなっ!っていうかなんかイヤ!めっちゃ間抜けモード前回じゃん!なんで鈴、ベルときてマラカスうぅ?!南の魔術師センス悪!」
「うるさいな、そんなの俺の勝手だろ。センス悪いとか言いやがって・・・」

突如俺の背後で声がして、あわてて振り返る。不覚だ、この俺が南の魔術師の魔力をかんじられなかったなんて。隠していたんだろうか、いまいち魔術師という感じのしない長身の男だ。見た目はただのサーファーのようなんだが。

「あなた…南の魔術師、サーガね。魔術師が『場』を離れても大丈夫なのかしら?私のマスターはいつも心配していたけど。」
「ああ、別にここじゃあ場をとろうとするようなやつはいねーよ。結界もあるしな。それにサーフィンは俺の日課だ。」
「魔法使いでもサーフィンやるんですねー。」
「そりゃーね。…そこのガキ、」
「ガキじゃねー!ヴァイスだ!」
「あーはいはい、ヴァイス?マルラからお前の『闇』を克服するようにって言われたんだけど。」

マルラから「俺の闇を克服するように」だと?どういうことだ?
大体マルラは俺のことをどこまで知っているんだろう。
闇っていうのはいったいなんだ?確かに俺は闇属性の魔術に弱いが、それは俺が主に使っている魔術が白魔術だからで、それはどうしようもないことだろう。それを克服するのは無理だろうし、南の魔法使いの使う魔術は風と水。闇関係ねーだろうが!

「うっせーな、とにかく俺の隠れ家に来い。特訓してやる。でねーと中央の魔術師にも北のナルシーにも勝てないだろ。」

どうしてこーも、人の心が読めるやつは勝手なのだろうか。

「あら、何か思ったかしら?ヴァイス。」

いえ、なんでもありません。

サーガにつれられて俺たちは町のはずれから少し行ったところの入り江に到着した。あらゆるところに魔方陣が書かれたり書物がおいてある。どんなものを読むのかすごく興味があるが、魔術師の類はこういうものを他人に見られるのをあまり好まない。逆ギレされるのもイヤだし、手はつけなかった。俺たちを客間に通した後、サーガはいったん部屋を出て何かを取りに行った。

「なんだか魔術師っぽくない人ですよねー。」
「そうね、結構変わっているわ。」
「…魔術連鎖におけるドミノ理論――必要なのは」
「ヴァイス?」
「あ、わり。本の誘惑に負けそうだった。」
「あなた相当な魔術馬鹿ね。」
「うっせー。」

程なくしてサーガは大きな瓶を抱えて戻ってきた。魔力のこもった水が入っていてなんだかあまりいい感じのしない予感がする。っていうかまず、サーガが魔力抑制性を持つミスリルの篭手をはめて瓶をもっていること自体怪しい!

「ああ、これは普通の人間は直接触っちゃだめだからな。俺もよっぽどじゃないと触らない。これがなんだかわかるか?ガキんちょ。」

ガキんちょって言ったな!俺のこと!ガキって!サーガなら俺が何年生きてるかくらいわかってるくせに!このやろ・・・
まぁ、いちいち取り合っていたら日が暮れる。仕方なしに俺は瓶をじっと見た。そういえばこれは何かの本に写真がのってた。バンシー族の作る、嘆きの―いや、たしかこれは・・・

「・・・ドゥームメイカー、憂いの瓶だろ?」
「どぉーもれーだー?」
「違うわよ、ドリームレーダーよ。」
「どっちもちがうわ馬鹿やろーう、夢を追ってどーする。これはなァ、本来バンシー族がひたすら感傷に浸るためにつくった魔法の瓶でなぁ、その人間のもっとも弱い部分に入り込むことができる代物なんだよ。使いようによっては弱点を克服することもできる!今からお前たち3人にはこの瓶の水に入ってもらう!」

…はいぃ?!今なんつった、こいつ!
冗談じゃない!憂いの瓶に入ると普通気をおかしくするぞ!何が悲しくて俺はそんなつらい思いをなんかいもしなきゃなんねーんだよ!ヴォローザに孤独体験させられたからもういっぱいいっぱいだっつの!それをどーしてこうも簡単に言うかな・・・この男は。

「サガルマータ到達の過程にはナイトメアフォッグっつぅ、幻影の砂漠のさらに強烈バージョンみたいな地帯があるんだ。そこを抜けるにはかなり強い精神力がいる。そのための対策だ。」
「なるほど・・・わかりました!がんばります!」
「やるしかないわね。ヴァイス!怖気づかないの。」
「お、怖気づいてなんかねぇー!」
「じゃあ・・・グッドラック!」

遠くでサーガの声が聞こえたと思ったら俺たちは瓶の中にぶち込まれた。あまり大きい瓶ではなくても魔術がかかっているから三人とも簡単に吸い込まれていく。プリアラとレオンの悲鳴とが頭の中にこだましながらも、俺の意識はだんだん薄れていった。目の前が暗くなり、音がだんだん遠くなり、一旦あの『無』みたいな感触が頭をよぎったが、それはすぐになくなった。目をあけるとそこは白い空間だった。白い空間、床も白く、壁も白く、天井も白い。ドアも白い。ただ、何もないわけではないのが救いだった。白い壁にはいくつか絵画がかかっていた。俺の憂いにしてはずいぶん明るい、開放的な場所だなとも最初は思ったが、絵画を見ているうちにだんだんそうも楽観視はできなくなってきた。

一つ目の絵画は、緑色のおかっぱ頭をした少女。無邪気そうな笑みを浮かべている。
二つ目の絵画は、黒い短い髪の精悍な顔つきの剣士。無表情だが、どこかやさしそうな雰囲気を帯びている。
三つ目の絵画は、ピンク色の長い髪で背の高い少女。勝ち気な笑みを浮かべている。
四つ目の絵画は、やさしそうな老人の聖職者。白い法衣を纏い、杖をもっている。
五つ目の絵画は、大きな白竜と黒竜の絵だった。上空を飛び回る姿が描かれている。

と、ここまでの五つの絵画に描かれた人物(動物)はみんな俺が見たことのあるものだった。どんな人なのかも知っている。どれだけ大きな竜だったのかもわかる。これは俺の記憶の象徴とでもいうべきか。

そしてその隣を見ると新しく額縁が増えて、それにはレオンとプリアラが描かれていた。あいかわらず能天気な顔をしたレオン、そして見た目だけは可憐なプリアラ。憂いの瓶にいながらにして再度笑いそうになった俺だったが、次の絵画を見て俺は首をかしげた。

七つ目の絵画には、知らない男が描かれていた。鋭い目、茶色い髪でお世辞にも容姿端麗とは決していえない男。まるで骸骨や死神のような風貌で背筋が凍りつきそうな感じがする。その隣に描かれている青い髪の男は彼とは正反対に美しく、深い蒼の瞳は海の水を流し込んだようだった。ずいぶん対極的な二人だ、と俺は最初思った。確かにそのとおりだ。だが、そのほかに気づかなければならないことがあった。この骸骨のような男、どこか俺に似ている・・・?

そのときだった。後ろに何かの気配を感じる。振り向くと、一枚目の絵画に描かれていた少女がそこに立っていた。
手のひらに小さな炎の弾を作り出すとそれを俺めがけて飛ばしてきたので、俺はさっと避け、なんとか体制を整えた。

「何しやがんだよ、―アリア。」
『………………』

アリアは何も言わない。が、なんとなく言いたいことはわかる気がした。
「おまえのせいだ」と、そう聞こえる気がした。
そう自覚したとたんになんとなく心をえぐられるような感覚を覚え、俺はふらついた。この空間では、心をえぐられると本当にダメージを受けるらしい、俺の体からは鮮血が噴出した。

「・・・クソッ、いってぇ・・・・・・!」

口から血を吐き出し、その場にしゃがみこんでアリアを見上げようとしたが、アリアはもういなかった。消えてしまったのだろうか?その考えすら俺にはダメージが当たるらしくて、また俺は血を吐いた。今度は俺の隣に剣士が座っている。うつろな青い瞳がただ俺を見据えている。
『…………罪を、つぐなっているのか』
「グッ…俺、は……償って…生きて…」
『生きることが許されているのか?』
「でも…死ぬことも…」
『自分勝手だな、貴様は。その心臓を貫けばいい。僕が貫いてやろうか。』
「…つらぬ…い…」

だめだ!貫いたら俺は間違いなくここで死ぬ!ここで死んだら、この先やらなければならないことがひとつもできないまま、俺は罪を償えないまま死んじゃうじゃねえか!レオンやプリアラもきっと困る!それに、俺はまだ生きたい!生きてたい!後頭部を強打されたような鈍い痛みを伴って、剣士は消えた。つまり、これから七つの肖像画に苦しめられる、ってわけね。となると今度は…

『アンタを好きでいてくれるやつなんていやしない』
「言ってくれんじゃねーか」
『アンタが誰も信じないから』
「…そんなことは」
『アンタはたくさんの人を殺すために魔術を学んだんだろ』
「……あの時はッ」
『言い訳かィ?』

劈くような高笑いが響き、今度は首を絞められるような苦しさが襲ってきた。桃色の髪の少女が消えると、苦しさも消えたが、血は止まらない。っていうか、治ってはまた抉られ、治っては抉られ・・・そんな感じがする。

『私の白魔術を罪滅ぼしにつかっているそうですね・・・』
「先生・・・」

俺が生涯唯一尊敬する先生、すべてを知る、やさしかった先生。恩師の先生。
それだけでなんとなく心が痛くなる。涙が頬をつたったと思ったらそれは血だった。手を赤い血が染めている。

『白魔術の本質は穢れなきもの。穢れたお前にその資格はない。私をだまして私の知恵を盗んだ貴様は破門だ。』

俺はもうよろよろになった。もともと黒い法衣に身をつつんでいたけど、自分の血のせいでさらにドス黒くなってる気もする。白い部屋はあいかわらず白かった。俺の血はそのしろに吸収されるように消えていく。精神世界だから当たり前といえば当たり前だ。この瓶は、人の憂いを吸い取って更なる憂いを作り出すんだから。
当然、次に現れたのは二匹の竜だった。竜は竜の姿のとき人語を語らない。声帯が違うんだから当然だが。となれば、俺を攻撃する手段はひとつしかない。そう、二匹の竜が同時に襲い掛かってくること。倒せ、ってことだろう。でなきゃこの二匹は消えない。
…まぁ消すことに成功しても、次に待ち構えている試練はさらに辛いものだろうが。
なにせ、次に現れるであろうものはレオンとプリアラ、旅の仲間だから。

「ケッ、こんなのが憂いだってんだら俺も悩みのねーやつなのな!食らいやがれッ!」

黒竜にはおもいっきり光魔法をぶちかましてやった。懇親の魔力をこめた一発、黒竜は消えてしまう。だがこんなに簡単にいくのは精神世界だからこそ。いや、黒竜の精神が不安定だからとでもいうべきか。本当の竜には魔法なんてほぼ効果を発揮しないに等しい。でも本当に困った。白竜は光魔法にかなりつよい。そして弱点は俺と同じ闇。黒竜を消されたことによって怒り狂った白竜はさっきよりも攻撃の手を強めてきた。よけるだけでも俺にはかなりの負担になる。当然新しい傷は増えていくわけで、古い傷はぜんぜん消えないし。だが、白竜の物理的弱点をつけば、倒せるかもしれない!俺はまよわずアクセルの短剣を抜き、白竜の眼球に突き刺した。竜はあっけなく消えた。

「ケッ!どぉーーーだ!俺様に勝てる奴ァいないってね!出直してきやがれ♪・・・なーんても言ってられねーか?なぁ、レオンにプリアラ。」

間髪いれずにレオンとプリアラは俺の背後に現れていた。
二人は何も言わない。憂いの瓶だから俺を追い詰めることしかしないとわかっている。が、やっぱなんとなく気分悪い。

「俺的にも気分わりーけど、いっくぜ~?」

魔力を帯びた光の剣を作り出してレオンに切りかかるとプリアラが後ろで小さく詠唱を始めた。そーかいそーかい、連携プレー発動ってワケね。タイミングがぴったりあってやがるぜ。これはちょっと厄介だ。俺はプリアラの攻撃を避けつつ、レオンの攻撃を避けつつ、攻めなきゃだめなわけね。…ってできるかァアアア!逃げてぇ!超逃げてぇえええ!
そのときだった。最後に残っている絵画が突然光りだし、骸骨みたいな死神みたいな気持ち悪い男と青い髪のカッコいいエルフの男が出てきた。しまった、敵が増えたな、と思ったがなんか俺には仕掛けてこない。それどころかレオンに向かって骸骨っぽい奴がけりをしかけだした。唖然とする俺を尻目に突如現れた二人はどんどん攻撃を仕掛けていく。だが、俺がレオンとプリアラを倒さなければ二人は消えないらしい。俺も立ち上がり、レオンに向かっていった。

「ごめんなレオンッ!許せよ―エクセキューション!」

白く光る魔法弾をレオンにぶちかますと、レオンは消えてくれた。よかった、必要以上に(精神世界とはいえ)仲間をなぶったりはしたくない。

「すんまっせんすんまっせん!マジすんまっせーーーーん!いくぜプリアラ!」

光の剣を大きく振りかぶって斬りかかる―当然プリアラから血がでたりってことはない。ただ消えていった。二人が消えると骸骨とイケメンも消えてしまい、白い空間に俺は一人残された。

「どースか、これで俺は俺を克服したのかな~?っていうか…マジ…疲れた~~~」

そのまま気を失った俺はしばらく眠っていたらしいが、憂いの瓶から吐き出され、無事にサーガの元へ戻ってきたらしい。後から聞いた話、プリアラとレオンは比較的早めに戻ってきたが、俺はかなり遅かったという。屈辱ッ・・・!

「思春期だから悩みが多いんじゃないですか?」
「何その担任教師が保護者に言う説明みたいなフォローはァアア!うっせーよ、お前らみたいな楽天的人生おくってねーんだよ!毎日が修羅場なんだよ!」
「楽天的そうな顔してるのにね。もう、本当に気分のわるい場所だったわ…まぁ、でもマスターをコテンパンにできたから、ちょっとは気が晴れたかしらv」

やっぱプリアラさん怖いッ…。
俺もコテンパンにされないように気をつけねーと。

「お前らさぁ、だけど急がないとまずいぜ?これを見てみな。」

サーガはニヤニヤと感じの悪い笑みを浮かべ、水鏡を重そうに運んできた。たぷたぷと揺れる水面にじわじわとにじむようにして風景がだんだんと映ってきた。プリアラは口元に手を当ててじっくりと見た後つぶやく。

「これ・・・サガルマータ・・・?」
「そうですね、文献で見たとおりです。」
「で、これのどこがヤバイんだよ。」
「いーから黙ってみてろ、ガキんちょ。」

鈍いフェードイン画像みたいに少しずつ鮮明になる景色にある人影が写っている。まだ下層部の密林地帯にいるものの、この影の主ならばすぐに上層部まで上り詰めてしまいそうな気がする―

「ヴォ・・・ヴォローザ?!」
「マスター?!」
「兄上ッ・・・?!うそだ?!なんでドンくさくて面倒くさがりで最低の最低を極めた駄目人間の兄上がここまで!?」

あいかわらず自分の兄弟には毒舌だな、レオンは…
じゃない!ちょっとまて、俺にはヴォローザしか見えないぞ?!

「これはな、自分のもっとも恐れる人物がどこにいるかを教えてくれる水鏡なのさ。つまり~、お前らの天敵がまとめてサガルマータにいる…ってこと……お、おいどーしたよ、ガキんちょにおじょーさん。」

プリアラはかなり邪悪な笑みを浮かべ、俺の顔には青筋が浮かんだ。レオンはわけもわからずににこにこしている。対照的にサーガの顔色はだんだん青くなっていった。そして次の瞬間―

「「お前ーーーーー!わかってるなら最初からそういえ!俺(私)は急いでんだよ!?レオンなんて一刻を争うよ!それなのに憂いの瓶だとか意味わからないのにおしこんでえぇぇぇえ!」」
「わあああ、プリアラもヴァイスも落ち着いてください~!今から急げば間に合い…」
「間に合うかボケッ!」
「ここからサガルマータ地方までどれだけあると思ってるのよ!ここは極南!サガルマータは世界の中心よ!!!」
「でもがんばれば・・・」
「お、おちつけ!ガキんちょ!俺がサガルマータ地方まで送るから!それでいいだろ!」

サーガの慌てふためいた声を聞いて俺とプリアラは攻撃の手を緩め、レオンに「ここでいがみあっても仕方ない」とたしなめられ、攻撃の手を完全に止めた。サーガは半分くらくらしていたようだったが、移動魔法を俺たちにかけてくれ、瞬きする間に俺たちはサガルマータ地方の下層部、密林についていた。
空をあおぐと、晴れた空の中に一点だけ灰色の雷雲、その下層には紫の霧が立ち込めている。それを貫く針のようにサガルマータは天へ続いていた。

俺は震えた。あの、世界の頂上、霊峰サガルマータのその高さに。
天海への階、こんなにも雄大な、そして恐ろしい冒険者の墓場とよばれる、至高の山。

…そのサガルマータにだ!ほぼ下準備なしの!俺たちたった三人が!挑むのかってんだよ!これが不安にならずにいられるか!

やばい、本当に不安すぎて、笑えてくる。

「くくっ・・・くくくくくくく!サガルマータだろうがアラビアータだろうがバンビーナだかしらねーが、バカと煙は高いところに登るモンだぜッ!この!ヴァイス様がいるかぎり俺たちは無敵!無敵!天下無敵なのだァァァ!神の石を見つけたら絶対願ってやる!サガルマータにでっかく『ヴァイス参上』って書いてくださいー!ってなぁぁ!ククククク・・・アーッハッハッハ!かかってこいよオォォ!」
「プリアラー、ヴァイスが壊れていますけど・・・」
「いいのよほっといてあげなさい。思春期なんだから心が乱れることもあるのよ。」
「そうですね。いきましょう。」
「ああッ、何?!今の俺の発言全部声に出てたのッ?!うわ、おいてかないでくれーーーー!」

こうして、俺たちの旅は終盤へ向かって動き出したのだった。


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