「ただいまぁー。ゆうちゃん、帰ったよぉー」
玄関から入って、あたしは靴を脱ぎながら言う。
「お帰り、つき。…って、お前!なんて格好してんだよ!今日はいつもよりひどいぞ!」
あたしのお兄ちゃん、朝川夕陽。今はゆうちゃんと二人暮し。
「あーあ、頭も服も葉っぱと砂まみれじゃん。お前一体幾つだよ」
「二十一歳」
「ウソだろおい、こんな二十一歳見たことねぇよ」
「毎日見てるよ。あたしが二十一歳になってからもう三ヶ月経つもん。ねぇクロさん」
あたしはクロさんに問い掛ける。
カシャッ。
「ほら、クロさんも頷いてるよ」
撮ったのは、ゆうちゃんの顔。
飽きれたような表情だった。
「はいはい。分かったから、風呂はいってこい。その間に晩飯の用意しとくから」
「はぁーい」
ゆうちゃんはほとんど主夫状態。
あたしの仕事のスケジュール管理をしてくれてる。後、たまに日払いのアルバイトとかに行ったりもするけど、それ以外はずっと家に居て、家事をしてくれてる。
「ゆうちゃん、クロさん預かっててー」
「おー」
クロさんをゆうちゃんに押し付けて、あたしはお風呂に向かった。
玄関から入って、あたしは靴を脱ぎながら言う。
「お帰り、つき。…って、お前!なんて格好してんだよ!今日はいつもよりひどいぞ!」
あたしのお兄ちゃん、朝川夕陽。今はゆうちゃんと二人暮し。
「あーあ、頭も服も葉っぱと砂まみれじゃん。お前一体幾つだよ」
「二十一歳」
「ウソだろおい、こんな二十一歳見たことねぇよ」
「毎日見てるよ。あたしが二十一歳になってからもう三ヶ月経つもん。ねぇクロさん」
あたしはクロさんに問い掛ける。
カシャッ。
「ほら、クロさんも頷いてるよ」
撮ったのは、ゆうちゃんの顔。
飽きれたような表情だった。
「はいはい。分かったから、風呂はいってこい。その間に晩飯の用意しとくから」
「はぁーい」
ゆうちゃんはほとんど主夫状態。
あたしの仕事のスケジュール管理をしてくれてる。後、たまに日払いのアルバイトとかに行ったりもするけど、それ以外はずっと家に居て、家事をしてくれてる。
「ゆうちゃん、クロさん預かっててー」
「おー」
クロさんをゆうちゃんに押し付けて、あたしはお風呂に向かった。
・
…いつになったら、と俺は思う。
十歳の時からちっとも変わらない。
無邪気なのも、生意気なのも、大切な物に変な名前を付けるのも、ちっとも変わらない。唯一変わったところといえば、表情が無くなったというくらいだ。
そして厄介なのは、それが『負』への変化ではなく『正』への変化だということ。
「…良し」
出来た。
つきの好物、オムライスの完成。
もうほとんど芸術の域に達したケチャップアートでオムライスに猫の絵を描き、テーブルに並べる。サラダとお茶もつけて後はつきが出て来るのを待つのみだ。
「ただいまぁー。あ、オムライスだっ」
「はいお帰り」
風呂上りにただいまなのも変わらない。
「さ、飯だ飯。お前を待っていたから餓死寸前だ」
「うんっ、食べる。ゆうちゃんと農畜水産業者の皆さんに感謝っ、いただきまーす」
十歳の時からちっとも変わらない。
無邪気なのも、生意気なのも、大切な物に変な名前を付けるのも、ちっとも変わらない。唯一変わったところといえば、表情が無くなったというくらいだ。
そして厄介なのは、それが『負』への変化ではなく『正』への変化だということ。
「…良し」
出来た。
つきの好物、オムライスの完成。
もうほとんど芸術の域に達したケチャップアートでオムライスに猫の絵を描き、テーブルに並べる。サラダとお茶もつけて後はつきが出て来るのを待つのみだ。
「ただいまぁー。あ、オムライスだっ」
「はいお帰り」
風呂上りにただいまなのも変わらない。
「さ、飯だ飯。お前を待っていたから餓死寸前だ」
「うんっ、食べる。ゆうちゃんと農畜水産業者の皆さんに感謝っ、いただきまーす」
――本当に、少しくらい笑って欲しい。
「美味いか?」
「うんっ」
「うんっ」
――本当に美味いならそれらしい顔して欲しい。
「今日写真集のインタビューだったよな、どうだった?」
「…変だった」
「何が?」
サラダを頬張りながら、俺は聞く。
「インタビューの人がね、ずぅーっと笑ってるの。見るからにうろたえてるの。なんだけどね、ずぅーっと笑ってる。おかしいよね?」
…またか。
またこいつはその質問嫌いだのなんだの言ったのか。
「…変だな、それは」
「だよねぇ、どうして皆作り笑いするのかなぁ。変だよ。人ってね、カメラ向けるとすっごく変な顔するの。本当に不自然に笑うんだもん。撮りたくなくなる」
「俺は撮るじゃん」
「ゆうちゃんは作ってないもん。ふわー、ほわーって笑う。ゆうちゃんは笑いの天才だね」
「それはどうも」
「どういたしまして」
やっぱり表情が無い。無理に引き出そうとは思わないけれど、どうしても望んでしまう。
「…変だった」
「何が?」
サラダを頬張りながら、俺は聞く。
「インタビューの人がね、ずぅーっと笑ってるの。見るからにうろたえてるの。なんだけどね、ずぅーっと笑ってる。おかしいよね?」
…またか。
またこいつはその質問嫌いだのなんだの言ったのか。
「…変だな、それは」
「だよねぇ、どうして皆作り笑いするのかなぁ。変だよ。人ってね、カメラ向けるとすっごく変な顔するの。本当に不自然に笑うんだもん。撮りたくなくなる」
「俺は撮るじゃん」
「ゆうちゃんは作ってないもん。ふわー、ほわーって笑う。ゆうちゃんは笑いの天才だね」
「それはどうも」
「どういたしまして」
やっぱり表情が無い。無理に引き出そうとは思わないけれど、どうしても望んでしまう。
笑わない。
泣かない。
怒らない。
泣かない。
怒らない。
ただひたすら、そのままの表情。
「今日はねぇ、公園に行ったんだ」
「ふーん。どうだった?」
「楽しかったよー。ブランコでゆらゆらしながら写真撮ったり、鉄棒でコウモリとかしたり、滑り台から滑ったり、砂場でお城造ったり木登りしたり。あと、芝生の上転がったりもしたの」
「そっか」
「うん」
楽しい、か。そんな顔して本当に楽しかったのか?
「でね、そこから一時間くらい歩いて帰ってきたの」
「バス使えばよかったじゃん」
「だってお金持ってか無いもん。クロさんとチョコレートさえあれば何時間でもお散歩できるよ」
「歩くの好きだもんな」
「うん」
つまらなそうな顔。
…笑わなくても良い。
泣き顔でも良い。
そんなつまらなそうな顔、止めて欲しい。
…無理に引き出そうとは、思わないけれど…。
「今日はねぇ、公園に行ったんだ」
「ふーん。どうだった?」
「楽しかったよー。ブランコでゆらゆらしながら写真撮ったり、鉄棒でコウモリとかしたり、滑り台から滑ったり、砂場でお城造ったり木登りしたり。あと、芝生の上転がったりもしたの」
「そっか」
「うん」
楽しい、か。そんな顔して本当に楽しかったのか?
「でね、そこから一時間くらい歩いて帰ってきたの」
「バス使えばよかったじゃん」
「だってお金持ってか無いもん。クロさんとチョコレートさえあれば何時間でもお散歩できるよ」
「歩くの好きだもんな」
「うん」
つまらなそうな顔。
…笑わなくても良い。
泣き顔でも良い。
そんなつまらなそうな顔、止めて欲しい。
…無理に引き出そうとは、思わないけれど…。
第二章 記憶の扉へ