羽根あり道化師

外伝1章 俺サマと愉快な仲間たちと手下

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vice2rain

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そうそう、そういえばこの旅ではこんなこともあった。
なんてこった、この俺サマが旅の思い出を全て語ったわけではないことを―自分自身で理解していなかったなんて!世界の損失…とまではいかないが、せっかくだから話そうか。

そう、呑気でゆったり、それでいてドタバタしてたあの旅に微塵も影響を及ぼさなかったおもしろい出来事たちを、いま此処で。



外伝1章 俺サマと愉快な仲間たちと手下



優れた魔導師も、そうじゃなくても、たいていの魔法使いは使い魔を従えている。ていうか、最近は魔法が使えない人間もペット感覚で飼い始めているとか何とか…
たいていは主人に忠実で、あまり複雑な感情を持たない。まぁせいぜい喜怒哀楽程度のものらしい。
その点から言って、プリアラは力も強いし、感情も複雑。さらには主人から逃げ出したっていうところが並外れてるっていうかなんというか…。あいつはとんでもない奴だってことがわかってもらえればそれでいい。おっと、こんなこと思ったらぶっ殺されかねないんだけれどね。

今俺たちは荒野を歩いている。木が生えていなくて日陰になる場所もないから太陽の光がビシビシ当たって熱い。吹き抜ける風は熱波のごとく。さらに厳しいのは全く町が見える気配がないっていう現実だ。

「…俺疲れたよ……」
「しっかりしなさいよ!ほら、レオンを見て!鎧なんて着てるから―」
「アハハハハ熱い熱い熱いむしろ痛いーーーーーーー」
「…俺、もうちょっと頑張ってみるよ…」

可愛そうに、人間が一人だけびっくり人間のなかに入り込むとこういう目にあうらしい。…そう、俺もプリアラもほとんどバケモノみたいなものだ。普段は呪うべき称号ではあるが、こういうときには役に立つ。竜の姿をとっていなくても、やっぱり普通の人間よりは格段にタフだし。

「…ん?」

空間が黒くねじれた。やだなぁ、これは魔物が生まれるときのサイン。このかったるいときに魔物と戦わなければならないのは、気が進まない。他の2人も同じらしく、その場からさっさと離れようとしていた。俺もそれに従う。…が

「グオォォォォォオオオオオ!」

「えぇぇぇぇえ?!ちょ、早くない?!生まれるのはやい!このこ安産だ!すんげぇ安産だったアァァァァァ!」
「ふざけてる余裕があるなら戦う準備しなさいよっ!」
「み、見たことのないモンスターですねっ…強そうだ…」

姿はただのデビルに似ているが、ゴブリンのようなうめき声。そして、ゴーレムのような巨大さだ。まったく、こんなのがホイホイ生まれてたまるかよ。仕方なしに俺はゴブリンに向かっていった。まぁ生まれたばかりの魔物なんだ。一発魔力のこもった蹴りでも食らわせれば、簡単に倒れるに違いない。

「おーらよっと…って、へ?」

「てへっ?」
「復唱しないの、レオン!ヴァイス、どうしたのよ?!」

プリアラが魔法弾を当てながら叫んだ。俺の背中を冷や汗が伝う。何度力を入れても無駄だ、この状態を打破できない。むしろ悪化しているのか?

「…足、取れない…ていうか、手も取れないイィィィィ!」
「うぇえ?!じゃあ、僕も攻撃できませんよ!剣が駄目になっちゃいますよ!」
「レオン!お前いつからそんな子になったのっ!俺とお前の剣どっちが大切なのか胸に手を当てて考えろォォォォ!」
「…私がやるしかなさそうねっ……」

プリアラは強力な呪文を唱え始めた。ちょっとまて、そんな呪文つかったら、俺にも当たる!俺にもあたる!どうするんだよ、お前ら仲間をいたわる気持ちはねぇのかアァァァァァ!

そのときだった。モンスターの頭に矢が数本ささり、あっさりとモンスターは消えた。矢には弱い魔法がかけられているようだ。
もしかして、もしかしなくても。こんな魔法をつかうのは…

…まずい。逃げないと。

「おいお前らッ!逃げるぞ!」
「へ?!ヴァイス?!」
「どうしたんですかっ?!」
「ええい、ごちゃごちゃ言わないでついてこーいっ!」

相手はすばやい、逃げ切れるか?否、逃げ泣ければ!でないと、俺が俺が俺がッ!

「みぃーーーーーーーつけたッ!」

悲しい目にあうからだ。

案の定、上から降ってきた物体に俺はどつかれ、地面に平伏した。その様子を見ている二人の目線はまぁ大体想像がつく。

「この子…誰?」
「さぁ…?」

俺の上にのっかっているのは小さい子どもだ。金髪に金色の目。修道服をまとっているが、俺とは違って白い一般的なものだ。そして、あどけない顔にのっかっているモノクルが賢そうな雰囲気をかもし出していた。背中には少し大きい弓矢を背負っている。
なにを隠そう、こいつが俺の恐れている奴なのだ。

「ヴァイス様!す、すいません!俺としたことがヴァイス様をばたんきゅーにさせるとはアァァ!!!!」
「…ベル…ク」
「ベルク?この子の名前ですか?」
「はい、といっても本名はベルセルクといいます。こちらにおられる漆黒の優しき君からいただいた名前です」
「ウガァァァァア!てめぇーーー!その甘ったるい話し方をやめねぇか!」

そう、こいつは甘ったるい。いちいち甘い。その甘さに耐えかねて俺はこいつをゼクスの所においてきたのだ。なのに…なぜ?!

「いやぁ、俺をだれだとおもっているんですかっ!ヴァイス様の居場所ならすぐに判明しますよ~。俺は調べる能力を授かったエレメンティアマウスなんですから!」

エレメンティアマウスとは使い魔の一種だ。広く世間で知れ渡っているもの凄く弱い…スライムのような存在だ。そのベルクに俺が名前を与えたわけだから、当然こいつは俺の使い魔ってことになる。プリアラが訝しげな表情で俺を見た。

「あなたも使い魔を従えていたのね…幻滅」
「ちょっとまてよ、お前のトコのマスターと一緒にするな」
「そうですよ!そこの女ァァ!ヴァイス様に謝れよ!ていうか、ヴァイス様にヘンな気起こしてないだろうなー!そこのヘタレもッ!ヴァイス様の耳引っ張ってみたいとか髪引っ張ってみたいとか思ったりしてないだろうなー!」

小さいくせに他人には生意気なのもこいつの特徴。あぁ、さようなら俺の威厳…

「なによ、あなた鼠らしいわね…?私ヤミネコだから本能がうずくのよねー…?」
「ヴぁ、ヴァイス様~!この女なんなんですかぁッ!」
「プリアラ。本人の言ったとおりヤミネコだ。逆らわないほうが良いぞー。ついでにこの人レオン。ただの…ツッコミ役だ」
「ハ・・・ハハ、ヴァイスが僕のことをどう思っているかよぉくわかったよ」
「なんだとぉぉぉう!おいレオンとやら!この俺をさしおいてヴァイス様につっこむとはいい度胸!お前はこれから俺とヴァイス様の敵だ!敵だ!」
「…あー、レオン、あんまり気にしないでやってくれ」

大丈夫、こいつゲロ弱ですから。敵とかいいながらまともに戦えませんから…と思った瞬間、ベルクが姿を変えた。いつもの子鼠の姿に変えるかと思いきや。俺よりも背の高くなったベルクがそこにいて。知的な表情、端正な顔つきの青年としか言いようのないベルクがたっていた。弓を片手に持っている。今度はあまり違和感がなかった。

「いや、大きくなったって、弓と剣じゃあ弓が不利だろ」
「…はッ!さ、さすがヴァイス様!気づきませんでした!」
「ねぇヴァイス。この子なんとなくイラっとくるんだけれど」
「すんませ…」
「僕もちょっとイラっときました」
「うるさいぞ人類の敵!」
「いつの間にか人類の敵にまでされた!」
「あーもう、ベルク!お前な!孤児院の面倒頼むって言っておいたろ?!帰れ帰れ!おうちに帰れ!オデンとジャンプ買って帰れーーー!」
「…そんな、ヴァイス様~!!駄目ですよ、俺がいないとヴァイス様絶対夜寂しくて泣きますよ!俺がいないとヴァイス様はため息ばっかりついて何事も力がはいらないの知っているんですよ!?」
「ただの妄想だからね!決して事実じゃないからね!このやろ、もういい!いいから俺を傷つけるなアァァァ!」

少し遠くでプリアラとレオンの生暖かい目線が俺をとらえていることを感じながら俺は説得を続け、やっとベルクは去っていった。あいつが帰ったときにはもう、日は沈んでいたけれど。


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