羽根あり道化師

前置きに僕の話など聞いて下さい

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ayu

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前置きに僕の話など聞いて下さい



別に、前からこうだった訳じゃないんだ。
 何かずば抜けて出来ることがある訳でも特殊な能力があるわけでもなく、だからと言って何も出来ない馬鹿でもない。極めて一般的で常識的な人間。人から疎まれることがない代わりに特別慕われることもない。…そういう人間だったはずなんだ、僕は。
 ああ、いや。先に言っておくけど、急に周りが敵だらけになったとか急に人気者になって周囲に人が絶えなくなったとか、そんなのじゃない。そんな周囲の人間を巻き込むようなことは一切起きていない。
 それで、ええと、何が起きたのかというと、その……見えるようになったんだ。
 幽霊とかそんなおどろおどろしいものじゃなくて、…まあ似たようなものかもしれないけれど、信じてもらえないかもしれないけれど、その、見えるんだよ、“妖精”が。この“妖精”というのが正しい表現なのかどうかはちょっと自分でも自信がないんだけど、とにかく見えるんだ。いつもじゃないけど、見える。
 大丈夫。自分がおかしいってことくらいちゃんと分かっている。
こんなことを人前で言ったら思い切り引かれ、最終的にはクスリでもやっているんじゃないかっていう有らぬ噂を立てられるだろうということも容易く想像できる。言うまでもないが、もちろん僕はそんな危ないものに手を出したりはしていない。そしてする気もない。『私は妖精が見えるんです』なんて人前で言うのは怪しい新興宗教団体の教祖か、三歳か四歳くらいの夢を見ながら生きている女の子くらいなものだってことも理解している。大丈夫。その点で言えば、僕は極めて正常だ。
 …うん、まあ、そんな訳でさ、僕自身は至って正常なんだけど、見えてしまうんだよ。だから、その時の話を少ししてみようかなと思う。

 悪いけど、少しだけ付き合ってよ。





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