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羽根あり道化師
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椿

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ayu

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椿




 ころりと、椿の花が落ちた。
 椿の花はどこか気味が悪い。首からころりと落ちるその様は、さながら首を切られた罪人のようだと僕は思う。椿の花は奇麗だ。華やかに花びらを広げるその姿はとても美しい。…だけど、あの真っ赤な花びらはまるで血のようにも見える。椿の赤は鮮やかすぎる。まさか死体が埋まっているのでは、などとは思わないけれど、それでも、その落ちる瞬間は見たくない。生命がぷつりと途絶えるようで、縁起が悪い。
「…不吉だ」
 思わず、僕は呟いた。
「椿…。短命な美の象徴か…」
 酷く、空虚な感じがする。
 儚い、というか…、とにかく不気味だ。
「――そうかしら。あたしは一枚一枚花びらを散らしていく花の方が不気味だと思うのだけど」
 不意に、後ろから聞こえた声に、僕は驚いて振り返った。
 そこにいたのは、椿のような赤の着物を着た女の人。年の頃は二十二、三歳くらいだろうか。綺麗な黒髪をきっちりと結いあげ、小さなかんざしを刺している。よく見ると、襦袢の合わせが逆になっている。間違えた、という感じではない。何故だか、わざとらしさすら感じる。
「こんにちは」
 彼女はにっこりと笑う。僕も少しどもりながら挨拶を返した。
「椿って、他の花みたいに未練がましく張り付いているよりも潔いと思わない?」
 僕に意見を求めるように首を傾ける。
…いや、おそらく『意見』ではなく『同意』を求めているのだろうが。自身たっぷりで、そしてどこか高飛車な物言いに少々カチンときたが、けれどその考えも尤もかもしれないと考えを改める。
「…確かに、そう考えることも出来ると思います。だけど、椿の散り方はどうしても『死』を連想させます」
「『生』と『死』は隣り合っているものよ。別にいいじゃない」
 この世に生を受けたということはこの世で死に至るということ、と彼女は続け、微笑んだ。
「それに、あたしだったら一枚ずつ花びらを落としていくなんて無様な死に方はしたくないもの。
…潔い生き様、死に様。それはむしろ清々しい」
 風が吹いて、チリン…とかんざしが鳴った。
「あたしなら、醜い死は選ばない」
 そう言い切って、スッと歩を進める。

「あたしは、ツバキ」

 通りすがりに呟いて、そのまま角を曲がっていった。

…パサッ。

後ろで、椿の落ちる音がした。





第四章躑躅

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