キャラ選択六回目






もとめ
「この間は、ごめんなさい」

優奈
「そんなことないです! 私……嬉しかったですから」

もとめ
「それでも、私は謝らなければいけないわ」

優奈
「……衣川先輩、貴女が本当に申し訳なく思っているのでしたら、お願いを聴いてもらえませんか?」

もとめ
「私にできることなら」

優奈
「私と、お友達になってください」

もとめ
「……そんなことで、いいの?」

優奈
「はい、それが私の望みです」

もとめ
「相沢さん……。いいえ……優奈、ありがとう……」

優奈
「衣川先輩、あったかい……」



;ほわほわほわーっと夢から覚めるような演出……?

;背景 図書室

優奈
「あったかい……んん……」

机は、つめたーい。

優奈
「……ん?」

図書室の冷房でひんやりとした空気と、硬い机の感触によって、段々と意識が覚醒へと向かっていく。

優奈
「ふあっ!」

……しまった、私ってばまた寝ちゃってたんだ。

最近は夜も暑くて寝苦しかったし、まともに睡眠時間がとれなかったからなあ。

なんて言い訳しても、勉強中に居眠りしてたなんてもし衣川先輩が知ったら。

もとめ
「たるんでるわね」

とか言われるに違いない。……って。

優奈
「え」

机を挟んで反対側の椅子に、衣川先輩が本を広げて座っていた。

優奈
「き、衣川先輩?」

もとめ
「……こんなに冷房が効いているのに、居眠りなんてしたら体調を崩すわ」

優奈
「だったら起こしてくれても」

いいじゃないですかと言おうとして、自分の肩に何かかけられていることにやっと気がついた。

優奈
「ブランケット?」

さっき夢で暖かいって感じたのは、これだったの?

でも一体誰が……って、そんなの、眠る前にはいなくて、今目の前にこうして座っている衣川先輩以外に、いないよね。

優奈
「あの、これかけてくれたんですか?」

もとめ
「……」

優奈
「……ふふっ」

無言のままむすっとしている衣川先輩を見ていると、自然と笑みが漏れる。

もとめ
「何を笑っているの? ……トレスウィリを目指すと言うのなら、健康管理はきちんとなさい。前にも言ったはずよ」

優奈
「はいっ」

私はしっかりと衣川先輩の言葉を受け止め頷いて、再びペンを取って問題集と向き合うことにした。

優奈
「…………」

だけど、どうしても集中出来ない。

取り巻きの人達に囲まれたあの日から、衣川先輩には何度も話を聞こうとした。

しかし、その度に「気安く話しかけないで」とか「雑談している暇はないの」とか突っぱねられてきている。

優奈
(もしかして、いや……もしかしなくても、チャンスだよね)

今日の衣川先輩は、不思議と機嫌はいいみたいだし。

優奈
「あ、あの、衣川先輩」

もとめ
「なにかしら」

優奈
「……その」

もとめ
「だから、何」

あ、ちょっとイラってきてる!

優奈
「ど、どんな本を読んでるんですか?」

うう、私の意気地なし……。

もとめ
「……宮本常一、忘れられた日本人」

優奈
「みやもとつねいち?」

もとめ
「民俗学者よ……」

優奈
「へえ、そうなんですか」

って、別に読んでる本が知りたいわけじゃないのに~!

優奈
「あ、あと、えっと」

もとめ
「…………」

優奈
「衣川先輩って、いつも本を読んでますけど……。普通の勉強はしないんですか?」

じゃなくて~!

あーもう、衣川先輩が普通に会話してくれるなんて滅多にないチャンスなのに!

もとめ
「……私には、あなた達とは違って自由に使える時間が多いから」

優奈
「そ、そっか。先輩は授業を免除されてますもんね」

もとめ
「そうよ」

優奈
「……そうです、よね」

衣川先輩がこんな風に話してくれるなんて本当に珍しい。

いつもなら、最初の質問の時点で「くだらないことを聞くくらいなら勉強しなさい」とか言われるのに。

そう、だからこそのチャンスなのに、私ってばさっきから萎縮してばっかり。

私には、もっと他に訊くべきことがあるはずじゃない……!

もとめ
「相沢さん」

優奈
「は、はいっ!?」

そんな風にうだうだと考えている内に、今度は衣川先輩のほうから話しかけてきた。

もとめ
「…………今度は私から、一つ質問をしてもいいかしら?」

優奈
「ええっ!?」

もとめ
「……嫌ならいいわ」

優奈
「いえっ! 嫌じゃないです! ただ、衣川先輩が私に質問するだなんて、本当に初めてだったから」

そっか。今まで話しを聞いててくれていたのは、衣川先輩にも話したいことがあったからなんだ。

もとめ
「そう、じゃあ訊かせてもらうけど」

優奈
「はい」

衣川先輩は、本を閉じてしっかりとこちらを見ながら、言った。

もとめ
「あなたは、何故トレスウィリを目指すの?」

優奈
「……何故、ですか?」

もとめ
「そうよ。友人関係や娯楽を捨ててまで勉強する理由が、あなたにあるのかと思って……」

優奈
「…………」

それは自分と両親の為。

だけど、両親のことを話して同情を引くような形になるのは……避けたいな。

1 話す 好感度+1
2 話さない

1 選択


でも、隠したりする方が失礼かもしれない。

真っ直ぐにぶつけられた問いに、私も真っ直ぐと衣川先輩を見て答えた。

優奈
「自分がどこまでやるのか知る為と……それと、両親の為です」

もとめ
「ご両親の?」

衣川先輩の表情が、少しだけ動揺したかのように揺らぐ。

優奈
「えっと、私は無理を言ってこの学園に入れてもらったんですけど……。親に迷惑かけっ放しじゃ、いけないと思って」

もとめ
「授業料免除を狙って、ということね」

優奈
「そ、そうです」

多少ぼかしたけれど、親が入院したなんてわざわざ言うことでもないよね。

もとめ
スポーツは差が詰めにくい。更に勉学との両立なんて普通の人間には中々出来るものではない……」

小さく呟いて、衣川先輩は立ち上がる。

もとめ
「合理的な判断ね。……ありがとう、少しはあなたのことが理解できたわ」

優奈
「え、あの」

どうしてそんなことを聞いたんですか?

そう言おうとしたけれど、衣川先輩は既に『さようなら』と残して私に背を向けていた。

もとめ
「そのブランケット、司書の先生に返しておいてくれるかしら」

優奈
「あ、はい……わかりました」

そして、ぱたんと扉が閉じる音。

優奈
「…………」

やっぱり、衣川先輩にも理由はあるんだろう。

……訊けば、教えてくれるのかな。

一層、衣川先輩のことが気になり始めてしまう。そんな日だった。




2 選択



優奈
(やっぱり、人に話すようなことじゃないよね)

優奈
「……ごめんなさい、秘密です」

もとめ
「そう」

衣川先輩は特に残念がることもなく、短く呟く。


もとめ
「人には誰にでも、言いたくないことはある」

優奈
「あ、あの」

もとめ
「気にすることは無いのよ。……ただの私の我侭なのだから」

そして衣川先輩が立ち上がり。

もとめ
「互いに質問をして、必要に応じ互いに答えた。私達はそれだけの関係よ」

そう釘を刺すように言って、踵を返して去っていった。

優奈
「衣川先輩……」

やっぱり、ちゃんと話したほうが良かったのかな。

何だか、大事なものを一つ失ったような気がする。

気のせいで、あってほしいけど……。
最終更新:2008年09月28日 22:13