第5話 鼓動
「ああああーーーーーーっ!!」
私は椅子を吹っ飛ばして、立ち上がった。
「あ」
みんながこっちを見ている。しまった、授業中だ。
二時限目、生物。担当は、
二時限目、生物。担当は、
「喧嘩売ってんのか?」
モララエル先生。
「え、いや、あの……」
彼はこの学校で一番若い教師だ。汚れた白衣と天使の羽がトレードマーク。
性格はともかく顔がいいので、女生徒の人気は高い。
そして、私が一番苦手な先生。
性格はともかく顔がいいので、女生徒の人気は高い。
そして、私が一番苦手な先生。
「……俺が嫌いな人間は、3種類に分類される」
先生は、まっすぐに私を睨んだ。あれは教師の目じゃない。
「1つは大声を出す奴。2つは同じことを繰り返す奴。3つは俺の仕事を邪魔する奴だ」
「は、はい……」
「は、はい……」
先生はゆっくり、黒い革靴を鳴らしながら近づいてくる。
服装はぞんざいなくせに、靴だけはピカピカだ。
服装はぞんざいなくせに、靴だけはピカピカだ。
「お前は同時に全てやってのけた。パーフェクトだ、な?」
「はい……」
「俺の授業を邪魔したのはこれで4回目。貴様が今まで俺に何をしてきたか、順に言ってやろうか?」
「はい……」
「俺の授業を邪魔したのはこれで4回目。貴様が今まで俺に何をしてきたか、順に言ってやろうか?」
私の席の前に来て、止まった。
「い、いいです」
「後1回だ」
「後1回だ」
手の平で机を思いきりぶっ叩く。シャーペンが飛び跳ねた。
「ひっ」
「後1回俺の仕事の邪魔したら、2年後の進学か就職を全力で邪魔してやる」
「後1回俺の仕事の邪魔したら、2年後の進学か就職を全力で邪魔してやる」
そこでチャイムが鳴った。
「今日の授業はここまで。今日やったところは、テストに出すぞ。やらなかったところもテストに出す。
恨むなら、授業を中断させたこの女を恨むことだ」
恨むなら、授業を中断させたこの女を恨むことだ」
それだけ言うと、先生は羽を翻して教室を出て行ってしまった。
「そして時は動き出すッ!!」
斜め後ろの席でDIO様が叫んだ。このクラスの休み時間は、こうして始まる。
「はぁ~あ」
私はこけた椅子を戻すと、ふっと力が抜けて机に突っ伏した。
「みんなの前で、先生ひどいですよね……」
「あれは豆腐さんが悪いですよ」
「あれは豆腐さんが悪いですよ」
神無月さんは、私の肩にポンと手を置いて言った。
彼女はいつもこんな風に私を慰めてくれる。
彼女はいつもこんな風に私を慰めてくれる。
「エッちゃん、卒業したら一緒に角材持ってお礼参り行きましょうね」
「行きません」
「行きません」
少しノリが悪いけれど。
「で、あれは何だったんですか?」
「へ?」
「あのあーっていうの」
「ああああーーーーーーっ!!」
「へ?」
「あのあーっていうの」
「ああああーーーーーーっ!!」
私は椅子を吹っ飛ばして、立ち上がった。
「あ」
みんながこっちを見ている。
「デジャヴかしら?」
「しまった」
「なあ豆腐」
「しまった」
「なあ豆腐」
いつの間にか、隣に社長が立っていた。
社長はこのクラスの委員長。趣味のいい銀縁の眼鏡をかけている。
社長はこのクラスの委員長。趣味のいい銀縁の眼鏡をかけている。
「流行ってんのか?そうやって馬鹿声あげるのが」
「はい、私は3年早い女ですよねー」
「ば~っかじゃねーの?」
「はい、私は3年早い女ですよねー」
「ば~っかじゃねーの?」
そう言って、社長は男の子たちのグループに戻って行った。
「……」
私は再び椅子を元に戻して座った。
「なんですかあれ」
「それよりも豆腐さん、あのあーって」
「あ!」
「ストップ」
「それよりも豆腐さん、あのあーって」
「あ!」
「ストップ」
神無月さんは肩に置いた手で、腰を浮かした私をぐっと押しとどめた。
気付いたのは、授業中に外腿の付け根に冷たさを感じたとき。
ハンカチのだし汁が、ポケットに染みたのだ。スカートが紺色で本当に良かった。
ハンカチのだし汁が、ポケットに染みたのだ。スカートが紺色で本当に良かった。
「お昼休みに返せばいいんじゃないでしょうか」
「これをですか?あ、凄く家庭的なにおいを発しています!」
「これをですか?あ、凄く家庭的なにおいを発しています!」
丸めたハンカチは、ビニール袋に入って鞄の底に眠っているタイと同じ、いい色に染まっている。
「お醤油ベースの汚れなら、意外と簡単に落ちますよ。休み時間に手洗い石鹸で洗えば大丈夫です」
「そ、そうなんですか?ありがとうエッちゃん!」
「そ、そうなんですか?ありがとうエッちゃん!」
授業開始のチャイムが鳴った。
「ザ・ワールド!」
DIO様が叫ぶ。
もえニラ君にハンカチを返すのは、お昼休み。
あと2つ授業があるけれど、そんなのすぐに終わってしまう。
あと2つ授業があるけれど、そんなのすぐに終わってしまう。
――しまう?
私は、もえニラ君に会いたくないのだろうか。
別に彼のことを嫌ってはいない。
むしろ今すぐ会いたいくらいに、彼のことを好いていると思う。
別に彼のことを嫌ってはいない。
むしろ今すぐ会いたいくらいに、彼のことを好いていると思う。
――会いたい?
さっきとは逆。
中学の時にも、いいなと思う男の子ぐらいはいた。でも、こんなことは無かったはずだ。
自分の事なのに、その辺りがどうもよく分からない。
中学の時にも、いいなと思う男の子ぐらいはいた。でも、こんなことは無かったはずだ。
自分の事なのに、その辺りがどうもよく分からない。
隣で神無月さんがクスリと笑った。