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VIPロックマンまとめ

ロックマンX -6-

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
107 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/10(火) 20:54:18.78 ID:oJ2DFEdA0
磯香る、昼時。
旅船、帆船、商船、貨物船、そして様々人々とレプリロイドが集まる場所――港。
イーグリードの最期の意思であった脱出ポッドであった二人は、砂漠に落下。
怪我を負うゼロに肩を貸し、エックスは近くの港まで歩き進んだ。

大陸と大陸を大きな海が横断する。青い空を、海鳥が猫の様な鳴き声で舞っていた。
カメリーオとマンドリラーとの戦闘。
その後のデスログマーからの落下で、ハンター組織からかなり離れた位置に身を置く事になってしまった。
本部への帰還、そして自分の腕に抱かれる少女の治療をするには、船でこの海を渡るしかない。

「もうちょっと我慢してね? 出航の手続きはしたから、直ぐに本部に戻れるよ」
エックスは落下した時から、時折すすり泣くゼロに優しく声をかけた。
「あぁ………悪いな」
肩に助けられながら、港の海沿いを歩く。涙をぬぐう少女の声は、まだ悲しみに掠れていた。

「イーグリードの事は……」
「良いんだ……もう、大丈夫。あいつもオレも、もう大丈夫だ………」
「そう………」
それ以上は追求せず、エックスはもう一つの手に握られる紙片を見た。
旅船の添乗が出来るチケットだ。

「どこかで食事でもしようか? 一応、まだ時間はあるから」
港にある商店街の入り口を指しながら、尋ねる。様々な店舗が見え、人通りも多い。
「いや……。いや、そうだな。エックスに任せるよ」
「そっ。じゃあ、行こう」

二人は、小さいがお洒落なお店の前に立つ。レプリロイド専用の飲食店だ。
「素敵なお店……。ここで良いかな」
そう言って、中へと入った。
従業員に案内され、窓際の席に座る。水が運ばれ、メニューが渡され、やっとエックス達は落ち着いた。


111 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/10(火) 20:55:12.87 ID:oJ2DFEdA0
「ふぅ……疲れたね。何が食べたい? 僕が奢るよ」
「金、持ってんのかよ?」
メニューを見るエックスに、ゼロは気分が若干晴れたのか意地悪な笑みを浮かべた。
まだ赤い目をする少女に、エックスもつられて笑みを浮かべた。

「意外だ。悪かないな、これ」
「そうだね」
テーブルに出てきた海鮮料理をつつく二人。
海が見えるこの席での食事は、とても気持ちが良かった。
港町を訪れる多くの人間とレプリロイド、その騒喧を感じさせない程、この店は静寂に包まれている。

「お冷のお代わりは――」
弾けるガラス片が赤と青に降りかかり、嫌な切断音。同時に、真紅の液体がばら撒かれた。
一時の静寂は、水差しを持ってきたウェイトレスのレプリロイドの首が飛んだ事によって、打ち破られる。

「………伏せろ!!」
オイルで真っ赤になったゼロが、エックスを椅子から押し倒す。怪我をした部分が床にぶつかり、顔を歪めるゼロ。
遅れて、二人の席が三つに両断された。
赤き少女は、何が、と声を出すエックスを突き飛ばす。
今度は、座席付近にある物全てがバラバラに解体された。
机、椅子、料理、メニュー、そしてウェイトレスの死体が、分断され宙を舞う。

「クワンガーの変態か……!!」
ゼロが呻きを上げ、悔しそうに手の中にあったフォークを握りつぶす。
そして、破壊された窓から回転する何かが侵入した。黒いシルエットは、早すぎて何なのか視認できない。

「エックス! 店から出ろ!!」
乱入してきた何かが、店内を蹂躙する。
一連を見て、呆然とする店長らしきレプリロイドのボディをズタズタにし、カウンターにばら撒く。
その横の従業員のボディも後を追い、木の床を真っ赤に汚した。


128 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/10(火) 21:25:18.58 ID:oJ2DFEdA0
凶器は回転数を上げ、店内にある命ある物、そうでない物を平等に切り裂いていく。
もう生きているレプリロイドは、伏せる二人しか居ない。

「はやく行け!!」
ゼロは右手をバスターにし、外に向け何度か射撃する。無論、暗殺者に当たるはずが無い。
エックスは治療を受けていないゼロの身体を案じるが、少女の意思の強い眼を見て、諦める。

天井の照明が全て、粉々にされる。このまま、店ごと破壊するのではないかと思う程の勢いだ。
こちらも同じく右腕をバスターにし、窓に向け何度か射撃しながら、外へと飛び出した。

「どこのどいつか、知りませんけど……!」
エックスが怒りに身を震わせながら、立ち上がる。暗殺者は見つからない。
漆黒の凶器も示し合わせたように破壊を止め、店外から出てきた。

「不不不………」
いったい何時現れたのか、怒れる青きレプリロイドに黒い影が立っていた。
回転する武器は、その影の手に収められる。意外にも白く細い腕だった。
「あなたは……!」
トレンチコートを着込む影。危うい程の白い肌、肩ほどまである銀髪が海風に揺れた。
申し訳程度の大きさのサングラスに覆われた、血の様に真っ赤な瞳がエックスを見つめる。

「しばし待て」
銀髪の少女は、近づき詰問しようとするエックスに待ったをかけると、飛び引く。コートの端がバタバタと揺れた。
手近にある壁を見つけると、そこに半身を寄せ、半分隠れた顔でエックスを見つめる。
「じー………。良いぞ。あ、おい近づくな。接近するのは不許可だ」
エックスはその行為の意味が解らないが、近づくのをやめ、瞳で少女に意思を訴えた。
少女がそれに応え、頷く。


140 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/10(火) 21:48:32.86 ID:oJ2DFEdA0
「ご挨拶しよう。クワガタ型のレプリロイド、イレギュラーハンター組織、第17部隊の時空の斬鉄鬼のブーメル・クワンガーとは私の事。
不不不……気分屋で暗殺が何より大好きで、次に好きなのが監視。人からマイペースと言われるが、よく解らない。
家族は、カブトムシの弟が一人居るのだ。あぁ、エックス君、はじめまして。君と会うのは初めてだよね? 確か、私の記憶のよるとそうだ。
んー、食堂で見かけた事があるが、それは出会ったとは言わないから、おそらく初めまして良いはずだ。どうぞ、よろしく」
長々と挨拶するクワンガー。エックスはゼロの言葉を思い出した。

「何が目的ですか」
バスターを向け、相手の出方を待つ。
性格はよく解らないが、このレプリロイドの腕だけは確かである。
握られた凶器を見たが、どうやらブーメランのように研がれたクワガタの顎らしい。
「挨拶だ。挨拶と言う言葉を知らないか? この言葉は――」
じー、と見つめ続けるクワンガーに、さしものエックスも苛立った。

「………知っています!! 何が目的ですか!」
「私は、先の戦いから君を監視している。そうボスに命じられたからだ」
大声に小首を傾げるクワンガーは、言葉を遮られても怒りもせず、丁寧に答えた。
監視、という言葉にエックスは驚愕した。戦いとは、いつからの事なのだろうか。

「エックス君……君は強くならなければならないらしい。そうボスが仰った」
髪をかき上げながら、クワンガーが続ける。

「成長する君を監視し、報告するのが我が使命。あ、監視は大好きなんだ。あぁ、言ったか……」
海風が心地よく吹く。磯の匂いが、それに乗ってやってきた。遠くで、波打つ音も聞こえた。
「そして君の成長は、ちょっと遅い。ボスは困っている。で、あるため――」
長々と喋る少女。ルビーのようなクワンガーの目が細められる。
クスリと笑い、握られた『ブーメランカッター』を楽しげに揺らした。


152 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/10(火) 22:06:38.89 ID:oJ2DFEdA0
「ちょっと、君の成長に付き合おう。楽しいぞ。とってもとっても。あぁ、私自身が楽しいんだが。君はどうだろうか?」
「…………っ!」
素早く反応して、バスターを再度向ける。クワンガーからは静かな殺気が溢れた。
「先に謝っておくが、私は厳しい。怪我をしたら、すまない。謝罪する。あぁ、どのくらい厳しいかと言うと――死ぬぐらいだろうか?」

なんの理由で横に跳んだのか――。
エックス自身が解らなかったが、クワンガーの腕が振るわれたと思うと、今立っていた石畳が吹き飛んだ。
石の床は何かに縦へと切り裂かれている。

青ざめるエックスに、追い討ちの強襲。空を切り裂く風切り音。
そして、手の甲が斜めに薙がれた。少量のオイルが吹く。
「あぁ……すまない。怪我をさせたな。でも、私は楽しい。あぁ、困ったな。いや、私は困っていないんだが」
クワンガーは場所を変えていない。
そして、すでにブーメランカッターが握られていた。視認できない速さ。

「あぁ……すまない。一つ、間違えて言った事がる。私の家族だが、弟と言ったが妹だ。なにぶん、気性の荒い奴でね」
そのレプリロイドに失礼な事を言いながら、腕が振るわれ、不可視の凶器が放たれる。
右肩に激痛が走り、エックスは地面へと倒れた。噴出す赤が、自身と地を汚す。
「不不不……。また、すまない。不不不……」
「いたぁ…………。…………あの、一つ良いですか?」
「許可する」
もう既にに凶器が握られている腕を揺らめかしながら、クワンガーが楽しそうに頷いた。

「第17部隊って言いましたよね……僕もそうなんですけど。……えぇ、と……任務で見た事が無いんですが」
肩を抑えながら、疑問を口にする。
クワンガーは、可愛く小首を傾げ、あぁと呟いた。

「私が好きなのは監視と、言ったろう。――‘いつも居たよ’」
「……………っ!!」
クスリと笑い、クワンガーが口をすぼめる。エックスは怖気が走った。


181 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/10(火) 22:36:55.57 ID:oJ2DFEdA0
「不不不……嬉しいのかね? そんなに頬を赤らめて」
石畳が無差別に解体される。クワンガー自体の機嫌が、この武器に影響するようだ。
「いいえ、青ざめてます。……赤いのは、血ですよ」
乱立する電柱の一つが両断され、落下する半分が空中で分解。地面に弾かれるのは、コンクリートの破片だ。
「ふふん………照れ隠しとは。なかなかの使い手だね」
飲食店に横付けされていた自動車が舞う。赤い乗用車はジグソーパズルのようにばら撒かれた。
「斬!!」
付近の破壊活動は、クワンガーの掛け声と共に、対象をエックスに移行。膝をつくレプリロイドに、くの字の凶器が迫る。

エックスはどこかに跳ぶしかない。
地に飛び込むエックスの脇腹が、薄く切り裂かれ、無様な格好で叩きつけられた。
「手加減。不不不……」
クワンガーは、微笑み、ブーメランが握られていない手で口付けを送った。
「そんなに……楽しいです……か!!」
倒れながら、エックスはバスターを放つ。砕ける建造物の壁。しかし、少女の影はなかった。
「楽しいねぇ。この武器はね、エックス君。監視しながら、暗殺できる素晴らしい兵器なんだよ」
背中が踏みにじられる。いつの間にか接近されたクワンガーに背後を取られていた。
ブーメランを握る手が、目前で左右に振るわれる。
笑いながら説明する銀髪の少女は、玩具を見せびらかせる子供のだった。

「あぁ、そんな武器はどこにでもあるんだが、これほど機能美を追求した物は無いだろ? だから、これは好きなんだ」
「そう………ですか……」
「だからね、君にもこれの素晴らしさを――おっと」
身体の輪郭が影のように揺らめくクワンガー。黄色いエネルギーが、それを通過する。

「エックスに触るな……変態。この、サイコ野郎!!」
奇襲したのは、身体を引きずりながら、店外にでたゼロだった。
バスターを放った体勢のまま、いつのまにか飲食店の向かいにある理髪店の屋上に立っている暗殺者に叫ぶ。
「変態? それは君の事か?」
クワガタのレプリロイドはおかしそうに目を揺らめかし、ボディを布きれで巻くゼロを笑った。


192 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/10(火) 23:00:05.59 ID:oJ2DFEdA0
「邪魔をしないでもらおう」
またもクワンガーの腕が振るわれる。
一瞬にして、ゼロのボディを切り刻み、少女を路上で全裸にする。恐るべき事に、傷は一つも負わせていなかった。
ボディとメット、そして布生地は地面に散らばり、機械仕掛けの猫の耳だけが金色の髪に残った。
「死ね」
だが、それも短い死の宣告まで。呼応した凶器が、ゼロの首元に回転しながら迫る。

甲高い激突音――黒い影は弾かれた。
「そうこなくてはならない…………不不不」
陰鬱な笑いは、立ち上がる青に向けられる。エックスの右腕の銃口は、エネルギーの残滓で煙を出していた。
「相手は、僕。そうでしょう?」
「エックス!?」
血に濡れるエックスは、挑発的に暗殺者に笑って見せた。

「不不不不――そうだ……!!」
漆黒が迫った。
横転する青。そして、ダッシュ。
クワンガーの出現しそうな場所に、出鱈目にバスターを放ちながら、エックスは人通りの無い路地を駆ける。
走る後ろで、建造物と建造物で作られた通路の壁が切り裂かれていく。

「不不不。その戦法は不許可だ」
少女の声がするが、どこに居るかは解らない。
確認しようと立ち止まれば、今後ろで分解されたゴミ箱と同じようになるだろう。
後方に振り向かず射撃。テラスがある屋上の一部を破壊するが、手応えは無い。
駆ける。駆ける。
前方に居た犬型のメカニロイドが寸刻みにされるが、目をつぶり感情を押し殺した。

「不不不。どこに行こうというのだ?」
[12番 港口]と書かれた看板が吹き飛ぶ。破片が雨のように降ってきた。


205 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/10(火) 23:26:26.98 ID:oJ2DFEdA0
「行き止まりだ……不不不」
その言葉を皮切りに、狭き道は終わりを告げる。
目の前に広がったのは、雲の無い大きな空と、どこまでも大きな海だ。
海鳥が能天気に鳴き声を上げ、気持ちよさそうに空を飛ぶ。――エックスも空を飛びたくなった。

「人が居ない場所を選んだのかな? 優しい子だ。不不不、殺しがいがあるよ」
最後になるかもしれない自然の光景を目に焼付け、ゆっくりと後ろを振り向く。
何処かでトレンチコートを脱いだのか、奇妙な衣装を纏った少女が現れた。
網目のシャツを下に、上下共に黒装束。そのせいかクワンガーの真っ白な肌が目立った。

「ゼロを救ったのも、なかなか良い。私のブーメランカッターを弾くとはな」
クワンガーの口元にも布が被せられている。追い詰めた暗殺者、ブーメル・クワンガーの目が笑う。
「力んでいるねぇ……不不不。恐怖を感じているかい? 体験した事の無い、暗闇の恐怖を」
両手を広げ、自分から繰り出す恐怖を見せる。純粋な狂気がここにはあった。
エックスは、冷や汗で頬を濡らしながら、姿勢を低くする。

「安心したまえ」
だが、呆気なく、クワンガーはブーメランを収めた。
「言ったろう? ちょっと、君の成長に付き合おう、と。殺しなんか不許可さ――ここではね」
クワンガーの姿がブレたかと思うと、顎が撫でられる。少女の声は耳元から聞こえた。
「タワーで待ってる。なぁに、君はくるさ。望んでも、望まなくても、ね」
軽く頬に口付けし、意味ありげに笑った。エックスは少女の速さに、そして威圧に微動だに出来ない。

「待ってるよ、エックス君。――旅路で、タコに気を付けなければ不許可だよ? 不不不不不不不」
最後に頭を撫でられ、クワンガーは硬直する少年から離れた。
「では、ドロン」
そして、消える。


エックスは、10分近くかけてやっとゼロの元に脚を進める事が出来た。


244 名前:Irregular's Elegy[] 投稿日:2006/10/11(水) 00:34:50.43 ID:33MOrt2O0
「変態は……?」
閉店に追い込まれた飲食店に、裸体をカーテンで巻いて地べたに座るゼロが居た。
白いカーテンはとこどころ血を吸い、痛々しい。
「勝手にしかけて、勝手に消えたよ。――大丈夫?」
「本調子だったら、倒せた………だからって、なんだよなんだよ、オレだけ追いてって……」
白い布から覗く脚をそわそわさせながら、そっぽを向き膨れる少女。
そんな態度に、エックスは取り成す様に優しく笑いかけた。

「ごめんね。………でも、ゼロは怪我してるし。早く船に乗って、本部に戻ろ?」
出航場所の方向を親指で示し、うずくまる少女の腕を取る。
戦闘のせいで、旅船の時間が迫っていた。無人の花屋に掛けられた時計の短針が、3を指し示している。
「…………アイスが食べたいぞ。………チョ、チョコレートの……」
猫の耳を落ち着きなく動かしながら、ゼロはボソリと言った。赤らめる顔が、エックスの笑いを更に誘う。
「はいはい。その前に服も買いに行こうね」
エックスは、ゼロの腕を静かに引き、石畳の路地を歩んだ。


「おいし………」
「そう? そりゃ、良かった」
港の船着場に佇む二人。エックスは旅行のパンフレットを、ゼロは濃茶色の氷菓子を手にしてた。
買ってもらった、石段に座るキツネがプリントされた、肩を出すスポーツシャツを着込む少女はアイスの味に満足そうだ。
シャツのロゴにO・イナリーと表示されているがエックスは、知らないブランドだ、との感想しか無かった。
短いジーンズから出るゼロの足が、波の音と合わせ揺れる。

「おい、あれハンターの船じゃねぇか?」
「ほんとだ。というか、僕たちかなりの大所帯で出航するんだね」
ゼロの言葉で向けられるエックスの視線の先には、海に揺らめく12隻の船が並んで、搭乗者と出航の合図を待っている。
「イレギュラーの事件もあるしね。もしかしたら、その関係かも」
「だろうな」
チョコレートアイスは、短い応答と共に嘗め尽くされる。ゼロは惜しげに、コーンを包んでいた紙包みをゴミ箱に捨てた。


488 名前:Irregular`s Elegy[] 投稿日:2006/10/11(水) 21:04:05.09 ID:33MOrt2O0
「まもなく出航いたします。ご搭乗なされる方は、ブリッジを使用してください」
しばらく静かに待機していた二人と他の客達に、空と同じ薄青い制服を着用したレプリロイドの声がかけられた。
巨大な客船から鉄のタラップが迫り出され、船着場と船を接続する。

巨大な図体を誇る船なのだが、エックス達の他の客は少ない。
イレギュラー達が引き起こす事件の事も相まって、旅行にいくような物好きな人間もレプリロイドも少ないのだろう。
「だってさ。行こうか?」
エックスは自分の猫の耳を弄り、退屈を凌いでいたゼロを促し、鉄の橋に足を載せた。


「――こんなに、のんびりして良いのかなぁ」
赤い夕日が、旅船のデッキを同じ色に染める。
ドリンクのカウンターの前方に、大型のプールを備えた豪華な客船。
物好きな客を内包した船。しかし、流石に無防備に泳ぐ人物は居なく。デッキに居るのは赤と青のレプリロイドだけだった。
エックスはカウンターバーの机で書類と睨みあい、ゼロはその足元でタオルを下に寝転んでいた。

「良いんじゃない? たまには、ね」
数枚の薄紙にペンを走らせたまま、エックスが答えた。もう一つの手の中で、グラスに入った薄紫色の液体が揺れる。
エックスはいつもの青いボディのままだが、ゼロは貸し出された競泳用の水着を着ていた。白い肌と、薄い胸を紺色の水着が包む。

「………悪いな、お前ばっかりそんな作業させて」
夕日に顔を朱に彩られたゼロが、申し訳なさそうに答える。手に持つ琥珀色のドリンクが、少女の心情と同じく揺れた。
「戦闘の報告書――オレも書くべきなのにな………」

エックスは一瞬返答に困り、すぐに微笑んで、耳の付く金色の髪をクシャクシャと撫で上げた。
「いいよ。書きたくないよね、あんなの。――僕なら大丈夫だから」
猫の様に目を細め、はっと気付き、両腕を振り上げるゼロ。エックスは笑みを強くし、更に頭を撫でた。

――ドチラかとイエバ慣れタんじゃない? ナカまの死にサ


490 名前:Irregular`s Elegy[] 投稿日:2006/10/11(水) 21:08:33.15 ID:33MOrt2O0
「本部にはどれぐらい掛かるんだ? 海路を使った事無いから、解んないぞ」
ゼロは琥珀色の液体を喉にながしながら、空を見上げた。赤い空も青と同じく、どこまでも遠い。

質問を投げかけられたエックスは、呆と何処か虚空を見つめている。いや、瞳には何も映ってはいなかった。
「――エックス?」
眉間に皺を寄せ、少年の名を呼んだ。疑念に耳が小刻みに動く。

「………………二日間ぐらいかな。一泊はここでしなきゃ、ならないね」
瞳に意思が戻り、エックスは何でもないかのように答えた。特に感情の変化は感じられない。
ゼロはふーんと呟き、エックスは疲れたのではないか、と思考を纏めて、切り上げた。

「そうか。揺れる船で寝れるかなー? 寝れなかったら、お前の部屋に行くからな」
けけけ、と品の無い笑い声を出し、プールに向かう。もう一泳ぎするつもりの様だ。
「はいはい。待ってますよ」
その背に微笑んだエックスの顔に、もう蔭は無い。



『そうか。イーグリードと………大変だったな、エックス』
「いえ……」
船内に幾つもある部屋。その一つに振り分けられた、エックス。

外観が豪華な客船は、客室も煌びやかで、高いと思われる家具が惜しげもなく配置されている。
その一つの装飾が美しいベッドに腰掛け、エックスはライト博士と連絡を取っていた。
丸型の窓から見えるのは漆黒。夜の十時を回っていた。

『報告が一つ。君から受けた調査の事だ』
ランプが幾重にも重なった照明が、部屋を明るくしている。だが、暗いエックスの表情を明るくするには力及ばなかった。
「――えぇ、お願いします」
広い部屋に、エックスの応答が吸い込まれていく。


492 名前:Irregular`s Elegy[] 投稿日:2006/10/11(水) 21:11:34.16 ID:33MOrt2O0
『やはり、情報部はおかしい。極地部隊の事、そして訓練Σの単語で調べたが、何もでなかった』
報告するライトの声は、疑念と困惑に満ちていた。
それに感染し、エックスも首を傾げながら質問する。

「………何も出ないのが、何故、情報部がおかしいと?」
『情報部が何も出さん、――アイシー・ペンギーゴが嘘をついたと思うか?』
そんな筈が無いと、青いメットが横に振られる。エックスの胸は、ペンギーゴの名に引き裂かれそうになった。
悲しき宿命を望まざるして、負わされた少女。何処からかの理不尽な力が、あの戦場には働いていた。

「いいえ」
ぐるぐる回る思考を止め、言葉にしてそれを力強く否定する。

『私の権限で、独自に調査はしている………ならば一つぐらい何か出てもおかしくないだろう?』
「チップについても、何のデータも回してこないとか」

『あぁ。いったい何を考えてるのか……。とにかく何かを隠しているのは確かだ』
ハンター組織。どこの組織でも一枚岩では、無いのか。
同じく『岩』という単語を名に持つ少年は、深くため息を吐いた。

「イレギュラー事件に関係があるのでしょうか?」
『さぁ、それよりも厄介な事かもしれないし、実は部署同士での領域争いだけかもしれない』
どちらにしても許されざる事であろう。――ペンギーゴ、イーグリート。
エックスは死んだ者の無念を晴らすと、深く誓った。

「引き続き、お願いします。――僕はイレギュラーを何とかするので……」
その言葉は、エックスが持つ『何か』への憎悪に濡れ、発せられた。
『あ、あぁ……。エックス、私は人間だ。――………本部と同じく、極地部隊の隊員と同じく、人間だ』
逆にライトは悲哀を滲ませ、静かに怒りを溜めるエックスに告げる。


496 名前:Irregular`s Elegy[] 投稿日:2006/10/11(水) 21:30:03.93 ID:33MOrt2O0
「はい? ………博士?」
思慮の見えない発言に、少年は怒りを忘れて元に戻り、困惑する
『忘れないでくれ…………。人間。人間だが、私は君の味方だよ。それじゃ、おやすみ』
プツリと切れる無線。
音声通信だが、最後にライトは微笑んだような気がした。

「………………………………おやすみなさい」
エックスは呟き、ベッドに倒れこんだ。博士を傷つけたのでは、という後悔と一緒に。

「おはぁよう………ふぁあう」
「おはようさん。お前、何で鍵閉めてんだよ? 部屋に入れなかったじゃねぇか、畜生」
耳を逆立てながら、両腕を挙げ抗議するゼロに、エックスは頭痛を覚えた。
「………………来たのか」

朝特有の涼しい風が、磯と一緒に吹いてくる。
ゼロはデッキがお気に入りなのか、朝食のサンドイッチを齧りながら、海を見る。
また泳ぎたいのか、彼女はまたも水着に着替えていた。
「今日で旅も終わりだな。なかなか楽しかったな――仕事抜きで来たかったよ」
「同感だね」
手すりに寄りかかりながら、エックスも苦笑して同じ感想を述べた。

「ねぇ、ゼロ…………身体の方は大丈夫? 辛いんじゃない?」
昨日から、正確に言えば三日前から無理をする少女を心配する。
海を渡るのは、本部に戻るだけではなく、ゼロの治療も兼ねているのだ。

「ボディが砕けただけだよ。確かに身体も痛いが、我慢できなくは無い」
自分の身体を見下ろしながら、答える。
「あぁ、大変だ。胸が小さくなったような気がするぜ? 確認してくれ」
「―――――――――嗚呼」
直ぐにふざける相棒に、エックスは天を仰ぎ見た。空は今日も晴れ、綺麗な青が澄み渡る。

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