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VIPロックマンまとめ
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VIPロックマンまとめ

ロックマンX -9-

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だれでも歓迎! 編集
3 :Irregular’s Elegy:2006/10/21(土) 17:34:36

「エックス………」
廊下に出ると、待ち受けたのは、白衣を着た小柄な少女だった。
腕を組み、思案顔で壁にもたれかかっていた。
少年の良き理解者――Dr.ライトだ。

「ライト博士……こうやって、顔を合わせるのは、結構久しぶりですね」
どこか無理をする微笑をし、エックスは少女に近づく。
ライトのは疲労と、他の感情か何かで、幼い顔立ちはやつれていた。
自分の顔も同じなんだろうな、と思いながら、少女の隣に立つ。

「あぁ、久しぶりだ。4日……いや、5日ぶりぐらいか」
顎を引きながら、ライトが頷く。
高速道路の事件。そして、イレギュラー事件発覚から、今までの期間はそう長くは無い。

「長く感じるもんだな、一週間も経っていないのか」
年不相応な言葉を紡ぎながら、少女は苦笑する。つられて、エックスも苦い笑みを浮かべた。

「いろいろ、ありましたから………」
その声には、少年の心には、いったいどれほどの感情が篭められているのか。少女には計り知れない。
どんな言葉をかければ良いのだろう。そう自問したが、答えは易々と出ない。

「――そうだな……」
結局、ライトは頷く事しかできなかった。

「また、どこかに飛ぶんだろ? 折角だから、食堂で一緒に食事でもするか」
せめて、その重みを軽くしようと思ったのだろう。エックスを食事に誘う。
少年は蔭のある顔を、頷き、薄く笑う事によって振り払った。


4 :Irregular’s Elegy :2006/10/21(土) 17:36:09
気持ちを軽くさせようとしたライトだが、会話は結局この事件の事になる。

「シグマの事は聞いたんだな…………。ケイン博士と話していたという事は」
ご飯と焼き魚――普通の昼食セットを前に、白衣の少女が口を開いた。
きちんと手を合わせて、食事に取り掛かる。

「君が帰還する前に、私も話をしたんだ。――正直、おどろいたよ」
エックスにも同じ物が配膳され、焼かれた魚に箸を突き入れた。

「まさか、本部があんな事を………」
信じられない、と少女は続ける。
ライトの顔色を伺いながら、エックスは黙って箸を進めた。大きな後悔を顔に映した老人を思い出す。

「シグマが討伐後、受けたカウンセラーの情報を見た」
コップに注がれた水を喉に傾け、小さな口を潤す。
雪のように白い髪をかき上げながら、ライトは呟いた。

「―――徐々に壊れていると、私は推測している。…………結果を見て、そう印象を受けた」
手を止め、顔を料理ではなくエックスに向ける。
緑の瞳は黒の瞳とぶつかった。

「レプリロイドのAIは、人間と同じく、一度バグが起きると致命的な所まで〝堕ちる〟事例がある」
顎をさすり、物憂げな表情を作るライト。
エックスは言葉を介せず、黙って頷いた。

「複雑な機構で〝作られた〟心は、その造型故に、ドミノ倒しのように崩壊する可能性を秘めているんだ」
人気の無い食堂に、暗く沈んだ少女の声だけが小さく通る。
「大きな心の傷というバグは、莫大に繁殖するウィルスのような物…………」
少女のような顔から目を逸らし、ライトの首は虚空に回る。

「彼女が討伐後、そしてイレギュラー事件発足後、そしてアイシー・ペンギーゴに接触した時………」
瞳は遠くへ。


5 :Irregular’s Elegy :2006/10/21(土) 17:38:07

「そして………今現在の奴の心理状態が、当時と同じものだとは思えない」
緑の光は現実へと戻り、再び、エックスに向けられた。
「というと?」
疑問の意を首に宿し、少年は横に傾げる。

「彼女は何の信念もなく、人間を滅ぼす事だけに執着しているのでは無いだろうか」
簡単には受け入れられない事実。
だが、エックスも薄々とは気づいていた。
狂気をみせるイレギュラーに、そしてシグマの態度。

「第17部隊隊長、シグマ。あれほどの指揮官が、途中で自分の考えに少しでも疑問を持たないのはおかしい」
マンドリラーに処刑を命じたと思えば、クワンガーに戦闘の手ほどきを行うよう命令する。
そして、最近ではオクトパルドを使い、自分の元へと向かうよう迎えを出した。

「もしかしたら、もう………」
ライトの憂慮は、杞憂で終わるような、無にもつかない物ではないのだろう。
少女の表情と言葉が、それを裏付けていた。

「――どちらにせよ、僕は隊長の所へ行きます。そうするしか、他にありません」
エックスは、これで話は終わりだ、とばかりに打ち切った。
顔色をほとんど変えず、少女もその言葉に頷いた。
「あぁ、それしかないな。…………奴の居場所については、現在調査中だ。おって連絡する」
「えぇ」

少年の使命――それは世界を救う事。
その結果は誰が喜べるものとなるのか。
救われるのは人間か、レプリロイドか、それともイレギュラーか。
自分という存在と生を捨ててまで、何かに固執したイレギュラーに救いがなければ、なんと悲しい世界のだろう。



6 :Irregular’s Elegy :2006/10/21(土) 17:39:32
異端の哀歌。
銃声と砲撃と怒号で奏でられる協奏曲は、イレギュラーの絶望と狂気で紡がれる。
そして、その曲の終わりには、世界の終わりか、異端の死しかない。




「治療ができない……? どういう事ですか!?」
白い部屋で、中性的な声が響く。
ケインとライトとは違う〝白衣〟を着たレプリロイド達に、エックスは詰め寄った。
医務室、手術室を備えた医療練。手術室の一つに、少年は居た。

詰問する横には、ガラス張りの小部屋があり、そこにベッドが置いてある。
そこに眠るのは赤きレプリロイド――ゼロ。
エックスはライトと別れた後、少女の様子を見に来たのだ。

「電力の問題です。ここ最近、世界全土で電力不足が………」
医師のレプリロイドが重い口を開ける。
「おそらく、イレギュラーが発電所を乗っ取った事が原因でしょう」
隣の医師も言葉を引き継ぎ、前に立つエックスに説明した。

「こればかりは………我々の手には…………」
レプリロイドは、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ゼロの調子はどうなんですか……?」
医師の行為を手で制し、エックスは眠りにつく少女の顔を見ながら、容態を問う。

もう一人が首を振った。
「芳しくありませんね。受けた損傷は大きいし、何より傷口から海水が入ってしまっている」
持っていたカルテファイルを揺らしながら、医師のレプリロイドもゼロを見つめる。


7 :Irregular’s Elegy :2006/10/21(土) 17:43:31

「電力を使わない応急的な治療はしているのですが、あまり効果は出ないでしょう」
お手上げだ、という感情が二人の医師から漏れる。

「そう、ですか………」
エックスは二人に礼を言い、足早に手術室を出た。




「確かに……! 飛ぶんだろ、とは言ったよ!!」
吹き荒れる、作り出された風。
本部後部にあるヘリポート。ハチ型ヘリが出発の時を待ち、背中のローターを回す。

「だが、今日だとは知らなかったな!? ………ひゃう!?」
白衣が風によって翻り、ライトは慌てて裾を押さえた。
前方を青いボディがヘリに向かって歩く。その後ろに続く少女。
身体と同じ色の空が、二人の真上に広がっていた。

「ゼロが危ないんです」
少年は後ろを振り向き、自らが戦地に向かう理由を教える。
「あぁ、そうらしいな! 本当にお前は忙しい奴だ!!」
ローター音と、耳を掠める風音がうるさい。故に少女の声は、大きなものになる。

エックスはヘリに乗り込み、少女が機体の横に立つ。
「気をつけろよ。お前はいつだって、優しいやつだ」
決意を宿した顔を横から覗き込み、囁くライト。


8 :Irregular’s Elegy :2006/10/21(土) 17:46:54

「それが、仇となる時がある。――仲間が敵だと解ったら…………もう躊躇うな」
青い肩を優しく叩き、見送る。
できれば一緒に行きたいのだが、邪魔と言う名の役にたつだろう。

「新調した無線だ。あと、オペレーターの性格も人間味があるように再設定したよ」
取り付ける型の黒い通信機を渡し、最後にライトはニヤリと笑ってみせる。
気付けの言葉にエックスも微笑んだ。

「無事だけを祈る。またな、ロック」
もう一つ、ピンクのハンカチーフで包まれた箱を渡し、ヘリの操縦者に手を振る。

操縦の命を司ったレプリロイドは頷き、操縦桿を引き下げた。
エックスが箱の内容を聞く前に、ライトに背中を向けられ、乗り込んだヘリも上昇する。



結局、基地が小さく見える所まで上昇した際に、その箱を開けた。
中には、紙片に可愛いらしい文字で〝夕飯だ〟と表記された――お弁当だった。


115 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 06:26:36.01 ID:Gs1tqUN70

「ルート42進行中。問題無し」
『――本部了解。発電所までの航路を維持せよ』
目下に広がるのは、何時ぞやの大森林。
緑の絨毯が広がる平地を5つの黒い影が突き進む。

エックスを乗せたハチ型ヘリ等は、問題の発電所に向かっていた。

アイシー・ペンギーゴとの戦闘後に通過した森を青き少年は、無感情に眺めていた。
そこでカメリーオとマンドリラーに奇襲される。
発電所を占拠し、国家的被害を引き起こしたのは片割れのイレギュラーだろう。

エックスはこれから起こる戦闘に、嘆息した。


「ルート43進行中」
斜陽が全ての光景を赤に。
早朝に本部に付き、昼過ぎに出発した少年が飛ぶ空は、西に沈みつつある日によって染められていた。
夕日を眩しそうに目を細めながら、鉄の座台に深く腰掛けるエックス。

「夜までには、発電所に着くかと思いますがね」
随時本部に進行状況を連絡する操縦者が、後ろを振り返って言い放つ。
エックスはそれに頷き反し、直ぐに夕方の森へ視線を戻した。


116 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 06:28:59.62 ID:Gs1tqUN70

「ルート47進行中」
『了解。航路を維持せよ』
ライトは何を夕食にしているのだろうか――そんな事を弁当を開きながら、エックスは考える。
蓋を開けると、半分をご飯で満たした普通のメニューだった。

「愛妻弁当ですか?」
操縦士がからかうでもなく、単なる疑問か世間話として投げてくる。
「いえ、餞別……かな」
歯切れ悪く言い、料理に手を合わせて箸を持つ。
本部にいる夕飯の作成者に感謝し、エックスは取り掛かった。

「ルート48進行中。特に問題は――何だ?」
状況報告を単調に続けたパイロットが、初めて怪訝な声をあげる。
『どうした? 1号機。何か問題でも』
操縦桿の横に備われた無線から疑問が放たれ、エックスも玉子焼きを掴む箸を止めた。

「高速で移動している熱源を確認したんだ。――誰かが追われて……いるのか?」
言葉尻をあやふやに、パイロットは森林の異変を告げた。

エックスが機体の両横に空いているハッチから身を乗り出す。
赤い木々の間。
操縦者の言葉通り、確かに大柄な影が複数の何者かに追跡されていた。


118 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 06:32:47.66 ID:Gs1tqUN70
二つの小さな青の炎を吐き出しながら、森林を疾走する巨大な影。
ブースターで移動するライドアーマーの群れだった。
それが大きな人影を追い詰める。

もっとよく見ようと更に身体を傾けるエックス――彼の頭部を紫電の放流が掠める。
目を見開き驚愕するエックスの視線が、桃色の電撃の先を見、そして発せられた森に移る。

「クソっ!? 何だ今のは!!」
罵声を放つパイロットによってハチ型のヘリは大きく傾く。

下方から電撃が連続して放たれる。
こちらを狙っているのかと思ったが、森林に吹き荒れる爆発からそうではないようだ。
腕が電糸に毟り取られ、ライドアーマーの一つが吹き飛ぶ。

ライドアーマー達が、連続する電撃の合間を縫いながらブーストする。
またも巨体が雷の洗礼を受け、軽く宙に浮いて爆発する。散乱した破片が木々を焦がした。

電流の球体や滝が次々に吐き出される――その最中。
ピンクの明滅によって、大柄な逃亡者の姿がやっと露になった。

「マンドリラーのお姉さん!?」
逃亡者の名をエックスが叫ぶ。
今、彼女の元に向かっていた少年に、予期せぬ状況でマンドリル型の女性が現れた。
突然の登場に白黒する間もライドアーマーが倒れ伏す。

119 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 06:35:28.49 ID:Gs1tqUN70

「スパーク・マンドリラー? 奴はイレギュラーだろう。どうして、敵が敵に追われているんだ」
エックスの言葉にパイロットが困惑して、ヘリを揺らす。
黄色でペイントされた機体は、前進する戦闘現場から離れるつもりのようだ。

爆裂する紫電。粉砕される森と大地――そして敵。
エレクトリックスパークを受けた土木作業用の機械が、巨体の胸に大穴を空けられ四散する。
夕暮れの森は爆発と騒音に溢れかえっていた。

「逃げるが勝ちって言葉は、レプリロイドの辞書にも載ってるんだぜ」
「待ってください。僕、降ります」
ガスマスクのようなメットの操縦者の肩に手を置き、エックスは逃走に待ったをかけた。
追跡劇の意味は解らないが、とにかく状況を確認しよう。そんな思いが少年の胸裏に生まれる。

「俺はここで死ぬような器じゃな――え?」
ぶつぶつと呟くパイロットが独白を止め、後ろの信じられない言葉を吐く人物に振り返る。
「降ります。ちょっと高度を下げてください」
青き少年は、真面目に言ってるとばかりに頷いた。

「あぁ、戦争時の冗談ですか。俺だって知ってます。昨日やってた映画で――」
下から響く轟音をBGMに、パイロットの方が冗談と取れる発言をして場を濁す。
エックスはそんな彼に眉根を寄せた。

「何言ってるんですか。早く高度を下げてください」
溜め息をつき、顎で降下を促す。
爆音は激しくなり、とうとう火柱も上がった。

120 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 06:38:06.84 ID:Gs1tqUN70
「冗談じゃ――」
尚もしぶる操縦者に呆れ、エックスは蹴りを放ち、操縦桿にブーツの裏を叩き込む。

「うおおおおおおおお!?」
機体が激しく揺れ、一瞬の重力異常。少年の身体が少しだけ浮き上がった。
ハチ型ヘリはエックスの意思通りに急降下する。

「それじゃ、行ってきます」
木々の高さと同じぐらいまで降りる機体。
挨拶するエックスはハッチの淵に指をかけ、着地場所を見極めた。

戦闘場所から数十メートルという所で、その身を空へと投げ出す。

「おおおおお!? い、行ってらっしゃいませぇぇええぇ!! 畜生ぉおぉ!!」
その背中を、機体を安定させようと奮闘するパイロットの罵声が叩いた。


飛び降りるエックス。
真下の木の幹に片足を突き出す。
木片を散らし、煙をあげて降下速度を緩める。

大木を滑るようにして、地面に着地。
むっとした青臭い匂いと薄暗い緑の光景が、視界と鼻腔に飛び込んできた。

爆発音は止まない。右辺から響く戦闘の証。
同僚だった女性の事を思い、エックスは緑色の世界を駆け出す。


122 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 06:42:35.56 ID:Gs1tqUN70
すぐに彼女等は見つかった。
移動しながらの攻防を繰り広げる、マンドリラーと数体の巨体な影。

「お姉さん!!」
エックスが先行する大きなレプリロイドに大声をかける。

「……お前は!? ――しつこいぞ!!」
丸いマンドリルの瞳が驚きを帯びるが、右手から急襲したライドアーマーに電撃を浴びせる余裕はあった。

「単刀直入に聞きます。どうしたんですか!?」
バスターで援護射撃しながら、エックスは足を止める彼女に近づく。
頭部部分が操縦席の巨体。
そこに座るアーマーソルジャーの頭部を、ばら撒かれたエネルギー弾が貫通した。

「忙しいから後でいいか!! いいな!?」
両手に桃色に光る電撃を溜め、周囲へ一気に放つ。
エレクトリックスパークの嵐が、ブーストで迫り来る敵と森を席巻する。
三体のライドアーマーが消し炭になり、操縦者も同じ運命を辿って絶命した。

「いいですよ!! でも、これだけ聞かせて下さい!!」
ライドアーマーは、遠距離武器が無いのが弱みである。
声を張り上げながらエックスは射撃し続け、間合いを詰める敵を攻撃。

「――敵ですか?」
少年の言葉には悲哀。
バスターを撃ちながらも痛切な瞳が、横に立つ女性のメット部分に向けられた。

123 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 06:46:13.07 ID:Gs1tqUN70
その思いに飲まれたのか、マンドリラーの一瞬の逡巡。

「違うよ……多分な。――しつこい、と言っただろう!!」
腕から電流の唸りを放つ彼女の曖昧模糊な言葉。
しかし、エックスには充分だった。
優しさを感じさせる笑みを浮かべ、マンドリラーを果敢に援護する。

ライドアーマーは一撃も見舞う事無く、数を減らし続けた。

「随分と手間をかけさせてくれる……」
突如響き渡る、鋭い声。
凶悪な圧迫感を纏った存在が、二人の前に木々の間から悠然と現れる。

大型の犬――そうエックスの目には映った。
マンドリラーが荒々しく舌打ちし、両手を構えて身構えた。

「私が、自ら手を下した方が得策か」
とことこと前に進む紫紺のボディ。
二人の敵意に満ちた視線を、牙を剥き出しにしたメットが打ち払う。

四足のレプリロイド。エックスの記憶には無かった。

間合いを大きく作るのか、途中で歩みを止め、犬型がぱっと立ち上がる。
――眩い光。
瞬きほどの光の放射から、仁王立ちする少女が出現する。

124 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 06:50:04.71 ID:Gs1tqUN70

犬を模したメットは帽子のように上げられ、パープルカラーの頭髪が肩まで垂れる。
女と少女の中間に位置する、綺麗に整えられた顔が晒された。

「あんたが、わざわざ出張るとはな……」
狩猟を行う犬の瞳――緑の視線が、両腕に電撃を纏うマンドリラーに向けられる。
エックスは訳がわからず目前に立つ少女を見つめた。

全身だった彼女の装甲は肩と手足に留まり、小ぶりの胸元に布の帯を何重にも巻いた装い。
下半身にはベルトとショーツで構成された衣類――ガーダーベルトを身に着ける。

どちらかと言えば幼い目鼻立ちに、その服装は倒錯感を少年に与えた。

「こうなるのは予定外だが――」
彼女が鼻面を獣のように寄せ、こちらも戦闘態勢を取る。
マンドリラーはいよいよ緊張し、エックスもそれに合わせてバスターの銃口を向けた。

「わふっ! ――スパーク・マンドリラー。シグマ様に叛旗を翻したその罪――」
またも光り、濃厚色の装甲に身を包んだ猟犬の姿を再現。

「死で償ってもらおう」
前足から爪が飛び出し、大きな影が獲物に飛び掛った。


303 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 20:50:03.77 ID:Gs1tqUN70

紫紺の身体が疾風となる。
その速度は、対峙していた間合いなど意味をなさない。
マンドリラーの太い首筋に、鋭く生えた牙が喰らいつかんとした。

左右に跳ぶ二人。
大きく空いた空間を犬型の前足が粉砕する。散らばる土塊。
エックスは跳び下がりながら、エネルギー弾を連続して放つ。

猟犬はその場で回転。
数十に列を成すエネルギーは、旋回するボディに弾かれ跳弾した。
鋭角に吹き飛ぶ銃弾が、木々に撃ち込まれるなどして周囲を貫いた。

「馬鹿が。よく考えて戦え」
慌てて伏せ、それを避けるエックスと、罵声を吐いて両腕で弾くマンドリラー。

防御と回避を同時に行った猟犬が、旋回の速度をそのままに、悲鳴をあげる少年に突進する。
矢のように飛び込む犬型。

前方から銃撃が、後方から網のような電撃が迫るが、器用に宙で回転して避ける。

「わふっ!」
嘲りを牙が乱立する口元に――犬型はエックスの顎に回転する前足を叩き込んだ。
打ち払われ、ボールのように身を投げ出す青いボディ。



308 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 20:53:06.08 ID:Gs1tqUN70
少年の身体が地面に激突するよりも速く、猟犬はマンドリラーに接敵する。
マンドリルの太い腕が振るわれ、紫紺色の犬に雷の嵐が降り注ぐ。

津波のような電撃を放つ異端。
しかし――その一本、一本の電糸の隙間を、地面を跳ね続けて避ける異端も存在した。

エレクトリックスパークの牽制は無に還り、猟犬の接近を許す。
「死ね」
目と鼻の先で死の宣告を送り、今度こそ首元に牙を向けた。

が、何を思ったのか攻撃を中止し、素早く後退した。
犬型のメットを光弾が掠める。

「解せんな、マンドリラー」
空中で回転する身体。
器用に四足で着地し、犬型が言葉をかける。

「何がだ」
マンドリラーは返答しながら電撃を放ち、猟犬を遠ざけようとした。
桃色の電流が空を焼き、付近の地面を粉々にする。
彼女の思惑通り、紫紺の身体は回避に専念し、間合いを大きく取らざる負えなくなった。

「シグマ様、クワンガー……その少年に何かを期待しているようだが、私には何も感じない」
首を少しだけ捻り、猟犬は地面を所在無く引っ掻いた。
エックスは顔に困惑の色を広げ、バスターを構えたまま行動を起こさない。

309 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 20:55:23.12 ID:Gs1tqUN70

しかし一人頷くと、右腕のバスターをチャージする。

後ろ足で地面を蹴り、凄まじい力が猟犬を空へと飛ばす。
その足元を撫でるように、溜められたチャージショットが通過した。

「わふっ! シグマ様の命だからこそ、この反乱分子に牙を剥かないが、私は納得する事が出来ない」
マンドリラーは何も答えず沈黙する。
着地する猟犬は疑問を吐露するのを続けた。

「マンドリラー、貴様も何かを期待している。何故だ――私には理解できない」
沈黙は継続する。
夕日は既に落ち、辺りは暗闇に満ちてきた。夜虫がこの状況に関せず、思い思いに鳴きだす。

「最強たるシグマ様の部隊に歯向かってまで、期待すべき事なのか」
ひらりと身を捻る猟犬の足元に、電気の槍が突き刺さる。
語る最中での不意打ちも、彼女には意味が無いようだ。

「お前には理解できんよ。――命令に従う事しか出来ない、お前には」
更に間合いを広げた犬型に、マンドリラーは馬鹿にするでもなく、どこか哀れそうに言った。

沈黙。
マンドリラーと紫紺の犬が黙り、虫も鳴き止む。
何を言っているのか解らないエックスも、事の進行を黙って見守った。



312 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 20:58:32.11 ID:Gs1tqUN70

「……承知した」
事件の首謀者に仕える狗は、一体その言葉を受け何を思ったか。
エックスとマンドリラーには解る筈もなく、猟犬自身のAIで自己完結する。
そして短く返答し、再び闘いに挑む。

唸りをあげる四つの獣足。
マンドリラーは、エレクトリックスパークを地面に叩きつけ、爆裂と紫電の煙幕を作り出す。

「わふっ!」
「おおおおおおっ!!」
犬型が中空でボディを前回転させる。
白とピンクの帳から巨大な両腕を死角から突き出し、掴みかかるマンドリラー。

電撃を纏った二つの丸太腕と、回転刃となった身体が激突する。
闇の森を、散らばる火花が黄色く彩る。

数瞬の拮抗の後、両者は磁石の両極のように離れた。

「その巨体――伊達では無いらしいな」
「お互いな」
賛美とは取れない皮肉の応酬。

狗の皮肉に注ぐ光弾の雨。
エックスのショットが五月雨のように撃たれ、猟犬の周囲に着弾する。
だが光の雨も、紫紺のレプリロイドの機動力には敵わず、虚しく自然を打ち壊しただけに止まった。



315 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 21:01:25.03 ID:Gs1tqUN70
ちらりと犬型は少年に獣の瞳を向け、素早くマンドリラーに直る。

「どうやら、無傷で倒すのは難しいらしい」
互いの力量を見極めた上での判断。

「分が悪い。ここは退かせて貰おうか」
数ある選択肢の中で、裏切り者を狩る猟犬は撤退を選んだ。

マンドリラーが腕を降ろし、攻撃の体勢を解いた。
しかしメットの瞳は、未だ警戒と敵意を宿している。

「だが反逆者、スパーク・マンドリラー。命永らえると思わぬことだ」
森へと踵を返す犬型が振り向き、辛辣な言葉を吐いた。

「直ぐに、貴様を御しやすい処刑部隊を編成する」
全身を震わせるエックス。
嫌な想像――無惨に破壊されるマンドリラーの姿が脳裏に広がる。

腕を組む当の本人は、鼻を鳴らしただけで取り合わない。

「わおんっ! 別れは早いうちに済ませておけ」
一声唸り、疾風となる猟犬は二人の前から掻き消えた。

「大きなお世話だ、いぬっころ」
マンドリラーの啖呵が森の奥へと放たれ、鈴虫の声と同じく拡散した。



319 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 21:03:57.36 ID:Gs1tqUN70

猟犬が去り、場の空気が弛緩する。
エックスは力尽きたように膝をついた。

「助けられたな」
『援護に感謝いたします』
開閉される胸部の装甲。漏れた女の声と電子音声。

マンドリル型のボディから、桃色の髪をした女性が現れた。
白い指を持つ両手に、操縦桿が握られている。

少年が困った顔をする。
「僕、あんまり援護できませんでした」
「いや、助かったよ」
エックスの憂慮を払拭するように、口元に薄い笑みを浮かべたマンドリラー。

「僕は……。いえ、それよりもお姉さん……どうして――」
上空から今まで培ってきた疑問を、ぶつけようとする。
しかし、それはマンドリラーの背伸びと、艶のかかった声によって阻害された。

「あー、疲れたぞ。話は腰を落ち着ける所ででも良いか?」
「そう……ですね。うん。――えぇ、構いません」
自分にも重く圧し掛かる疲労に、エックスは彼女の提案に同意した。



321 :Irregular's Elegy:佐賀暦2006年,2006/10/30(佐賀県民) 21:07:19.39 ID:Gs1tqUN70

何処で話すか。
マンドリラーに背中を向け、考え込む。
ハンター本部が最適なのだろうと考えていた所で、自分が何でやって来たかを思い出す。

ハチ型のフォルム、冗談を言うパイロット。

「あ、ヘリ」
二人の空には、無限の数を持つ星達と、白く綺麗な月。

――5機のヘリコプターは影も形も無かった。

「………………僕ね。乗り物とか、女性に恵まれた事無いんです」
暗く沈んだ顔を振り向け、人生の不満をぶつけてみるエックス。



「………………そうかい」
『同情いたします』
対する応えは、どちらも冷たかった。

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