アットウィキロゴ
VIPロックマンまとめ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

VIPロックマンまとめ

Octopus's pride

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
608 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:04:45.40 ID:jSSPVc3q0
本編のつなぎ

注意というか、読む対象のはし書き
  • タコ好き
  • タコまで、本編を読んでいる方
  • タコのくだりに納得のいかない方

おまたせいたしました


609 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:05:55.87 ID:jSSPVc3q0
Octopus's pride



「オクトパルド!! 書類を出すんだ!!」
白い廊下を怒声が貫く。
足早に歩く少女を、眼光を鋭くした老人が追った。

「お断りしますのですよ」
無機質の床をブーツで鳴らす、軍隊用のコートを着込む童顔の女。
ベレー帽が女――少女の歩みに合わせて揺れる。

オクトパルドと呼ばれたレプリロイドが、後ろを振り向き、失せろとばかりに手を振った。
老人の横顔に青筋が立ち、皺のよる手が拳を作る。

「いい加減にしないか!!」
らしくなく、声を張り上げるスーツ姿の老体。
少女と、その上司は本部の廊下で睨み合った。

「ケ、ケイン博士……落ち着いてください。もう本部への始末書は出されたんでしょう?」
白髪が後ろに流れる――その後頭部に、気弱な声がかかった。
青いボディを装着した少年が、体と同じく青ざめた顔をしている。


610 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:07:28.15 ID:jSSPVc3q0

「君には関係の無い話だ」
少年――エックスを見やる上司。
面倒な所を見られた、との思いを表情にありありと浮かび上がらせた。

「オクトパルド、この問題は、もう君だけで済む話じゃ無いんだ。書類を渡せ!!」
二人の上司のケインは、少年を尻目に怒りを露にする。
そして少女に向け、手の平を突き出した。

「――そろそろ黙れ」
だが、老体の求める物は得られなかった。
代わりに放たれたオクトパルドの冷めた瞳が、ケインを射抜く。

「オ、オクトパルドさん……」
エックスは顔を引きつらせ、どうにかこの場を収めようとする。
しかし腕を振り回すだけでは、事態が好転する訳もない。

オクトパルドは微笑み、
「私、忙しいのですよ。――失礼」
短く挨拶すると、踵を返し、その場を去る。

ケインは諦めた顔をすると、溜め息を吐きながら通路の壁に寄り掛かった。

「いったい、何があったんですか?」
エックスが問う。



613 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:10:18.51 ID:jSSPVc3q0
「君には関係無いと、言っただろう」
二人を案じた少年の言葉。だが、それも上司の一言で一蹴された。

「でも……」
ケインとは違い、諦めきれない、と下唇を噛み締めるエックス。

「いや……もしかしたら、君に頼むのが一番なんだろうか」
己の歯がゆさに悔やむ部下を見ながら、老人が呟く。
灰色の瞳には苦悩が揺れていた。

「人間の心を持ったレプリロイドか……」
顎に手を置き、ケインは思案顔をする。

「ケイン博士?」
上司の独白に、少年は訝しげに聞きなおすが、
「忘れてくれ」
結局ケインはそう呟き、エックスを置いてどこかへ消えた。



「オクトパルドさん」
エックスが本部から出ると、彼の視界に、黒い乗用車に乗り込もうとするオクトパルドが最初に入った。
上司であるケインからの説明は受けれず、煮え切れないものを抱えたエックスは、少女に声をかける。


614 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:12:16.86 ID:jSSPVc3q0
「……女顔。何か用なのですかー? 無いなら消えるのですよー」
少年の姿に顔をしかめるオクトパルド。
自動車の鍵を指にかけて回す仏頂面が、口を開けば嫌味が飛び出る。

いつもの事だが、今日は輪をかけて酷いとエックスは感じた。
めげずに、逃げる事無く少女の冷たい視線を受ける。

「あ、あの、一緒にお昼でも食べませんか?」
意を決して昼食の誘いを、エックスは放つ。
オクトパルドの顔が更に歪む。
不機嫌は、常に貼り付けられた柔和な笑顔から零れ、殺意にも似た感情が鎌首を擡げる。

「断るのですよ」
拳銃でも抜きそうな勢いだったが、少女は怒りの矛を丁寧に収めた。
代わりにブーツの踵が、アスファルトを穿つ。
八つ当たりをされた漆黒の石畳は、簡単に砕け散った。

「僕が奢りますから。ね?」
凶行にも、今日のエックスは負けない。
強い意志で、鼻を鳴らして車に乗り込む少女に、腰を低くし食い下がった。

「お願いします」
オクトパルドは無視してエンジンをかけるが、フロントウインドゥ越しで頭を下げる少年を見ると、直ぐに止めた。
舌打ちしながら下車し、本部前に位置する公園の並木道に向かう。
それを、ほっとした顔をしたエックスが後に従った。


617 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:14:53.15 ID:jSSPVc3q0

「何でも好きな物、頼んで良いですからね」
隣の窓から、港を一望できるファミリーレストランに二人は入った。
取り成すように言い、エックスはメニューの頭から少女を伺う。

少女は返事をせず、窓から青い空と海を見つめている。
風景を楽しんでいるという様には見えなく、オクトパルドの瞳は何処か別の世界へ。
二人の席に伺ってきた従業員のレプリロイドへ、簡潔に注文をすると沈黙を貫いた。

店内のスピーカーから流れる、ブームを過ぎた歌唱曲だけが、少年と少女の間に下りる。

エックスは、ケインとの事を尋ねようとしたが、運ばれた料理を食べるのに集中する。
黙し、野菜を挟んだサンドイッチを食べ続けるオクトパルドの姿が、彼をそうさせた。

行儀悪く、少女が音を立ててソーサーに置く、空になったティーカップが食事の終了の合図だった。
薄いハンカチで口元を、これだけは丁寧に拭き、腰を落ち着ける少女。

エックスは、少しだけ機嫌を取り戻したオクトパルドの表情に、ひどく安堵する。

「ごちそうさま」
少女は会計をエックスに託し、先に店を出た。
その素早さに、少年は慌てて立ち上がり、レジへと向かった。


618 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:16:38.50 ID:jSSPVc3q0

「オクトパルドさん。ちょっと、歩きませんか?」
みゃあみゃあと鳴く海鳥の下、港の近くにある海岸――白い砂浜を二人が歩む。
爪楊枝を口にしたオクトパルドは、店を出た後帰ろうとしたが、エックスの嘆願を仕方なく聞き入れた。

口元の爪楊枝を上下に揺らしながら、少年の前をオクトパルドが黙って前進する。
砂浜を踏みしめ進む少女の背中に、エックスは何度か声をかけようとしたが、思い出される本部での異様さがそれを阻む。

「何か……あったんですか? 差し出がましいですけど、僕が力になれるなら――」
少年が、緊張に粘つく口を開くにはとても時間がかかった。
コート姿が立ち止まり、振り返る。その顔には嫌悪。

「うるさい」
振り絞った勇気も、オクトパルドの一言で叩き潰された。
すみません、と呟きエックスは謝罪した。
少女は歩くのを再開し、何処かを目指し前へ。

エックスの胸裏には、少女の事で一杯だった。
自分よりいくつか年上のオクトパルド。

同僚であるはずだが、彼女の事は殆ど知らないに等しい。
だからこそ、少女の怒りに混じった悲哀を、少年はそれが何なのか知りたかった。

「第6艦隊に……最近出動してないみたいですね」
どうなってもいい、エックスはそんな思いを抱いて、どこかで聞いた噂の真偽を尋ねる。


619 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:18:10.81 ID:jSSPVc3q0
ケインとの会話を鑑みると、それが関係していると思い立った結果だった。
少年の思惑通り、オクトパルドの背中が震え、再び歩みを止める。

「エックスさん、あなた恋人とか居ますか?」
砂へ、爪楊枝を吐き捨てる少女の口から出たのは、思いも寄らぬ言葉だった。

「へ?」
意図せぬ問いに、ぽかんとするエックス。
「いえ、あの……えっと、居ません……よ」
なんとかして、答えを返した。

オクトパルドが笑う。
恋人が居ないという事に、嘲弄した訳ではなく、どこか達観した笑み。

「そうですか。私も居ませんのですよー」
でも、と続け、
「処女じゃないんです」
耳を疑う事実を白日の下に晒した。

引きつらせるエックスにオクトパルドは苦笑し、足元にあった石を掴むと、海へと投げた。

「第6艦隊の連中に犯されたので」
石が海面で何度も跳ねる。
少女の言葉に、エックスの心が何度も跳ねる。


622 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:20:52.34 ID:jSSPVc3q0

「なん……で」
「私がレプリロイドで、向こうが人間。それだけですよ」
青ざめた疑問に、投げられた小石より軽い答え。

もう一つ、投げるのに適した石を見繕い、オクトパルドは投擲。
綺麗な波紋を何度も作り、石は跳ね飛んだ。

「仕事の一貫ですよ。慰安部隊って知ってます? あれなのですよ」
少女の顔はどこまでも遠い。
エックスの横に広がる海ですら、地平線という終わりはあった。

「部隊って言っても、私一人ですけどね」
少女は言葉を続けながら、砂浜に捨てられた缶を蹴り付ける。
アルミの筒は小気味いい音がして、放物線を描いた。

「仕事って……。そんな、断れないんですか!?」
理解できないと首を何度も振り、少年は悲鳴のように聞こえる疑問をぶつける。

「断れますけど。――そしたら、他のレプリロイドに移行するのですよ」
言葉の端の刹那――ほんの一瞬だけ、二度目のオクトパルドの答えが悲鳴に聞こえた。

「あ……」
〝最悪〟に気づくエックス。


624 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:22:53.80 ID:jSSPVc3q0
「私の部隊、大半がレプリロイドで構成されているので、真っ先に白羽の矢が立ちますね」
ボディよりも海よりも空よりも、顔を青く染める少年にオクトパルドは、おかしそうに笑う。
成長しきれない少女の顔が、薄い色をした蒼穹を仰いだ。

「隊長として……それは見逃す事も、許す事も出来ないのですよ」
誰かの為に自分の身を削る。
皮肉にも、エックス自身がよく行う行為だった。

「……本部は知ってるんですか?」
最後の希望。
本部が認知しているなら、何とかなるかもしれない、少年は力を掻き集めた。

「いいえ」
すぐさま砕かれる。
オクトパルドの否定はあっけなく、そして無慈悲だった。

「上の人間も一枚噛んでいるんです。だから、イリーガルな仕事ですよ」
「だったら……」
「言及しにいきますか? そんな事したら、どうなるかぐらい解るのですよね?」
エックスの言葉の続きは、先回りされる。
冬の海風が二人の間を強く吹きぬけ、砂を撒き散らし、少女のコートがはためいた。

「誰も助ける事が出来ませんよ。そういう体制になってるんです」
オクトパルドは砂がついたコートをはたき、白い煌めきを地へと落とす。
体制――エックスにはおよそ考えのつかない、最低なものだった。


631 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:30:14.02 ID:jSSPVc3q0
「これは……レプリロイドが、人間に隷属された時から……」
少女は自嘲し、
「だから、酷い事されても救われない……」
全てを諦めた。

「いやだ、いやだ、って叫んでも、誰も助けてくれないのですよ?」
自分の身に起こった、凄惨な事を少女は、何でもないように言う。

「そうそう、小型の魚雷を突っ込まれた事もありました」
オクパルドが笑い、エックスが耳を塞ぐ。対極の二人。

「お腹の器官なんか、グチャグチャになっちゃって――」
「もう、やめてください!!」
怒声で遮られたが、オクトパルドは気を害せず、陰惨な不幸を吐く口を噤んだ。

「それじゃ、帰りますね。お昼、ごちそうさまなのですよ」
襟と腕の裾の位置を確認し、少女は軽く頭を下げた。

「〝休暇〟は今日で終わりにします。ご安心を、ちゃんと仕事には復帰しますのですよ」
少年に言い放ち、少女が背中を向ける。

「どうして、一人で背負うんですか」
それに待ったをかける問い。



636 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:32:19.11 ID:jSSPVc3q0

「仲間を守るためです」
振り向かずオクトパルドが答える。

「どうして!?」
少年が問う。
「それが仕事ですから」
少女が答える。

「どうして!?」
「それが責務ですから」
子供じみた応酬が続く。
オクトパルドは苛立たず、目前の〝子供〟へ丁寧に答えた。

疑問を重ねるのは、エックスが絶望に膝を付くので終了し、誰も救われないという事実だけが残り終了した。
少女は両手を打ち鳴らして、今度こそこの場から離れようとする。

コートの裾が弱く掴まれた。

「行っちゃ……駄目です」
うんざりした顔で振り向くオクトパルド。
その足元に、捨てられた子犬の様のエックスが小さくなっていた。


640 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:34:39.79 ID:jSSPVc3q0
「オクトパルドさんが、傷つくのを黙って見ていられません」
見下ろす侮蔑に彩る顔へ、決意を宿し見上げる顔が激突した。
オクトパルドは頭痛がしたかのように、表情を歪める。

「離せ」
いい加減にしろ、とばかりに足を上げる。

少年の顔に靴裏を叩き込もうとした時に、
「部隊は違えど、僕達だって〝仲間〟じゃないですか!!」
全身を硬直させる言葉を、オクトパルドはぶつけられた。

「確かに、仲間の為に身を挺するのって、大事だと思います」
コートの裾を離し、少年が立ち上がる。

「でも、じ、自分の体を差し出すのなんて……!」
自分に対する怒りに、オクトパルドは疲れた顔で受け止めた。

「それしか、仲間を救うには方法がありませんから……」
妥協の言葉。

「だったら、誰かに助けを求めれば良いと思います」
それを否定する言葉。

「こんな恥ずかしい事、墓まで持っていきますのですよ」
肩をすくめ、オクトパルドは今日の事を、何かの冗談のようにしようとする。


644 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:36:50.02 ID:jSSPVc3q0
「――でも、僕には打ち明けました」
はっ、とするオクトパルド。
己の失態に舌打ちする。そこにいつもの力は無い。

「お願いします。僕にも、その責務を背負わせて下さい」
エックスが手を差し出す。
求めるのは、老人のように書類ではなく、少女の手。

「あなたが固執する隊長のプライド。分けてください」
オクトパルドの瞳が苦悶に揺れた。

「背負って……具体的にはどうするのですか?」
口から出かかった〝何か〟を飲み込み、少女はいつもの嫌味を吐く。

「話し合います」
硬質な答え。
あまりの馬鹿らしさに、オクトオパルドは笑いを禁じえなかった。

「他のレプリロイドに知られた。――第6艦隊は間違いなく、あなたを消去しますね」
オクトパルドは、命は無いという、世界で最も使われている脅しを選んだ。

「闘います」

もう、オクトパルドは笑いを堪えない。


645 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:38:56.28 ID:jSSPVc3q0
「馬鹿なのですか、あなた」
はっ、と失笑し、おまけとして鼻で笑う。
レプリロイド一人で軍隊に闘うという話は、軍によくあるジョークでも聞いた事が無い。

「オクトパルドさんとなら。……仲間をそこまで重んじる、あなたとなら出来ます!」
差し出された手は引っ込まず、微動だにしない。

オクトパルドは、熱にあてられたようによろめく。
柔和な仮面は全て剥ぎ取られ、悩める少女がエックスの前に現れた。

下げられた少女の腕が震える。

「お願いです。僕の事信じてください」
少年の瞳はどこまでも真っ直ぐだ。
直線の決意を受け止めるオクトパルドは、そっと口を開いた。

「明後日に、品評会――まぁ、公開レイプですけど、上層部の護衛艦で行われるのです」
エックスは祈る思いで、少女の肯定を待ち望んだ。

「……た、助けてくれるのですか? 私の事」
腕と同様に口調も、恐怖に震える。

――だが、それは希望にすがっても良いのかというもの。
明るい未来に対しての恐怖だ。


648 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:40:39.02 ID:jSSPVc3q0
願っても無い問いに、力強く頷く少年。
少女も小さく頷き、腕をゆっくりと挙げた。

「た、頼むのですよ? 向こうで、自分も品評したい、なーんて言わないで下さいね」 
冗談を放ち、そっぽを向く。
しかしオクトパルドは、しっかりと震える手をエックスのに重ねた。

「はい!!」
エックスは満面の笑顔で、それを優しく握り締めた。





『緊急逮捕!! 第6艦隊に潜む悪意!!』
『部隊長の一人が、同僚に暴行!! ハンターの管理が問われる』
『他にも関係者が!? ハンター本部へ突撃取材』

『青いレプリロイドが、一人で部隊を捕縛!! 詳細をハンターに――』
『護衛艦沈没。二人のハンターの影が――』
『同僚という名の悪に鉄槌が下った。タコ型の部隊長が――』


651 :Octopus's pride :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 00:42:20.39 ID:jSSPVc3q0

「残りのやつ、なのですよ」
巨大な画面がいくつも置かれる休憩室。

悪事が露呈された様を中継する画面の前に、二人の男女が立つ。
オクトパルドが書類を、隣の老人に投げた。

「これで、上層部の椅子が一つ欠けるな」
受け取って、丁寧に胸へと収めるケイン。

「平和を謳う人間が……。同じ人間として恥ずかしい」
悪事を働く者への、理解しきれない思いで構成した、静かな怒りを老体は顔に貼り付けた。

「さようでございますか」
相変わらず、オクトパルドの言葉はそっけない。

「でも、何で渡す気になった」
ケインはここ一番の疑問を横へと投げる。
それに対するのは、自然な笑み。

オクトパルドは微笑み、
「プライドを……一緒に、背負ってくれる人が出来たのですよ。――失礼」

<了>


54 :番組告知 :佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 23:41:19.16 ID:jSSPVc3q0
<ハンターからのお知らせ>

「甘い物を食べれない苦痛が、お前に解るか?」

突如鳴き出す、財布の閑古鳥。

金欠のクワンガーに迫る、悲劇のオンパレード。

甘い物が欲しい――その思いは彼女の精神を蝕む。

給料日まで一週間。
クワンガーは生き残れるか!?

次回!! イレギュラーズエレジー

――甲虫観察日誌!! ご期待ください!!


96 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:00:56.87 ID:eNUGwG2m0
甲虫観察日誌


1日目

しとしと、と降る雨。
曇る冬の空から降り注ぐ、冷たい雨粒。
水滴が、いくつもいくつも窓に張り付き、その身で尾を引きながら垂れ落ちる。

ハンター本部に存在する施設の一つ、執務室に二人の男女が対峙していた。
簡素な作り、装飾の無い壁、真っ白な天井と床が寂寥感を感じさせる。

「何だこれは?」
角ばった鉄色の机――足の間に入れられるパイプ椅子。
そこに座る、疑念に眉を曲げる老人が、薄い紙片を手にしている。

机上の名札によって解る彼の名。
ハンター幹部が一人、Dr.ケインの灰色をした瞳の先には、黒装束の少女。

「領収書だよ……不不不」
形の良い眉を通り過ぎる、銀髪を弄る少女が事も無げに言った。
上下に異国の衣装、その上に分厚いコートを羽織った――クワンガーが上司に微笑む。



98 :以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:02:44.37 ID:eNUGwG2m0

「錯覚だろうか? 宛名が私になって、概要がお菓子代って書かれている」
陰湿を覚える笑みを視界から遮断し、ケインは握られた紙片へ視線を落とす。
自分には信じられない事が書かれた、領収書に頭痛を覚えた。

すかさず引き出しから、錠剤が詰まった薬瓶を取り出す。

「不不不……仕事中での糖分補給は必要だよ」
錠剤を飲む老人に、クワンガーは説明にならない説明を送った。
薬を嚥下したケインは、死ねば良いのに、と呪文のように呟く。

「4万2000円。これは、一月でか」
紙の上に並んだ数字を読み上げ、頭痛が酷くなる老人。
銀髪の少女が肩を揺らして笑った。

そして机に近づき、老人が手にする紙片の数字を、白魚のような指でなぞる。

「お菓子は最高だ。不不不……それと桁が違うよ、ご老体。――42万だ」
ケインの顔面が痙攣する。
ひきつけを起こす上司を尻目に、クワンガーは胸から飴玉を取り出し包みを取ると、姿を現した赤い玉を口に放った。

「端数は切り捨てた。部下の上司への配慮に、感謝したまえ」
ころころ、と口の中で飴を転がしながら、人の逆鱗に触れるような発言。
普段は温厚なケインも怒りを、握りこまれる両拳で露にした。



101 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:05:16.42 ID:eNUGwG2m0

「とうぁっ!!」
引かれる両端からの力で、領収書はその身を裂ける。
老人の掛け声と共に、雪のような紙の切れ端が、周囲に散開した。

「何をする」
クワンガーは眼光を鋭くし、上司の凶行に抗議する。

「こんなの支払える訳が無いだろ、異常者!!」
壁を震わせ、抗議に激突したのはケインの怒声だった。
対するクワンガーは、目前の男の怒りに反省した感じも無く、手の中にあった包みを投げ捨てる。

「それは困る。今月の私の財布は閑古鳥だ」
両手を広げ、自らの不幸を披露するが、その姿もケインの怒りを煽る。
部下の行動に常日頃から振り回される――薬を再度取り出しながら、彼は真剣に転職を考えていた。

「貯金は」
「すると思うかね? これでは後一週間持たない。――払いたまえ」
儀礼的に放った疑問も、非常識な答えに跳ね飛ばされる。おまけに理不尽な物言い。

「ふざけるな」
ケインは己の名を書かれた名札を投げつけ、退室を命じた。


103 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:07:12.74 ID:eNUGwG2m0

「食べ放題パスか……子供の褒美じゃあるまいし」
妥協案として上司が提示した物を見つめながら、クワンガーが廊下を歩む。
彼女の赤い瞳がネームプレートに似た、紐が通されたカードに注がれた。

「金欠では、お稲荷堂の最中は食べれそうに無いな……」
ぶつぶつと呟き、ハンター本部に内包された施設、食堂に入る。

「食堂のあんみつで我慢するとしよう」
一人頷き、少女は今週の献立を思考した。
他が見れば胸焼けするような大量の甘い物を、脳裏に描き、ほくそ笑んだ。

「やぁ、卑猥な名称のレプリロイド」
カウンターに足を進め、横に空かれた空間から晒される厨房に声をかける。
割烹着を着た、桃色の髪を生やした女が出迎える。

訪ねてきたクワンガーの姿を、ちらりと一瞥し、女は挨拶として頷く。

「あんみつだ。三つ寄越したまえ」
クワンガーは頷き返し、注文する。


105 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:09:24.08 ID:eNUGwG2m0

「無い」
だが、女の短い返答が、求めた物の不在を告げる。

「は?」
思わず聞き返す銀髪の少女。

「無い……とは……不不不……君も意地が悪くなったね。酷い冗談だ」
乾いた笑いを漏らし、割烹着の女を何度か指差して、冗談への抗議をした。

しかし、女は困った顔をし、
「いや、ほんとに無い」
クワンガーの顔を先の上司のように引き攣らせた。

「あんみつが売れないんだよ。お前以外、誰も注文しないんだ」
指を差し返して、女は手にしたお玉を振る。

「そのお前も、そこまで頼まんだろ? だから、昨日から仕入れて無いんだ」
「ありえない。……本部は馬鹿か」
クワンガーは呆然と呟き、カウンターの前で立ち尽くした。



109 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:11:22.42 ID:eNUGwG2m0
2日目。

「甘い物が食べたい……」
とんとん、と長椅子に腰掛けたクワンガーの足が、神経質に揺すられる。
革張りへ無造作に置かれた手も、断続的にリズムを取った。

鼻を突く消毒液の匂い。
病院の受付前に広がる、長椅子の群れにクワンガーは居た。

ハンター職員は、定期的に検査を受けなければならない。
企業と同じく、安全と衛生を保つため健康診断を行う。
レプリロイドもその例には漏れなく、こうして銀髪の少女が名を呼ばれるのを待っているのだ。

『クワンガーさん。ブーメル・クワンガーさん、待合室へどうぞ』
受付カウンターの天井に設置されたスピーカーから、高い女の声。
クワンガーは重い腰を上げ、待合室と書かれた矢印に歩行を沿わせた。

「お金が無ければ、甘い物が食べれない」
嘆息が、少女の口から漏れる。

「甘い物が食べれなければ、動きたくない」
室というからには、部屋であるはずなのだろうが、誰が見ても矢印の終着点は通路だ。
壁に密着して置かれた丸椅子に、クワンガーは座る。



111 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:13:29.29 ID:eNUGwG2m0
「動かなければ、お金は稼げない」
ため息が出るのを止められない。
少女は憂鬱に顔を染めて、本日何度目かの不満と不機嫌の息を吐き出した。

「といっても、行き着くところは給料日か……」
銀の滝が落ちる額を押さえ、良くない状況に頭を抱える。

「おー、クワンガー。検尿するから、これに溜めてくれ」
そんな彼女にかかるキーの高い声。
紙コップを手にした、白衣の少女が横から現れた。


「甘い物が食べたい……」
狭き個室。清潔に保たれた便器。
ドアの荷物かけにトレンチコートの襟を、そして下半身を覆う装束を脱いだ。
クワンガーは相変わらず嘆息を続け、下着であるふんどしを、白い布として解体する。

銀の煌きが散らばる股間を外気に晒し、便器に座り込んだ。

「大丈夫、耐えられるよクワンガー。こういう窮地はよくある事だ」
自分に言い聞かせ、秘部に紙で出来たコップの口を押し当てる。
検尿の羞恥よりも勝る、甘い物への渇望。



114 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:15:47.50 ID:eNUGwG2m0

「んっ……」
と、クワンガーは排尿の呻きを漏らした。
股間から飛び出る黄金色をした小水が、コップに注がれ、溜まってゆく。
体の反射で、少女は全身を震わせた。

「正義のヒーロー……ブーメル・クワンガー、立ち上がれ」
溢れそうになるま尿の入った紙コップを荷台に置き、自分の言葉通り立ち上がる。

「憎き、ゴルゴムの手先であるケインを打ち倒すのだ」
悦に入り、コップを持つ方ではない拳を、何かに決起したクワンガーが力を込め掲げた。

トイレで下半身に衣服を纏わず、意味不明な言葉を吐く少女。――その姿は異様を極めた。



「お前、これ入れすぎ」
「不不不非っ……ゴルゴムの仕業だ……」



118 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:18:10.44 ID:eNUGwG2m0

3日目。

「不不不……甘さが欲しい」
「旦那!! おはようございます!!」
動く事もままならず、自宅で待機していたクワンガー。
カメレオンの形をした訪問者が、玄関から飛び出て現れる。

床で倒れ付す銀髪は、胡乱げな視線を元気が溢れる少女にくれてやった。
「大変みたいですね!! これ、お土産です!!」
それを気にせず、少女――カメリーオは腕に抱いた瓦のような箱を差し出す。

「お土産とな!? ――甘いのか!?」
その言葉と、目に入った箱によって、クワンガーの体は地から飛び上がった。

「饅頭ですって!!」
にこにこと笑みを浮かべ、カメリーオは箱の中身を説明する。
何故か正座をするクワンガーは、大きく頷いた。



119 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:19:36.89 ID:eNUGwG2m0

箱を見下ろす。

『ナマズロス堂 どじょう掬い饅頭』

箱を床に落とす。

「ナマズロス……あの関西娘のか……」
クワンガーは再び床に倒れ付し、絶望感を顔に滲ませる。

「捨ててきたまえ」
そして、カメリーオに向け手を打ち払った。

「えー!? 何でですかー!!」
「甘い物が食べたい……」
全身を襲う気だるさに、クワンガーは目を閉じ、暗闇の世界へと旅立った。

4日目。

「旦那!! これは、どうですか!!」
昨日の訪問者が、懲りずに今日も来る。
ずっとそうしているのか、クワンガーの体は床に根をはっていた。


122 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:21:53.00 ID:eNUGwG2m0
疑問の目。
赤眼の視線は、カメリーオの手に握られた肌色をした棒。

「遺産らしいですよ!!」
少女が視線に気づき、楽しそうに棒を振り回した。
それがどうなのか、クワンガーは考えるが答えは出ない。
動くのは無理なので、仕方なくカメリーオに任せようと判断した。

「わっ!?」
黄色の悲鳴。
「……どうかしたのかね?」
クワンガーの怠惰な問いがそれを追う。

「おちんちんです!!」
羞恥の無いカメリーオの発言。銀髪が生える頭ががっくりと落ちた。
片側だけ髪を三つ編んだ少女の股間から、屹立する男の象徴が出現していた。

遺産。
いつものクワンガーなら、使用方法やその結果に興味を持つのだが、今は甘い物しか考えることができない。

「あのねあのね!! 本物じゃない見たいだから、出るのはせーしじゃないと思います!!」
「だから?」
クワンガーの声に覇気が薄れてゆく。
危険だと、少女自身も判断するが、どうする事もできない。


124 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:24:10.38 ID:eNUGwG2m0
カメリーオは自分に生える男性器を擦り、
「白いの……きっと、カルピスですよ!! これで旦那は助かります!!」
と言った。

「カルピス!?」
根拠の無い少女の言葉だが、思考能力の低下したクワンガーは顔を輝かせ、跳ね起きる。

「素晴らしいね。是非とも吐き出したまえ、ハリー、ハリー」
膨張するペニスを前に正座し、事の時を待ち望んだ。
それに答え、カメリーオが自らに生えたのを上下にしごく。

「んんっ……」
少女に、あるはずないものが生える。その光景は見る者に倒錯を与えた。

「難しいですよぉ……旦那ぁ……」
自分の手では上手く快感を引き出せず、カメリーオは泣きそうになる。

「仕方あるまい」
クワンガーは涙を溜める少女に微笑み、舌を出すとその先端を舐めた。
効果は顕著だ。
カメリーオは全身を震わせ、突き抜ける快楽に腰が砕けそうになる。

「……あっ!? 出ちゃいます!! 旦那、出ちゃいます!!」
そう時間もかからず、少女は放精の警告を出した。
口を大きく開け、クワンガーがペニスを口内に収める。


130 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:27:25.81 ID:eNUGwG2m0

「リオの白いの出ちゃうぅぅ!! ふあああああん!!」
熱い奔流が少女の口の中で爆発する。
どぷどぷと音を立てて射精が行われた。
男性器を生やす少女が、悲鳴をあげながらクワンガーの頭を抑え、白い液体を吐き出し続けた。

「ぬににぃ……ど、どうでしたか? 旦那」
落ち着く遺産。
もごもごと頬を動かす銀髪の少女に、艶かしく顔を赤くしたカメリーオが、笑いかけた。

ゆっくりと味わい、飲み込んだクワンガーの顔は渋い。
結果を言った。

「…………牛乳だ」

5日目。

「ふるふぉーす、昨日よりー早くー、走るのーが条件ー」
歌う。
「自分のげんかーい、いつも、抜き去ってーいくのさー」
歌う。
クワンガーはそれしかする事ができない。


134 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:32:18.38 ID:eNUGwG2m0
6日目。

「かゆ……うま……」
言語すらおかしくなる。
いつから置かれたのか、玄関に見慣れないダンボール箱が置かれていた事に気付いた。

銀髪の少女は首をゆっくりと傾げ、クリーム色の箱ににじり寄る。

『――仕送り――姉ちゃんへ。グラビティー・ビートブード』
表面に少女の家族の名。
かすかな希望を見出し、クワンガーは箱を開ける。

開かれた光り輝く扉。

クワンガーは震える唇で、
「不不不……これ、昆虫用のゼリーだよ」
中身を呟いた。

「あはははははははは!! これ!! ……これ、昆虫用のゼリーだよ!!」
立ち上がり、腹を押さえ、ダンボールを指差したクワンガーが哄笑する。

「昆虫用のゼリー!!」
少女の目は血走り、狂気が顔に広がる。


138 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:34:31.54 ID:eNUGwG2m0

「虫が食べるやつだよ!!」
箱からゼリーの入った袋を取り出し、包みを破る。
床に散らばる、三色の昆虫の餌。

「これ、食べるの? 私がこれ食べるの?」
否定に頭を振った。
そして、食べてみようかという考えがよぎる、とにかく悲鳴をあげて頭を振った。

「う……あ……ああああああああああああああ!!!!!」
銀髪の載る頭部を押さえ、クワンガーが絶叫する。



「…………ちょっとだけ……甘い」
プライドは投げ捨てられた。

7日目。

「不不不……乗り切った……! 乗り切ったよ!!」
廊下を異常者が、ふらふらとおぼつかない足取りで歩む。

「甘い物食べれるよ!! いっぱい、いっぱい、食べれるよ!!」
給料を求め、クワンガーが上司の下へと力を振り絞った。


141 :甲虫観察日誌 :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 01:37:29.66 ID:eNUGwG2m0

「嫌なことあっても、甘い物食べれば――」
空気を大きく吸い込み、
「――治るよ!! 治るよ!!」
人の目など気にせず廊下で叫ぶ。

「クワンガー…………」
突然現れるケインの姿。
沈痛な瞳でクワンガーを一瞥し、優しく肩を叩くと、紙片を手渡す。

紙には、
『検査結果:重度の糖尿病』

「その……気の毒にな」



「マック、これ何の遺産なんだ?」
「詳細は不明だが、パーティ用らしい。旧世代人の考えは解らんな」

<了>

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー