Irregular`s Elegy
少女の声を聞きながら、エックスは半身を捻る。
横を、炎の塊が駆け抜けた。
横を、炎の塊が駆け抜けた。
頭上から爆炎の雨――様々な大きさを持つ火弾が、急降下する。
エックスは横転しながら、バスターを放った。
エックスは横転しながら、バスターを放った。
宙で交差するいくつもの赤と、一つの白。
ファイヤーウェーブは空爆するが如く、地面を裂け散らして、エックスを襲う。
切り結んだエックスのバスターが、巨人の大きな胸部に当たるが、ナウマンダーは歯牙にもかけない。
切り結んだエックスのバスターが、巨人の大きな胸部に当たるが、ナウマンダーは歯牙にもかけない。
火球の一つが青き腕に命中し、少年の身体は錐もみしてショーウィンドゥに叩きつけられた。
煙を上げる右腕に、苦痛を噛み締めながら、エックスは押し倒したマネキンを蹴飛ばす。
煙を上げる右腕に、苦痛を噛み締めながら、エックスは押し倒したマネキンを蹴飛ばす。
素早く車道に復帰して、直ぐに跳躍。
ナウマンダーの頭と同じ高さを誇る炎の波が、爆進して洒落たブテッィクを押し潰す。
可燃性の物質でもあったのか――赤いウェーブは、木で出来た少女ごと店を灰燼に変え、ビルごと爆破した。
ナウマンダーの頭と同じ高さを誇る炎の波が、爆進して洒落たブテッィクを押し潰す。
可燃性の物質でもあったのか――赤いウェーブは、木で出来た少女ごと店を灰燼に変え、ビルごと爆破した。
一気に燃え広がり、大型の建物が横に倒壊する。エックスは悲鳴をあげて、前へと受身も考えず飛び込んだ。
ナウマンダーが会心の咆哮をあげる。広がる赤に、巨大な質量が小躍りした。
ナウマンダーが会心の咆哮をあげる。広がる赤に、巨大な質量が小躍りした。
そして、象型のイレギュラーは全身を震わせて呻く。
それを成したのは、鋭く疾るエレクトリックスパークだった。腹ばいの状態から、エックスは雷撃を撃ち出していたのだ。
それを成したのは、鋭く疾るエレクトリックスパークだった。腹ばいの状態から、エックスは雷撃を撃ち出していたのだ。
『操作システム、異常発生』
紫電が巻き起こり、桃色に纏わりつかれる球体のボディから、電子音が流れた。
間接部分から火花を上げ、ナウマンダーは首の無い頭部をがくがくと揺らす。
紫電が巻き起こり、桃色に纏わりつかれる球体のボディから、電子音が流れた。
間接部分から火花を上げ、ナウマンダーは首の無い頭部をがくがくと揺らす。
エックスの瞳が勝機を見出したかのように輝き、地面を蹴って立ち上がった。
フットパーツが少年のボディを押し上げて、エックスは空中でバスターを――ナウマンダーの後方に向ける。
フットパーツが少年のボディを押し上げて、エックスは空中でバスターを――ナウマンダーの後方に向ける。
射撃音が連続し、エネルギーの火線が迸った。
左右の建築物が貫通し、ガラスや壁を破砕させる。飛び散る窓の破片が車道に降り注ぎ、壁片が血潮のようにぶちまけられた。
左右の建築物が貫通し、ガラスや壁を破砕させる。飛び散る窓の破片が車道に降り注ぎ、壁片が血潮のようにぶちまけられた。
エックスのバスターによって、商店を内包したビルが蹂躙され、穴だらけとなる。
その向かいの宝石を扱う建物を半壊させ、先の洋服店とは別の店も破壊し尽くした。
その向かいの宝石を扱う建物を半壊させ、先の洋服店とは別の店も破壊し尽くした。
「ついに……いかれたか、エックス」
ケインの言葉を背に受けながら、青い身体が反転。
ケインの言葉を背に受けながら、青い身体が反転。
雨より冷たい言葉を放つケインの、後方に建つ遊戯場が入る店を撃つ。
光の奔流がガラスの扉を入り口から引き剥がし、テレビゲームが置かれる店内を爆砕させた。
光の奔流がガラスの扉を入り口から引き剥がし、テレビゲームが置かれる店内を爆砕させた。
巨体を揺らすナウマンダーと、目まぐるしく立ち回るエックスを中心に、エネルギーの嵐が吹き荒れる。
周囲のビルを破壊するエックスの銃口が旋回し、電気店に狙いを定めた。
周囲のビルを破壊するエックスの銃口が旋回し、電気店に狙いを定めた。
チャージされたバスターが放たれ――
「……くっ!?」
両脇に大型のテレビを置いた入り口が爆発するのと同時に、小柄な影が車道に飛び出す。
盗難防止用の門とテレビの破片を浴びながら、燃えるような髪を持つ少女が転がった。
「……くっ!?」
両脇に大型のテレビを置いた入り口が爆発するのと同時に、小柄な影が車道に飛び出す。
盗難防止用の門とテレビの破片を浴びながら、燃えるような髪を持つ少女が転がった。
「こいつが……」
ケインとエックスの二対の瞳が、橙色をした頭髪の下で赫怒に彩る少女の顔を貫く。
幼い顔立ちの少女は、手術衣のような薄い服装だった。それ以外には何も纏わず、寒空の雨で暗い色に染まる。
ケインとエックスの二対の瞳が、橙色をした頭髪の下で赫怒に彩る少女の顔を貫く。
幼い顔立ちの少女は、手術衣のような薄い服装だった。それ以外には何も纏わず、寒空の雨で暗い色に染まる。
寒そうな格好だが、少女は身体を震わすことなく、寧ろ、その白い頬を噴き上がる怒りに赤くした。
彼女の首元で揺れる、小さな金属。エックスが目を凝らすと、それはライターのようだ。
彼女の首元で揺れる、小さな金属。エックスが目を凝らすと、それはライターのようだ。
凝らされた目が上を向く。オレンジの髪には赤が混ざっており、本当に炎を思わせた。
伸ばし放題にされている少女の長髪は、薄着の下でラインを描く小さな臀部で揺れる。
伸ばし放題にされている少女の長髪は、薄着の下でラインを描く小さな臀部で揺れる。
「あなたが……ナウマンダーさん、ですね」
エックスの右腕の銃口から上る白煙が、雨に裂かれて千切となった。
自分より年下の少女を見ても、エックスの顔色は変わらない。少女を目にしてから、少年の表情は悲しげなものになっている。
エックスの右腕の銃口から上る白煙が、雨に裂かれて千切となった。
自分より年下の少女を見ても、エックスの顔色は変わらない。少女を目にしてから、少年の表情は悲しげなものになっている。
「うはははははは!! エックス、焼いてやるぞ……焼いてやる……うはははははは!!」
残った瞳を明滅させ、巨体が哄笑しながら揺れた。
炎を吐き出す人形――目前の少女が操作する〝ナウマンダー〟が狂ったように笑う。
残った瞳を明滅させ、巨体が哄笑しながら揺れた。
炎を吐き出す人形――目前の少女が操作する〝ナウマンダー〟が狂ったように笑う。
「エックス……!」
戦闘に高揚する巨人とは違い、少女――バーニン・ナウマンダーは怒りを露に、エックスを睨み付けた。
戦闘に高揚する巨人とは違い、少女――バーニン・ナウマンダーは怒りを露に、エックスを睨み付けた。
白い面が、左右のビルで膨れ上がる炎で揺らめく。
対するエックスはバスターを降ろし、その視線のナイフを受け止めた。
対するエックスはバスターを降ろし、その視線のナイフを受け止めた。
「アイちゃんの事なんでしょう……」
エックスが、ぽつりと呟く。
エックスが、ぽつりと呟く。
ナウマンダーへの違和感に気付いた時、もう一つ気付いた事実。
小さきペンギン型の少女と、目の前に居るレギュラーが友人であった事だ。
小さきペンギン型の少女と、目の前に居るレギュラーが友人であった事だ。
「……戦わなければ、殺される」
エックスと同じ小さな呟きだったが、ナウマンダーのそれは噴火寸前の火山を思わす。
エックスと同じ小さな呟きだったが、ナウマンダーのそれは噴火寸前の火山を思わす。
「あたしで実験した奴は、そう言った」
雨が、三者に降り注いだ。
ナウマンダーの怒りは雨に濡れても沈静化せず、エックスは表情を空と同じ色にし、黙するケインは少年の後ろで腕を組む。
雨が、三者に降り注いだ。
ナウマンダーの怒りは雨に濡れても沈静化せず、エックスは表情を空と同じ色にし、黙するケインは少年の後ろで腕を組む。
「――お前が好きだった馬鹿ペンギンは、そのお前に殺された」
煮えたぎる怒りがぶつけられた。
エックスは両肩を震わし、ケインが目を細める。
煮えたぎる怒りがぶつけられた。
エックスは両肩を震わし、ケインが目を細める。
「あいつらの言うとおり、この世界は死と隣合わせなんだ」
ナウマンダーの横に位置する巨人は、先ほど哄笑してからは黙ったままだ。雨粒に打たれる巨体の隻眼が、エックスを見下ろす。
ナウマンダーの横に位置する巨人は、先ほど哄笑してからは黙ったままだ。雨粒に打たれる巨体の隻眼が、エックスを見下ろす。
ケインは腰を低くし、ナウマンダーの出方を伺った。
今は大人しいものだが、いつ彼女が激昂して、この場を焦土にするかは解らない。シグマに向けた銃の銃杷を、腋に垂れるガンポーチの中で握る。
今は大人しいものだが、いつ彼女が激昂して、この場を焦土にするかは解らない。シグマに向けた銃の銃杷を、腋に垂れるガンポーチの中で握る。
「僕は……」
「弱い者は虐げられ、強い者がのさばる……!」
言葉は、憤怒に遮られて霧散した。
ナウマンダーが吼えながら、エックスに近づく。小さな背が、小さな腕でエックスの胸倉を掴み、自分の顔に近づけさせた。
「弱い者は虐げられ、強い者がのさばる……!」
言葉は、憤怒に遮られて霧散した。
ナウマンダーが吼えながら、エックスに近づく。小さな背が、小さな腕でエックスの胸倉を掴み、自分の顔に近づけさせた。
「ラボに居た、あたしの友達も殺された! …………だが、あたしは違う!!」
怒れるナウマンダーだが、言葉の端々で歪んだ笑みが浮かんでいる。
エックスは今度は受け止めれず、激怒の炎を宿すナウマンダーの瞳から顔を逸らした。
怒れるナウマンダーだが、言葉の端々で歪んだ笑みが浮かんでいる。
エックスは今度は受け止めれず、激怒の炎を宿すナウマンダーの瞳から顔を逸らした。
「馬鹿ペンギンは、小さいから死んだ! 弱いから、〝大きな〟お前に殺された!!」
目前で爆発する、少女の怒り。
ケインは密着しあう両者から忍んで、銃を引き抜く。
目前で爆発する、少女の怒り。
ケインは密着しあう両者から忍んで、銃を引き抜く。
「そうさ……そうさ!! 弱い奴は死ぬがいい!! 強い奴が生き残ればいい!!」
噛み付くように言い放ち、ナウマンダーは口の端を歪めた。
腕に力が籠められ、少女の白い鼻とエックスの形の良いそれがぶつかる。
噛み付くように言い放ち、ナウマンダーは口の端を歪めた。
腕に力が籠められ、少女の白い鼻とエックスの形の良いそれがぶつかる。
「あたしは違う!! このボディがある!!」
灰色が蠢いた。
ナウマンダーは横目でケインの姿を捉え、エックスの胸を蹴り飛ばす。その反動で、小さな身が後ろに跳ねた。
灰色が蠢いた。
ナウマンダーは横目でケインの姿を捉え、エックスの胸を蹴り飛ばす。その反動で、小さな身が後ろに跳ねた。
「……なら、やられる前にやるだけだ!!」
ケインの腕が跳ね上がり、同時に銃弾が発射される。
少女の頭部に向けられた鉛のエネルギーは、迷うことなく目標に突き進み――だが、地面に突き出された巨大な腕で弾かれた。
ケインの腕が跳ね上がり、同時に銃弾が発射される。
少女の頭部に向けられた鉛のエネルギーは、迷うことなく目標に突き進み――だが、地面に突き出された巨大な腕で弾かれた。
巨体が動き出し、空洞となった目と明滅するのがケインを睨む。
ナウマンダーの〝半身〟は、着地する少女の手に握られる黒い装置の命を受け、太い右腕を振り上げた。
ナウマンダーの〝半身〟は、着地する少女の手に握られる黒い装置の命を受け、太い右腕を振り上げた。
「人間風情が、オデに勝てる訳がねぇ!! とっとと消えるんだなぁ!!」
「お前は、暴れすぎだ。――そろそろ、停止しろ」
烈火と零下――両極の応酬。
ちろちろと蛇の舌のような火が巨人のバスターで燻ぶり、ケインが構える銃のスライドが引かれた。
「お前は、暴れすぎだ。――そろそろ、停止しろ」
烈火と零下――両極の応酬。
ちろちろと蛇の舌のような火が巨人のバスターで燻ぶり、ケインが構える銃のスライドが引かれた。
「馬鹿ペンギンを殺したお前が、伝説のレプリロイドと呼ばれ……そして世界を救う――」
地面に手を付き、側転するナウマンダーの足元で銃弾が弾ける。
その横で、火花と土塊を吐き出しながら、巨人の腕が銃撃するケインへ薙いだ。
地面に手を付き、側転するナウマンダーの足元で銃弾が弾ける。
その横で、火花と土塊を吐き出しながら、巨人の腕が銃撃するケインへ薙いだ。
「お前なんか認めない!! お前のような、ふざけた存在なんて!!」
エックスとケインが同時に跳躍し、少年はナウマンダーに向かい、ケインは迫る質量を回避する。
エックスとケインが同時に跳躍し、少年はナウマンダーに向かい、ケインは迫る質量を回避する。
「殺してやる!! このボディなら、怖いものなんか無い!! 研究所だって、吹き飛ばせた!!」
軽い身が宙を舞う。
少女の軌道を銃弾が削り、手術衣の袖が薄青の蝶を生み出した。ひらりと飛ぶ布の欠片も、続く曳光に貫かれる。
軽い身が宙を舞う。
少女の軌道を銃弾が削り、手術衣の袖が薄青の蝶を生み出した。ひらりと飛ぶ布の欠片も、続く曳光に貫かれる。
空になった弾倉を地に落とし、横っ飛びをしながらケインは新たに給弾した。巨腕がそれを追い、大砲の威力を秘めるストレートが地面を陥没させる。
ぎりぎりで避けながら、ケインが爪先に力を入れて己の身を旋回。
ぎりぎりで避けながら、ケインが爪先に力を入れて己の身を旋回。
黒い石床が散華する――右手のアスファルトに腕を埋める巨人の顔面に、ケインは鉛弾を連発した。
いくつもの火花が象型で弾けたが、巨人に効果的なダメージを与えた様子は無い。
いくつもの火花が象型で弾けたが、巨人に効果的なダメージを与えた様子は無い。
舌打ちするケインの後方で、エックスとナウマンダーが睨む合う。
エックスの哀愁が漂う黒瞳と、ナウマンダーの赫怒に揺れる金色の瞳が激突した。
エックスの哀愁が漂う黒瞳と、ナウマンダーの赫怒に揺れる金色の瞳が激突した。
「ナウマンダーさん!!」
「殺してやる、エックス!! あたしは、ペンギーゴみたいに――簡単には殺されないんだぞう!!」
二人の隙間を、巨体が押しつぶして埋める。
ケインとの戦闘を切り上げ、とんでもない質量を持つメカニロイドが飛び上がってきたのだ。
「殺してやる、エックス!! あたしは、ペンギーゴみたいに――簡単には殺されないんだぞう!!」
二人の隙間を、巨体が押しつぶして埋める。
ケインとの戦闘を切り上げ、とんでもない質量を持つメカニロイドが飛び上がってきたのだ。
水しぶきを伴う衝撃波に、エックスは顔を腕で防ぎ、目を瞑る。
開いた時には、ナウマンダーが巨体に突進し、丸太のような脚部の取っ掛かりを足場にしていた。
開いた時には、ナウマンダーが巨体に突進し、丸太のような脚部の取っ掛かりを足場にしていた。
少女は、上空へと自身を飛ばす。向かう先は、巨人の肩だ。
鉄色の肩部に着地し、細い首から紐のような物を抜き取る。
鉄色の肩部に着地し、細い首から紐のような物を抜き取る。
「気をつけろ。直接、あのボディを操作するつもりだ」
エックスの背に駆けつけたケインは、細身のコードを巨人の頭部に接続するナウマンダーを目にし、そう言った。
後方の警告へ、エックスが無言で頷く。
エックスの背に駆けつけたケインは、細身のコードを巨人の頭部に接続するナウマンダーを目にし、そう言った。
後方の警告へ、エックスが無言で頷く。
相変わらず降水の洗礼を送る灰色の空だが、ここで唸りをあげた。
天が焦げ、じぐざぐな白い線引きが行われる。マンドリラーやエックスのでは無く、自然の雷だ。大雨は、雷雨となる。
天が焦げ、じぐざぐな白い線引きが行われる。マンドリラーやエックスのでは無く、自然の雷だ。大雨は、雷雨となる。
「ケイン博士は、手を出さないでください」
呟き。
バスターを撫でながら、エックスは巨人へと歩んだ。
呟き。
バスターを撫でながら、エックスは巨人へと歩んだ。
「――決着をつけます。僕、自身を」
ケインは訝しげな顔をするが、青い背から漏れる決意に押し黙る。
雨を切り裂きながら、進むエックス。
ケインは訝しげな顔をするが、青い背から漏れる決意に押し黙る。
雨を切り裂きながら、進むエックス。
「勝負だ!! お前は、世界を救う伝説のレプリロイド!! そうだろ!?」
見下ろすナウマンダーが、少年へ怒りと笑みを混ぜた物を投げかけた。
巨人の放射器から炎が溢れ、エックスのバスターは光を収束させる。
見下ろすナウマンダーが、少年へ怒りと笑みを混ぜた物を投げかけた。
巨人の放射器から炎が溢れ、エックスのバスターは光を収束させる。
「その未来もお前も、あたしが踏み潰してやる!!」
「オデに、跪くが良い!! 弱者め!! うははははははは!!」
咆哮と、それに負けない少女の怒りの声が響き渡り――爆炎は、大きく膨れ上がった。
「オデに、跪くが良い!! 弱者め!! うははははははは!!」
咆哮と、それに負けない少女の怒りの声が響き渡り――爆炎は、大きく膨れ上がった。