傀儡は梔子を自在に操り、男の死体を担ぎ上げさせる。
死は酷く醜いものだ。やはり永久不変こそが美だと改めて認識する傀儡。
そしてその場から立ち去り場所を変え、傀儡が住み着いているアトリエへと到着する。
「まずは血抜きだな。次は臓物を抜き取り……」
慣れた手つきでそれらの動作をしていく。
時間経過とともに死体はあるべきものを抜き取られて、最終的に残ったのは器のみ。
臓物も血液も思い出も矜持も人格も―――全て抜き取られた。全て奪われた。
「さて、この素材で今度こそ異能傀儡を成功させるか。」
「今まで20ほど能力者という素材を用いてみたがどうも機能しない。」
「異能が全く使えぬ木偶人形に成り果ててしまう。」
そんな愚痴とともに異能傀儡へと変貌させようとしたが―――やはり失敗する。
「………これも失敗作か。くだらねぇ。やり方を変えるか。」
「その前にこの傀儡に多少の装飾を加えるか。」
「異能傀儡に出来ないのならば椿・牡丹・梔子のように運用するだけだ。」
「その前に分割するか。運搬するのに身体丸ごとあったんじゃ面倒だ。」
分割された異能傀儡の失敗作をアタッシュケースへと押し込み、その言葉の後外出する。
目的地は祖国の兵器開発室。そこに知り合いがいるのだ。
そこへ今運搬しているできそこないに祖国の兵器を搭載させる算段である。
そして担ぎ込まれた失敗作の傀儡となり下がった男は祖国の兵器開発室へと運搬された。
「まったく…いつも思うけどさ。お前は趣味が悪いな。能力者の傀儡なんて誰が好き好んで…ブツブツ」
嫌悪感をあらわにする兵器開発室の人間。だがその感性は―――
「ああ、そうだ。人間が装備することを前提とした兵器があんだけどさ、それをその気色悪い人形に取りつけてもいいか?」
「威力は確かなものがあるんだよぁ…機械じゃなくて人にそれを搭載させるってのはロマンなんだよなぁ」
「でも人間って貧弱だよな。並みの人間じゃ装備してすぐにダウン。」
「鍛えた軍人に装備させて運用してみたんだが発射した後に身体に多大な負荷が掛かってぽっくり逝っちまった。」
「ったく、なっさけねぇよなぁ!!。男のロマンを装備してんだからそれぐらい気合と根性とロマンで克服しろってんだ!!」
ご覧の有り様である。つまり狂人の部類に入る人間である。
「御託はいい…さっさとその兵器を取り付けろ。どうせ誰も使いやしないんだろ?」
対して傀儡は冷静である。用件だけをさっさと済ましてほしいのだ。
傀儡の冷静で無機質な音の直後に突如研究者は言葉を発した。
「――…あっ!いけねぇや!忘れてた!」
突然あわててどこかへと消える研究者。そのせわしい姿をガラス玉の目でただ映すだけの傀儡。
一言「くだらねぇ」と消え入るような声でそう呟き視線を虚空へと彷徨わせながら研究者の帰還を待つだけだった。
数分後、額に汗をかきながら運動不足を伺わせる息切れの音の合間に言葉が継ぎ足される。
その継ぎ足された声の内容を統括すると以下のような内容であった。
―――背中の3連装レーザー以外にも搭載させたいものがある。
―――それは脚部に装着させて動きを補助し、一時的な機動力の向上を主としたものである。
「………失敗作とはいえ俺の作品だぞ。そんな科学の塊を幾つも搭載させるな。」
「まったく。……俺個人の解釈だが科学って言うのは人を支配するもんだ。人が科学に支配されてる。」
「そんな人の手に余るものを俺の芸術には不要だ。人が科学を支配し直してから搭載しやがれ。」
辛辣な言葉を兵器開発室の人間へと投げかけ少々の侮蔑と嫌悪を混ぜた沈黙を作り出す。
その沈黙を無造作に引き裂くように兵器開発室の人間は明朗に滑舌よく弁舌を始めた。
「確かに科学ってのはなぁ、人を豊かにしたり貧乏にしたり、人を救ったり殺したりと…」
「まぁ人はそれらに振り回されてるわけだけどよぉ。」
「そんなじゃじゃ馬を人間の手で制御できるようにするのに手を拱いてでも努力して芋虫のような一歩を歩みながらでも進み続けるのにロマンを感じるのよ。」
「だからよぉ、搭載させてくれや。ある種の死闘さ。お前も芸術家なら美と戦うなんてこともあんだろうがよ。お前にも俺の気持ちは理解できるはずだぜ?」
剛腕の政治家の演説をほうふつとさせる言葉を閉じたのは豪快な笑い。
ドンキホーテの騎士さえもあざ笑う挑戦。だがそれは不可能ではないと確信しているからこその豪快な笑い。
呆れながらその姿を見ていたが、同時にある種の説得力を感じた。
だからこそ傀儡の次の言葉は承諾であった。
そして傀儡は先日いたアトリエへと戻るのであった。
翌日―――魔改造された男の傀儡がアトリエへと運搬された。
その姿は人からはかけ離れた何か。中途半端に傀儡で、中途半端に科学の塊で。
それでも無下に扱う気にもなれず、とりあえず運用するのだった。
―――ここで外法傀儡の出番は終了する。
ここから先は
【狂機人形】とそれに2度目の生を強制した影絵のような男がメインとなる。
最終更新:2011年04月23日 00:51