アットウィキロゴ

真実と正義に怯え嘘と闇に隠れる少女

その少女はいつも通り学校に登校していた。
いつもと変わりない通学路。いつもと変わりなく話しかけてくれる近所の人たち。いつもと変わりなく仲のいい友達。
全ていつもと変わりない。平和で、幸せな一日の始まりである。

「おはよう!」

『おはよう!』

いつも一緒に登校する、仲のいい友達。女の子だ。
いつも通りにどちらからでもなく挨拶を交わす。そして雑談を交えながら、笑いあいながら、前へ進んでいく。
たまに誰かとすれ違う。その人たちにももれなく挨拶をする。

『ねえ?知ってる?』

「なにを?」

友達が新しい話題を持ってきた。ただし、顔は先ほどに比べて幾分暗い。

『最近さ。ここらへんに泥棒が出てるんだって!怖くない?』

「泥棒?」

『そう!しかもね?強盗だよ!人殺しちゃうの!』

「えー!」

まだ幼さの残る喋り方で出来るだけ正確に情報を伝えようとする友達。
それに、やはり幼さの残る相槌をうつ少女。
二人とも身振り手振りで少し誇張気味にリアクションをとる。

『学校でも注意されるかもね』

「家の鍵は閉めなさいって?」

『そうそう』

そこでその話題は終了した。この後は今日の授業についてだとか、この前格好いい男性を見ただとか。
そんな他愛のない会話を展開し、やがて二人の通う小学校にたどり着いた。
二人は小学五年生。待ちに待った三回の教室である。階段を段とばしで勢いよくのぼり、教室に元気よく入っていく。

『おはよー!』

教室に入るなり挨拶。教育が行き届いているらしい。
ざっと見渡す限り、男子が4、5人、女子が2、3人いた。男子も女子も混ざって何かを話している。
しかし、二人が入ってきたのを見るなり、話を中断し皆で二人に歩み寄る。

『なあ!今日の体育、ドッヂボールだって!』

『え?ほんと!?やったね!』

「えー。私ドッヂボール嫌いだよー」

喜ぶ友達と沈む少女。実に対照的である。友達は運動が大好きなアウトドア派。少女は読書とかが好きなインドア派。
もともと似ても似つかない二人なのである。

その後、HR。担任教師から適当に今日の予定を告げられ、HRは終了
各自一時限目の準備を始める。一時限目は国語だった。

そのまま時は経ち、現在昼休み。
殆どの生徒は体育館かグラウンドに出て思い思いに遊んでいる。サッカー野球、鬼ごっこ。勿論ドッヂボールをしている生徒もいる。
そんな中、少女は教室に留まり、本を読んでいる。小学生には早い難しい内容。それに普通の子供ならば敬遠しがちな挿絵なしで文字が小さく、厚い小説だった。
その文庫本を一心不乱に読んでいる少女。その背後に何人かの男子生徒が近寄る。
そして少女が読んでいる本を素早く横から取り上げ、何を読んでいるのか確かめるように表紙を見、ページをパラパラめくる。
それから、男子生徒はその本を少女に差し出す。

『お前よくこんな本読めるな。俺は今ので頭が痛くなったわ』

何人かの男子が「おれもー」等と続けた。この時期の男子は基本的にバカである。

「なによ?あんたたちが頭痛くなる本読んだらダメなの?」

『ちげーよ!どうしてそんなの読んでるのか聞いたんだよ』

少女は読書の邪魔をされたくなかったが、その質問には律儀に答えてあげることにした。

「それは頭が良くなるからよ。私、将来はすごい仕事をしてお父さんの為に沢山お金貰わないとだめなんだもん」

『でたー!お前やっぱりファザコンだったんだな!』

「え?ファザコンってなに?」

『お父さんが大好きなやつのことだってさ』

「ち、違うしっ!」

こんな奴らに構った自分を呪った。確かにお父さんは大切な存在だし、家族としては大好きだが、男としてではない。
もう一度言うが、この時期の男子は基本的にバカである。

顔を赤くして男子を睨み付け、反論する少女。

「違うから!私の家はお母さんがいないから私が沢山お金貰わなきゃダメなんだもん」

『本当にそれだけかー?』

ニヤニヤする男子たち。実に厭らしい。殴り飛ばしたくなる。
だがインドア派の少女に殴り飛ばすような力はないのでそれは心の中にしまっておく。

「あんたの家にはお母さんがいるからいいだろうけどね!ふん!もう知らない!」

そうこの少女の家に母親と呼べる人物はいない。少女とその父親の二人暮らし。
父親は仕事で忙しくたまにしか家にいない。そのため、自分でご飯を作ったりしなければならない。家事にも精通している少女であった。

と、その時昼休み終了の鐘が校内に響く。男子たちは慌てて自分の席に着き、その数分後に体育館やグラウンドに行っていた生徒たちが続々と教室になだれ込んできた。
そして担任教師も入ってきて、もう一度、今度は授業開始の鐘が鳴る。
次は五時限目。件の体育である。教師の指示で廊下に整列し、体育館へと進む。

廊下を静かに行進する生徒たち。やはり教育が行き届いている。静かな廊下に足音と衣擦れの音だけが聞こえた。
暫くして体育館に到着する。中に入っても列を崩さず、背の順で整列し始める。そして軽く準備体操をして、体育委員の男子がボールを取ってくる。
背の順で奇数と偶数で二つのチームに分かれ、ただ今外野を決める作業中である。
少女は出来れば外野がよかった。内野で当てられるのは嫌だからだ。だが、こういうところで本気を出す体育大好きな生徒たちの指示で順調に外野は決まってしまい、少女は内野にいることになってしまった。
外野には野球のクラブチームに所属している男子3人がはいった。

間もなく試合が開始された。ボールが交互に飛ぶ。
放物線を描いてゆっくり投げられたものが殆どだが、稀に小学生とは思えない速さで投げられたものもあった。
その中を必死で逃げ回る少女。何故か執拗に狙われる。
そして遂にボールに当たってしまう。その弾みでバランスを崩し、ずっこける。
周囲から笑いが漏れる。恥ずかしさで顔を赤く染めながらよろよろと外野に向かい歩いていく。

「なんで私ばっかり狙われるんだろ……」

憂鬱。そして独り言。明らかにほかの生徒より多く狙われていた。主に男子から。
運動神経のない少女は普通、後回しで狙うはずなのだ。おかしい。

『可愛いからじゃない?』

一緒に登校しているのとは別の、既に外野にいた友達が少女の独り言に返信をよこした。
そしてその内容にキョトンとする少女。

「私、別に可愛くないよ!それに可愛いんだとしたら普通狙わないでしょ?」

『ふふ…そうかな?』

「そうだよ」

意味深に笑う友達。この友達は恋愛に精通した女の子で、小学生のくせに既に彼氏がいる。しかも三人目。畜生。
つまりは男子のバカみたいな思惑などお見通しなのである。
好きな子をついついいじめたくなってしまうというあの謎心理なのであろう。
こんな簡単なことに気付かない少女は恋愛経験ゼロ。男子には嫌われていると思い込んでいる。そもそも興味もないが。
しかし、この少女はこの学校屈指の美少女。本人は知らないところでちょっとした有名人であった。

その後の展開としては、少女の所属するチームが勝利した。

帰りのHRが始まった。
担任教師ががらがらと音を立てながら教室の扉を開けて入ってきたのを確認すると生徒たちの話声は消え、日直が号令をかける。

『きりーつ!』

それに合わせて立ち上がるクラスメイトたち。全員立ったところで「帰りの会を始めます!」と日直がいい、全員礼をする。
そして着席。

『ちょっと報告があるから聞いてくれ』

と、教師。クラスがざわつく。

『もう知っている人もいるかもしれないけど、最近、この街に泥棒がいるので気を付けてください!』
『特徴を言うから、もし知っている人だったり見たことある人に似ていたら後から先生に言いに来てくださいね』

朝、友達に教えてもらった強盗の話であった。教師は一つ一つ丁寧に犯人の特徴を述べていった。
まず、犯人は二人組の男であること、二人とも背が高いということ、全体的に黒っぽい服装だということ、刃物を持っていること、最近多発的に事件を起こしていること、既に何人か『殺して』いるということ。
掻い摘んで説明しているようで、最後に「もし見かけても絶対に近づかないこと!」と注意する。
今日は集団下校になった。

集団下校なので家の近い生徒たちが集まり、教師が数人ついて一緒に帰るのである。
なので、現在一年生の三組の教室。比較的家が学校から遠い生徒が集められた教室である。
ここの区域は一番人数が少ない、一年生が二人。二年生と三年生はいない。四年生が三人。六年生が四人。
そして、五年生は一人。少女一人だ。一緒に登校している友達は中ぐらいの距離のグループに属している。一番人数が多いグループである。

「……………」

少女は手持無沙汰に暇を持て余していた。話す相手がいない。実に暇である。
早く出発しないかなーとか考えながら外を見ていた。
と、その時教室に慌ただしく入ってくる少年がいた。その少年を見て少女はギョッとした。
なぜならば、その少年は学校で一番喧嘩が強い「喧嘩番長」だったのだ。しかも同じ五年生。
学年ごとに席に座っているので少女の隣に喧嘩番長が座った。とても怖い、そして気まずい。これなら一人の方がましだった。

『おいお前』

声をかけられた。ビクッとして、外に向け直していた顔を恐る恐る少年に向ける。

「な、なんですか」

心なしか声が震えた。

『お前カーチャンいないんだってなwww』

「…………」

ムカついた。勝てないと分かっていてもぶん殴りたくなった。そんな勇気も度胸もないが。
少女は母親についてとやかく言われるのが大嫌いだった。

「だからなんなのよ………!」

不機嫌さを前面に出して珍しくちょっと大声をだした。

『悪い悪いwwwそうキリキリするなってwwwwブハッwww』

噴き出しやがった。最低ないじめっ子だ。ニヤニヤしながら少女を見ている。
まだここのグループを担当する教師が来ていないのでやりたい放題である。

「なんなのよ!お母さんがいなかったら何か悪いの!?」

短気と言われても仕方がないが怒りをあらわにした。その場に立ち上がり、少年を睨む。凄みや威圧感はまるでないが、少女にはこれが精一杯であった。
母親がいないからといって同情されたり特別扱いされたりいじめに会ったり、そういうのはもううんざりである。
いなかったらダメなのか?否、そんなことはないはずだ。

『おおwwやるか?wwww』

余裕綽々である。学校で一番強くて、相手は少女。しかもインドア派だ。負けるはずない、そう思っている。
少女もそう言われて、どんなに頭に来ても手出しできない。ムカつく。喧嘩番長と情けない自分に腹が立った。
そのまま少年から顔をそらし、頬杖をつき再び外を見る。もうすぐ夕方。空がきれいなオレンジ色であった。

『お。全員居るかな?』

少し予定より早く教師が来た。初老の男性教師。髪がうっすら白い。
しかし、背が高く、頼りになりそうな感じがした。
教師は生徒と名簿帳らしきものを交互に見て、小さくうなずく。

『よし、全員いるな。では出発だ。学年ごとに並んでくれよぉ』

廊下は各自で、玄関を出てから整列した。少女の隣は喧嘩番長こと少年。
二度と顔を合わせてやるものか、とそっぽを向く。少年は一瞬悲しそうな顔をしたように見えた。

なにも起こらずに順調に進んでいた。既に何人か自宅に到着し、グループから抜けていった。
少女は家までまだ距離があった。背けていた顔を前に向ける。
すると、残っているのは少女と教師と少年のみになっていることに気が付いた。最悪である。

『どうしたファザコン』

ちょっと顔を前に向けただけで少年にそんなことを言われた。今日初めて意味を知った言葉を言われた。
静まりかけていた怒りが沸々と体を駆け巡り再燃した。

「あんたに何がわかるっていうのよっ!!」

『わかんねえよwww』

「……………」

あっさり引き下がられては返す言葉もない。行き場のない怒りが体を震わせる。
もう殴ってしまおうかとも思った。

『おww俺の家ここだわwwwwじゃーなww』

律儀に手を振ってきた。勿論振りかえしたりはしない。
こうして教師と二人きりになった。気まずい。知らない教師には話しかけづらい。

数分後。自宅が迫って来たので。教師ともここで別れることになった。
きちんとさようならと挨拶をし、別れた。

自宅は群青色の屋根に真っ白な壁を持つ一軒家。二階建てである。
車がないので父親がまだ帰ってきていないのが見て取れる。

「…………………」

首にかけている鍵で玄関の扉を開け、すぐに鍵を閉める。泥棒に入られてはたまらない。
そしてまず、二階の共同部屋へ行く。ちなみに、少女は自分の部屋を持っていない。
空き部屋はあるが。中学生になった時にもらう約束である。

そこで、背負っていたリュックを降ろし、ベッドに飛び込む。
その瞬間、瞳から涙が零れ落ちた。
少年のせいだ。母親がいなくて何が悪い。
我慢していたものが一気に溢れ出す。そしてひとしきり泣いた後、一階に降りて、キッチンへ向かう。
タオルで涙をぬぐい、冷蔵庫を開ける。

「何にしようかな………」

独り言に返事はなく。一人には広すぎる家に虚しく木霊した。

ご飯は自分で作った。一人で食べた。宿題も終わらせた。テレビも見飽きた。というかずっと例の強盗のニュースしか報道していない。つまらない。
することがなくなったので風呂に入ることにした。浴室に行き、風呂を洗う。洗い終わったらお湯を入れる。

「……………」

お湯が溜まるまでに、学校で読んでいた文庫本の続きを読むことにした。
この本は頑張って溜めたお小遣いで買った。既に一回よみ終わっていて、これで二回目。
読むたびに新しい発見がある。多分。
ちなみに女の子らしく恋愛小説、ではない。短編推理小説だった。
現在読んでいるところはバラバラ殺人の話。例によって例の如く名探偵が登場し、今は証拠集めに奔走している。
何故小説の中の警察はこんなに頼りないのだろう。いつも思う。

暫くしてお湯が溜まったようだ。流水の音が止んだ。
それに気が付き、本にしおりを挟み、再び浴室に入る。溜まっているのを確認し、服を脱ぐ。
脱いだ服を全て洗濯機に放り込み、風呂に入る。
まずお湯で体を流し、洗う。そしてお湯に浸かる。
風呂の中では終始ボーっとしていた。

ハッと我に返った時には既に三十分が経過していた。体が重い。そしてのぼせたようだ。少し頭が痛い。
とりあえず、お湯から出た。
バスタオルで体を隅々まで綺麗に拭き、パジャマを着用する。
殆ど模様の入っていない薄いピンクのパジャマだ。

居間に戻ると、テーブルの上に少女が父親の為に作り置きした肉じゃががサランラップに包まれて物悲しく置いてあった。
少女はそれを一目見て、そことは別のちゃぶ台的なテーブルの前に座った。
そして、リモコンでテレビの電源を入れる。時刻は八時、バラエティ番組が入っていた。
それを一人で見て、終わってみれば九時。寝る時間だ。

「もうこんな時間か……」

テレビを消し、二階の共同部屋のピンクのベッドにもぞもぞと入っていき、部屋の電気を消し忘れていたのでベッドから出て電気を消す。
今日が終わる。いつもと変わらない今日が、平和な今日が、最初で最後の今日が。
明日になればまたいつもと変わらない、平和な明日が始まる。




――――――――――――そう、思っていた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年06月01日 01:01
|新しいページ |検索 |ページ一覧 |RSS |@ウィキご利用ガイド |管理者にお問合せ
|ログイン|