翌日、美織に会いに行く怜梧。
美織は怜梧の顔を見るや否や取り付く島もなく去っていくが、怜梧はなんとか引き止める。
バンドへの勧誘をする前に、この前のことを謝る怜梧。しかし、美織はお前が謝る必要はないと言う。
わけがわからない怜梧に、美織はもうベースはやらないと言い切る。
怜梧は理由を問うが、当然教えてもらえない。
が、どうにも釈然としない怜梧は美織が未練たらたらの様子であることを見抜く。
そこで怜梧はとっさに、そこまで言うならもう一度お前がベースを弾きたくなるような曲を弾いてやると言い放つのであった。
『ベースって、なんだ?』
いつの話だったろうか。
確かあれは……初めての文化祭もとうに過ぎ、着々と押し寄せる秋の匂いが香り始めた頃だ。
俺と慎二郎は、まあこの時からおかしな縁により同じクラスに身を寄せていた。
後にその縁は、もはや予想通り2、3学年も適用されたわけだが。
そして、何の変哲もない平凡なある日のこと。
俺と慎二郎は机を並べて弁当をもりもり消費していた。
【慎二郎】「なぁ怜……」
【怜梧】「ん……?」
【慎二郎】「ベースって、なんだ?」
【怜梧】「なんだよ急に」
【慎二郎】「いやな、たまたま遊んでた女の子が軽音部でな、ベースがどうたら言ってたんだよ」
【怜梧】「……うん」
【慎二郎】「やっとうちの部活に救世主が出てきた!ってすっげー喜んでてなー」
【怜梧】「それで?」
【慎二郎】「で、俺はふと思ったんだ。ベースってどういう楽器なんだ?ってな」
【慎二郎】「ベースってさ、見てくれはギターと似てるもんだから違いがわかんねーんだよ」
【怜梧】「……似てるかあ?」
【慎二郎】「そりゃ多少なりとも音楽やってるお前はそう思うだろーよ。でもこれパンピーの質問だぞぉ?」
【怜梧】「お前パンピーだったの?」
【慎二郎】「今知った風に言うなよっ!!」
【怜梧】「んー……そうだなぁ……」
【慎二郎】「どうだ?」
【怜梧】「ギターと違ってベースは4弦だから……って言ってもわかりにくいよな」
【慎二郎】「わかりにくいな」
【怜梧】「……あぁあれだ。並べてみたらわかるけど、ネックが長くて……まぁ要するに、ギターより長い」
【慎二郎】「長いのか?」
【怜梧】「あとは……なんだろうな」
【慎二郎】「こう、ないのか?もっとわかりやすい……音の方とかさぁ」
【怜梧】「あぁ、低音部を司る重要なパートで……」
【慎二郎】「…………」
【怜梧】「ほら、ギターってさ、ぎゅいいいーーーん!!じゃん」
【慎二郎】「おお!そうだな。ぎゅいいいーーーんピロピロソーファーラウェイ!だ」
【怜梧】「うるせえよエレファントノイズ」
【慎二郎】「で、ベースはどうなんだ?」
【怜梧】「……べん」
【慎二郎】「べん?」
【怜梧】「ほら、べんべんぼぼんぶぉぉぉぉんだ」
【慎二郎】「べんべんぼぼ……なんだって?」
【怜梧】「べんべん…………いや、なんでもない」
【慎二郎】「んーまだわかんねぇな」
【怜梧】「ったくどう説明すりゃいいやら……」
【慎二郎】「ま、説明しにくいってもんなのはわかったさ。無理して頭捻らなくてもいいんだぜ?」
【怜梧】「…………」
【怜梧】「いや…………」
【慎二郎】「……怜?」
ああなんだ。簡単じゃないか。
バンドにおける、ベースの意義。
それを説明するのに、今この状況で最も適したもの。
【怜梧】「―――それだよ」
そして、俺は指差した。
慎二郎の持つ……”それ”に。
【慎二郎】「……はぁ?」
ぽかんとする慎二郎の手には、まだ半分も食べていないフレンチトーストが、ほのかに甘い香りを漂わせていた。
最終更新:2008年01月27日 01:23