シナリオ 北上ルート 8月18日(土曜日)・その4
親友と好きな人
せえら「………」
メイド長「お嬢様?」
せえら「メイド長、その映像は消すのですわ」
メイド長「ですがお嬢様、これは何かの時に使えますし」
せえら「いいえ、駄目ですわ」
メイド長「……分かりました。要先生だけの映像ならともかく、
北上さんが映っていますしね」
せえら「ですわ。それよりメイド長」
メイド長「はい、用意しております」
せえら「ありがとう、ではワタクシ行ってまいりますわ」
メイド長「はいお嬢様」
奏「これはもうセンセに責任を取ってもらなくちゃだし」
真緒「せ、責任ってお前」
真緒(しかしこれはもう教師と生徒という枠を越えて……)
奏「………」
真緒(いやしかし、まだ奏からそんな言葉は一度もない。
キスまでするんだから分かってるといえば分かってるけど)
奏「………」
せえら「入りますわよ」
真緒「八十記?」
奏「せえらちゃん?」
せえら「………」
八十記にお礼を言わなくちゃな。
おそらく運んだのはメイド長だとは思うけどさ。
真緒「八十記ありがとう。ぼくを運んでくれたんだよな」
せえら「ええ」
真緒「メイド長にも礼を言っといてくれ」
せえら「ええ」
奏「どうしたのせえらちゃん?」
せえら「カナちゃん、センコー」
真緒「なんだ?」
せえら「正直言いまして、ここまで頑張るとはワタクシ思っておりませんでしたわ」
奏「センセのおかげだよ、それとせえらちゃんやリオたちも」
せえら「ふふ、すっかりワタクシはおまけになってしまいましたのね」
奏「そ、そんなこと……」
せえら「ワタクシは喜んでますのよカナちゃん。ほんの少し寂しくもありますけど」
奏「……せえらちゃん」
真緒「………」
せえら「ずっと二人の練習を影ながら見てきましたわ。本当によくやりましたわねお二人とも」
奏「でも、アタシの歌は……」
真緒「………」
せえら「カナちゃん、歌がダメなら楽器があるじゃにゃーですか」
真緒「楽器?」
奏「え?」
せえら「ピアニカですわ」
八十記がピアニカを奏に差し出した。
それを見た奏も何かに気がついた様子だけど、いったいなんだろう。
奏「これって」
せえら「ええ、よく練習していたあの頃のピアニカですわ」
奏「せえらちゃん……」
せえら「歌がダメならピアニカでライブすればいいだけですわ。
ありきたりなバンド編成なんてカナちゃんらしくありませんし」
奏「……うん」
真緒「ピアニカで? 奏はピアニカ出来るのか?」
せえら「……ふふ、名前で呼び合ってるんですのね。ずいぶんと仲良くなって」
真緒「や、これは、その」
奏「………」
せえら「良いんですのよセンコー、それでこそヤンキー教師ですわ」
真緒(そ、そうなのかな)
せえら「ただ……」
真緒「ん?」
せえら「カナちゃんはワタクシの一番の友達だということをお忘れなく。なにかありましたら例え舎弟といえど許しませんわよ」
真緒「分かってるよ」
奏「………」
せえら「……ならいいですわ」
奏「センセ、アタシとせえらちゃん昔よくね、ピアニカを一緒に練習してたんだ」
真緒「へぇ」
せえら「ええ、今のセンコーとカナちゃんの様に毎日毎日でしたわね」
奏「へへ、あの時もたしかせえらちゃん具合悪くさせちゃったんだよね」
せえら「そんなこともありましたわね。
ま、ワタクシは貧弱な誰かさんとは違って倒れはしませんでしたけども」
真緒「はは……」
奏「アタシが音楽を好きになったのはね、せえらちゃんとのピアニカからなんだ」
真緒「そうなんだ」
奏「うん、物心ついた頃にはもうみんなから音痴だって言われてて、
それでほんとはね、音楽なんて大嫌いだった」
真緒「………」
せえら「……でしたわね」
奏「でも、せえらちゃんが一緒にピアニカを練習してくれて」
真緒「音楽好きになった?」
奏「うん、アタシの歌も個性だって言ってくれたし」
奏「悪口言ってる人には言わせておけ!ってせえらちゃんカッコよかった」
真緒「へぇ、さすがだな八十記」
せえら「ま、ワタクシの生き方ですわね。なんせ伝説のヤンキーですから」
真緒「二人にそんな事があったんだな、知らなかったよ」
せえら「ええ、最近のセンコーたちを見ていて思い出しましたの」
奏「ありがとうせえらちゃん」
せえら「親友と舎弟を助けるのは当然のことですわよ。お礼なんていらにゃーですわ」
真緒「ありがとう八十記」
せえら「だ、だから礼なんていらにゃーです!!」
真緒(照れてる照れてる)
奏「センセアタシね、ピアニカでライブ出る」
真緒「ピアニカで?」
奏「うん、今はまだ歌は自信ないし……だから」
真緒「うん、良いと思うよ」
奏「ほんと?」
真緒「ああ、メインがピアニカなんて面白いじゃん」
奏「へへ、さすがセンセ!」
せえら「ですわ。ボーカルがいなくてもどうにもなりますわ」
奏「でも来年は歌うからね!!」
せえら「ええ、楽しみにしてますわよ」
奏「え? せえらちゃんはキーボードだよ?」
せえら「な、なに言ってますの!? ワタクシは参加しませんわよ!!」
奏「だめ! 出るの!!」
せえら「嫌ですわ!!」
奏「なんでよ!!」
せえら「ヤンキーは影に生きるものですわ。表舞台に立つなど……」
奏「良いじゃん。ね? センセ?」
真緒「あ、いや、どうだろ……」
奏「センセとせえらちゃんはもう決定だからね」
せえら「なっ!?」
真緒「はは……」
来年のライブか。
一年後の今頃はどうなってるんだろう。
ま……今は目の前のライブだ。
八十記のおかげで奏も元気になったし、
新しい方向も決まった。
後は本番まで突っ走るだけだ。
真緒「それじゃこれからはピアニカの練習だな」
奏「うん!」
せえら「頑張るんですのよ。倒れる程の練習はだめですけど」
真緒「ああ、気をつける」
奏「うん、アタシも」
せえら「……では、ワタクシは失礼しますわ」
真緒「ありがとう」
奏「ありがとうせえらちゃん」
せえら「………」
メイド長「お嬢様……」
せえら「………」
メイド長「お、お嬢様……」
せえら「………」
メイド長「……今日は私が」
せえら「え、なんですの?」
メイド長「お嬢様の寂しさを埋めるべく」
せえら「わ、ワタクシは別に寂しくなんて」
メイド長「添い寝をさせて頂きたく思います」
せえら「ま、またそんなことを言ってますの!! ワタクシはヤンキーですのよ!!」
メイド長「いいえ、今日ばかりはいくらお嬢様の命令とはいえ聞けません」
せえら「ワタクシは嫌ですわよ。カッコ悪いじゃにゃーですか!!」
メイド長「そういう問題ではありません。今日だけは何が何でもそうさせて頂きます」
せえら「先に戻りますわ!!」
メイド長「あ、お嬢様お待ちを!」
最終更新:2010年07月13日 23:51