シナリオ 7月15日(日曜日)・そのE2
阿部高家
山を下り、街に出て、そこからまた人気の無い山の麓へと進む。[pcm]
道中ですれ違う人々や街並みから、ここが日本じゃないという事が分かった。[pcm]
最初は夢を見てるんだと思ったが、どうも現実らしい。[pcm]
そしてたどり着いたこの場所も、
日本ではあまり見られない豪華な洋館だ。[pcm]
真緒「おお、凄い」[pcm]
和「そうかい? でかいだけさ」[pcm]
真緒「ここは誰の家? 阿部高の知り合い?[lr]
ていうか、ホテルなのかこれ?」[pcm]
和「ん、俺の実家さ」[pcm]
真緒「実家なのか?」[pcm]
和「母さんが中にいるんだ。入ろうぜ」[pcm]
真緒「あ、ああ」[pcm]
真緒(これが実家……)[pcm]
真緒「凄いな……」[pcm]
映画でしか見た事のないような家だ。[lr]
凄いとしか言葉が出ない。
[pcm]
和「そうか?」[pcm]
上流階級というのはこういう家に住む人の事を指すのだろう。[pcm]
阿部高もやっぱりお嬢様なんだよな。[pcm]
和「母さんはリビングかな。行こうぜ」[pcm]
真緒「あ、ああ」[pcm]
和「母さん! 帰ったぜ!」[pcm]
ソファに一人の女性が背を向けて座っていた。[lr]
阿部高の呼びかけに振り向くと笑顔でそれに答える。[pcm]
和の母「お帰りなごみ」[pcm]
真緒「お邪魔してます」[pcm]
和の母「あなたがなごみの新しい先生ね。色々聞いてるわ」[pcm]
真緒「は、はい」[pcm]
あの阿部高の母とは思えない程、線の細い大人しそうな女性だ。[pcm]
どこか儚げで寂しそうで、でもそれが大人の魅力で……[pcm]
和「キミぃ、母さんに惚れちゃいけないぜ?」[pcm]
真緒「な、何を馬鹿な事を!!」[pcm]
和の母「ふふ、なごみがいつもお世話になってます」[pcm]
真緒「いえ、こちらこそお世話になってます。
今日はいきなりの訪問で申し訳ありません」[pcm]
和
「そう堅苦しくなることはないさ。俺が無理に連れてきたんだから」[pcm]
和の母「自分の家だと思って、ゆっくりしていって下さい」[pcm]
真緒「は、はぁ……」[pcm]
和「さて、俺は少し席を外すぜ」[pcm]
真緒「え? どこに行くんだ?」[pcm]
和「ん、ちょっとな」[pcm]
和「すぐに戻るから、しばらく母さんと話でもしててくれ」[pcm]
そう言って阿部高は席を離れた。[pcm]
和の母「あの子は相変わらずね」[pcm]
真緒「は、はぁ」[pcm]
和の母「先生、良ければ少しお話しませんか?」[pcm]
真緒「はい」[pcm]
和の母「どうぞ、そちらに座って下さい」[pcm]
促されてソファに座る。[lr]
なんの素材なのか知らないけど、フカフカだ。[pcm]
和の母「いつも苦労かけてると思います」[pcm]
真緒「阿部高の事でしょうか?」[pcm]
和の母「はい、あの子はあんなですから」[pcm]
真緒(中二病の事だろうな)[pcm]
真緒「いえ、クラスの子や寮の子達とも仲良くやってますよ」[pcm]
和の母「そうですか。それなら安心ですね」[pcm]
真緒「ええ」[pcm]
和の母「日本の学校に通わせる事になってからとても心配していたんです」[pcm]
そういえば書類に書いていたな。[lr]
小学校は実家、つまり外国の日本人学校に通っていたと。[pcm]
今まで忘れていた……というより、[pcm]
阿部高のような帰国子女の子はクラスに結構いるし、そもそもあの学園には珍しくないらしい。[pcm]
そんな事もあって、大勢の中の一人位にしか思ってなかったせいだろう。[pcm]
真緒「いえ、とても元気で人気者ですよ」[pcm]
和の母「ふふ、そうみたいですね。色々と大変な時期だから心配していたんですけど、
私の取り越し苦労ですね」[pcm]
真緒「ええ、毎日楽しくやってると思います」[pcm]
和の母「でも良かった。近頃のあの子はとても楽しそうで、私も嬉しいんです」[pcm]
真緒「そうですか」[pcm]
和の母「ええ、今日のなごみの楽しそうな顔。
ふふ、先生のおかげかしら」[pcm]
真緒「あ、いや、そうではないと思いますけど」[pcm]
遠く離れたお母さんに逢えた嬉しさって所だろう。[pcm]
考えてみれば凄い環境だ。[lr]
外国にいる親元を離れ、一人で日本の学校に来たんだもんな。[pcm]
一番難しい時期だろうし、阿部高はあれだから心配はつきないだろう。[pcm]
和の母「あの、先生」[pcm]
真緒「あ、はい」[pcm]
和の母「あの子をよろしくお願いしますね。[lr]
親馬鹿と思われるかもしれませんが、あの子は本当に良い子なんです」[pcm]
真緒「はい、ぼくもそう思ってます。[lr]
まだ未熟者ですが、しっかり見ていきますので」[pcm]
和の母「ありがとうございます」[pcm]
真緒「いえ」[pcm]
ちょっとした家庭訪問だ。[lr]
教師としての使命感が湧き上がってくるのを感じる。[pcm]
お母さんのためにも、安部高をしっかりと見ていこう。[l]
そうぼくは燃えていた。[pcm]
和の母「………」[pcm]
気がつくと、安部高の母にジッと見つめられていた。[pcm]
ぼくを見て何か考えている様子だが……[pcm]
真緒「あの」[pcm]
和の母「はい?」[pcm]
真緒「あ、その」[pcm]
真緒(なんでしょう? なんて聞くのも失礼だよな)[pcm]
真緒(ここは、別の話題を……)[pcm]
真緒(あ、そうだ)[pcm]
真緒「あの」[pcm]
和の母「はい」[pcm]
真緒「せっかくですので、お父さんにもお会いしたいなと」[pcm]
和の母「……残念ながら家にはおりません」[pcm]
真緒「あ、お仕事か何かですかね。せっかくの機会だからと思いまして」[pcm]
和の母「あの人は旅に出ています」[pcm]
真緒「旅、ですか」[pcm]
和の母「ええ」[pcm]
真緒「そうですか」[pcm]
父親の話を始めたとたん、母親の顔が険しいものに変わった。[pcm]
重苦しい雰囲気になったので、ぼくはそれ以上何も言わなかった。[pcm]
真緒「………」[pcm]
和の母「………」[pcm]
ほんの少し沈黙があって、母親が口を開いた。[pcm]
和の母「あの子があんな風になったのは父……
いえ、私のためなんです」[pcm]
真緒「お母さんの」[pcm]
和の母「大変な子だと思いますが、どうか温かい目でみてやって下さい」[pcm]
真緒「それはもちろんですが……阿部高があんな風になった理由というのは?」[pcm]
和の母「それは……」[pcm]
和「待たせたな」[pcm]
和の母「なごみ」[pcm]
真緒「阿部高」[pcm]
和「いつも部屋を綺麗にしてくれてすまないな母さん」[pcm]
和の母「当然の事よ。いつでも気持ちよく帰ってこられるようにするのは」[pcm]
和「キミにその部屋を見せようか? 特大のベッドがあるんだ」[pcm]
真緒「あ、うん」[pcm]
タイミング良く戻ってきた阿部高。[lr]
中二病の理由はもう聞けないな。[pcm]
和の母「なごみ、部屋はいつでも見せられるわよ。
日帰りするんだったら他の所へ連れていかなきゃ」[pcm]
和「ん、母さんの言う通りだな。俺の部屋やここなんて将来嫌って程見られるしな」[pcm]
和の母「ふふ、そうね」[pcm]
真緒(ど、どうゆう事だよ……)[pcm]
和「もう一度あの場所へ戻ろうか」[pcm]
和の母「あら?」[pcm]
和「さっき行って来たんだ。キミも落ち着いて見れなかっただろ?」[pcm]
真緒「さっきの場所って、あの山?」[pcm]
和「ああ」[pcm]
和の母「なごみはあそこが好きね」[pcm]
和「ああ、俺は母さんと父さんの子だからな」[pcm]
和の母「なごみ……」[pcm]
真緒「………」[pcm]
和「よーし、戻ろうかキミ!」[pcm]
真緒「ぼくは良いけど、安部高はいいのか? せっかくの家なんだしさ」[pcm]
和「ふ、いいんだよ。夏休みも近いだろ?」[pcm]
真緒「あ、そうだな」[pcm]
和「じゃあ母さん、時間も無いからこのまま寮へと戻るよ」[pcm]
和の母「ええ」[pcm]
和「次はゆっくり来るぜ!」[pcm]
和の母「ええ、先生も連れてくるのよ」[pcm]
和「当然だぜ」[pcm]
真緒「はは……」[pcm]
和「じゃ、また!」[pcm]
真緒「お邪魔しました」[pcm]
和の母「ええ、気をつけて」[pcm]
ドタバタと駆け足で過ぎていく時間の中ふと思う。[pcm]
寮のみんなはどうしてるだろう?[lr]
騒ぎになってなきゃいいんだけど……[pcm]
最終更新:2010年07月19日 07:58