シナリオ 阿部高ルート 7月27日(金曜日)・その3
男になった理由は?
※公園 ベンチで
和「このベンチで休憩しよう」
真緒「ああ」
和「先に座ってくれ」
真緒「うん」
先に腰を下ろすと、隙間無く阿部高が隣に座った。
真緒(ひ、ひっつきすぎだろ……)
和「良い天気だな」
真緒「ん? ああ」
そう言って、空をジッと見上げている。
何かを考え込んでいるみたいだ。
和「………」
かける適当な言葉も見つからないので、ぼくも黙って青空を見上げる事にした。
──異国の空。
けど、日本でみるのと何ら変わりはない。
漂う雲と、それに隠れたり出てきたりする太陽。
そして、どこまでも広がる青。
綺麗だな。
阿部高も同じような事を思っているんだろうか。
さっき断った時から、言葉も少なくなり、元気が無い。
落ち込ませたとしても、こればっかりはな。
仮にぼくが、阿部高と本当に結婚するとしてもだ。
阿部高は女の子だから、認めてくれるわけがない。
性同一性障害ならまた違うのかもしれないけど、
阿部高は唯の思い込み……中二病。
ふと思う。
阿部高の中二病は何が原因だったんだろう。
そして、いつ始まったんだろうと。
男に憧れて、そのままなりきってしまう。
性同一性障害じゃない、唯の中二病・思春期の憧れだけでそうなるもんなのかな?
もしなるならば、なりきりたい人なりキャラクターがいそうなものなのに、
阿部高にはそれが無いというのも疑問だ。
……良い機会だ、聞いてみよう。
真緒「なぁ、阿部高」
和「……ん?」
真緒「阿部高は、男だよな?」
和「ん、そうだぜ?」
真緒「そ、そのさ、いつから自分が男だって気づいたんだ?」
和「………」
真緒「………」
……周りくどい聞き方は止めよう。
この際だ、ストレートに。
阿部高は女の子だって、男だと言い張る理由を知りたいって。
真緒「阿部高は、可愛い女の子だよね」
和「な!」
真緒「どうして自分を男だって思ってるのか、理由を知りたいんだ」
和「か、可愛い!?」
真緒「うん、可愛い女の子だ」
和「あ……ありが──じゃない!」
真緒「え?」
和「何度も言ってるじゃないか! オレは男だ!」
真緒「阿部高、どうしてそんな風に思ったんだ?」
和「ど、どうしてもこうしても無い! オレは男だ!」
真緒「阿部高は」
和「オレは男だ! 男なんだ!」
真緒「阿部高……」
必死で叫ぶ言葉はまるで、自分に言い聞かせているようだった。
いったい彼女には、何があったんだろう?
何も無いのに、自分を男だと思うはずがない。
こんな所までぼくを連れてきて婚約を迫るはずがない。
理由を──知りたい。
和「ふぅ、まったくキミときたら…… で、分かってくれたかい?」
真緒「………」
和「分かってくれたのなら、オレと結婚しよう」
真緒「………」
和「なに、この国なら大丈夫さ。前にも言っただろ? 法律で認められてるんだ」
真緒「……無理だよ」
和「無理? それはなぜだい? オレの…オレのことが嫌いなのか?」
真緒「嫌いじゃない、でも無理なんだ。 阿部高だって分かるだろ?」
阿部高は女の子、そしてぼくの生徒。
もし仮に、お互いにそういう気持ちがあったとしても、
こんな誰も知らない土地で密かに結婚なんて出来るはずもない。
和「………」
和「……そうか、キミはゲイでもない、唯のノンケだったな」
真緒(え? え?)
和「ついつい忘れてしまってたぜ」
真緒「い、いや、阿部高、ぼくがゲイとかそんなんじゃなくてさ、阿部高は女の」
和「オレとの結婚はまだ無理だととらえておく。そう、今はまだな」
真緒「い、いや、だから」
和「キミにはなんとしてでも男を好きになってもらわなくちゃあな」
真緒「だ、だから、そうじゃないって。それに、それも無理だよ」
和「男を好きになれないのか?」
真緒「無理だって、ぼくは普通の人なんだから」
和「どうしてもか?」
真緒「どう頑張っても無理」
和「……なんだと」
真緒「こればっかりは」
和「男好きになってくれないとオレは困る」
真緒「困るって言われてもさ」
和「オレが困るんだ!」
勢いよく立ち上がると、大声で叫んだ。
付近を歩いていた人達も、その声の大きさに足を止めてこっちを見ている。
その張り詰めた表情と声に驚きながら、ぼくもまた呆然と阿部高を眺めていた。
困る? いったいどうして?
真緒「阿部高? 何が困るんだ?」
和「……困るんだよ」
ポツリとつぶやくと、それきり阿部高は口を閉ざしてしまった。
何を話しかけても空返事で、一人で思い詰めた顔で考え込んでいる。
最終更新:2010年03月09日 22:30