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シナリオ 7月1日(日曜日)・その1

 冒頭


「ひどい天気ね……」[lr]
[r]
窓の外をぼんやり眺めながら女がつぶやく。[lr]
灰色の空と激しくうちつける雨はまるで、[r]
自身の心を反映しているかのように思えた。[lr]
[r]
女の名前はリオ。[lr]
名前こそごくありふれたものだが、[r]
彼女の人生は決してありふれたものではなかった。[plc]


──雷の使い手『テラリオン』[lr]
──世界の救世主『テラリオン』[lr]
[r]

人々からそう呼ばれるリオの人生は普通の女性とは違う。[lr]
恋やお洒落も出来ない人生。[lr]
ただただ、戦うだけの毎日だった。[lr]
[r]
世界を牛耳ろうと目論む魔王を倒す事。[lr]
それがテラリオンの運命なのだ……[plc]


リオは考えていた。[lr]
自分がそう呼ばれるようになってから、[r]
いったいどの位の時間がたつのだろうと。[lr]
[r]
罪の無い人々を苦しめる魔王軍。[lr]
それに対抗する討伐軍の指揮を執り、長い戦いの日々……[lr]
そしてついに魔王を追いつめる事ができた。[lr]
[r]
これで世界が平和になる。[lr]
人々に笑顔が戻ってくる。[lr]
喜ぶ人はいても悲しむ人間など一人もいないだろう。[lr]
[r]
リオ以外は……[plc]

窓に手をかざし、リオは目を閉じる。[lr]
そして、まだ自分の宿命を知らなかったあの頃、[r]
無邪気だった幼き日を思い返していた。[lr]
[r]
「ほんと、うぶな少女だったわ……」[lr]
[r]
「今となってはもう叶わない恋ね……」[lr]
[r]
「もしも私が……テラリオンでなかったら……」[plc]

突然、勢いよく部屋のドアが開いた。[lr]
その音と共にリオは我にかえる。[lr]




「誰?」[plc]

兵士「も、申し訳ありません!」[plc]

兵士「ですがテラリオン様、ついに魔王の居所をつきとめました!」

テラリオン「そう……」[plc]

兵士「側近の騎士と二人だけとの報告です。[lr]
テラリオン様、全軍を収集なさいますか?」[plc]

テラリオン「いいえ、私一人で行くわ」[plc]

兵士「し、しかし──」[plc]

兵士「手傷を負っているとはいえ奴はあの魔王です。[l]
一人で行かれるなんてあまりにも危険すぎます!」[plc]

テラリオン「私がこの手でケリをつけなくちゃいけないの」[plc]

決して結ばれる事のない恋。[lr]
それは──[plc]
魔王を滅ぼす事が出来る唯一の人間が、その者を愛してしまった事。[plc]
自分の運命を受け入れた時から、この日がいつか来る事を覚悟していた。[plc]
なのに、まだ心が揺れ動いてしまう。[lr]
そんな自分がいる事にリオは気がついた。[plc]

次の言葉を待っている兵士に顔を向けると、
聞こえない程の小さな声でリオはつぶやいた。[plc]

テラリオン「愛しているからこそ……」[pcm]

テラリオン「私の手で……」[plc]



??「……様! ……王様!?」[plc]

真緒「……う」[plc]

??「魔王様! 魔王様!!」[plc]

真緒「う……ん?」[plc]

??「お目覚め下さい魔王様!」[plc]

??「この場所から一刻も早く離れなければなりません!」[plc]

──ぼくを呼んでる? 魔王? [plc]
えっと……誰だろう?[lr]
それにここは……どこ?[plc]

??「ああっ、良かった。お目覚め下さいましたね魔王様」[plc]

真緒「……君は誰? それにここは、ここはどこなの?」[plc]

見たこともない場所。[lr]
見たこともない女の子。[lr]
あれ? ぼくはたしか……[plc]

??「無理に起こして申し訳ありません」[plc]

??「ですが、あまりモタモタされていますとあの伝説の使い手が
魔王様の命を再び狙いに来るに違いありません」[plc]

真緒「はぁ……そうなんですか」[plc]

_??「ハッ!! この気配!!」[plc]

??「なんという女だ……もうここを嗅ぎつけたというの?」[plc]

??「私たちには安住の地などありえ無いということなの?」[plc]

少女の顔が青ざめている。[lr]
何かまずい事でも起きるのだろうか。[plc]

真緒「あ、あの?」[plc]

??「魔王様、もう残っているのは私と魔王様だけです」[plc]

??「この先私たちはおそらく……[lr]
いくら魔王様といえど、そのお体では……」[plc]

真緒「えっと?」[plc]

??「悲しい運命……」[plc]

??「ですが魔王様、私は自分を嘆いてなどいません」[plc]

??「この剣であなたをお守りし、側に仕えられる。[l]
ただ、それだけで……」[plc]

少女が熱い眼差しをむけてくる。[lr]
言ってる事はよく分からないけどこの子……[lr]
かなり可愛いな。[plc]

??「ハッ!? この気配はまさか──」[plc]

??「見つけたわ魔王。そして、冥界の騎士……」[plc]

また見知らぬ人が現れた。[lr]
そしてさっきまでぼくに話しかけていた少女とにらみ合う。[plc]

声の感じからして女の子か?[lr]
でも、ずいぶん険悪な感じだな……[plc]

??「魔界一の騎士もこうなってはお終いね」[plc]

冥界の騎士? 誰の事……って、[lr]
さっきぼくを起こしてくれたこの子か。[plc]

見るからに騎士って格好だからそうだと思う。[plc]
それじゃ、こっちの子はさっき言ってた……[lr]ええと何だっけ。

ああ、そうだ! 使い手だ![plc]
でも、使い手って何だ? 蛇使いとか?

女騎士「くっ!? やはり貴様か!!」[plc]

使い手「そうよ、あなたたちを倒せるのは伝説の使い手である私だけなんだから」[plc]

女騎士「もう十分だろう? 残っているのは私と魔王様のみ」[plc]

女騎士「悔しいが、貴様たちの勝ちだ……」[plc]

使い手「そうはいかないわ」[pcm]

使い手「魔族のいない平和な世界、それが全ての人間の望みなのよ」[plc]

使い手「……そう、私もね」[plc]

使い手「だからあなたたちを生かしておくわけにはいかないわ」[plc]

女騎士「貴様、魔王様とは旧知の仲なのであろう?」[plc]

女騎士「それだけではない! 私は知っているぞ![l] 
貴様も魔王様を……」[plc]

女騎士「それなのに何故だ!」[plc]

使い手「そう……知っていたのね」[pcm]

使い手「愛していた……」[pcm]

使い手「いいえ、愛しているからこそ私がやらないといけないの」[plc]

女騎士「……私には理解できないな」[plc]

使い手「あなたには分からないわ。愛してはいけない人を愛してしまった私の気持ちは」[plc]

悲しそうな声だと思った。[lr]
表情は分からないけれど、たぶんそんな顔をしているんだろう。[plc]

だけど、いったい何の話をしているのか。[lr]
二人が何を言っているのかまったく理解できない。[plc]

ただ、緊迫した空気だって事だけは鈍いぼくでも分かる。[plc]

女騎士「テラリオン貴様……泣いているのか?」[plc]

使い手「泣いてなんかいないわ……」[plc]

使い手「さぁ、ここであなたたちは終わりよ。逃がしたりなんかしないわ!」[plc]

女騎士「例え逃げても地の果てまで追ってくる、か……」[plc]

使い手「ええ、そういうことよ」[plc]

女騎士「やはり貴様とは決着をつけねばならぬ運命のようだな」[plc]

使い手「そうね、私のライトニングアンブレイラで永遠に眠らせてあげるわ」[plc]
使い手「さあ、かかってきなさい!!」[plc]

にらみあう二人。[lr]
圧倒されたぼくはただそれを見ていた。[plc]

二人とも動かない。[lr]
お互いが間合いを取りつつ構えをとっている。[plc]

いったい……どうなるんだ?[plc]

??「ちょっと待つんだ!」[plc]

使い手「誰!!」[plc]

また少女があらわれる。[lr]
今度の子は……せ、制服着てないか?[plc]

??「まさか魔王がこんな良い男だとは思わなかったぜ。
その男は俺が貰い受ける」[plc]

真緒
「??」[plc]

張り詰めた空気を破ったかと思うと、その少女は
ぼくをなめるように見てきた。[plc]

??「さぁ、誘われるままにこっちへ来い」[plc]

少女が手招きする。[lr]
ぼくは、どうしたら……[plc]

??「ダメだよ。渡せないし」[plc]

??「だ、誰だ!」[plc]

??「これが魔王なんだ……」[plc]

続いて現れた少女。[lr]
さっきの子と同じくジロジロとぼくを見てくる。[plc]
何か、品定めされてる様な……[plc]

真緒「ぼくは魔王じゃ──」[plc]

??「ううん、分かってる。[lr]
分かってるから、もうなにも言わないでいい」[plc]

??「さ! 行くよ! アタシたちの舞台に!」[plc]

な、何だこの子??[plc]

??「探しましたわよ……噂の魔王。[lr]
ですが、なんですの? その情けない顔は」[plc]

また違う子が現れ、勝ち誇った顔をぼくにむける。[plc]

??「それに、伝説の使い手……」[pcm]

??「伝説の称号を持つのは、このワタクシだけですわ!」[plc]

女騎士「な、なんなのだ貴様らは! 敵なのか味方なのか……」[plc]

女騎士「クッ! 魔王様は命に代えても守ってみせる!」[plc]

使い手「魔王に加担するというのなら、あなたたちも無傷ではすまないわよ?」[plc]


三人の少女と騎士と使い手がにらみ合う。[lr]
その原因はどうやらぼくらしいけれど……[plc]

ぼくが何かしたんだろうか?[lr]
でも、全員知らない子ばかりだし……[lr]
当然身に覚えもないわけで……[plc]

だいたい、この子たちの言ってる事がさっぱりだ。[plc]

魔王、伝説、冥界、騎士……[lr]
二十一世紀だというのに……[lr]
どうなってんだよ……[plc]

うう、まだ揉めてる。[lr]
なんか、頭痛くなってきた……[plc]





真緒「……う、ん」[plc]

真緒「……今のは夢?」[plc]

真緒「………」[plc]

真緒「そう、そうだよな……」[plc]

真緒「こんな所でうたた寝したせいか……」[plc]

ぼくがうたた寝していた場所。[lr]
イービル女子学園、学園長室の椅子だ。[plc]

イービル女子学園。[lr]
世間では名門と言われている学園。[plc]

通う生徒のほとんどがお金持ちの子で、[lr]
親が企業の社長や重役、政治家なんてのも特に珍しい事ではないらしい。[plc]

そのため、名門+お嬢様学園とも言われている。[lr]
その噂通り、この部屋も広くて高級感があり、
まるでどこかの王宮の一室のようだ。[plc]

ぼく、要真緒(かなめ まお)がなぜこんな所にいるかと言うと、
今日からこの学園の教師に赴任する事になったからだ。[plc]

おばあちゃ──[pcm]
いや、学園長を待っている間につい寝てしまっていたらしい。[plc]

どれ位の時間寝ていたのやら……[lr]
幸い、まだ学園長の姿はない。[plc]

真緒「今日から教師……か」[plc]

人は皆、こうありたいという理想の形があると思う。[plc]
正しく生きたい、格好よくなりたい、誰かの注目を集めたい。[plc]

それが曖昧な形の時もあるし、具体的な形の時もある。[plc]
ぼくにとってのそれが教師だった。[plc]

誰かの理想を見守り、その夢を形にするお手伝いが出来る職業。[plc]
ぼくは一体何人の理想を形にすることが出来るのだろうか?[plc]

期待に胸を膨らませて叩いた学校の門。[lr]
そう、ぼくの教師生活は栄光と輝きに満ちていたのだ![plc]

……にしてもさっきの夢はいったい。[lr]
これから起こる何かの暗示だったのかな?[plc]

出てきた女の子、学園にていてもおかしくないような感じの年齢だったし……[plc]

……あれ?[lr]
どんな顔してたっけ?[lr]
たしか皆可愛かったような……[pcm]

真緒(お、来た)[plc]

ドアが開くと同時にソファから腰をあげる。[lr]
入ってきた学園長は微笑みながらぼくの前へ来た。[plc]

真緒
「おはようございます。[l]学園長が戻るまでここで待つように、と教頭から言われましてお待ちしておりました」[plc]

学園長「ふふ、よく来たわね真緒ちゃん。[lr]イービル学園へようこそ」[plc]

ぼくをちゃんづけで呼ぶこの人は、
学園長でもありぼくのひいお婆ちゃんでもある。[plc]

しっかしこの人。[lr]
なんでまだこんな元気なんだろ。[plc]
いったい何歳なのやら。[lr]
聞いてもいつもはぐらかされて終わり。[plc]

それはさておき、ひいお婆ちゃんには子どもの頃からよくしてもらっていて、今回ぼくに職を与えてくれるのも婆ちゃんだ。[plc]

学園長「さてさて、真緒ちゃんには明日からの臨時教員として来て貰った訳だけれど」[plc]

そう、ぼくは臨時教師だ。[lr]
残念な事に正式採用ではない。[plc]

前任の先生が出産・産休のための休職で、
ぼくはその代理先生って事になる。[plc]

7月という学期もそろそろ終わる中途半端な時期なのは、[l]
予定日よりも早く生まれるらしく、
学期終了後の休職予定を変えたせいらしい。[plc]

とにかく、急な採用かつ臨時教師なわけだ。[lr]
ま、コネなのだから文句は言えない。[plc]

唯でさえ就職口の狭い教師。[lr]
こうしてぼくを使ってくれるだけでもありがたいとおもわなきゃ。[plc]

学園長「本校で臨時教員をするにあたって、真緒ちゃんにお願い事があるの」[plc]

お願い事?[lr]
いったいなんだろう?[plc]

学園長「この学園都市は、中高一貫の全寮制の女学院だってのは以前言ったわよね」[plc]

真緒「ええ、最初は驚きましたけど」[plc]

学園長「生徒のほとんどが寮で生活をしているのだけれど、
その中に少し問題のある寮があるの」[plc]

真緒「はあ」[plc]

学園長「それでね、その寮の監督役になってもらいたいのよ」[plc]

真緒「寮の監督役? それだけですか?」[plc]

学園長「ええ、真緒ちゃんの部屋もその寮になるわ。
引き受けてくれるかしら?」[plc]

真緒「そんな事でいいんなら喜んで!」[plc]

真緒「お婆ちゃ……あ、学園長にはお世話になってますからこれくらい」[plc]

学園長「ふふ、二人の時はお婆ちゃんでいいのよ。[l]
ともあれ、引き受けてくれて嬉しいわ」[plc]

真緒「あ、でも今日からなんですか? 荷物とかどうすれば? 
引越しするとなると色々と」[plc]

学園長「ふふ、心配しないでいいわよ真緒ちゃん」[plc]

学園長「きっと引き受けてくれると思ってね、もう引越し業者を手配したから」[plc]

真緒「ええ?」[plc]

学園長「明日、真緒ちゃんの仕事中に荷物を運ぶようにしてあるわよ。ふふ」[plc]

真緒「計画通り、なんですね」[plc]

真緒「でも、手配して貰って助かります」[plc]

学園長「強引だったかしら? ごめんなさいね真緒ちゃん」[plc]

真緒「いえ、そんな事ないです」[plc]

真緒「それよりその……問題って?」[plc]

ひいお婆ちゃんは少し考えるしぐさをして、悪戯な笑みでこう言った。

学園長「行って見ればわかるわ。[l]案内役の寮長が待っていると思うから、さっそく行ってちょうだい」[plc]

真緒「はぁ……」[plc]

なんなんだろう?[lr]
とんでもなく素行が悪いとか?[plc]
ひょっとして……面倒な子を押し付けられた?[plc]

だけど、やるしかないな。うん。[lr]
せっかくつかんだ教師の仕事だしな![plc]

だけど、お嬢様で問題児ってどんなのだ?[plc]
そういえば、さっき見た夢の子もお嬢様っぽかったような……[plc]

まさか……なんてな、はは。[plc]
ともかく、行ってみよう。[plc]


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最終更新:2010年07月12日 22:38
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