シナリオ 8月8日(水曜日)・その1
素直な気持ち
※8/7からの流れで深夜
寮へと帰ってきた頃にはもう日付が変わっていた。
足取りの重い八十記に合わせてゆっくり帰ってきたせいだろう。
真緒「着いたな」
せえら「………」
真緒「あ、はい。ありがとうございました」
メイド長「いえ……では私は失礼します」
真緒「………」
せえら「………」
真緒「八十記、中に入ろう」
せえら「……少し話がしたいです」
真緒「ああ、それは良いけど寒いだろうから中で」
せえら「ううん、外が良い」
真緒「外が良いのか?」
せえら「……はい」
真緒「分かった、それじゃ中庭にでも行こうか」
せえら「………」
※中庭
真緒「この辺で良いか?」
せえら「ええ」
真緒「それで、話って」
せえら「………」
真緒「いや……先にぼくから聞きたい事があるんだけどいいか?」
せえら「なんですの?」
真緒「その、お見合いって本当なのか?」
せえら「ええ」
真緒「いつ?」
せえら「明日……」
真緒「あ、明日」
せえら「………」
真緒「ずいぶんと急なお見合いだな」
せえら「……ほんとですわ」
真緒「でもさ、お見合いって言っても形式的なものなんじゃないのか?
食事会みたいなもんでさ」
せえら「………」
真緒「違うのか?」
せえら「……違いますわ。お父様は私と向こう方を結婚させる気でいますもの」
真緒「でも断れる……っていうか、無理じゃないか。
八十記はまだそんな年じゃないだろ?」
せえら「ええ、でも」
せえら「……突然現れた許婚のようなものですわね」
真緒「い、許婚って、いつの時代だよ……」
せえら「わたくしたちの間では結構ありますのよ。
学園の先輩方も許婚を持ってる方がいますもの」
真緒「そんな……」
せえら「ですけど、まさか私自身に来るなんて思ってもみませんでしたわ」
真緒「八十記は、八十記自身は嫌なんだろ?
だったら親に言えばいいじゃないか?」
せえら「ええ、言えたらいいですわね。でも、言えませんわ」
真緒「どうして?」
せえら「今までお父様とお母様に反抗したことなんてありませんもの」
真緒「なら、初めての反抗をすればいいじゃないか」
せえら「ええ、ですけど、理由がありませんわ」
真緒「理由って……好きな人と結婚したいって理由があるじゃないか」
せえら「……お父様はそれじゃ納得しませんわ」
真緒「なんでだ? ちゃんとした理由じゃないか」
せえら「お相手の方を好きになればいい」
真緒「え?」
せえら「お父様はきっとそう言いますわ」
真緒「そんな」
せえら「………」
せえら「説得する方法がないわけじゃありませんのよ」
真緒「なんだ?」
せえら「好きな人と結婚の約束をしてるとなればお父様も諦めると思いますの」
真緒「………」
せえら「ですけど、そんな約束はしていませんしね」
真緒(八十記の好きな人……)
真緒「八十記……お前は好きな人がいるのか?」
せえら「……ええ」
真緒「それは」
せえら「先生が好きですわ」
真緒「………」
せえら「ふふ、言ってしまいましたわ……」
真緒「ぼくなのか?」
せえら「ええ、もう隠したりしませんわ。あんな恥ずかしい所を見られたんですから」
真緒「別に恥ずかしくなんか」
せえら「でも、先生は私のことを好きではないんじゃありません?」
真緒「そ、そんな事ないよ。好きだよ」
せえら「ですけど、メイド長や寮長ばっかり見てるじゃにゃーですか?」
真緒「う……それはまた違うというか」
せえら「ふふ、良いのですわ。仕方ありませんもの」
真緒「………」
真緒「……だませないか?」
せえら「え?」
真緒「だからお見合いの日にさ、ぼくが一緒に行って結婚しますって言えばさ」
せえら「わたくしと?」
真緒「そう、そう言えば諦めてくれるんだろ?」
せえら「ええ、ですけど無理ですわね」
真緒「どうして?」
せえら「そんな演技なんてすぐにばれてしまいますし、私も嫌ですわ」
真緒「………」
せえら「本当に婚約してくれるなら、話は変わりますけど?」
真緒「それは……」
答える事ができない。
ただ一つ言えるのは、お見合いをして欲しくないと言う事だけだ。
せえら「ふふ、やはり無理ですわよね」
真緒「……結婚とかそんなのは考えられないけど、見合いなんかして欲しくないと思ってる」
せえら「……そうですの」
真緒「だから、明日はぼくも行くよ」
せえら「来てどうするんですの?」
真緒「それは……断りにさ」
せえら「どうして?」
真緒「どうしてって……」
せえら「………」
真緒「それは……」
せえら「演技で来られても私は嫌ですわ」
せえら「それに先生自身のお立場も悪くなりますわよ」
真緒「………」
せえら「ふふ、意地悪しましたわね」
真緒「八十記」
せえら「心配しなくても大丈夫ですわ」
真緒「大丈夫って」
せえら「明後日は何とかしますわ」
真緒「明後日?」
せえら「日付が変わっていたのを忘れてましたの。
お見合いは明後日でしたわ」
真緒「そうか、明日じゃないんだな」
真緒「とにかくぼくに出来る事があるなら言ってくれ、協力するからさ」
せえら「ええ……」
強い夜風が二人の間を通りぬける。
風になびく八十記の髪とそれをかきあげる物憂げな顔。
夜は女性を一層綺麗に見せるとどこかで聞いた事があるが、
たしかにその通りだとぼくは思った。
せえら「少し、一人になりたいですわ……」
真緒「八十記」
せえら「ふふ……心配しなくてもどこにも行きませんわ」
真緒「でも敷地内とはいえ、こんな時間に一人にはできないよ」
せえら「大丈夫ですわ。物陰にメイド長がいますから」
真緒「え? メイド長いるの」
せえら「メイド長」
八十記が呼ぶと、暗闇の中からメイド長がひょっこり現れた。
帰ったんじゃなかったのか。
メイド長「………」
せえら「というわけですので」
真緒(心配だが……雨降って地固まるって言うしな)
真緒「ああ、分かった」
真緒「それじゃ先に戻るけど、あんまり遅くならないようにな」
せえら「ええ」
真緒「メイド長、後はお願いします」
メイド長「はい」
最終更新:2010年08月13日 21:26