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シナリオ 8月3日(木曜日)・その3

 恋にノータッチ


食堂を出て、岸岡の後を追う。
一日経てば昨日の事は笑い話にでもなるかと考えていた。

でも、甘かった。
莉緒や北上ならそれもありえるけど、岸岡はそんな子じゃないって
ぼくが一番分かってるのに。


※廊下

岸岡の部屋の前。
今から呼び出して話をしよう。

昨日、岸岡をのけ者にした事。
ぼくは巻き込まれただけなんだけど、それでも謝ろう。

そして、電話で冷たく突き放した事。
どうしてああ言ったのか、それをちゃんと分かってもらいたい。

※コンコン

真緒「岸岡、いる? ぼくだけど」

※コンコン

中から音が聞こえるし、たぶん部屋にいると思う。
だけど出てこない。

真緒「岸岡、頼む。出てきてくれ」

そう言ってしばらくドアの前に立ち尽くす。
部屋の中から聞こえていた音は消えた。

いないふりをするつもりなんだろうか。
それとも、ぼくの言葉を聞いて考えているんだろうか。

真緒「岸岡」

昨日の今頃までは、あんなにもぼくに……
それを思うと今の状況がとても悲しくて、胸が痛い。

真緒「岸岡!」

芽衣子「………」

やっと出てきた。
でも、さっきと同じ冷めた目。
そしてどこか迷惑そうにぼくを見ている。

真緒「出てきてくれて良かった。とにかくちゃんと話をしよう」

真緒「昨日の帰り道はさ、疲れてるだろうからぼくも色々話さなかったけど」

芽衣子「………」

真緒「岸岡、無視しないでくれ」

芽衣子「……言ったはずです」

真緒「え?」

芽衣子「あなたはもう魔王様じゃない」

真緒「魔王じゃないって……」

なんて答えれば良いんだ。
元々魔王なんかじゃない?

いや違う、それじゃ駄目だ。

真緒「岸岡、どうしてそんな事言うんだ? ぼくは魔王だろ?
昨日はあれだよ、ほら、莉緒たちを偵察してたんだよ!」

芽衣子「………」冷め

真緒(う……)

真緒「ちょ、ちょっとぼく一人でさ、あいつらをさ」

芽衣子「無理に魔王を演じないで下さい。見苦しい」

真緒「見苦しいってそんな」

拒絶、無視、そして今嫌悪になった気がする。
ぼくに対して、こんなにも敵意を表すのは初めてだ。
だからそれが、とてもショックで……

真緒「え、演じてなんかないぞ。ぼくは何も変わってない。
岸岡への気持ちだってそうだ」

芽衣子「………」

真緒「違う……前以上にたぶん」

芽衣子「………」

※一人盛り上がる真緒

こんな風に避けられ、嫌われたせいで気がついた。
生徒に避けられてるから悲しいんじゃない。

一人の男として、好きな女の子に嫌われてるから悲しいんだ。
いつもその好意を当たり前だと思っていた。

だから安心して、余裕ぶって教師と生徒だから……
なんて考えてたかもしれない。

でも今は違う。
こんな風に岸岡とここで過ごすくらいなら、もう後の事なんてどうなったっていい。

真緒「岸岡、聞いてくれ。ぼくは今やっと気がついた、気がつけた」

芽衣子「………」

真緒「ぼくは岸岡の事が好きだ。生徒としてじゃない、女の子として」

溢れる気持ちをそのまま口にする。
でも後悔も恥ずかしさもなかった。

芽衣子「………」

真緒「岸岡、岸岡はどうなんだ? 昨日の事だけでいきなりぼくを嫌いになったのか??」

芽衣子「………」哀

真緒「違うだろ? 今日まで色々あったけど、楽しかっただろ?」

芽衣子「……やめて下さいまし」

真緒「やめる? 何をだ?」

芽衣子「そのような話術で私を騙すのは止めて下さいまし」

真緒「騙してなんかないって」

芽衣子「あなたは魔王様じゃない、魔王様じゃない」

真緒「岸岡」

芽衣子「魔王様じゃない……」

真緒「昨日はどうかしてたんだ。でも、今気がついた。
分かってくれ」

芽衣子「……分かるはずも、分かりたくもありません」

真緒「どうしてだ、どうしてそんな急に冷たくなるんだよ!」

※真緒が莉緒と呼んだ事

芽衣子「……魔王様なら言わない、私があれ程言ったことを忘れるわけがない」

真緒「何を言ってるんだ?」

芽衣子「………」

真緒「岸岡?」

芽衣子「私の名前を呼ばないで下さい。もうあなたは唯の先生です」

真緒「岸岡、どうしてそんな」

芽衣子「………」怒

※消え

怒った顔を見せると、岸岡は部屋に入ってしまった。
なぜ怒っているのか分からない。

興奮したせいで、そんな事を口走っただろうか。

真緒「岸岡、まだ話は終わってないぞ!」

ドアを叩き呼びかける。
でも、岸岡が出てくる事はなかった──



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最終更新:2010年09月12日 18:33
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