シナリオ 8月3日(木曜日)・その4
励まされて…
和「ん、どうしたんだい?」
真緒「阿部高……」
和「な、なんて顔をしてるんだ。今にも泣きそうじゃないか」
真緒「失って初めて気がつくって言うけど、ほんとそうだな……」
和「キミぃ……」
真緒「いや、ごめん変な事を」
和「いや、少しも変じゃないぜ。俺には分かる」
真緒「ありがとう阿部高」
和「しかしいったい……と、ここは岸岡さんの部屋か」
真緒「ああ……」
和「だいたい分かったよ。とにかく食堂へでも行かないか」
真緒「そうだな、ここにいてもな……」
和「ほら、肩を貸してやるから行くんだ」
真緒「そ、それはいいって」
和「なに、遠慮するな」
真緒「ほんと大丈夫だから、降りよう」
和「ああ、行こう」
※食堂
※り、か、せ
莉緒「あら、早い帰りね」
せえら「岸岡とは話してきましたの?」
真緒「いや、それが……」
和「部屋の前で死にそうな顔してたんだぜ」
せえら「はぁ……またですの」
真緒「………」
せえら「だらしない舎弟ですわね。ワタクシの舎弟ならもっとビシっと言えばいいんですわ」
真緒「言ったんだけど、岸岡には届かなかった……」
せえら「そ、そうですの? でしたらしょうがありませんけど……」
莉緒「ちょっと暗いわよ!」
和「まぁまぁ寺井さん」
真緒「どうしたら良いんだろう……
明日も明後日もあんな感じなのかな……」
莉緒「病んでるわね……」
和「………」
※か、かず、りょ
奏「どしたの?」
寮長「先生?」
和「岸岡さんと色々あったみたいだ」
寮長「そうですか」
奏「んー、アタシたちのせいだよね」
和「まぁ、そうかもしれないな」
莉緒「ばっかじゃないの、あれくらいで」
せえら「ですわよ。あんなことくらいでいちいち怒ってたら、ここでやってけませんわよ」
和「ああ、キミはもてるしな。まったく困りものだ」
せえら「ちょ、ちょっと阿部高、そういうことじゃにゃーですわ!」
真緒「ぼくが?」
和「……やれやれ」
寮長「でも、心配ですよね」
真緒「ぼくを無視するだけなら良いけど、莉緒たちも無視してる気がするんだ」
莉緒「あんなのいつものことよ」
奏「あ、でも、アタシとせえらちゃんも口聞いてないよね」
せえら「言われてみればですけど」
和「俺もだな。おはようって言ってもなにも言わなかったぜ」
真緒「そうか」
せえら「ですけど、寮長とは喋ってたじゃにゃーです?」
寮長「それはたぶん……私も行ってなかったですし」
奏「じゃ、寮長以外はみんな無視ってるの?」
真緒「たぶんな、無視というか怒ってる」
真緒「とにかく、どうしたら良いのか分からないんだ。
あれ以上、何を岸岡に話したらいいのかも分からない……」
和「……そう気に病むことはないさ」
真緒「阿部高」
和「キミが変われば、岸岡さんもきっと変わってくれる。俺はそう思う」
真緒「ぼくが変わる?」
和「ああ」
真緒「どういう風に?」
和「それは分からないが、とにかく俺はそう思うんだ」
真緒「………」
ぼくが変われば岸岡も変わる?
たしかにそうかもしれない。
でも、さっきのぼくは十分に変わった自分だったはず。
気持ちの面で、昨日とは大きく変化したんだから。
莉緒「真緒くん、あの馬鹿になんて言われたのよ?」
真緒「え、何って」
せえら「そんな落ち込む程のことを言われたんじゃにゃーです?」
真緒「………」
莉緒「言いなさいよ」
せえら「ですわ」
和「ふ、なんだかんだで寺井さんも心配してるわけだ」
奏「ひひ、だよね」
莉緒「ちょっとそこ! 変な勘違いしないで!」
真緒「いや、そうだな。みんなに相談してるんだからな……」
莉緒「なによ、いったいなに言われたのよ」
真緒「……もうぼくは魔王様じゃないらしい」
せえら「なんですのそれ」
莉緒「………」
奏「魔王様じゃなくなった?」
和「つまりだ、岸岡さんにとってキミはもう」
真緒「ああ、崇拝する対象じゃない。早い話、嫌われたって事だ」
寮長「………」
奏「でもさ、あんなにセンセのこと好きだったメーコがいきなり嫌いになるのかな?」
せえら「ですわね。ちょっと信じられにゃーですわ」
寮長「ええ」
真緒「うぬぼれるつもりはないけど、ぼくもそう思ってたんだ。
今朝起きたら、きっといつもの岸岡だろうって……」
莉緒「でも違ったわけね?」
真緒「ああ……」
せえら「とにかくもう一度話してこいですわ」
真緒「でもさ」
せえら「ああもう! ほんとだらしないですわね!
ならワタクシが一緒にいきますわ!」
真緒「いやそれはいいよ、却って悪くなりそうだしさ」
せえら「な! 人の好意を!?」
寮長「たぶんそうですね。止めておいた方がいいです」
せえら「寮長まで」
寮長「これは先生自身が解決するしかないと思います」
真緒「寮長……」
寮長の言葉が胸に響く。
だけどそうだ。
ぼく自身がなんとかしなきゃ。
莉緒「あ、来たわよ」
せえら「あら岸岡」
芽衣子「………」
気がつけば、目の前に岸岡がいた。
真緒「岸岡」
芽衣子「………」
芽衣子「寮長、すまないが今日の夕食はいらぬ」
寮長「え? 食べないんですか?」
芽衣子「気分がすぐれぬのだ。今から部屋で過ごすゆえ、呼びにこなくてもいい」
寮長「大丈夫ですか?」
芽衣子「心配ない」
淡々と寮長と話す岸岡。
そんな二人をぼくや莉緒たちは黙って見ていた。
芽衣子「では部屋に戻る」
寮長「あの、岸岡さん」
芽衣子「なんだ?」
寮長「あの、先生からお話があるそうですよ」
そう言って寮長がぼくを振り返った。
真緒「あ、ああ、話があるんだ」
芽衣子「話すことなどありません」
真緒「岸岡はそうでもぼくはあるんだ」
芽衣子「先ほども言いました。私はありません」
真緒「………」
芽衣子「では部屋に戻ります。寮長、頼むぞ」
寮長「え、は、はい」
芽衣子「………」
横目でチラとぼくを見て、岸岡は食堂を出て行った。
寮長「……先生」
莉緒「ちょっと、なによあれ」
せえら「険悪ですわね」
真緒
「………」
奏「アタシたちも無視ってるし」
和「ああ、嫌われたようだな」
真緒「………」
莉緒「ちょっと! 魔王のくせに落ち込まないでよ!」
せえら「ですわよ。ワタクシの舎弟ならビシッとするですわ」
真緒「……そうだな、落ち込んでたって駄目だよな」
奏「そだよ。ロックなセンセでいれば大丈夫だし」
和「ああ、そうだな」
真緒「……はぁ」
莉緒「もう……」
せえら「まったく馬鹿センコーは」
和「なぁキミ」
真緒「ん?」
和「今日はもうそっとしておいた方が良いんじゃないか」
真緒「そう、かな」
和「ああ、寮長もそう思わないか?」
寮長「ええ……」
和「時間が解決してくれることもあるさ」
真緒「……そうだな、あの時だってそうだったもんな」
和「ああ、夏休みも終わる頃には笑い話だぜ」
真緒「ありがとう阿部高、気が楽になったよ」
和「あ、ああ」照れ
莉緒「ま、しばらくほっときなさいよ」
せえら「ですわ。だいたい今までがかまいすぎですのよ!」
真緒「そうだな、そうだよな」
奏「じゃ、今日から……ひひ」
和「ああ……色々と計画があるしな」
真緒(何をしようと……)
莉緒「とにかくそういうことね」
真緒(あ、そういえば)
真緒「莉緒」
莉緒「なによ」
真緒「オルトロス、オルトロスは見つかったのか?」
莉緒「あの猫ちゃんね、残念だけど見つからなかったわよ」
奏「結構探したのにいなかったし」
真緒「やっぱりそうか」
莉緒「冥界に帰ってるだけよ、すぐ戻ってくるわ」
真緒「そうだといいけどな。せめてオルトロスが戻ってくれたら、
また話すきっかけにもなるだろうし」
真緒「明日…いや今から探してみようか」
莉緒「このあたり散々探したわよ」
和「ああ、八十記さんのメイドも総出でな」
真緒「そうか、ありがとうな八十記」
せえら「舎弟の頼みなら当たり前ですわ」
真緒「でもそれだけの人が探してくれていないんじゃ」
せえら「ええ、このあたりにはいにゃーですわね」
真緒「………」
せえら「そんな顔するなですわ。学園の子にも言っておきましたしそのうち見つかりますわよ」
真緒「そうか、ありがと」
和「これも時間がいるな」
真緒「ああ……」
真緒「それじゃ、ぼくも部屋に戻るよ」
奏「えー、遊ぼうよ」
真緒「ごめんな、今日はちょっと」
真緒「それじゃ」
※※黒
そしてぼくは部屋に戻った。
夕食までずっと部屋で仕事をしながら、時間が過ぎるのを待って。
夕食、そして夜。
結局岸岡と顔を合わせる事もなく、一日は終わりを迎えた。
最終更新:2010年09月12日 18:34