シナリオ 8月9日(水曜日)・その1
青空の笑顔
※寮敷地前
芽衣子「真緒様、大丈夫ですか?」
真緒「ん、ああ大丈夫」
芽衣子「きついようでしたら言って下さいまし」
真緒「ああ、ちゃんと言うよ」
幸い骨折だけで済んだぼくは今朝退院出来た。
そして今、松葉杖を突きながら寮へと戻っている所だ。
芽衣子「ふふ」
真緒「ん? どうした?」
芽衣子「芽衣子は幸せ者です。今までのことは全部、昨日今日のためにあったのかもしれません」
真緒「そっか」
芽衣子「幸せすぎて怖いくらいです……」
真緒「大丈夫だって、もうほら、だってさ」
芽衣子「はい! 卒業したらすぐにでも!」
真緒「す、すぐかぁ……」
芽衣子「式はやっぱり……」
真緒「ま、まぁそういうのもこれからだな」
芽衣子「真緒様、あの」
真緒「岸岡、真緒様ってのはもう止めないか」
芽衣子「え……それではなんと?」
真緒「んー」
芽衣子「魔王様?」
真緒「それは絶対だめっていうか、嫌だな」
芽衣子「芽衣子もそう思っておりました」
真緒「うんうん」
芽衣子「もはや私は冥界の騎士を退いた身。そしてまた魔王様も真緒様へと戻られたですから」
真緒「………」
芽衣子「ですが、なんとお呼びすれば?」
真緒「ん~、やっぱり様はまずいからなぁ」
芽衣子「ご主人様?」
真緒「な、なにを言って!? それも駄目!」
芽衣子「では……旦那様でしょうか?」
真緒「ま、真面目な顔でそう言われると……」
芽衣子「でもそれだと距離を感じてしまいますよね。
やっぱり……」
真緒「なんだ?」
芽衣子「あなた……」
真緒(ゴクリ……)
芽衣子「どうでしょうか?」
真緒「あ、いや、素晴らしいぞ」
芽衣子「本当ですか?」
真緒「で、でも今は先生でいいかな。ばれちゃうし」
芽衣子「え? ばらさないのですか?」
真緒「え?」
芽衣子「芽衣子はすぐにでも言い回りとうございます」
真緒「い、いやそれはちょっと待て」
芽衣子「寮のみなには?」
真緒「あいつらには言っておくか。ま、言わなくてもばれるだろうしな」
芽衣子「では帰ったらすぐにでも」
真緒「あ、いや、ぼくの足が治ってから言うようにしてくれないか。
これは頼む!」
芽衣子「それはいいのですが、どうしてなのです?」
真緒「この足じゃさ、逃げられないだろ」
芽衣子「ふふ、嫉妬に狂った小娘どもからですね」
真緒「………」
芽衣子「ですが、あの者には感謝しなくては」
真緒「莉緒か?」
芽衣子「はい」
真緒「そうだな、色々分かった上で助けてくれたよな」
芽衣子「おそらく……」
真緒「あ、莉緒ってまた」
芽衣子「もう心配には及びません。約束をした私と真緒様にそれくらいのことなど」
真緒「そっか、もう大丈夫か」
芽衣子「はい! 芽衣子はもう昔の芽衣子じゃありません!」
そう言って鮮やかに笑う岸岡は、とても青空が似合っていた。
今まではそう、月夜が似合ってたというかなんというか、影があった。
今は本当に普通の、どこにでもいる女の子だ。
芽衣子「そう言えば、真緒様は私のことを名前で呼んでくれないのですか?
真緒「そ、それはいきなりは恥ずかしいしさ」
芽衣子「なにひとつ恥ずかしいことなどありません。呼んで下さいまし」
真緒「そういうのはほら、自然に変わっていくしさ」
芽衣子「本当ですか?」
真緒「ああ、無理に変えなくてもさ。これから一緒なんだし」
芽衣子「ふふ、そうですね」
岸岡と将来を約束したけど、考えてみれば教え子で、同じ寮で暮らしてるわけだ。
皆に知れたらクビになるだろうか?
いや、ばあちゃんなら分かってくれる。
それに卒業まで節度を持っていれば、たぶん大丈夫だ。
お互い真剣な恋愛だしな。
多少の噂や中傷はあるだろうけど、その都度ぼくが守っていけばいい。
卒業まで、卒業してからも──
芽衣子「真緒様?」
真緒「あ、いや、ここだったよな」
芽衣子「はぁ?」
真緒「岸岡と初めて逢った場所」
芽衣子「そうですね、つい昨日のようです……」
真緒「ああ、ほんとにな」
芽衣子「あの時から私は真緒様に……」
真緒「ぼくもそうだったのかもしれない。綺麗な子だなって思ったしさ」
芽衣子「本当ですか?」
真緒「ああ、色々危なかったぞ」
芽衣子「危なかった?」
真緒「あ、まぁそれはいいか。それじゃ戻ろう」
芽衣子「はい」
最終更新:2010年09月12日 23:15