――――――始まりがあるものには、全て終わりがある。
◆◇◆
「さて……何処へ向かうべきか」
鬱蒼とした森の木々を抜けて平野へと足を踏み入れ、ヒースクリフはこれからどう動くべきかを思案した。
一先ずは、消耗したHPを出来る限り回復させるべく、何処かに身を隠すのが先決だ。
ゲージは60%程と、戦闘を行う事自体は可能なレベルに回復している。
しかし……この状態で、例えば先程のライダーの様な強敵と遭遇したならば、勝てるとははっきり言えないだろう。
どの様なレッドプレイヤーが闊歩しているかも分からない現状、なるべくHPは多めに保っておきたい。
ましてや今の己は、盾―――神聖剣を失っているのだから。
「どこかで、新たな盾が調達できればいいのだがね」
無論、片手剣のみでもそれなりには戦える自信はある。
それだけのスキルとステータスを、事実持ち合わせている。
だが……それだけでは勝てない強敵がまだ大勢いるだろう事もまた、容易に予測できる。
ならば、いざという時に全力で戦えないのはやはり辛いものだ。
この際多少の性能は目を瞑るとして、盾に分類されるアイテムが何かしら欲しい。
それだけでも、大きく状況は変わるだろう。
(盾、か……当たり前だが、あの様な防護盾はSAOには存在していないデータだ。
しかし、それにも関わらずに神聖剣は問題なく発動していた……
つまりは、アレを盾だとシステム上で認識できているという事か)
ふと、自身が先程まで手にしていた防護盾の事について考えた。
SAOにはあの様な盾は勿論存在していないのだが、しかしSAOのアバターであるヒースクリフは、それを用いて神聖剣を使用できていた。
つまりはアレを、この会場では正式に盾としてシステムが認識している訳だ。
もしこの場がSAOであれば、当然だがその様な事はありえない。
(彼等との情報交換で、薄々感じてはいたが……やはりこの会場は、複数の電子世界のデータを一纏めにした上で成り立っているようだな)
これが、自身の生み出したザ・シード規格によるものだけの話ならば、まだ納得は出来る。
多少の差異はあれども、データコンバートが行われる事からも証明されているように、互換性が大なり小なり存在しているからだ。
しかし、
岸波白野達は違う。
彼等が過ごしていたという電子世界は、明らかにザ・シードの規格から外れたものだ。
つまり、この会場は規格も違えば互換性も全く無いデータを繋ぎ合わせ一つにしている、出鱈目過ぎる世界だ。
科学者でありプログラマーでもあるヒースクリフに対し、それが如何に無茶な行いであるかは最早説明する必要などない。
人によっては、この技術に対して高い評価をつけると同時に、大いに興味を引かれ、手にしたいと思うだろう。
これは、ネットワーク社会に大きな革新を齎すだけの価値がある代物だ。
(岸波君に
カイト君といい、ここには未知の技術の産物が満ち溢れている。
科学者としては、興味を惹かれてやまないものだ)
当然、ヒースクリフもこの技術には大いに関心を持っていた……が。
(問題は……その様な技術を用いてまでして、彼等が何を望んでいるのかということか)
同時に、一つの疑問も彼の胸中に生じていた。
それは、この殺し合いが何の目的で開かれたのかという事だ。
ここまで大掛かりな舞台を拵え、多種多様すぎる参加者を揃えてまでして殺し合いをさせる理由とは、一体何か。
(本来ならば出会う筈の無い者達を集め、どの様な戦いが起きるかを見てみたかった……か?)
まず真っ先に考えたのは、かつて自身がSAOにプレイヤーを閉じ込めたのと同じケースだ。
世界の創造を望み、そこを現実として生きる人々の姿を見たかった。
それがこの殺し合いにも当てはまるのではないかと、考えてみたのである。
ありえないアバター同士による夢の対戦、規格階級全てが無用の総合異種格闘技戦。
成る程、確かにそう言ってみれば心踊るものがある。
その手のマニアには、観ているだけでも愉しめるに違いあるまい最上の娯楽だ。
(しかし、もし……それ以外に、我々プレイヤーを争わせ殺し合わせる事で何かを得ようとしているのなら……)
だが、そうではなかったとしたら。
他に何か、このバトルロワイアルを開くメリットがあるとしたら、それは何か。
殺し合いという『過程』を経て得られる『結果』とは何か。
娯楽や仕事といった日常的な側面を取り除き、仮想空間をこの様に用いる理由があるとしたら、それは……
(やはり、このバトルロワイアルは何かしらの実験と見るのが妥当だろう)
最もありえるのが、このバトルロワイアルは榊による実験・研究であるというケースだ。
全く違う規格のデータを組み合わせ、且つその場で争いをさせる事によって、彼は何かしらの結果を求めているのではないだろうか。
事実、ヒースクリフは妖精王オベイロン/須郷伸之という例を知っている。
ならば目的は彼と同じく、MMOを用いた人間の精神操作実験―――自身がキリトに力を貸す事でその企みは潰えたが―――か?
否、恐らくは違う。
だとすると、岸波白野をはじめとする実体を持たぬ人工知能である者達……そして何より、自分自身を参加者にする必要はない。
人体に左右する何かを研究したいのであれば、リアルに肉体を持って生きる者にのみプレイヤーは限定される筈だ。
(つまり……榊君、更にはいるであろうその協力者の目的は、あくまで電子の世界に重きを置いたモノだ。
リアルに影響を全く与えないモノ……とまではいかなくとも、少なくとも参加者の人体に影響を与える実験ではあるまい)
榊がバトルロワイアルを実施した目的は、電子の世界において重要な何かを求める為。
そう考えれば、肉体を持たず仮想現実にのみ生きる者達を参加者にした事にも説明がつく。
では、果たしてその何かは何だというのか。
(……『全てのネットワークを掌握する権利』を持ち、そしてこの様な高度な技術を持ち合わせていて尚も、欲するモノか)
現時点で分かっている情報だけでも、榊が持つモノは膨大だ。
勿論、全てのネットワークを掌握する権利とやらがハッタリの可能性も考えたが、そうだとも言い切れない。
電子の海を漂う己を捕えた事や、異なるネットワークを強引に一つの世界に纏め上げた技術を目の当たりにしては、少なくともそう呼べるだけの力の片鱗がある事は確かなのだ。
その上で尚も、彼は強欲にこの殺し合いから何かを求めようとしている。
それだけの価値があるモノ……全てのネットワークを掌握できながらも尚、電子の世界において欲するモノとは何なのだろうか。
(……聖杯、か?)
ここで真っ先に思う浮かんだのは、白野や慎二が参加した聖杯戦争だ。
所有者のあらゆる望みを叶える、万能の願望器……それを求め、最後の一人になるまで争うトーナメント。
確かに、このバトルロワイアルに似通っている点は幾つか見られる。
事実慎二は、開始当初にこの場を
ルールが変わっただけの聖杯戦争と誤認していた。
ならばこのバトルロワイアルにも、聖杯が関わっているのではなかろうか。
確かに万能の願望器となれば、求める理由は言うまでも無いのだが……
(いや、そう決めつけるのも早計だ。
聖杯戦争の参加者に聞くだけで推測できる様な簡単な目的だとも思えない……
ここはもうしばらく、情報を集めてみるべきだな)
しかし、断定は出来なかった。
こうも呆気なく目的が判明するのは逆に不自然だし、これだけ大掛かりな舞台を用意した以上、それだけではすまない何かがある。
そんな予感があったが為だ。
(榊君の事を知る人物……確か、ハセヲ君といったか)
ここでヒースクリフの脳裏に過ぎったのが、榊が死の恐怖と呼んだハセヲの事だ。
あの榊の挑発的な口ぶりからして、両者の関係は単なる顔見知りで済むレベルではない。
互いに何かしらの因縁を持つ者同士であろうことは、まず間違いあるまい。
ならば彼と接触できたなら、榊の目的について有力な情報を得られるのではないだろうか
もっとも、100人のPKを達成したという情報が真実なら、危険なレッドプレイヤーという可能性もまたあるが……
(それでも、会う価値は十分にあるだろう)
だとしても、現時点では唯一の榊に繋がるヒントだ。
もしこれから出会う参加者に彼を知る者がいたならば、その情報を元に探してみるとしよう。
或いは彼でなくても、榊を知る人物と出会えればいい。
要は、榊の情報を得る事だ。
(そうすれば、その目的のみならず……我々のアバターに仕込まれているというウィルスについても、何かしら当たりをつける事が出来るかもしれない)
そして同時に、榊の情報から自らに仕込まれているウィルスの正体をも特定できるのではないかと、ヒースクリフは踏んでいた。
先程も考えたように、参加者のアバターは余りにも多種多様であり、規格が明らかに違う者達も大勢集っている。
つまり……そのアバター全員―――プレイヤーではないサーヴァントは流石に例外として―――に、誰一人として例外なく作用するウィルスが仕込まれているという事だ。
それがどれだけ強力且つ恐ろしいものであるかは、想像に難しくない……どんなコンピュータでも、どんなデータでも破壊できる可能性もった最強最悪のウィルスだ。
現実的に考えればありえない話だが、しかし異なるデータを統合して一纏めにしているという事実がある以上、納得は一応出来る。
恐らく榊は、会場を作り上げた技術を以ってこの恐るべきウィルスの作成を……
(……いや、待て。
何かが引っかかる……本当にそうなのか?)
そこまで考えて、ヒースクリフは何か違和感を覚えた。
この会場を作り上げた技術と、全プレイヤーに仕込まれている謎のウィルス。
『規格が違う者同士でも一つに纏められる』という共通点がある以上、両者が密接に関わっているのはまず間違いない。
イコール、榊が使っている技術が分かればウィルスに対する策もまた導き出せる可能性がある訳だが……
(ウィルス……全アバターに感染……待て。
そうだ……そういえば……!)
それから少しばかり考えて、ヒースクリフはようやく違和感の正体に気づいた。
自分の記憶の中にある情報と、ここまでの推理……そこにある、一つの食い違いに。
(ウィルスは、全てのアバターに例外なく作用する……違う。
一人だけ例外がいた……ウィルスが効いていないだろうアバターが……!!)
それは、ウィルスが全アバターに作用するという思い込みだった。
何故ならば……彼は僅かな時間でこそあるものの、ウィルスが効いていない存在を目にしているのだ。
あの、全ての参加者にルール説明がされたオープニングの広場に、その人物は確かに居た。
(榊君……彼のアバターだ!)
榊。
彼のアバターこそが、これまでヒースクリフが接触してきた者達の中で唯一、ウィルスを宿していないだろう存在なのだ。
ゲームの主催者だから、それは当たり前の話だ。
SAO時代の彼自身の様にプレイヤーとして参加するつもりでもなければ、そんな事をするメリットは一切無い。
寧ろ主催者の特権を活かして、より強力かつ安全性の高いアバターを作る筈だろう。
だが……ヒースクリフは、見落としていなかった。
それにも関わらず、榊のアバターには……奇妙な欠落があった事を。
(あのアバターは、外観が明らかに崩れていた。
黒い何か……言ってみれば、バグらしきものに侵食を受けていた。
しかし、主催者権限を持つ者があの様な不完全なアバターのまま、我々の前に姿を見せる訳がない)
ここまで出会ってきた参加者は、皆例外なくまともに、ほぼ自分のいた電子世界そのままの姿でこのゲームに参加している。
それだけ高い再現力を、見せ付けておきながら……態々肝心要の主催者用アバターを、バグに犯されたまま使用するだろうか?
否、普通はありえない。
ならば考えられる可能性は、一つしかない。
(バグではなく、意図的な仕様であった……そう考えたらどうだ?
あのアバターを侵食している黒いデータこそが……必要なデータだったなら……?)
アレは榊が意図してアバターに付加しているのではないだろうか。
主催者を主催者足らしめんが為に用意された、プレイヤーとは一線を画すプログラム。
そう考えれば、あの不可思議なPCの様子にも納得が出来る。
そして、その考えに至ると同時に……ヒースクリフの脳裏に、ある閃きが過ぎった。
―――規格を無視し、あらゆる電子データを一つに纏め上げられる技術。
―――全プレイヤーに、例えそのプレイヤーが以前にどの様なデータであったかも関係なく、例外なく寄生しているウィルス。
―――唯一ウィルスに寄生しておらず、代わりに参加者には見られぬ謎の黒いバグらしきデータを宿した主催者アバター。
(この三点は……繋がるかもしれないぞ。
我々を集めた技術、我々に寄生しているウィルス……それの大本は、榊のアバターに見られたあの黒いデータなんじゃないのか?)
あの黒いバグらしきモノこそが、この殺し合いの根幹を成すデータではないか。
主催者特権として榊があのデータをアバターに付加しているならば、それは十分にありえる話だ。
ならば、その詳細をどうにか掴む事が出来れば……
(ウィルスに対抗する策……ワクチンの様なモノを生み出す事も、不可能ではないかもしれん)
アバターに宿るウィルスを、破壊できるかもしれない。
枷から外れ、明確に主催者へと刃を向ける事も可能となる。
ならば……このバトルロワイアルを止める為にも、絶対に為さねばならない。
(……尚の事、情報を集めなければならないな。
まだ推理がどこか間違っている可能性もある以上、100%の確信には至れないが……
それでも今は、これがゲームマスターに繋がる最も大きな手がかりだ)
◆◇◆
「……さて……着いたか」
そう考えている内に、ヒースクリフは目的の場所へと無事に到着する事が出来た。
F-4。
森からある程度近い地点にあり、且つHPが回復するまで休息を取れる地点。
その条件に当てはまったのが、この場所……そこに佇む一軒の小屋だ。
「外見は確かに、ただの小屋ではあるが……ふむ」
この小屋だが、ヒースクリフには一つだけ気になる事があった。
それは、何故単なる小屋がマップに記載されているかだ。
これがショップや病院といった有益な施設か、或いは日本エリアの学園がそうである様に参加者がよく知る名所等なら分かる。
しかし……ここは、特別な名前を持たぬ唯の小屋だ。
故にヒースクリフは、返ってここに何かがあるのではないかと思ったのである。
そして恐らく、自身と同じ疑問を抱いたプレイヤーが来る可能性も―――事実、ワイズマンはこの小屋に何かがあると睨んでいた―――ある。
レッドプレイヤーが現れる危険性もゼロではないが、その逆もまた然りだ。
有益な情報を持つプレイヤーが来れば、現状願っても無いチャンスである。
(これがSAOならば、何かしらのイベントが用意されているというところだが……ここも同様か?)
念を入れ、青薔薇の剣をオブジェクト化させてから小屋の入り口へと近づいていく。
果たして何があるのか、何が起こるのかは全く想像がつかない。
ただ、何も無いという事はありえないだろう。
軽く深呼吸をし、そのドアノブを強く握る……鍵はかかっていない様だ。
――――――ガチャッ。
警戒心は最大限に、一切気を緩める事はせず。
ヒースクリフは小屋のドアを開き、その中へと足を踏み入れ……
「……何?」
そして、目の前の光景に驚愕の声を漏らした。
最初にマップデータを見たとき、彼がこの小屋について想像したのは、ファンタジーではおなじみの牧歌的なそれだった。
SAOの二十二層に設置したログハウスが、一番近い形だ。
実際、この小屋の外見自体もその通りだった。
だが……この中身は、一体どういうことだ。
天井には、白色光を放ち部屋全体を照らす蛍光灯。
床には、光沢を放つフローリングにカーペット。
壁には、白に近いクリーム色をした壁紙。
(現代的……近代的過ぎないか?)
ファンタジーどころか、その完全な対極。
現代的すぎる、リアルに極めて近いものだったのだ。
ヒースクリフは、兎に角その光景に驚きと戸惑いを隠せないでいた。
間違って、マンションかアパートかのドアでも開いてしまったのだろうか。
いや、ここが日本エリアやアメリカエリアならまだ分かるが、マップを見る限り間違いなくファンタジーエリアにある小屋だ。
まして外見は、完全にファンタジーのそれであった。
では……この異質すぎる空間は何なのだろうか?
まるでこの小屋の内部だけ、ファンタジーエリアとは別の場所に繋がっているかの様な、この現代的な居住空間は。
「場違いにも程がある……そう驚くのも、無理はないわね」
「!?」
その刹那。
住居の奥より、何者かの呼びかけが聞こえてきた。
女性の―――感じからしてそれなりに年を取っている―――落ち着いた声だ。
ヒースクリフは咄嗟にそちらへ視線を向けると共に、剣を強く握り締める。
イベント用に設定されたNPCの類か、或いは先に小屋を訪れていたプレイヤーがいたのか。
どちらにせよすぐに襲い掛かろうとしない事からして、無差別に参加者を襲う様な輩ではない様だが……
「そう警戒しなくてもいいわ。
私は、貴方と違って闘う術を持ち合わせていないもの……それどころか、本来の力ですら満足に使えない有様なのだから」
そんな警戒心を感じ取ったのだろうか。
声の主は、ヒースクリフに自身に敵意が無い事を伝えてきた。
その言葉に、彼はやや思案した後……剣を手にしたまま、その場から動かずに問いを投げかけた。
敵意の無さを訴えつつも、騙し討ちを仕掛けてくる危険性もある。
ならばここは、まず相手の正体を知るべきだ。
「一つ聞かせていただきたい。
貴方は私と同じプレイヤーなのか、それともこの小屋に設置されたNPCなのか、どちらなのだ?」
この状況下で自分に声をかけてくる存在は、このどちらかだ。
前者か後者か、それによって出方が大きく変わるのだが……
「残念ながら、そのどちらでもないわ」
「何……?」
その答えは、全く予想していないものであった。
声の主は、参加者でも無ければNPCでも無いと言い放ったのだ。
同時に、ヒースクリフの腕に緊張が走る。
プレイヤーでもNPCでもない存在……それは即ち。
「……主催側の者なのか?」
考えうる限り、最悪といってもいいパターン。
榊側に所属する者が相手というケースがありえるのだ。
しかし……だとすると奇妙だ。
確かにこの小屋には違和感を覚えたが、態々主催に繋がる施設を堂々と会場に置くだろうか?
いや、それはまずありえない。
ならば、この声の主は……
「違うわ……私も、殺し合いに参加こそしてないものの、貴方達と同じよ。
何かを果たす為に、彼等に捕らわれているという意味ではね」
「……成る程。
やはり、このバトルロワイヤルは実験場という事か」
NPCとしての役割を割り振られた、特殊な立ち位置にいるプレイヤー。
自分達と同じく、このバトルロワイヤルの為に拉致された被害者だ。
そう分かると、ヒースクリフは軽いため息をついた。
元々、この殺し合いが何かしらの実験であるとは予想していた。
ならば、ただ単に争い合わせるだけではなく、合間で何かしらの変化を意図的に起こし反応を見るという事も十分にありうる。
この声の主は、その役目を榊達によって負わされた人物だ。
「ええ……私を参加者と引き合わせる事で、何かしらの変化を齎そうとしているのか。
それとも、単に争いを盛り上げたいだけなのか……或いは、両方か」
「ふむ……先程、『本来の力を』と言っていたが、それと関係があるのかな?」
ヒースクリフはウィンドウを操作し、アバターを白衣の科学者―――茅場晶彦としての姿に変化させる。
声の主には、こちらを襲うつもりが無いであろう事ははっきりと分かった。
ならばいつまでも威嚇行為をとる必要はない。
それに……これは単なる気分の問題だが、流石にこの空間で騎士姿というのは不釣合いだ。
一応、ここは相応な姿で対話に臨むべきだろう。
「貴方が主催者の立場なら、唯の話し相手をわざわざ殺し合いの舞台に置くかしらね?」
「確かに、分かりきった質問ではあるな。
これは失礼した」
茅場晶彦は声の主がいる場所へと、ゆっくり歩を進めていく。
同時に部屋の内装にも目を配らせてみるが、やはりここはどこかアパートの一室らしき居住空間だ。
それも日本ではなく、欧米によく見られるスタイルに近い。
「では、この不釣合いな空間も意味があってのものとみていいのかな?」
「そうね……ここは、私が今まで住んでいた場所をそのまま再現したマトリックスよ。
私にせめて、居心地よく過ごしてほしいとでも思ったところか、それとも……」
そして部屋の奥へと足を踏み込み、茅場晶彦は声の主とようやく真正面から対面した。
黒い肌にパーマをかけた髪をした、見た目にはそれなりに老いが見られる女性。
彼女はソファーに深く腰掛け、その手には一本の煙草が携えられている。
「……あの小屋は入り口に過ぎず、ここだけは会場の何処とも異なる別の空間に繋がっている。
恐らくは、貴方を幽閉する為に……といったところか」
「ええ、私は事実この切り離されたマトリックスから離れることは出来ないわ。
出入りが許されているのは唯一、貴方達参加者達のみよ……
こんな事態はアーキテクトにも、私でさえも予想が出来なかったから、驚いたわね」
「しかし、それならファンタジーエリアではなくアメリカエリアに置くのが筋と思うが……いや。
システム上それが出来なかったから、この小屋を入り口にする他なかったのか?」
机を挟み、対面のソファーへと腰掛ける。
どうやらこの小屋は、予想していた以上に深くこの殺し合いの根幹に繋がる場所だった様だ。
まさか、プレイヤー達とこうも堂々と参加者以外の者を接触させるとは、正直思ってもみなかった。
これもまた、榊の目論見のひとつというところか。
「では……改めて質問させてもらおう。
貴方は一体、何者なのだ?」
ならば、この女性は一体何者なのか。
プレイヤーと接触させる事でバトルロワイアルに大きな変化を齎す事が可能だという彼女には、一体どの様な力があるのか。
茅場のその問いに、女性は一度煙草を口に当て、黒煙を口より吐き出した後……静かに答えた。
「私は、未来を見通す力を持ったエグザイル。
オラクル、または預言者とも呼ばれているわ。
もっとも……さっきにも言ったように、ここでは力が満足に使えない有様よ」
【F-6/ファンタジーエリア 小屋/1日目・午前】
【ヒースクリフ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP70%、茅場晶彦アバター
[装備]:青薔薇の剣@ソードアート・オンライン
[アイテム]:エアシューズ@ロックマネグゼ3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止め、ネットの中に存在する異世界を守る。
1:オラクルからひとまず、話を聞く。
2:榊についての情報を入手し、そこからウィルスの正体と彼の目的を突き止める
3:バトルロワイアルを止める仲間を探す
[備考]
※原作4巻後、キリトにザ・シードを渡した後からの参戦です。
※広場に集まったアバター達が、様々なVRMMOから集められた者達だと推測しています。
※使用アバターを、ヒースクリフとしての姿と茅場晶彦としての姿との二つに切り替える事が出来ます。
※エアシューズの効果により、一定時間空中を浮遊する事が可能になっています。
※ライダーの真名を看破しました。
※Fate/EXTRAの世界観を一通り知りました。
※.hack//の世界観を一通り知りました。
※このバトルロワイヤルは、何かしらの実験ではないかと考えています。
※参加者に寄生しているウィルスは、バトルロワイヤルの会場を作った技術と同じもので作られていると判断しています。
そして、その鍵が榊の持つ黒いバグ状のデータにあるとも考えています。
【オラクル@マトリックス
[ステータス]:健康
[備考]
※姿は、REVOLUTIONの時のものです
※未来を視る力が制限されています。
制限の程度がどの程度かは、以降の書き手に任せます。
※小屋の外へと動くことは出来ません
※F-6の小屋はオラクルの住居に繋がっています。
この住居は、会場とは別に切り離された電子空間に存在しています。
最終更新:2014年02月20日 16:52