「……榊か」

「オーヴァン……アンタからこちらに連絡とはな。また何かゲームのバグでも発見したのかね?」

「ほう、俺を疑わないのか。このエリアに干渉するのは、これで三度目になるはずだ」

「ああ、私は寛大だからね。
 それに普通のプレイヤーならともかく、アンタはこのゲームの為に献身的に動いてくれているのを"私達"は知っているのだよ?
 この6時間でキルスコアを稼ぎ、あまつさえISSキット及びロストウエポンの譲渡もしてくれている。
 そんなアンタを信用しない理由がどこにあるというのかな?」

「実に有り難いことだ」

「それで、今回は如何な要件かな?」

「あるプレイヤーについての情報が知りたい。ゲームの煽動の為に一役買ってもらおうと思ってな。
 無論、ただでとは言わない……"これ"と引き換えだ」

「……なるほど。"これ"は確かに"私達"としても有り難い。
 良いだろう、その好意は素直に受け取るとしよう!
 全く、オーヴァンのように"役割"を忠実に果たしてくれる者ばかりならば、私としても大いに満足なのだがなぁ!
 それで、一体どのプレイヤーのことかな?」

「ああ……今もPKを続けているであろう黒いアバター。
 フォルテ、と呼ばれるプレイヤーのことだ」



     1◆



「フンっ!」

 目前より迫る弾丸の嵐を、エリュシデータの一閃で振り払う。一撃でも当たれば致命傷になり得るエネルギーは、遥か後ろへと弾き飛ばされた。
 無論、それで終わることなどない。フォルテの左腕に顕在するバスターから、機関銃の如く勢いで光弾が放たれ続ける。響き渡る轟音だけでも戦場特有の威圧感を醸し出していた。
 サイズこそは自動拳銃より僅かに勝る程度だが、そのスペックは重機関銃に匹敵する程。バレッド・ドッジを始めとした能力を誇るエージェント達にとっても、脅威となり得る力だ。
 救世主となって培われてきた経験から、瞬時にそう推測する。


 されど、ネオの闘士は微塵も衰えない。
 その身に宿らせる救世主の力を発揮して、光弾の勢いを強制的に止める。結果、光弾はただのエネルギーの塊と成り下がった。

「ほう……!」

 当然ながら、目前を飛ぶ死神はこの仕様に目を見開く。だが、それは決して驚愕ではないようだった。
 しかし、その真相を確かめる術など持たない。故に構うことなく、ネオは再び刃を振るって全ての弾丸を破壊する。
 マトリックスの法則を超越した現象を引き起こせる救世主の力だからこそ、成せる業だ。

「やはりキサマの力は面白そうだ」

 だが、死神は微塵の動揺も見せない。むしろこちらを値踏みするかのように、禍々しい笑みを浮かべていた。
 ネオはその表情に見覚えがある。己以外の者を徹底的に侮蔑し、そして全てを自分自身に"上書き"しようとした男と同じ。
 そう。エージェント・スミスが浮かべる酷薄な笑みと、何一つの違いがなかった。



 だからこそ、彼をここで止めなければならない。
 彼が死神であり続ける限り、人間と機械の争いは永久に終わることはない。いずれ彼はGM達すらも破壊し、そしてこのデスゲームに巻き込まれた者達が生きる世界すらも飲み込むだろう。
 あのスミスがマトリックスの住民達を"上書き"したように。



 目前に顕在する漆黒のアバターを直視する度に、やはりスミスの姿が脳裏に浮かび上がる。
 二人はどこまでも似ていた。人類の英知から生まれて、多くの事柄をインプットされる度に己の自我を持つようになり、そうして生みの親に反旗を翻した。
 それはシステムから生じたバグなどではない。彼ら自身の意志であり、唯一無二のオリジナリティだ。
 堕落した人類の罪こそが全ての元凶。そう考えていたが、大きな勘違いなのではないか?

「人間よ。キサマは今も俺を憐れもうとしているのか?」

 そんな思考を見透かしたかのように、彼は言葉を紡いだ。

「その結果がこの有様だと、何故わからない?」

 胸に抱いた決意を彼は嘲笑う。そして一直線に突貫し、その手に握る刀を振るった。
 ゴウッと、風を大きく揺らしながら迫る。ネオは反射的にエシュリデータを掲げて一閃を受け止めた。
 余りにも力任せで、ただ振るったに等しい技。だが、その重量は決して侮れるものではなく、耳障りな衝突音と共にネオは弾き飛ばされた。

「ぐっ……!」

 稲妻の如く振動が全身を駆け巡り、思わず呻き声を漏らす。
 ネオの表情が苦悶に染まるも、死神の刃が迫る。その餌食にならないよう、ネオもまた己の刃を振るった。
 一秒の時間も待たずに火花が散って、闇に覆われつつある空が僅かに照らされる。互いの呼気は鋭い衝撃音に飲み込まれていた。



 両者の剣戟はマトリックスの空を震え上がらせる程に凄まじい。
 二つの刃が衝突する度に、死神の体躯より放たれる殺意が濃さを増す。人間に対する憤怒と憎悪……そして"力"への渇望が、真紅色の双眸より突き刺さった。

「どうした。何故俺に力を向けようとしない?」

 淡々とした問いかけ。しかしその声色にも、エージェント達が抱いている程の冷徹さが内包されている。
 彼の感情を現すかのように、バスターがおぞましく輝いた。それが視界を覆うと同時に身を捩ったことで、光弾はコサックコートを掠めるだけに終わる。
 ネオは空中で体制を立て直すも、その僅かな時間が致命的な隙となった。

「人間、キサマは言ったな。俺の意志を話せと…………だがそれを聞いて何の意味がある?」

 嘲笑と共に振るわれる死神の一閃。ネオは身体を大きく逸らすことで容易く避ける。鋭い輝きを放つ刃がネオの目前を横切った。
 次に迫る攻撃を予測する。反射的な動作が困難となった体勢に追い込み、そしてこの身体を狙撃するのだろう。
 案の定、銃声が鳴り響いた。だがそれに抗うイメージを心に描き、殺意の灯から逃れる。マトリックスのルールを幾度も打ち破ったネオにとっては呼吸に等しい業だ。
 エリュシデータを構え直して、ネオは死神と向き合う。彼の真実は何か……この運命を変える為に、何ができるのか?


 預言者と初めて巡り会ったあの日、汝自身を知れと預言者より告げられる。それを突き詰めたことで、ただの人間に過ぎなかった己自身の"選択"と"本当の自分"を知ることができた。
 今の自分は己自身を知れているのか? 目の前にいる心を持つネットナビの本心も知れずに戦い続けても、いずれ来たるのは決着のみ。どちらが勝者として君臨しても、望んだ結末になり得ない。
 これが本当に救世主が果たすべき使命なのか? マトリックスでエージェント達と戦っていた頃と、何の違いがあるのか?



「この期に及んで、俺が人間どもと手を取り合うなどと本気で思っているのか?」

 死神の構えるバスターより無数の弾丸が放射される。
 一撃でも直撃すれば爆裂し、この身体は跡形もなく消し飛ぶであろう輝きの嵐を潜り抜けて、時に自らの得物で両断した。

「ならば夢を見続けていればいい。そして何も知らないまま、全てを奪われていろ!」

 激昂と共に死神は肉薄する。
 両者は刃を振るい、金属音を響かせた後に鍔迫り合いの態勢となった。

「同じだな」

 吐息がかかる程の距離まで迫った途端、彼は呟く。

「やはりキサマも所詮は人間に過ぎない……俺を哀れもうとするのが証拠だ。人間め!」

 人間、という単語に異様なまでの嫌悪を滲ませながら、豪快にネオを弾き飛ばす。
 そうして死神は衝撃波が生じる程の速度で突貫し、逆袈裟に刃を振るった。ネオはその一刀を受け止めるも、振動に表情を顰める。


 予想はしていたものの、やはり恐るべきスペックを誇っていた。
 アッシュ・ローラーやガッツマンを一瞬で屠る程の剛力に、ネオの振るう刃を的確に捌く反射神経。剣術の技量自体は拙いものの、それを補うのは彼自身のポテンシャルだ。
 単純な戦闘能力ならばネオも決して劣っていない。アメリカエリアの一戦では心理的な要因があった為に敗北を喫したが、フォルテに致命傷を負わされることはなかった。
 モーフィアスとタンクより授けられた戦闘技術と、長きに渡る戦いによって育まれた救世主の力を兼ね揃えたネオにダメージを負わせること自体が容易ではない。


 だが、目前の死神とてただの機械ではない。
 威風堂々と振るわれる刃の重みが桁外れだった。並のエージェントならば……否、スミスレベルのエージェントでなければ瞬く間に葬られてしまう程だ。
 嵐の如く勢いで一閃は続くが、瞬時に掻い潜ったネオは反撃の一突を繰り出す。しかし死神はエリュシデータの尖端を見切り、身体をほんの僅か左に傾けることで回避。
 そうしてがら空きとなった脇腹を目がけて、豪快に刃を横薙ぎに振るった。

「ぐ、あっ…………!」

 救世主の力で物理法則を捻じ曲げるより、刃がコートを破りながら肉体を抉る方が早い。
 凄まじい激痛が駆け巡るが、それを堪えて全身を大きく横回転させる。赤いエフェクトを撒き散らしながら、ネオは死神から大きく距離を取った。
 だが、死神によって刻まれた裂傷が枷となって、次の動作が遅れる。致命的な隙を狙ってバスターの銃口が掲げられた。

「消し飛べっ!」

 激昂と共に発射されるのは、視界を埋め尽くすほどの破壊の輝き。常人を容易く塵芥に変えられるであろうそれは、災害と称しても過言ではない。
 この身を飲み込まんと迫るが、ネオは一切の躊躇をせずに救世主の力を発揮し……運動エネルギーを強制的にゼロに変えた。
 先程の焼き増しとも呼べる光景。だが、ネオが肩で息をしているのが、唯一にして最大の違いだった。
 疲弊に満足したのか、死神は表情を喜悦に染めながら言葉を紡ぐ。

「ククク……どうした、人間? これでも尚、俺と話し合おうなどと戯言を続けるつもりか?
 文明を生み出したという驕りから神を気取り、そして救世主とやらに縋った結果だぞ。俺を高みから見下ろそうとしたのだろうが、どうやら逆だったみたいだな」

 それは、決して聞き逃してはならなかった。
 人類の驕りによって引き起こされた悲劇。マトリックスに抗う人類達や、ネオに未来を示してくれたカオルがよく知っていた。
 計算。医療。農業。交通。娯楽。経済。果ては快楽。進化の為、あるいは欲望を満たす為に……人類はあらゆる分野の発展を目指して、技術開発を続けた。
 そうしてシンギュラリティが訪れて、機械は人間の能力を上回った。そして高度な人工知能は科学技術の進歩を支配し、人類の心をマトリックスに閉じ込めた。
 ここで今、ネオと相対している彼もまた、異世界で起きたシンギュラリティの産物。人類に見切りをつけて、全てを破壊しようと目論んでいるのだろう。

(カオル、アッシュ、ガッツマン、モーフィアス、トリニティ…………俺の答えを君達が認めるかどうかは知らない。
 だが、俺は決めた。俺自身の"選択を見つけた")

 だが、彼らの存在を悪と断定しない。それは人類の進化を悪と断定するに等しかった。人類が元凶だと決めつけるのは、文面の発展に命を注いだ先人の英知を冒涜するだけ。
 機械は人間の手によって生み出されて、己の心を持つまでに成長した。人間と同じように思考し、行動するようになった彼らが、自らの存在を軽視されることを許す筈がない。例えその相手が生みの親だろうと。
 それは人間も……いや、どんな命だろうと同じだ。心が育った子はいずれ親元を離れ、そして己自身の力で道を歩まなければならない。それを否定する権利など、誰にもなかった。
 だからこそ、人類は成長する義務があった。決して思考を止めず、心を持った機械に向き合えるように知恵を出す。古来より続けてきた行いだ。

「違うな」

 故にネオは己の想いを告げる。
 例え届かなくても関係ない。これだけで彼が止まる訳がないことを承知で、己自身の"選択"を告げる義務があった。

「言ったはずだ。人間が諸悪の根源であり、機械はその被害者である……そう決めつけるのは、大きな間違いだった」
「間違い、だと?」
「ガッツマンは言った。全ての人間が悪ではなく、だからこそネットナビは人間と共に生きていると。
 アッシュは俺に聞いた。俺自身が本当にやりたいことはなんであるのか。
 俺は彼らから教わった。自らの力で生きて、思考し、判別をしながら行動する…………それは人間もネットナビも、そしてどんな機械も変わらない。いや、世界に生きる全ての心がそうだ」
「………………!」

 死神は瞠目し、歯を強く食いしばる。
 怒りだけではなく、自らの存在を否定されている程の屈辱が感じられた。アッシュを相手に突き付けた時とは比べ物にならない程の威圧感が、彼の全身より放たれる。

「…………キサマ。キサマら人間や、そして弱者に過ぎないネットナビどもと……この俺が同じだとでも言うつもりか!?」
「人間は人間であり、ネットナビはネットナビだ。そして機械も機械である。そこに上も下もない。
 違うのは、その有り方だ。誰かと寄り添っていくのか、それとも自らの力だけで生きていくのか。そこに善も悪もない。
 ただ、俺が言えるのは一つ。どんな命だろうと……誰かを無意味に悲しませ、そして傷付けようとすることを俺は認めない」
「キサマら人間が、それを言うかっ!」
「どんな過去があろうとも、それは今を生きる者達を傷付ける理由になってはいけない。そして君がこれからも誰かを傷付けるというなら、俺は何度でも止めてみせる。
 それこそが、救世主である俺の使命だ」
「ならば、この俺を止めてみせろっ!」

 最早語る言葉などないと告げるように、その手に握る刀を振るいながら死神は急接近した。
 対するネオもエリュシデータを凪いで一刀を防ぐ。激突の瞬間、振動が傷口にまで駆け巡った。しかしその痛みに堪える間もなく、死神は背後に飛んで、そこからまた一切の躊躇いがない一閃を放った。
 狙いは脇腹。弱点となった個所をより深く抉ってこの命を奪おうとしているのだろう。極めて当然で、救世主を相手にそれを許す程の筋力と俊敏性を死神は誇っていた。

「ハァッ!」

 放たれる袈裟懸け。ネオの胴体を両断しようと、死神の刃は猛スピードで襲い掛かる。
 それに対するネオの対応は、防御ではなく回避。マトリックスの空を蹴ることで、爆音と共に急上昇した。
 そうして死神の背後に回ろうと身体を捻った直後、ネオは見てしまった。眼下で漆黒の翼を羽ばたかせる彼が、愉快気な笑みと共にバスターを向けているのを。
 そして銃口には、先程までとは比べ物にならない程のエネルギーが収束されていた。

「見切ったぞ、人間ッ!」

 回避によって動作が固まったネオを目がけて、破壊の弾丸が撃ち出される。ネオを穿たんとする輝きは、やはり異様なまでの光度を誇っていた。
 ネオはその身体能力のみで反射的に大きく仰け反るも、咄嗟の攻撃に対応しきれない。直撃こそは避けられたものの、爆風に身体が吹き飛ばされてしまった。


 宙を舞いながら、己の思考がスローモーションになっていくのをネオは感じる。
 そして考えた。何故、彼はこちらの攻撃をこうも的確に捌いているのかを。確かに彼自身のスペックは優れているが、ネオとて決して劣っているつもりはない。
 まるでこちらの動作を予め読んでいるかのようだった。

(予想している……いや違う。まさか、俺の動きを予知しているのか? 彼女が持つ予知能力を、彼も持っているのだとしたら……!)

 ネオの脳裏に浮かび上がるのは、オラクルという名の預言者。エグザイルである彼女はその予知能力でザイオンに生きる者達を支え続けた。
 だが、もしもその予知能力を戦闘に応用したら、大きな武器となる。例え数秒だろうと、相手の動作を予測できれば的確な反撃が可能だ。
 無論、敵の動きと同調するまでの身体能力も必要だが、この死神にはそれがある。だからこそ、ガッツマンも敗れてしまった。


 救世主の力と言えど、未来を読むことはできない。そして救世主の力だけで未来を変えることも不可能だ。
 例え物理法則を改竄して何かの動きを止めたとしても、それを読まれてはいくらでも対処させられる。
 始めの一手で死神の弾丸をせき止めたが、結果的にはこちらから情報を与えてしまっただけ。救世主の力が如何なるものかを知れば、その効果を予測することも可能となってしまう。
 しかし己の判断を悔やむ暇などない。救世主の力で強引に体勢を立て直した途端、遥か上空より見下ろしてくる死神と目が合ったのだから。

「クッ……あの状況から、まさかアースブレイカーを回避するとはな。
 どこまでもしぶとい人間だ。だが、それもいつまで続く?」
「……ハァッ……ハァッ……ハッ……!」

 死神の言葉に答えられず、ネオは乱れた呼吸を整えるのに必死だった。
 その理由をネオは察する。この戦闘で受けたダメージだけではなく、短時間で救世主の力を過剰使用した結果、体力が大いに消耗してしまったのだと。
 何故なら、救世主の力は時として生命の蘇生すらも可能だ。それに制限時間が設けられていたように、体力の消耗という枷が付けられてしまったのだろう。
 そして彼自身は知らないが、このバトルロワイアルでは『心意』と呼ばれる救世主の力と酷似した力が存在する。あらゆる道理を打ち破る神秘の業だが、当然ながら過剰使用によってバーストリンカー本人の体力は削られる。
 それと同じ制限が救世主の力にも存在した。

(まさか、こんな制約が用意されていたとは…………!)

 これまでの戦いでも力を使ったが、決して回数は多くない。アメリカエリアと野球ゲームの両方を合わせたとしても、5回にも満たなかったからこそ、消耗することはなかった。
 だが、長時間の飛行と合わせて、幾度となく攻撃を回避し続けてしまった。その結果として疲弊してしまい、更に脇腹から伝わる痛みが深刻となっていく。例えこのまま傷を防いだとしても、その分だけ余計に消耗するだけだ。

(いや、関係ない。モーフィアスは俺達を救う為、そして未来の為に自らの身を犠牲にした! ガッツマンもアッシュも、最期まで戦っていた!
 何よりもトリニティは、俺を信じたはずだ!)

 されどネオは全身に力を込めて、エリシュデータを構える。死神はそれに表情を顰めるも、関係ない。
 彼が強敵であるのは、アメリカエリアで充分に知った。そして彼を止めなければ、他のプレイヤー達が犠牲になってしまうことも理解している。
 悲劇の連鎖を止めることが、救世主であるネオの使命だ。アッシュとガッツマンを救えなかった罪を背負い、戦い続けなければならない。
 誰もがそれを望んでいるだろうから。

「だが、ここで終わらせてやろう。下らぬ願いもろとも、消えてしまえ」

 彼は全身を屈ませながら、ネオを鋭い視線を向ける。ここで命を刈り取ろうという算段だ。
 それに対して、ネオは待ち構えることしかできない。彼が動作を予測する以上、無暗に突貫しても捌かれるだけ。
 そうして死神が飛びかかってくるが。

「…………チップ! ホールメテオ!」 

 マトリックスが湾曲し、その中より灼熱を帯びた巨石が噴出した。
 轟音と共に迫りくる火山弾の存在に、両者の意識が反射的に向けられる。唐突に現れた熱の隕石の数は十を超えて、全てが死神を目がけて突き進んでいた。

「チィッ!」

 その襲来は予測できなかったのか、死神は舌打ちと共に両翼を広げて回避した。
 灼熱の群れが空を横切っていく一方で、彼は眼下を睨みつける。それを応用に目を振り向いた。

「揺光……!」

 自分達が戦いを繰り広げている遥か下では、モーフィアスより譲り受けたと言われる双剣・最後の裏切りを構える少女がいた。
 その少女・揺光は、遥か遠い空を飛ぶ死神に鋭い眼差しを向けていた。


     †


「コサックという天才科学者によって生み出された世界初の完全自立型ネットナビ。
 だがその性能がきわだって優秀すぎた故に、人類より敵視されるようになったか」

「ああ。フォルテは生みの親の為に献身的な活動をしていたが、最後はその生みの親からも見捨てられたのさ!
 科学者達の選択に逆らうことができず、絶大な威力を誇るリミッタープログラムを付けられても、健気にも信じ続けた!
 だがその結末が親からの裏切りという末路とは、本当に哀れだと思うよ!」

「…………果たして、それはコサック博士の真実なのか?」

「真実だとも!
 プロトの反乱に紛れてフォルテは逃走したが、それこそが絶好の機会と判断したのだろう!
 使えない手駒など捨てて、新しく生み出せばいいだけなのだからなぁ!」

「そうか…………だが、そのフォルテは今もPKを続けているんだな。
 ロックマンという宿敵が敗退した今でも」

「その通りさ! キリトやブラック・ロータスを始めとしたプレイヤーに煮え湯を飲まされているものの、単純なキルスコアだけなら君すらも上回っている!
 そういう意味では、彼には感謝しなければならないのだよ! デスゲームを進めてくれる優秀なプレイヤーには、褒美を与えてやりたいくらいだ!」

「なら、俺の手から彼に渡してやろう。そもそも、今回はそれが本題だったからな」

「何?」

「ああ……"君達"も知っているはずだ。俺がキリト達との戦いで手に入れたモノを。
 そしてそいつが求めているアレを、"君達"は持っているんじゃないか?」



     2◆◆




 天高い空を羽ばたいている死神の視線はおぞましい。あのスケィスと同等か、もしくはそれ以上の殺意が込められていた。
 双剣を握る手は汗ばみ、全身が震えている。しかし揺光は決して怯まずに、遥か遠くにいる死神に力強い視線を向けていた。
 自分では決して勝てないとわかっていても。

「悪い、ネオ。やっぱり、ただ黙って見ているなんてできないや」

 漆黒の死神の襲撃に遭い、黄金の鹿号から振り落とされた自分を安全な場所に降ろしてくれた。その事には感謝しているし、また敵の攻撃に巻き込まれないように戦ってくれているのも知っている。
 一目見ただけで、二人は達人と呼ぶに相応しい技量を誇っていると察した。きっと、あのハセヲとも互角に渡り合えるだろう。空を飛ぶ手段を持たない揺光が首を突っ込んでも、ただ自殺するに等しい。
 それを知った上で揺光は戦いを挑んだ。

「人間が……何の力も持たないくせに、この俺の邪魔をするつもりか?」
「ああ、邪魔をしてやるよ! アタシはあんたやネオみたいに強くない……けどな、アタシはこれでも宮皇になったプレイヤーだ!
 その名前に賭けて、アンタに挑む!」

 仲間の危機を見逃して、紅魔宮の宮皇の名を背負える訳がない。
 もしもこの場にアリーナの宮皇達がいたら、この死神に戦いを挑む筈だ。太白、天狼、大火……誰一人として逃げ出さないだろう。
 あのエンデュランスだって、ハセヲのことを幾度も支えた。気に入らない奴だったけど、ハセヲに対する信頼は本物だ。
 一度は宮皇の座に君臨した揺光に、ただこの戦いを見届けるなどできない。だからこそネオの危機を救う為に、ホールメテオのバトルチップを使った。
 隕石群は避けられてしまったが、一先ずネオの命だけは救えた。

「それに、アタシが知っている奴らは自分よりも強い奴らに挑んで、勝ったんだ!
 クラインやモーフィアスっておっさん達……そして、ロックマンって奴もだ!」
「ロックマン……だと!?」
「あいつらはみんな、アタシ達の為に命を賭けた! ネオだって、アンタを止める為に命を賭けてる!
 だったら、アタシだって戦ってやるよ! ロックマン達もそうしただろうから!
 例え力で劣っていようとも……アンタみたいな奴には負けない!」

 このデスゲームに巻き込まれてから多くのプレイヤーと出会った。
 クラインは気のいい奴だった。僅か数時間しか一緒にいられなかったけど、彼は本物のオトコだった。ウラインターネットで凶悪なボスモンスターに立ち向かったのが証拠だ。
 ロックマンは一見すると優等生だったけど強い心を持つ奴だった。思えば彼とは一番話が合った気がするし、もっと一緒にいたいと思った。
 モーフィアスは厳しくはあったけれどそれを上回る誠実さを持った大人だった。もしもこんなデスゲームでなければ、人生の教師として何度も導いてもらったはずだ。
 ガッツマンはその名の通りに男気に溢れた奴だ。義理と人情があったからこそネオやミーナは救われただろうし、何よりもロックマンは信頼したはずだ。
 ラニ=Ⅷもデスゲームには乗っていたけど、もしかしたら分かり合えていたのかもしれない。こんなのは甘い考えであるのはわかっているが、それでも彼女を否定してはいけない気がした。
 カオルはとても頭がいい大人の女だ。最期まで自分達の未来を、そして人類の未来を案じていたのだから。リアルで平和な日常を共に過ごせていたら、勉強や人生相談でお世話になっていたのだろうか。
 そして、スケィスと戦う際に力を合わせたあの第三勢力の安否も気がかりだ。少なくとも、悪い奴らではないから無事でいて欲しい。
 彼らは皆、強敵に立ち向かった。力の差がどれだけあっても、一歩も引かなかった。この死神を相手にしても、同じだろう。

「キサマ……俺が敗れ去ったヤツらに劣るとでも言うつもりかっ!?」
「確かにアンタは力だけは強い! けどな、そんな強さを持っても……いつか負けるだけだって、アタシは知ってる!
 ロックマン達は勝ったんだからな!」

 これまでに戦ってきた相手はいずれも強敵だった。ウラインターネットのボスモンスターも、スケィスと呼ばれた白い巨人も、デウエスというカオルの半身も。
 けれども、誰もが最後には敗れた。ロックマン達が持つ強さと志の前に負けたのだ。彼らだったらこの死神を相手にしても、決して負けないだろう。


 だから揺光はガッツマンがしたゲイル・スラスターを装着して、全身を屈める。
 狙いはあの死神だ。

「アタシもアンタのことは許せない……だけど、ネオはアンタを止めようというなら、アタシもそれに協力する!」

 仇敵の表情は伺えない。
 彼が何故デスゲームに乗って、そして人間を憎むのか。ガッツマンと同じネットナビである彼は過去に何があったのか。何一つとして揺光は知らない。
 だけど、これから知ればいいだけ。何かに失敗して挫折しそうになったら、諦めずに何度でも挑戦するべき。
 カオルだって生前は何度でも挑戦し、試行錯誤を繰り返したことで素晴らしい発明を生み出したのだから。


 ガッツマンの勇姿に想いを寄せながら、ゲイル・スラスターの推進力を利用して高く跳躍する。
 ネオを窮地に追い込み、ガッツマンを瞬時に打ち倒した死神に立ち向かっても碌なダメージを与えられる訳がない。ただ一直線なだけで、何の工夫もない攻撃など見切られてしまう。
 ならばせめて、少しでもネオが有利になれるように……その翼だけでも切り落とすべきだ。


 ネオの呼びかけが聞こえた気がした。ごめん、と心の中で謝る。彼の思いやりを無下にしているのはわかっているが、それでも何もしないのは無理だ。
 周囲の光景が凄まじい勢いで通り過ぎて、死神との距離が一気に縮んでいる。何を思ったのか、漆黒の体躯は動く気配を見せない。
 それに一縷の望みを賭けて、一対のナイフを振り抜いた。だが…………

「…………えっ!?」

 まるで壁に激突したような衝撃と共に、最後の裏切りは弾かれた。まさしく、彼女の決意すらも裏切るかのように。
 見ると、死神の周囲には薄い黒白のオーラが覆われている。バリアか、と思うと同時に腕を掴まれて、振り回される。その遠心力に抗うことができずに、空高くから投げ飛ばされてしまった。



 揺光は知らなかった。死神・フォルテが持つ《ダークネスオーラ》の存在を。
 300以下のダメージを無効化するデータを取り込んだフォルテはキリトとアスナに挑み、敗北した。その際にオーラも破壊されたものの、時間の経過によってこうして復活した。 
 また、例え復活していなくとも、フォルテには【フルカスタム】のバトルチップが存在する。それを使用すればオーラの復活は可能だ。


 しかし揺光にそんなことを知る余地などなく、また知ったとしても打つ手などない。
 ただ視界が揺れる中で見た、死神が構えるバスターの輝きに目を細めて。

「消えろっ、人間がっ!」

 巨大な光弾が轟音と共に放たれる。一切の容赦がない無慈悲な灯を見て揺光は、自らの死を確信した。
 走馬灯を思い浮かべる暇も、遺されるであろうネオや慎二達に想いを寄せる暇もない。ただ、迫りくる輝きを見ることしかできなかった。



 そうして、この身体に膨大な熱波が突き刺さった直後、揺光の意識が漆黒に塗り潰された。



     †



「――――確かに、受け取ったぞ」

「フッフッフッフッフッ…………これくらいはお安い御用さ。
 いや、まさかアンタがここまで献身的に動いてくれるとは。感激のあまりに、思わず頭を下げてしまいそうだよ!」

「俺は君達から任された仕事を果たし、その対価を頂いているだけ。
 むしろ当然じゃないのか?」

「ハッハッハッハ! オーヴァン、いつの間にかそこまで謙虚になっていたとは!
 その心掛けに免じて、もう一つだけアンタに真実を教えよう!」

「ほう。もう一つの真実、とは?」

「ああ……スケィスとの戦いで自壊し、そして"私達"が回収した彼……ロックマンだよ。
 彼のアバターは今、君が差し出したボルドーのアバターと一つになっている」

「……詳しく聞かせてくれるのかい?」

「これを見るがいい……生まれ変わったロックマン。
 ロックマン.hack/AIDAバグスタイル・ISSモードをっ!」





「"私達"の手で再構築され、強大なる力を与えられた彼にはとある"役割"が用意されている。
 だが、それを明かすことはまだできないのだよ。デスゲームが進めば、嫌でも知ることになるが」

「それを知りたければ、俺自身が生き残るしかないようだな」

「そうだとも! オーヴァンなら難しくないと思うがね!
 最後にもう一つだけ忠告しておこう……察しが付いていると思うが、デスゲームに残された時間は長くない。
 君が敗退するのは"私達"としても心苦しい。故に、その活躍を期待しているよ」

「そうか。では、俺はもう行くとしよう」

「健闘を祈るよ、オーヴァン」




     3◆◆◆



 電脳世界の地面は崩壊し、十メートルを超える規模のクレーターが出来上がっている。フォルテが放ったアースブレイカーによって刻まれた傷跡だ。
 破壊の規模を見て、己の力は確実に増してきているとフォルテは確信する。痛みの森のエネミーやガッツマンというネットナビの力を奪ったからこそ、バスターの火力も増幅したのだろう。
 しかしフォルテは何の充足感も抱かず、むしろ胸に宿らせる苛立ちを余計に募らせていた。


 ネオと、そしてネオが守ろうとしている揺光という女。どちらも不愉快だった。
 奴らはあろうことか、全てを喰らい尽す強者であるフォルテが人間と同じであると言った。そして、敗者となったロックマン達よりも劣る存在であると。
 それを許せる筈もなく、フォルテは揺光を空高くより突き落とし、アースブレイカーを放った。ただの人間に過ぎない揺光から得られる力などあるとは思えない。


 そしてもう一つ、許しがたいことがあった。
 アースブレイカーを放ったのと同時に、あろうことかあのネオが自ら揺光の元に飛び込んでいった。先程まで戦っていたフォルテには目も暮れず。
 まるで理解ができなかった。その加速力で間に合って、また例の超能力で防げるとしよう。だが、それだけで防御しきれるほど軟な砲撃ではなく、実際に大地を破壊した。

「何……!?」

 だが、クレーターの中央に立つネオは生きていた。その後ろには、あの揺光という人間が横たわっている。
 揺光は死んだのか? いや、それならば肉体が消滅するはずだ。気絶しているだけだろう。ほんの少し、命が伸びただけに過ぎない。


 そして一方のネオはこちらを見上げていた。
 サングラスは砕け散って、双眸が露わになる。オニキスの如く輝きが、フォルテには見覚えがあった。絆の力とやらを信じ続けた人間どものようだった。
 ネオの瞳には怒りや憎しみ、果ては殺意すらも微塵も感じない。この期に及んで、奴はまだ繋がりとやらを信じ続けて、そしてフォルテにも手を伸ばそうとしているのか。

「……言ったはずだ。俺は君を、止めてみせると」

 フォルテの思考を読み取ったかのように、ネオは言葉を紡いだ。
 奴は追い込まれているはずなのに、理想を捨てようとしない。その有様にフォルテは怒りを燃やす。共存などという反吐が出るような奇跡に縋り、掲げようとしている人間に。
 愚かで、そして腹立たしい。このまま吹き飛ばしてやりたかったが、ただPKするのだけでは意味がない。
 ネオを徹底的に否定し、そして絶望させなければならなかった。



     †



 蹂躙と形容するに相応しい輝きだった。
 マトリックスは砕け散り、仮初めの雑草達は跡形もなく消し飛んでいる。エージェント達との戦いで見てきた数多の重火器が玩具に見えてしまうほどだ。
 戦車や戦闘機、あるいは核ミサイルが仮にあったとしよう。死神はそのすべてを防ぎ、そして喰らうはずだ。
 そんな輝きをまともに受けてしまったら、普通の人間である揺光に耐えられるはずがない。いや、救世主のネオですらも無傷は避けられなかった。



 それでも生きていたのは、救世主の力とネオに支給された盾の防御力があったからこそだ。
 アナザーネオ。自身と同じ名を持つ盾を装備すれば、その対象の防御力が75もプラスされる。
 当初からその存在を知っていたが、ネオはこれまでの戦いで敵の攻撃を盾で防いだ経験がない。迫りくる銃弾は救世主の力で対応し、また格闘及び剣術でエージェント達を撃破し続けた。
 故に防具は軽量化されたものならともかく、必要以上の重量があっては動きが阻害される。即急な決着が求められている以上、装備をしなかった。


 だが、揺光を救う為に装備した。
 救世主の力で揺光の前に回り込んで、アナザーネオに救世主の力を込めてアースブレイカーを防ぐ。その圧力は凄まじく、ほんの一瞬で亀裂が走った。
 そして炸裂して、二人は遥か後ろに吹き飛ばされた。その際にアナザーネオは破壊されたものの、生き延びることはできた。

「揺光…………!」

 しかしネオの後ろにいた揺光は、衝撃の影響なのか気絶している。
 すぐさまネオは彼女の手を握り締めて、傷を癒そうと救世主の力を使った。残り少ない命が揺光に流れていくが、構わない。
 今度は間に合った。例のシステムメッセージは表示されず、トリニティ達の悲劇を繰り返さずに済んだ。



(死なせない、死なせるもんか!
 揺光……君は、生きるんだ! 生きて、君の未来を………………
 そして、人類と機械、ネットナビを……………………!
 ……なるんだ、揺光!)

 揺光が救われるようにとネオは願った。
 無論、ここにはあの死神がいる。例えこうして傷を癒したとしても、迫り来る死を僅かに引き延ばすだけに終わるかもしれない。
 しかしそれでも、この運命を変革したかった。揺光を死なせたくなかった。
 彼女には未来があり、そして彼女の友にも未来がある。それを守り抜くことが、救世主としての最後の使命だ。



 遥か彼方の空より放たれる殺意を、ネオは感じ取る。
 揺光から手を放し、ネオは顔を上げる。やはり、そこにはあの死神がいた。
 双眸より放たれる憤怒と憎悪はより濃度を増していくが、ネオは全てを受け止めた。

「……言ったはずだ。俺は君を、止めてみせると」

 拒絶も否定もせずに言葉を紡ぐ。
 この言葉に何を思ったのか、死神は地面に降り立った。

「倒す、ではなく俺を止めると……そう言い続ける気か?
 それだけの力があれば、俺を破壊できるはずだ」
「俺は君を止めたいだけだ。君の心を理解し、そして君の過ちを止めてみせる。
 例え卑劣と思われようと、これが俺自身の"選択"だ。君が君自身の"選択"を変えないように、俺も自分を曲げることなど出来はしない」

 死神は何も答えない。
 既にこの身は至る所に激痛が走り、救世主の力を過剰使用した反動による疲労を感じる。対する死神はまともな傷を受けておらず、万全に近い状態だ。
 このまま戦いを続けても結果は見えている。死神は確実にネオの命を奪い取るだろう。



「俺達は互いに協力し合いながら生きてきた。
 人間は機械を創り、そしてネットナビを生み出した。そうして互いに知恵を高め合い、高度な文明を築いた。
 時にはどちらかが間違えてしまうこともあるだろう。だが、俺達が知恵を出して行動をし合えば、身をもって不備を指摘してくれることもできる」
「…………っ!」
「だから俺は、この身を賭けてでも……君を止めてみせる!」

 ネオは高らかな宣言と共に全身に力を込める。
 かつてハーマン評議長も言ったはずだ。機械は人間を殺す力になれば、生かす力にもなると。カオルが言ったように、人類には機械の両面を正しく理解する義務があった。
 また、この世界のあらゆる因果は謎で満ちている。生活を支える機械だって、その仕組みを全ての人間が詳しく知る訳ではない。だが、長い時間をかけてでも知ればいいだけだ。

「その為にも、まずは君のことを知らなければならない……名前を、教えて欲しい」
「……フォルテ」
「フォルテ、か。
 ありがとう…………君の名前は、強さを意味する言葉だな」
「当然だ。この俺は、全てを破壊する力を持っているのだからな。
 そしてこの力で…………キサマを破壊する!」
「ならば俺も強くなろう。
 世界にある全ての心を救えるほどに強くなる…………救世主として!」

 死神は……否、フォルテは拳を握り締める。
 もはや、お互いにかける言葉は存在しなかった。ネオはエリュシデータの切っ先を、フォルテはジ・インフィニティの尖端を……一直線に突き付ける。
 ネオは世界にある全てのものを守る救世主として。
 フォルテは世界にある全てのものを消す破壊者として。
 システムによって定められた"選択"ではなく、彼ら自身の"選択"より誕生した信条と在り方を掲げながら。
 例え、数刻後の未来が容易く予測できても、ネオは微塵も諦めなかった。



 そして、雌雄を決する一撃を放つ為に、両者は同時に疾走した。



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最終更新:2016年11月27日 18:41