5◆◆◆◆◆
「そういえば、ハルユキ君は消えゆきながらも口にしていたな……先輩、と」
戦いの最中、オーヴァンが不意にこぼした言葉によって、ロータスの心は大きく動かされた。
「その先輩というのは、君のことなのかな?」
「……それが、どうした!?」
「君とハルユキ君はずいぶん深い絆で繋がっていたみたいだからね、聞いてみたかったのさ」
まるで自分達の思い出を踏みにじるようにようなオーヴァンの笑みに、ロータスはより勢いを強くした一閃を放つ。
しかし、オーヴァンの銃剣によって防がれてしまい、鍔迫り合いになる。すると、目前に立つオーヴァンは言葉を続けた。
「もしかしたら、ハルユキ君は君に助けを求めていたんじゃないかな? 俺に殺されそうだから、先輩に助けてほしかった……」
「黙れッ! ハルユキ君は強い! 本当なら、お前にも負けないはずだった……!」
「でも、事実としてハルユキ君は殺されて、今は俺がここにいる。ハルユキ君が死にゆく時、先輩はどこで何をしていたのだろうね?」
「そ、それは……!」
オーヴァンの嘲笑う声に、頭が殴られたと錯覚するほどの衝撃をロータスは感じた。
ハルユキ/シルバー・クロウの名が書かれたメールが送られたのは2度目のメンテナンスであり、そこまでの6時間でオーヴァンに命を奪われている。
その間、ロータスは何をしていたのか? ダン卿の遺志を継ぎ、ブラックロータスやアーチャーとの絆を実感して『黒薔薇騎士団』を結成した裏で、ハルユキ君は命を奪われてしまっていた。
そんなロータスの動揺を察したのか、オーヴァンの笑みは更に悪辣な雰囲気を帯びていく。
「先輩が他のプレイヤー達と仲良くしている間、ハルユキ君は深く傷つき、そして命を落とした。
先輩がハルユキ君の所に駆けつけてくれれば、ハルユキ君が死ぬこともなかった……ハルユキ君はなんてかわいそうだろうねぇ」
「……お前が、お前がそれを言うかッ!?
お前がハルユキ君を……ニコや
シノン達の命を奪わなければ、こんなことにはならなかった!」
「なるほど。確かにそれも理に適っている。そもそも俺がいなければ、ハルユキ君達も殺されなかったからね。
でも、君がハルユキ君を守ることもできたんじゃないかな? ハルユキ君の危機に駆けつけもせずに、憧れの先輩は一体何をやっていたのか……?
それとも、先輩が駆けつける前に殺されてしまうくらい、ハルユキ君は……」
「……ふざけるなあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
その先の言葉を遮るため、猛獣の如く叫びを発しながら全霊を込めた一撃でオーヴァンを弾き飛ばす。
怒りと憎しみで生まれる負の心意を得て、オーヴァンの体勢を崩すことに成功した。
ようやく生じた隙を前に、ロータスは心意を込めながら両手の剣を振るい、9つの光を出現させた。
「これを受けろ……スターバーストストリィィィィィィィッムッ!」
流星の如く勢いで繰り出される突きはオーヴァンに迫る。
星光連流撃(スターバーストストリーム)はロータスが持つ左右の剣で16連突きを繰り出し、敵に大ダメージを与える心意技だ。例えオーヴァンだろうと、隙を見せた状態では対抗できる威力と速度ではない。
憎しみを乗せた希望が仇敵を跡形もなく消し飛ばすことに期待した、その瞬間だった。
「遅い」
そんな呟きが耳に届いた瞬間、オーヴァンの三爪痕は大量の黒泡が吹き出しながら、ロータスの双剣に迫る勢いで暴れだした。
そこでロータスは初めて気付く。例え体勢を崩されても、オーヴァンは未だに笑い続けていたことに。そして、オーヴァンはロータスが心意技を使うことすらも、初めから予測していた。
(……いや、関係ない! この威力なら、オーヴァンと言えどただでは済まないはずだ!)
途中で止めるのは危険だし、今は押し切るしかない。僅かな焦りが生じる中、双剣と三爪痕は衝突した。
傍目からは残像すらも残す程の速度で、並のバーストリンカーであれば瞬時に敗退に追い込める威力だが、オーヴァンはロータスのあらゆる突きを確実に弾いている。
それでも諦めきれるわけがなく、最後の一撃に全力を込めるが、それすらも三爪痕に弾かれた。
「あっ……!」
「さあ、乗り越えてみせてくれ!」
ロータスは愕然とするが、オーヴァンの勢いが止まることはない。全力が届かず、希望を砕かれた姿を目がけて三爪痕を振るった。
まるで、星光連流撃が通用しなかったロータスを嘲笑うかのように、三爪痕は縦横無尽にデュエルアバターを抉っていく。反撃はおろか防御もできず、ロータスは甘んじて受けることしかなかった。
「ぐっ!? うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ハッハッハ! どうした!?」
神速の勢いで刻まれる三爪痕の斬撃に悲鳴を上げるロータスを、オーヴァンは哄笑する。
一切のダメージを受けずに余裕綽々なオーヴァンを前に、疲労が蓄積されたロータスでは対抗できない。その猛攻を前に悲痛な叫びを発することしかできず、また蓄積される痛みによってHPも確実に減少していた。
そして何度目になるかわからない一閃の後、ロータスのアバターは容赦なく地面に叩き付けられた。
「――――ぐあっ!」
一瞬、意識が朦朧としたが、激痛によって覚醒する。
そして顔を上げた瞬間、あのオーヴァンがこちらを不敵な笑みと共に三爪痕を構えていた。
「これで終わりか? 君がハルユキ君を喪った怒りと憎しみは、そんな安っぽかったのかな?」
「なん、だと……!?」
オーヴァンの侮蔑に怒りが湧き上がるが、立ち上がることができない。
ちっぽけな訳がないと叫びたかった。この剣を振るい、オーヴァンを両断してやりたかった。胸の中に宿るどす黒い炎は、誰かの命を奪えそうなほどに燃え上がっている。
だけど、体が言うことを聞かなかった。
「おっと、俺としたことが忘れていた。そういえば、こいつに殺されたのは”しの”……
シノンも含まれていたね」
「何……!?」
唐突な言葉に驚愕する。
このネットスラムで出会ってから共に戦い、そしてハセヲの心を取り戻すために力を尽くした
シノンをオーヴァンは忘れたというのか。だが、何故ここで
シノンの話を出してきたのか。
その疑問に対する答えは、折り畳まれていくかぎ爪だった。
「まさか……!」
「彼女の痛みも教えてあげよう」
そして放たれるAIDAの爪が、ロータスに襲い掛かる。
反射的に、彼女の脳裏で
シノンの最期が浮かび上がった。あの時の彼女のように、AIDAの爪でアバターを貫くつもりか。
ロータスは回避しようとするが、体がまともに動かない。オーヴァンに殺された
シノンのように、無情な最期が訪れようとしたが――
「……姫様あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
――耳をつんざくほどの叫びが響き、緑色の背中がロータスの前に割り込んできた。
「ぐっ……!」と呻き声が聞こえた途端、男の背中が爪に貫かれている光景が見える。三爪痕の黒泡が吹き出した途端、男は膝を崩した。
「姫様……どうやら、ご無事のようだな……」
そして、その男……アーチャーは苦悶を堪えた笑みを浮かべながら、ロータスに振り向く。
無慈悲にも爪が引き抜かれた途端、アーチャーが倒れていくのを見て、体の痛みなど忘れたように立ち上がった。
「アー……チャー……? どう、して……!?」
「どうしても、何も……俺は、サーヴァントだからな……マスターを守って、当然だろ……?」
「な、何……!?」
その途端、ようやくロータスは気付いた。
オーヴァンに対する憎しみに支配されていた自分を咎め、そして守ろうとしていたことに。だけど自分はアーチャーの言葉に耳を貸さなかったどころか、邪魔者扱いすらしていた。
ダン卿は自分を信じて、アーチャー/ロビンフッドとの契約を繋いでくれた。それなのに、ハルユキ君達の仇を討つことだけにこだわりすぎて、たった一人で突っ走ってしまう。
「わ、私のせいで……アーチャーが……!?」
「へっ、んなわけないだろ……?
姫様を、守り切れなかったら……オレはダンナを裏切っちまう。ダンナは、姫様たちの無事を祈っていた……だろ? だから、オレも……姫様達の無事を祈るだけだ。
姫様、あんたは今……あのヤローに対する憎しみでいっぱいなはずだ。それはわかるけどよぉ……それだけじゃ、いけねえ」
そうして、ロビンフッドの体も足元から消えてしまう。
もう、時間が訪れてしまった。蘇生アイテムの制限時間も過ぎてしまい、またどんな回復アイテムも通用しない。
ーー道半ばで散った者の遺志を継ぐことは確かに立派な心がけじゃ。だが悲しいことに、それは時に勘違いされて……挙句の果てには受け継ぐ者を縛り付ける呪いにもなるのじゃ
ネットスラムにて出会ったタルタルガと呼ばれたご老体の言葉が蘇る。
彼の言う通りだ。自分はみんなの遺志をはき違えて、一人で暴走した挙句にロビンフッドを傷付けてしまった。
……いや、まだ最後の望みはある。ロビンフッドと自分を繋ぐ、令呪さえ使えば可能性があった。
「あ、アーチャー……令呪をもって命ずる! 生きろ……生きてくれッ!」
聖杯戦争に参加したマスターとサーヴァントを結ぶ絆の象徴である令呪。魔力を込めることで、サーヴァントはマスターのどんな命令でも従うと聞いた。
後のことなど関係ない。アーチャーの命を繋げるため、最後の一画を使ったけれど、何も変わらなかった。
「姫様……気持ちは嬉しいけどよ、どうも俺はここまでみたいだ。まぁ、元々俺は死んでいるし、いつかこうなるのは覚悟してた……
ただ……自分を責めるのは、やめろよ……」
「どうしてだっ!? 私のせいで、私のせいで……アーチャーが……!」
悲しみと後悔で感情が乱されて、まともに言葉を紡ぐこともできない。
そんなロータスを察しているのか、アーチャーは優しく微笑んだ。いつもの彼からは想像できないほど、穏やかで温かい笑顔だ。
「言ったろ? 俺は姫様を守るサーヴァントだからな……ダンナはご立派だから、きっとこうすることを望んだはずだ。
ダンナは最期までくだらねえ信念に殉じた……俺には出来すぎた、マスターさ……誇りとか、信念とか、全く余計すぎるけどよぉ……案外悪くないわ。
姫様……俺やダンナを、がっかりさせないで……くれよ?」
「アーチャー……! ならば、もっと私達を……! 私達を……!」
「大丈夫だ、姫様達は前を進める……胸を張っても、いいんだぜ?
なんたって、姫様はこの俺が認めた……最高のマスター……だからな」
そんな、真っすぐな激励を告げた瞬間、アーチャーの体は光り輝く。
心の底から満足したような笑みを見せながら、アーチャー……英霊ロビンフッドは消滅した。
【アーチャー(ロビンフッド)@Fate/EXTRA Delete】
「あ、あ、あ、あ、あ…………!」
ロビンフッドの死を前に、ロータスは慟哭した。
彼が見せてくれた笑みと過ごした時間。全てが頭の中で駆け巡り、まともに思考することができなかった。
彼を死に追いやったのは私だ。彼の言葉を無視しなければ、こうして喪うこともなかった。
「最期まで忠義を果たしてくれるとは、立派な騎士だったね」
やがて、ロビンフッドの命を奪った男の言葉が耳に飛び込んできて、ロータスは顔を上げる。
「お、オーヴァン…………ッ!?」
「しかし、肝心のマスターがふぬけてしまったとは。これでは、犬死だな」
「犬死……だと!? アーチャーは……アーチャーは……!」
「ならば、俺を止めてみせろ」
淡々と言葉を紡ぎながら、オーヴァンはあらぬ方向に銃口を向けた。
思わず振り向いて、ロータスは驚愕する。オーヴァンが構える銃剣の先には、ジローがいたからだ。
「ま、まさか……!? やめろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
ロータスの叫びと同時にオーヴァンは光弾を放つ。
圧縮されたエネルギーは突き進み、そして――
6◆◆◆◆◆◆
(なぁ、お前はこんな時になっても本気でどうにかできると思っていやがるのか!?
さっさとユイを渡しさえすれば、ここから……!)
(うるさい! お前こそ、オーヴァンが約束を守るなんて本気で思っているのかよ!?)
脳裏で『オレ』は必死に叫んでいるが、俺もまた怒号で返す。
『オレ』は俺のエス(深層)であり、俺自身が気付いていない本心を伝える存在だ。そしてこの状況でユイちゃんを渡せと叫んでいるということは、俺は心のどこかで自分だけが助かりたいと思っていることになる。
(ああ! お前が言っているように怖いよ! 俺だって、逃げれるなら逃げたいさ!
けどな、それ以上にユイちゃんをオーヴァンに奪われることの方が怖いんだよ!)
(お前……そんな綺麗事を言って『オレ』達が殺されたらどうするつもりだ!?
『オレ』達が殺されたら、パカの所にも戻れねえんだぞ!)
(ユイちゃんを渡すのはOKで、パカの所に戻れないのはダメだっていうのか!? こんな時に、パカの話を持ち出したりするな!)
ここで俺が死んだらパカの所に戻れなくなり、パカが一人ぼっちになってしまう。『オレ』の言葉は正しいし、俺はパカの為にも絶対に生きなければいけない。
だけど『オレ』は俺とパカの思い出を利用して、都合よく助かるための言い訳にしていた。それは俺が抱いている本心だからこそ、絶対に負けてはいけなかった。
だからこそ、俺は『オレ』に負けないためにも、ユイちゃんを守るために銃を構えている。ネットスラムは奇妙な空間に飲み込まれて、いつエネミーが襲いかかってくるかわからないが、せめてもの抵抗だ。
「ユイちゃん、大丈夫だから! 俺は、君を絶対にオーヴァンから守ってみせるからな!」
「ジローさん……で、でも……この空間はAIDAによって展開された空間なんです! だから、今の私達ではどうやっても脱出できませんし、あのゴスペルを戦うことも不可能です!」
ユイちゃんの叫びによって、俺の励ましは楽観的観測でしかないことに気付く。
彼女が言うように、今の俺は何もできないただの人間だ。キリトや黒雪姫達のように戦えないし、またAIDAを倒すためのスキルだって持っていない。弾丸が通用する相手だったら最初から苦労しなかった。
「……くそっ。せめて、レオ達と通信できればヒントを貰えたかもしれないのに!」
「この異空間は外部からの影響を完全に断ち切るみたいなので、通信も遮断されたのです。多分、あのゴスペルを倒さない限り……」
そうして俯いてしまうユイちゃんの姿に、俺は自分の無力さを痛感してしまう。
この空間に放り込まれてから、レオ達との通信を試みたが繋がらなくなってしまった。AIDAが生み出す異空間はハセヲやオーヴァンのような碑文使いか、彼らと同等の力を持つ
カイトでなければ干渉することができず、ここにいる俺達ではどうすることもできない。
せめてもの救いが、あのゴスペルというAIDAがエネミーを優先して狙ってくれていることだけだが、いつ俺達に気付いて襲いかかってもおかしくなかった。
「ッ!? アーチャーさんッ!?」
そんな不安に捕らわれていた瞬間、ユイちゃんが叫ぶ。
何事かと思って振り向くと、あのアーチャーが黒雪姫を庇ってオーヴァンの一撃を受けていた。オーヴァンの爪はアーチャーの胸を深く抉っており、一目見ただけで致命傷とわかる。
そうして、涙を流す黒雪姫を他所に、アーチャーは消えてしまった。
「そ、そんな…………!」
アーチャーの死に震えてしまう。
また、頼りになる仲間がいなくなった。俺に力がなかったせいで、アーチャーを死なせてしまった。
しかし、そんな無力感に浸る時間すらもなく、俺に銃口を向けているオーヴァンの姿が目に飛び込んでしまう。
「――――我が主よ、危ないでガキィィィィィィィィィィィンッ!」
続くように聞こえてきたのはアイアンの叫び。
俺を守るようにアイアンが突進した瞬間、鎧のような巨体をエネルギー弾が呆気なく貫いた。
ドサリと、アイアンの巨体が倒れてしまう。
「アイアン……? アイアンっ!?」
俺はすぐにアイアンの元に駆け寄って、絶句した。
オーヴァンが放った弾丸の傷は深刻だったのか、アイアンのボディは至る所が崩れ落ちており、もう助からないと一目で理解できる。
それでも、俺は回復アイテムをアイアンに使って助けようとするけど、効果はない。何故なら、回復アイテムの効果はプレイヤーにのみ適応されるのであって、NPCに等しいアイアンを回復させることはできなかった。
「我が主よ……怪我はないでガキーン……?」
「アイアン、なんで……!?」
「かの者、アーチャーは己の主を守るために……命を尽くした、ガキーン……
ならば私も、忠義を尽くすため、我が主を守っただけ、で、ガキーン……」
「そんな……! だったら、俺をもっと守ってくれよ! これは、俺からの命令だぞ!?」
「その情愛だけでも、私は感謝でいっぱいでガキーン……!
我が主よ、どうか生きて……ガキーン!」
そんな力強い感謝の叫びをあげるアイアンは、ニコリと微笑んでくれる。
俺を守るために命を賭けてくれた忠義の騎士のアイアンは、そうして消えてしまった……
【クソアイアン@.hack// Delete】
【プチグソの笛@.hack//】はクソアイアンと共に消滅しました。
「あ、アイアン……! アイアン……ッ!」
アイアンが消えていくのをただ見ることしかできなかった俺は、愕然としてしまう。
(見ろ、だから言ったんだよ! オレが悠長なこと言ってるから、アーチャーもアイアンも死んじまったんだろ!?)
そんな俺を咎めるように『オレ』は明らかな怒りを込めて叫んだ。
(ユイ一人を守ろうとして、この様かよ!? 結局、あいつら二人が死んじまったじゃねえか!)
(そ、それは……!)
(そもそも、最初からカッコつけようとしなけりゃ、こんなことにならなかったんだ! 『オレ』達はレオに守られていりゃ良かったんだよ!
何がキリト達についていけば、何かできることが見つけられそうな気がするだよ!? 何にもできてねえじゃねえか!)
苛立ちと侮蔑が混ざった『オレ』の言葉を、俺は否定することはできない。
確かに、生徒会室でレオは俺のことを止めたけど、俺はワガママを押し通してついてきた。そのせいで、アーチャーとアイアンを守ることができず、俺はこうして危険に陥っている。
(……じゃあ、どうすれば……!?)
(決まってるだろ!? さっさとユイをオーヴァンの野郎に渡すんだよ!)
(な、何!? そんなことをしたらユイちゃんが……!)
(いつまでそんな甘いことを言う気だよ! そうやってヒーロー気取りでいると、今度はキリトと黒雪姫だってすぐに殺されちまうだろ!? 『オレ』達が助かるには他に方法がないだろ!?)
その叫びの通り、俺達に助かる方法は残されていない。
オーヴァンはユイを狙っているから、ユイさえ渡せば見逃してくれるだろう。上手く条件をつければ、フォルテを任せることだってできるはず。
ならば、俺はユイちゃんを……
A.渡す
>B.渡さない
(……いいや、俺はユイちゃんを絶対に渡さないさ)
……『オレ』の提案を、俺は静かに否定した。
(オレ……まさか……!)
(『オレ』がしつこく言うなら、俺の心のどこかにはユイちゃんをオーヴァンに渡してやりたいって気持ちがあるんだろ? それは、認めないといけないな。
ユイちゃんを守りたいと言っておきながら、無意識のうちに我が身可愛さにユイちゃんを売ろうとしている……)
(そこまで知ってるなら、さっさと……!)
(言ったはずだぞ! そうやって仲間を売って自分だけが生き残って、一体なんになるんだと!?
お前は俺が楽になるためのアドバイスをしているつもりだろうが、俺は絶対に嫌だ! それにアーチャーとアイアンは、俺達のために命を賭けてくれた……だから、俺だってユイちゃんを守りたいんだ!
それにお前は言ったよな! 俺達が仮に死んだとしても、その時に考えればいいって……なら、俺もその時まで考えないことにしてやるさ!)
思考停止の極みだが、俺は『オレ』への当てこすりのように告げる。
事実、俺はスミスとの戦いでは自分が死ぬと考えずに特攻した。結果、俺は一度死んだみたいだけど、
カイトに助けてもらっている。今の俺を守ってくれる人はいないし、むしろ俺自身がユイちゃんを守る盾になるべきだ。
ヤケになっていると自覚しているが、少なくとも俺自身に嘘をつきたくない。
(ケッ……そうかよ! なら、勝手にしやがれ!)
(ああ、勝手にしてやるさ!)
不貞腐れたのか、それきり『オレ』は何も言わなくなった。
俺の心はまだ弱いままだから、いつまた出てきてもおかしくない。学園の時みたいに自分の心と向き合い切れていると言いきれないし、現実逃避でしかないだろう。
だけど、我が身可愛さにユイちゃんをオーヴァンに売ることだけは絶対に嫌だ。これだけは紛れもない本心だし、その決意を貫くことができてよかったと思っている。
「――――うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「パパ!?」
でも、俺自身の選択を喜ぶ暇もなく、男の絶叫とユイちゃんの悲鳴が聞こえた。
何が起きたのか、と俺が振り向いた瞬間、キリトとフォルテの姿が見える。しかし、今までの頼りになる姿から想像できないほど、キリトは弱っていた。
「き、キリトッ!?」
「パパアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!」
追い詰められているキリトの姿に、俺とユイちゃんもまた叫んでしまった。
やる気が 2上がった
体力が 20下がった
こころが 15下がった
信用度が 1上がった
最終更新:2020年06月14日 17:07