報告書
L1=L4高密度デブリ帯(通称「コスモアイアンボトムサウンド」)において、不審機の情報を受けて警邏を強化していたログレス隷下の警邏隊の報告によりウォックシュプールと見られる不審機を捕捉、撃墜したものの当該機にウォックシュプールと類似する高度な能力は認められなかった。
また、当該機は脱出したパイロットの二人組が当該宙域にて拾い、当日中に売却予定であった他、事前のログレス機への応射も概ね非殺傷の兵器であって実害が出ておらず、加えて本人たちに一時的なパニックの特徴が見られ、そして当該機パイロットが未成年であったたため厳重注意のみとなった。
これをもって、ウォックシュプールの捜索は再度打ち切ることとする。
2122/6/20 報告書作成者 カイ・ロンド
あれから、色々なことがあった。
結局ケープホープ・コロニーの家は引き払って、私たちはファントムに転がり込んだ。こっちの方が何かと便利だし、何よりユーリィさんたちが勉強を教えてくれると言うので。
ウォックタヒタルトは修理され、今のところ使う予定もないのでファントムの艦内に安置されている。
一番大変だったのはチオの勉強だったが、フィーさんの教え方が良かったのでなんとか入試までにある程度の水準にはなった。
誕生日の差の関係でチオは16歳で幼年学校の入試を受けることになるが、いいのかと聞いてみたが、
「いいよ、ファルと一緒に入学して一緒に卒業したいし。それにどうせあと一年勉強しないと受からないだろうし。」と着いてきてくれたのはとてもありがたかった。
意外だったのはチオに英語と古国語(
ベルネクレチオード語)と歴史の才能があったことだった。
曰く、「昔の人が何をして何を考えたのかが分かったり、自分もそうなれるのが楽しい」らしい。
逆に、私が得意な数学や理科はからっきしだったが……
クォートさんは、あの戦いからそう経たないうちに警察に自首した。
軍属にあったため罪状は抗命罪(上官の命令に逆らった罪)で、判決は5年の拘禁刑となった。各地で派手に暴れて色々壊したが、ほとんど人は殺していなかったことと、本人の精神状態と事情を鑑み上から圧力がかかったようだ。と、面会の時に本人が言っていた。実際やったことに比するとかなり軽い罰らしい。
判決を言い渡された時のクォートさんはなんだか憑き物が落ちたような、清々しい顔をしていた。
2124年2月24日。
受験前日、ラストスパートということで私とチオは朝から部屋に籠って勉強していた。
昼ごはんは軽く行動食で済ませ、夜の8時に差し掛かりそろそろお腹も空いてきてチオの集中力が切れ始める頃……と思っていたら、オードさんが扉を開けて中に入ってきた。
「夕飯やぞ、おいで。」
「ありがと、オードさん。」
チオと共に食堂に向かおうとしたが、
「ちゃうちゃう、そっちやない。こっちやこっち。」
と言い、手を引かれて別の部屋に連行された。
「ここや、ドア開けてみ?」
と促され、両開きのドアをチオと同時に開けてみると、ユーリィさんとフィーさんも中で待っていた。
「どうしたんですか、みんな集まって……」
「明日の入試に向けて、コレ食べてもらおうと思って。」
ユーリィさんが指さした先には、豚カツが置いてあった。
と言っても豚カツなんて初めて見る。
「昔の風習か何かでね、勝負事の前に験担ぎに食べるんだって。ほら、勝負に「勝つ」って、ね。」
フィーさんが横から説明してくれた。あとから聞いたが発案者はフィーさんだそうだ。実はギャンブル好きなフィーさんらしいといえばらしい。
「ほらほら、揚げたてだから冷めないうちに食べて食べて!」
フィーさんとオードさんに半ば強制的に席に座らされた。目の前から漂ってくる香ばしい香りに、涎が垂れてしまいそうだ。
「それじゃ、お言葉に甘えて……いただきます!」
「わーい!いただきまーす!」
部屋にこもりがちになって精神的にすり減っていた心に、優しさが沁みた。
「じゃ、頑張って来いや!」
そう言われて、私たちはオードさんの運転するバンから降り、目的地…「エスラシェル宙軍幼年学校」にたどり着いた。
「高等部入学試験会場こちらでーす!」
プラスチックプレートを持って誘導に当たっている教師と思しき人がいたので、誘導に従いその教室に入る。部屋の入り口にはにはある程度の受験番号ごとに分ける紙が貼ってある。
「チオの受験番号何だっけ?」
「2204。ファルは?」
「2138。だから別室だね。…あ、チオあそこじゃない?」
「ほんとだ、2200〜2299だ。」
部屋に入る前に一度チオがこちらに向き直った。
「ね、ファル。」
「ん?」
チオの方を向いてみると、こちらに小指を突き出していた。
「…うん。絶対二人とも受かるよ。」
「もちろん!」
小指を絡め、互いの意思を確かめ合う。
「じゃ、また終わったら!」
「うん!頑張れ!」
「そっちこそ!」
そう言い、各々の試験会場に入っていった。
「で、今日だったよね、合格発表。」
ユーリィさんのパソコンの前にみんなで集まっている。
「はい、このあと5時からのはずなんで…お、出た!」
開いてすぐ、2100番台まで飛ばす。
2133、2136、…
「2138!あった!」
「おめでとう!ファル!」
喜んだのも束の間、そのままスクロールを進めていく。
2189、2192、2196、2202、2205、2211。
見落としがないか、何度か見直した。
「…えっ…?」
部屋の空気が、凍りついていくのを感じる。
「あ〜…チオ?あんま気ぃ落とさんと…」
オードさんが慰めようと、チオに声をかける。
「わかってたよ。私あたまわるいからさ。逆立ちしてもファルには追いつけないし。」
見ると、チオは静かに、涙を流していた。
「でも、本番は、けっこう…ちょうし、よかったし。いけるかと、おもった、んだけど…」
だんだん、声が小さくなっていく。
「ごめん。ごめんね、ファル……」
優しく、チオを抱き寄せる。
「大丈夫だよ、チオ。チオがすごく頑張ってたの、私いちばん近くで見てたから。分かってるよ。」
そう言うと、何か堰が切れたように、チオは大声を出して泣き始めた。チオがこんなに泣いて、こんなに悔しがるのはいつぶりだろう。
数年前、あの旅の途中でロケットペンダントを見つけて私が泣いてしまった時も、チオは優しく抱きしめてくれた。今度は私の番だ。
しばらくチオを抱きしめていると、今まで黙って何か操作していたユーリィさんが突然びっくりしたように声を上げた。
「あ!…これ!これ見て!!」
ユーリィさんが突き出してきた端末を見ると、そこにはチオの名前とともに、思いっきり「不合格」と描いてあった。
一瞬何がしたいのかわからなかったが、ユーリィさんが指さしているところを見てみると、「繰上候補者」と書かれていた。
「…これって?」
「受かった人の中で、例えば別のもっといい学校に受かったからそっち行く…とかいう人が居たら繰り上げで合格扱いになる候補、ってこと。一週間後だね、補欠合格通知日。」
最後の最後で、光明が差した。
「チオ、諦めるのはまだ早いかもよ?」
「でも…」
チオが、とても不安そうな顔をする。
「大丈夫、今までだって私たち、ギリギリのところでなんとか生きてきたじゃん。今回も大丈夫だって。」
「…うん。」
涙を拭って、精一杯の笑顔で、そう答えてくれた。
一週間後、補欠合格通知が届き、チオはまたすごい勢いで泣いた。でもこの2件をあとからつつくと明らかに不機嫌になるようになってしまったのであまりいじってやらないことにする。
4月1日。今日は入学式。
お揃いの制服を着て、大講堂の席についた。
ユーリィさんはもちろん、オードさんとフィーさんもOFGPで顔が割れているので、保護者役としてシャトロイさんがついてきた。
今日からここで生活するんだ、というのをひしひしと感じる。
不安なんかない、と言うと嘘になるけど、まぁきっと大丈夫だろう。
私の隣には、いつもと同じようにチオが座ってるから。
Einen Kleine Universmusik -Trajectory of “Spur”- 完
最終更新:2026年02月06日 18:04