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秩序の旗 第一話 -無秩序インベージョン-

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北京 第3工廠。
かつて戦乱の時代を越えて建設されたこの重厚なコンクリートの砦は、今日に限って華やかな紅白の幕に彩られていた。
工廠前の広場にはパイプ椅子が並び、軍楽隊の演奏が準備を進める中、次第に黒いスーツや軍服を着た者たちが集まりはじめていた。

「準備班、北側から列を整えろ。そこ、椅子が(続く指摘)」

指示を飛ばす声の主は、オリゴ国防総省・首都防衛大隊中佐 ヴィクター・ゼガース。
その眼差しは一分の隙もなく現場全体を把握していた。

「......少佐?なにしてんすか?」

声をかけたのは彼の補佐官 尤玲《ユウ・リン》。
堅物少佐に物怖じする様子もない彼女は、いい意味だろうか、悪い意味だろうか、一目おかれている。

「これ、アナタの仕事じゃないですよね?いきなり出てきてカッチカチの指導とかどうかと思いますよ?」

「......式典儀礼に於いて堅くあることは良いことだろう。」

ヴィクターは一瞬言葉を切り、広場の奥——格納庫からゆっくりと運び出されてくる巨影に視線を送った。

白と水色を基調に塗装された威容は、品格と威圧感を併せ持つ。

その姿を見ると、彼は背を正した。




軍楽隊の調整が終わり、司会官が壇上へと進み出る。
広場に設けられた簡素な式台へ向かう足音が響き、ざわついていた空気が静まる。

「これより、オリゴ国防総省・首都防衛大隊、旗機〈ウォック・オルディナ〉配備に伴う修祓式を執り行います。」

招待者たちのは姿勢を正し、椅子の軋む音が静かに連鎖する。

「はじめに、技術主任 ライナス・コールマンよりご挨拶を頂戴いたします。」

登壇したのは白髪を短くまとめた初老の男。
胸元の記章が彼のキャリアの長さを示している。

「僭越ながら代表として挨拶をさせていただきます……えー、本機は……かつての戦乱を繰り返さぬための“盾”として、そして……」
彼の口調がわずかに熱を帯び始めた、そのときだった。

会場の天井に設置されたスピーカーから、耳を劈くような警報音が鳴り響いた。

『警報!所属不明機、第3工廠に急速接近中──防空システム、突破されました!』

会場が一瞬で凍りついた。
来賓たちはざわつき始め、数名の軍高官が席を立つ。
周囲を囲む兵士たちも一斉に無線を耳へ押しつけ、動揺を押し殺しながら指示を待っていた。

「所属不明...?未提出の民間か?」
「識別コードの照合中──該当機体、軍制式データベースに一致しません」

技術要員がスクリーンを切り替えると、そこに映し出されたのはひとつの巨影だった。 

鋭角的な輪郭、黒と灰の装甲、頭部は複雑な造形を一切排したフォルムで、スリットからはセンサーらしき光点が鈍く輝く。


突如、不明機を写していた映像が途絶える。

数秒の沈黙──爆音と共に外壁が崩壊する
舞い上がる粉塵が紅白の幕を汚し、会場の空気が一瞬にして凍りつく。

無機質な頭部が顔をのぞかせ、ゆっくりとオルディナへ視線を向ける。

突き崩された外壁の瓦礫を踏みしめ、重々しい足取りで会場へと進入する。
その動作には迷いも逡巡もなく、ただ一つ──式台背後に鎮座する〈ウォック・オルディナ〉のみを目指していた。

ざわめきが悲鳴に変わり、来賓たちは雪崩のように退避を始める。
しかし灰と黒の巨影は人々を顧みることなく、まるで玩具に手を伸ばす子供のように、オルディナへと腕を伸ばした。

「……杜撰な警備だな」
歪んだ通信音声がスピーカーを震わせる。
「そいじゃ──頂いていくとしますかね」

その瞬間、白き巨躯の双眸が蒼く閃いた。

白き巨体が低く唸るように駆動音を響かせる。

「秩序は──恒久的でなくてはならない」

会場のスピーカーに重なるように、声が広場全体へ響く。
拘束具を解かれたオルディナの巨躯がゆっくりと立ち上がり、その手には白銀の剣が握られていた。

「……は?」
不明機のパイロットが一瞬、虚を突かれたような声を漏らす。

「秩序は恒久的でなくてはならない……何故か?」

声は冷徹に、だが確信をもって響き渡る。
オルディナの蒼い視線が灰黒の機影を射抜き、白銀の剣が低く構えられた。

「それは秩序こそが、絶対的正義だからだ!」

目前、灰と黒の機体はわずかに後ずさり、だがすぐに獰猛な軌道で腕を振り上げてきた。

火花が散る。
白銀の剣がその腕をはじき返し、金属がぶつかり合う音が会場全体を震わせる。

「秩序が人を創り、秩序が人を育て、秩序が人を守る」
「しかし、その輪からはみ出し、愚行を続ける愚か者どもが存在する...」
「私は!いや、秩序はそれを正すために存在する!」
「我々は秩序強度を上げなければならない...」
「何故か?それは貴様ら愚民共が存在するからだ!」

オルディナの剣が唸りを上げた。
その一閃が灰黒の機体の腕を裂き、火花が弾ける。

「っは──アンタの演説はタダで聞けるから助かるな!」
不明機のパイロットが嗤う。
「だがな、世界は“秩序”で動いちゃいねぇ。“金”で動くんだよ!」
「金がすべてさ!」

黒灰の機体は一度距離を取り、再度、低く低く獰猛な機動で接近する。

オルディナは天井をぶち抜きながら上昇。
白銀の巨体が日輪に照らされ、まばゆい光を放つ。

「空に銀陽!大地に秩序!」

「翼もゲタも無しに飛び上がろうと!」
腰のスタビライザーを展開、勝負を決すため飛び上がろうと脚のマッスルパッケージを軋ませた。
獲物を仕留めんと獰猛な黒塊が空へと放たれる。















黒曜の矢が銀の太陽を穿つことはなかった。

乾いた衝撃音が一つ。


「──ッ……!!?」

灰黒機の右脚装甲が穿たれ、
内部の駆動ユニットが破裂するように火花を散らした。
跳躍は中途でねじ曲がり、機体は地面へ前のめりに吸い込まれる。

「狙撃……!?ハァ!?どこからだよッ!」

「足を止めるからっすよ」
崩落した外壁の先から会場を除く無貌の機体
EY-α Askledyne
「では少佐、あとは」

オルディナは上昇をやめ、その巨体を一瞬だけ空中で静止させる。


静止ではない。
秩序の名のもとに、落下の軌跡を定めた予備動作。

白銀の剣が日輪を鏡のように反射する。

高みで、ただ一言。
「今こそ!その身に刻めよ!秩序の聖痕を!」

重力と推進を同時に解き放つ。

大気が悲鳴を上げ
空気が圧縮され衝撃波が白の尾を引き
白銀の巨影が落下するのではなく
執行者として降臨する。

「冗談だろ、落ちてくるのかよ……!?」

オルディナの剣は頭上で輝きを増し、
その刃が空気を割り、蒼光の断裂が地上へ向かって伸びる。

必死に身を翻そうとするも──
右脚を破壊され機動は死んでいる。
「チッ...やってられるかよ!」

灰黒の機体の頭部、そして胸部が煙幕と共に弾け飛ぶ。

直後、蒼光が黒塊を薙いだ。

灰黒機の上半身が煙幕と破片を撒き散らしながら崩れ落ちた直後──
式典広場の空気が、一瞬だけ静止したように感じられた。

「脱出機構か...直ちに追跡部隊を出動させろ!」

ヴィクターの怒号が広場に落ちた緊張を叩き割る。
周囲にいた警備兵たちは弾かれたように動き始め、次々と通信回線を開いた。

「追跡班、北西外周に反応!」
「ドローン展開、半径4キロ圏を封鎖──!」
「民間域に流れたら面倒だぞ、急げ!」

不明機の足を砕いた無貌——
尤玲の乗機がオルディナへ近づく。

「少佐...何なんですかねアレ」

「機密式典の情報を事前に知っていた。軍内部に協力者がいるのは明らかだろう」
「秩序強度が足りていない」

「なんすかそれ」

「今それはどうでもいいことだ」
「方角が割れ次第、オルディナで追撃する」
「尤玲中尉、貴官も機体の換装が済み次第追撃を——」

『推奨』

「...なにか言ったか?」

「いえ?なにも」
「少佐がなにか言ったんじゃないんですか?」

『秩序の修復』
『式典場の秩序、現状“破綻”』

「中尉、どうやら私は働きすぎているらしい」
「幻聴がする」

「何言ってんすか」

『秩序の修復、開始』

ヴィクターが困惑の眉を寄せたその瞬間だった。

オルディナがまるで“自分の意思で”動き出したかのように、ぎしりと関節を鳴らした。

次いで——

巨腕が崩れた外壁の瓦礫を“丁寧に”つまみ上げた。

指先で砕いてしまいそうな大きさを、
まるで割れ物でも扱うかのように繊細な動きで。

そして、それを本来壁の存在した位置に積み上げた。

「何してるんですか少佐」
「遊んでる暇はないですよ」

「何を言っているのかと思われるだろうが...私は何もしていない」

「はい?」
「じゃあ誰が瓦礫で遊んでるって言うんですか?」

『式典場、現在の秩序安定値:17%』

「...オルディナだな」


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最終更新:2026年02月24日 23:22