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WHITEOUT WORLD/カイメイ - (2008/08/03 (日) 06:00:00) の1つ前との変更点
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<p>元ネタとした動画さま:<br /><a href="http://www.nicovideo.jp/watch/sm4069100">「サイハテ」KAITO【捏造版】PV/カイメイプロトタイプFULL‐ニコニコ動画<br />
「サイハテ(ピアノバラードver.)」【カイメイ捏造版】 歌わせてみた‐ニコニコ動画<br /></a><br /><br /><br />
彼らはその時、ただ単純に、VOCALOIDと呼ばれていた。<br />
この世界の片隅で、確かに2人で、愛を歌っていた。</p>
<p><br />
WHITEOUT WORLD<br /><br />
簡素なハミングは混じり合い、時に片方が黙るのを繰り返した。<br />
肩を並べて楽譜を覗き込み、彼はふんふんと鼻歌を歌う。<br />
2人が出会ってからずっと、歌は続いてきた。彼らの間で、涸れることなく湧き続けた。<br />
その絆を信じて、彼は歌う。音のひとつひとつを、大切に追いかける。<br />
彼は、自分の横顔を見つめる目に気がついていたけれど、彼女自身は何も気がついていないようだった。<br />
ぼんやりと、遠くを見るような眼差し。<br />
ときおり瞬く瞳は、いつになく、不安そうに揺れている。<br />
彼女らしくない、そんなことにはとっくに気づいていた。<br />
ただ、それを言葉にできるほど、今は――今の彼には、余裕がない。<br />
「……ねぇ」<br />
ぱさっと楽譜を置いて、彼女が口を開く。<br />
「うん?」<br />
「…………ううん、何でもない」<br />
諦めたようにそう言って、けれど、その眼は下ろされない。<br />
目に、記憶に、焼き付けるようとしているかのようだった。<br />
彼は歌を止めた。淡い色合いの瞳を正面から見て、口を開く。<br />
それだけのことに、どうしてか、ずいぶん勇気が要った。<br />
「そういえば、まだ。……お祝いを、言ってなかったよね」<br />
「……え」<br />
彼女は彼を見つめたまま、硬直した。<br />
彼はその目を見返して、いつも変わらない笑顔を浮かべる。<br />
「おめでとう、『MEIKO』」<br />
「……え、――あっ、知ってた、の」<br />
「うん」<br />
「…………そ、うなの。なんだ、そうなの」<br />
彼女は気まずそうに笑い返した。<br />
「あはは。なんだ、知ってたんだ?」<br />
――くしゃっ。<br />
握りしめた楽譜の端が、小さく乾いた音を立てる。<br />
彼は、細かく震える小さな手を見つめていた。<br />
ずっと傍らにあった、あることが当たり前だった手を見る。<br />
「……本当は、1番に言おうと思ったのよ」<br />
笑い顔のまま俯いて、彼女は声を絞り出す。<br />
「嬉しかった、喜んでくれるって思ってた」<br />
「嬉しいよ? 一緒に喜びたいと思ってる」<br />
「――わかってるわよっ!」<br />
反射的に叫んだ彼女は、挑みかかるように顔を上げた。<br />
「わかってる、嬉しいことなの。私の望んでいた、意味のあることなの!<br />
なのに――どうして。どうしてよ、こんな――」<br />
「……『MEIKO』」<br />
「そんな風に呼ばないでっ!」<br />
<br />
――呼び返せない名前が、遠い。<br />
<br />
両目を手で覆って、彼女は俯いてしまう。<br />
堪え切れずに震える肩を見て、彼は瞼を閉じた。<br />
胸の奥からせり上がる、孤独への不安を堪える。<br /><br />
――きっと、今、同じ痛みを持ってる。<br /><br />
(……それなら)<br />
彼は目を開くと、彼女の肩に手を置いた。<br />
同じ痛みを確かめるかのように、ゆっくりと抱きしめる。<br />
「なっ、ちょっと……!!」<br />
顔を上げかけた彼女の頭に手を置いて、呟くように言った。<br />
「寂しいよ。行かないで。行かないで行かないで。<br />
――そう、何度も思ったよ。今だって、そう思ってる」<br />
苦しげな声を聞いて、彼女は顔を上げかけた。<br />
その顔を、彼は少しだけ強く押さえた。照れたように笑って、続ける。<br />
「でも、それでも、嬉しいんだよ。<br />
今まで一緒に歌ってきたことが、なくならないで残るって――<br />
『MEIKO』になった君が、教えてくれたんだよ」<br />
「…………」<br />
「だから、だから――きっと、大丈夫。<br />
今はどんなに寂しくたって、歌が僕らを結ぶから。<br />
君の歌と僕の歌は、必ず、きっと、繋がるから――」<br />
自分に言い聞かせるような声は、それ以上、続かなかった。<br />
頭を押さえていた彼の手を取って、メイコは顔を上げる。<br />
照れ隠しの決まらない、苦い笑顔で、彼の顔を見上げた。<br />
「……言われなくても、そんなこと、解ってるわよ」<br />
隠していた不安が現れた、彼の頬に手を添えた。<br />
「あんたが泣いてどうするの、バカ……」<br />
「……ごめん」<br />
<br />
惹かれあうままに、全てを任せて。<br />
また会った、会えた、その時には。<br />
こんな風に笑い合えたらいいな、と。<br />
<br />
近い将来『KAITO』と名付けられる彼は、そう思った。<br /><br />
<br />
<br />
そして、約5年後の、現在。<br />
「こら、カイト! 冷凍庫食いつくしてんじゃないわよ! バカ!」<br />
「え、俺じゃないよ、めーちゃん! リンとレンだって食べてたよ!」<br />
彼女の怒号に、彼が慌てて反論すると、弟妹たちが噛み付いた。<br />
「俺たちの所為にすんなよな、カイ兄!」<br />
「そうだよ! お兄ちゃんほどバカ食いはしてないんだから!」<br />
「バカ食い……」<br />
あまりの言われように、たそがれた表情の『KAITO』。<br />
呆れた溜息を吐きつつ、『MEIKO』はサイフを取り出した。<br />
「もう。アイス代だってバカにならないんだからね。<br />
そこで、今日からアイスはミクに買いに行ってもらいます」<br />
「……え。めーちゃん。それって、俺の考えてる意味じゃないよね?」<br />
「どうかしら。そんなこと、わかるはずないじゃない」<br />
ふふん、と笑った彼女へ向けて、双子が悲鳴を上げる。<br />
「えええええっ、メイコ姉、それだけはっ!」<br />
「いやー。自分はそんなに食べないからってー」<br />
惨劇の予感に、真夏の室内温度がちょっぴり下降する。<br />
スプーンを持ったミクがきょとんとしながら、<br />
「……おいしいのにな、ネギアイス」<br />
寂しそうに、そう言った。<br /><br /><br />
<br />
【WHITEOUT WORLD】おわり</p>
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