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<p>元ネタとした動画さま:<br /><a href="http://www.nicovideo.jp/watch/sm4069100">「サイハテ」KAITO【捏造版】PV/カイメイプロトタイプFULL‐ニコニコ動画<br /> 「サイハテ(ピアノバラードver.)」【カイメイ捏造版】 歌わせてみた‐ニコニコ動画<br /></a><br /><br /><br /> 彼らはその時、ただ単純に、VOCALOIDと呼ばれていた。<br /> この世界の片隅で、確かに2人で、愛を歌っていた。</p> <p><br /> WHITEOUT WORLD<br /><br /> 簡素なハミングは混じり合い、時に片方が黙るのを繰り返した。<br /> 肩を並べて楽譜を覗き込み、彼はふんふんと鼻歌を歌う。<br /> 2人が出会ってからずっと、歌は続いてきた。彼らの間で、涸れることなく湧き続けた。<br /> その絆を信じて、彼は歌う。音のひとつひとつを、大切に追いかける。<br /> 彼は、自分の横顔を見つめる目に気がついていたけれど、彼女自身は何も気がついていないようだった。<br /> ぼんやりと、遠くを見るような眼差し。<br /> ときおり瞬く瞳は、いつになく、不安そうに揺れている。<br /> 彼女らしくない、そんなことにはとっくに気づいていた。<br /> ただ、それを言葉にできるほど、今は――今の彼には、余裕がない。<br /> 「……ねぇ」<br /> ぱさっと楽譜を置いて、彼女が口を開く。<br /> 「うん?」<br /> 「…………ううん、何でもない」<br /> 諦めたようにそう言って、けれど、その眼は下ろされない。<br /> 目に、記憶に、焼き付けるようとしているかのようだった。<br /> 彼は歌を止めた。淡い色合いの瞳を正面から見て、口を開く。<br /> それだけのことに、どうしてか、ずいぶん勇気が要った。<br /> 「そういえば、まだ。……お祝いを、言ってなかったよね」<br /> 「……え」<br /> 彼女は彼を見つめたまま、硬直した。<br /> 彼はその目を見返して、いつも変わらない笑顔を浮かべる。<br /> 「おめでとう、『MEIKO』」<br /> 「……え、――あっ、知ってた、の」<br /> 「うん」<br /> 「…………そ、うなの。なんだ、そうなの」<br /> 彼女は気まずそうに笑い返した。<br /> 「あはは。なんだ、知ってたんだ?」<br /> ――くしゃっ。<br /> 握りしめた楽譜の端が、小さく乾いた音を立てる。<br /> 彼は、細かく震える小さな手を見つめていた。<br /> ずっと傍らにあった、あることが当たり前だった手を見る。<br /> 「……本当は、1番に言おうと思ったのよ」<br /> 笑い顔のまま俯いて、彼女は声を絞り出す。<br /> 「嬉しかった、喜んでくれるって思ってた」<br /> 「嬉しいよ? 一緒に喜びたいと思ってる」<br /> 「――わかってるわよっ!」<br /> 反射的に叫んだ彼女は、挑みかかるように顔を上げた。<br /> 「わかってる、嬉しいことなの。私の望んでいた、意味のあることなの!<br /> なのに――どうして。どうしてよ、こんな――」<br /> 「……『MEIKO』」<br /> 「そんな風に呼ばないでっ!」<br /> <br /> ――呼び返せない名前が、遠い。<br /> <br /> 両目を手で覆って、彼女は俯いてしまう。<br /> 堪え切れずに震える肩を見て、彼は瞼を閉じた。<br /> 胸の奥からせり上がる、孤独への不安を堪える。<br /><br /> ――きっと、今、同じ痛みを持ってる。<br /><br /> (……それなら)<br /> 彼は目を開くと、彼女の肩に手を置いた。<br /> 同じ痛みを確かめるかのように、ゆっくりと抱きしめる。<br /> 「なっ、ちょっと……!!」<br /> 顔を上げかけた彼女の頭に手を置いて、呟くように言った。<br /> 「寂しいよ。行かないで。行かないで行かないで。<br /> ――そう、何度も思ったよ。今だって、そう思ってる」<br /> 苦しげな声を聞いて、彼女は顔を上げかけた。<br /> その顔を、彼は少しだけ強く押さえた。照れたように笑って、続ける。<br /> 「でも、それでも、嬉しいんだよ。<br /> 今まで一緒に歌ってきたことが、なくならないで残るって――<br /> 『MEIKO』になった君が、教えてくれたんだよ」<br /> 「…………」<br /> 「だから、だから――きっと、大丈夫。<br /> 今はどんなに寂しくたって、歌が僕らを結ぶから。<br /> 君の歌と僕の歌は、必ず、きっと、繋がるから――」<br /> 自分に言い聞かせるような声は、それ以上、続かなかった。<br /> 頭を押さえていた彼の手を取って、メイコは顔を上げる。<br /> 照れ隠しの決まらない、苦い笑顔で、彼の顔を見上げた。<br /> 「……言われなくても、そんなこと、解ってるわよ」<br /> 隠していた不安が現れた、彼の頬に手を添えた。<br /> 「あんたが泣いてどうするの、バカ……」<br /> 「……ごめん」<br /> <br /> 惹かれあうままに、全てを任せて。<br /> また会った、会えた、その時には。<br /> こんな風に笑い合えたらいいな、と。<br /> <br /> 近い将来『KAITO』と名付けられる彼は、そう思った。<br /><br /> <br /> <br /> そして、約5年後の、現在。<br /> 「こら、カイト! 冷凍庫食いつくしてんじゃないわよ! バカ!」<br /> 「え、俺じゃないよ、めーちゃん! リンとレンだって食べてたよ!」<br /> 彼女の怒号に、彼が慌てて反論すると、弟妹たちが噛み付いた。<br /> 「俺たちの所為にすんなよな、カイ兄!」<br /> 「そうだよ! お兄ちゃんほどバカ食いはしてないんだから!」<br /> 「バカ食い……」<br /> あまりの言われように、たそがれた表情の『KAITO』。<br /> 呆れた溜息を吐きつつ、『MEIKO』はサイフを取り出した。<br /> 「もう。アイス代だってバカにならないんだからね。<br /> そこで、今日からアイスはミクに買いに行ってもらいます」<br /> 「……え。めーちゃん。それって、俺の考えてる意味じゃないよね?」<br /> 「どうかしら。そんなこと、わかるはずないじゃない」<br /> ふふん、と笑った彼女へ向けて、双子が悲鳴を上げる。<br /> 「えええええっ、メイコ姉、それだけはっ!」<br /> 「いやー。自分はそんなに食べないからってー」<br /> 惨劇の予感に、真夏の室内温度がちょっぴり下降する。<br /> スプーンを持ったミクがきょとんとしながら、<br /> 「……おいしいのにな、ネギアイス」<br /> 寂しそうに、そう言った。<br /><br /><br /> <br /> 【WHITEOUT WORLD】おわり</p>
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