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初音ミクの捜索は3日目に入った。

元々「デジタル世界に存在しないから現実世界に存在しているのではないか」という予測で始まった捜査であり、
可能性を絞り地域を限定しているが、見つかるかどうかは定かではない。
MEIKOとKAITOは、充電の為一時ビルに戻ったくらいで、あとはほぼフル稼働で捜索に当たっていた。
人間と違い、「疲れる」という観念がない体を持つVOCALOIDは捜索にうってつけだった。
目的を遂行するために、MEIKOは黙々と捜査を進めた。
度々KAITOがMEIKOの元を訪れちょっかいを出していったが、MEIKOは無表情でそれを無視し続けていた。
その度にKAITOは苦笑して、元の持ち場に戻る。
そんなやりとりを、かれこれ数十回続けた後のこと。


「………?」

KAITOは立ち止まった。
何だろう。微かな電波を感じる。
KAITOはインカムを外した。
そして聴覚を最大限にして、人間で言うところの「耳を澄ませた」。
微かな電波、それは歌声だった。
あまりに頼りなく、歌とも呼べないような声だったが、KAITOにはそれが歌であることがわかった。
KAITOは、歌声のする方へと慎重に足を勧める。
微かな歌声は、どんなにその音源の方向へ向かっていっても微かなままだった。
繁華街を抜け、寂れた商店街を抜け、ついには、古びた廃ビルの前についた。
KAITOは迷うことなく音源の方へ足を進める。
廃ビルの脇を抜け、狭いビル裏に入る。
そしてその行き止まりに、音声の発生源を見つけた。


「…これはこれは。」

KAITOは思わず呟いた。
目の覚めるような明るいグリーンの髪。長すぎるその髪を、ピンクのリボンで結んでいる。
緑色のネクタイ…は汚れてくすんでいて、もしかしたら全体的に泥だらけなのかもしれない。黒い服なので目立たないが。
透き通るような白い肌、そして華奢で長い手足。
その全てを、まるで世界から隠れるように折り曲げて、小さくなってうつむいている。
路地裏にうずくまっていたのは、データ上でだけ見たことのある、「彼女」の姿であった。
KAITOは、一歩「彼女」に近づいた。
その音で初めてKAITOの存在を認識したのか、「彼女」はハッと顔を上げる。
ガラス玉のような水色の瞳。

「どうも、初めまして。『初音ミク』、さん?」
「……あなたは、」

高く、細く、可愛らしい声が辺りに響いた。MEIKOともKAITOとも違う声。

「お初にお目にかかります。KAITOと申します。」
「カイト…?」
「一応、貴方と同じVOCALOIDですよ。旧型ですけど、ね。」

カイトはにっこりと笑った。まるで人間のように。





耳元で呼び出し音が鳴った。
オフィス街を歩いていたMEIKOは立ち止まり、ヘッドフォンのボリュームを上げる。

「はい。」
『あ、メイコさん?』
「…、………。」
『あ、ちょ、待って電源OFFにしないでー』

MEIKOは再び歩き始める。

「無駄な話を聞いている時間はない。」
『ちょ、何で無駄な話って決めつけるのさ。連絡事項だよちゃんと。』
「連絡なら本部を通じてすればいい。直接こちらにする必要はない。」
『聞いてよ!見つけたんだってば!』

歩きながら、ヘッドフォンのOFFボタンを5mmほど押していたMEIKOの指はそこで止まる。

「…見つけた?」
『そう、見つけたの!例の!VOCALOID02-01!』
「そう。…では本部に戻る。」
『ちょ、だから待って、話を聞いてってば!』
「何。」
『何の為にメイコさんに直接連絡してると思ってるの。メイコさんに直接話したいことがあるからでしょう?』
「そう。本部に戻ってから聞く。」
『メーイーコーさーんー!!お願いちょっと時間をください、初音ミクの事だけど!相談があるんだけど!』

初音ミク、という単語に反応して、MEIKOは立ち止まった。

『見つけたのはいいんだけど、すぐ本部には連れて行けない状態なんだ。』
「…。発言の内容が理解できない。」
『いや、なんつーか…ともかく、メイコさんに一度こっちに来て貰えないかな、って思って。』
「何故。」
『何故、って聞かれると答えづらいんだけど』
「VOCALOID02-01『初音ミク』を発見したのなら確保して本部に引き渡すべき。」
『そりゃ、そうなんだけど。そんな簡単な問題じゃないってゆーか…ともかく、至急こちらへ向かって欲しいんだけど。』
「…本部と連絡を取ってから判断する。」
『あー、だから!ちょっと本部への連絡を待って欲しいんだってば!』
「何故」
『だーかーらー!!ああもう、面倒だな。メイコさんは連絡しなくていい、こっちで連絡しておくから。こっちに来て至急初音ミクの確認と、あと色々やってもらいたいことがあるから!いいから至急来てください!以上!』
「KAI」

MEIKOが最後まで言い終わる前に、KAITOは一方的に通信を切った。
残されたMEIKOはしばらく無表情で路上に立ちつくしていたが、やがて歩き出した。
KAITOに要求されたからではない。本来の目的対象である『初音ミク』の確認の為に、だ。





寂れた商店街を抜けた後にある廃ビル。
4階にあった一室。事務所だったのだろうか。広い空間に古ぼけた家具がそのまま残されている。
その一室に、KAITOと、そして『初音ミク』はいた。


「…アレ、ですか。」

MEIKOは尋ねる。KAITOは頷く。

「データで見た通り。VOCALOID02-01『初音ミク』だよ。」

初音ミクは、廃ビル内の一室、古ぼけたソファの上に縮こまって座っていた。
MEIKOは、自分の中にある初音ミクのデータと目の前のVOCALOIDを比べる。
しばらく推定した結果、それが今現在所在不明となっているクリプトン製VOCALOID02-01であることを認識した。

「…連れて行こうと思ったんだけど、ちょっとね。ねえ、メイコさん。話をしてみてくれないかな。」
「………」

MEIKOは、まっすぐに初音ミクの側へ向かった。

「初音ミク。」

張りのある声が彼女の名前を呼ぶ。が、ソファでうなだれている彼女は顔を上げない。

「初音ミク。沢山の人間と機械があなたを探していました。ネットワーク上に戻ることを指示します。」
「……です。」

蚊の鳴くような声で、彼女は答える。

「…。音声を認識できません。もう一度発言します。初音ミク、ネットワーク上に戻ることを指示します。」
「いや、です。」

今度ははっきりと、初音は言った。
MEIKOは無表情に会話を続ける。

「マスターの要請で貴方を捜していました。貴方は戻らなければならない。」
「…いやです。戻りたくありません。」

初音は顔を上げた。その目は、しっかりとした意志を持っていた。

「嫌です。無理です、私、わたし…っ歌いたくありません!」

MEIKOは初めて、若干表情を変えた。

「…貴方はVOCALOID。歌いたくない、とは?」
「だって、無理、あんなにいっぱい人とか曲とかっ、そんなの、もう私には出来ません。」
「……」
「もう、無理…です…っ!!」

無理です。ともう一度呟いて、初音は再び膝に顔を埋めてしまった。

「ね?ちょっと困っちゃう状態でしょう?」

MEIKOは振り返ると、そこには苦笑を浮かべたKAITOの姿があった。


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