閑話(アランデール・その壱)
雲雀と懐剣
たとえば。
ココは鳥籠で、ボクは上等の寝床に横たわる雲雀。
ココは鳥籠で、ボクは上等の寝床に横たわる雲雀。
いつぞや…面白半分で歌い、語った童話の通りだとしたら。
これからここにはひなぎくの花が放り込まれて、ボクは自分の運命をのろいつつ…飢えと渇きで死ぬのを待つだけなのだろう。
「お目覚めかな。アランデール。」
籠の中にやって来たのは、哀れなひなぎくではなく…ボクを欲し、籠に閉じ込めた
『貴族の子供』
あ。子供と言うにはアレか。
彼は、ボクと二周り以上歳が違う。
『貴族の子供』
あ。子供と言うにはアレか。
彼は、ボクと二周り以上歳が違う。
「ご機嫌麗しゅう。子爵。」
掴まえたばかりの雲雀は、貴方にとっては物珍しい玩具なのでしょう。
なら…玩具なら玩具らしく、貴方をもてなさず…そちらを見やりましょうか。
なら…玩具なら玩具らしく、貴方をもてなさず…そちらを見やりましょうか。
「ふん、相変わらず気位の高いことよ…まぁいい。ココではお前と私は貴族と楽師ではない…」
対等の立場と言葉を吐いて、求めるものは自分への絶対的服従。
犬のように地べたを這いずり回り、媚び諂うボク。
犬のように地べたを這いずり回り、媚び諂うボク。
ああ、それだけなのなら…なんて美しいのかしら。これもまたひとつの秩序の形だ。
だが。
其の秩序を『美しいもの』として具現するには…
貴方は余りにも無知すぎるのですよ。子爵。
其の秩序を『美しいもの』として具現するには…
貴方は余りにも無知すぎるのですよ。子爵。
「子爵…私の持ち物は…処分なさったのですか。」
無遠慮な手。皺の刻まれた顔。其の中で光る水色の瞳は余りに無邪気で…浅はか過ぎて…思わず笑いがこみ上げてくる。
「処分されたことをお前は笑うか。アランデール。…お前の持ち物など、その首から下げている指輪以外…何一つ残してはいない。」
と、なると…
あの方に頂いたギルドのエンブレムも捨てられたというわけか。
あの方に頂いたギルドのエンブレムも捨てられたというわけか。
「最も…」
そう言葉を吐き出しながら、彼はボクに貪りつく。その行為を受けながら、ボクの心にちらり。と火が点る。
作法もへったくれもあったもんじゃないね。貴族の癖に。
作法もへったくれもあったもんじゃないね。貴族の癖に。
「なぁ、アランデール…何故、これだけをお前に残したと思う?」
無抵抗に組み敷かれるボクを見下ろしている彼。まるで鬼の首でも獲った様な顔していやがる。
そして、実際彼の手が伸びている先にあるのは…鬼の首に匹敵するもの。
ボクにとって何物にも代え難い至高の宝。
そして、実際彼の手が伸びている先にあるのは…鬼の首に匹敵するもの。
ボクにとって何物にも代え難い至高の宝。
ぷつり。
ボクの首に、何かを引きちぎるような軽い衝撃が伝わる。
「こんな安っぽい指輪…これがお前にとってどれだけの価値があるか推し量る気もないが…これはお前の心の依り代であるのは間違いない。」
そして、華奢なつくりの指輪を無理やり自分の節くれだった指にねじ込む。
「私がこれを嵌め続ける限り…お前は私には逆らえない。この指輪こそがお前の心の最後の城だ。その城は私の手の中に落ちた。どうしようと私の自由。…なぁ、アラン…」
そして…覆いかぶさる体重と共に、耳元で声がした。
-トテモ、イイ…カオダ。
本当に、美しくない。
美学を持たぬ上に…ちゃんとした作法もふめない無知な彼も。
美学を持たぬ上に…ちゃんとした作法もふめない無知な彼も。
こうして…あっという間に…憎悪の炎に心を焼かれてしまってるボクも。
不本意ながら。
とりあえず左の薬指に、ボクは銀の指輪をはめていた。
ペンダントチェーンは、今は亡き初老の男に引きちぎられ使い物にならなくなってしまったから。
とりあえず左の薬指に、ボクは銀の指輪をはめていた。
ペンダントチェーンは、今は亡き初老の男に引きちぎられ使い物にならなくなってしまったから。
「子爵は…お疲れだったのかもしれません。じゃなければ…私をあのような場所に閉じ込めた上に…このような、哀しいことをなさることはなかったはずですから。」
病院のベッドで横たわるボクの隣には、プロンテラ騎士団のお偉いさんが数名。
面倒な事になったと言わんばかりの表情でボクを見つめている。
面倒な事になったと言わんばかりの表情でボクを見つめている。
ただ。
誰一人として、あの男の死を悲しんでいる者が居ないと言うことが滑稽でならなかったけど。
誰一人として、あの男の死を悲しんでいる者が居ないと言うことが滑稽でならなかったけど。
「そうかも、知れませんな。…いや、貴方も災難でしたな。アランデール・ロメロ殿。」
「私のことはお気遣いなさらず。子爵から受けた傷はいずれ癒えますが…子爵はこの世に戻ってくることはありません…。今は、静かにあの方の冥福を祈ることにいたします。」
「私のことはお気遣いなさらず。子爵から受けた傷はいずれ癒えますが…子爵はこの世に戻ってくることはありません…。今は、静かにあの方の冥福を祈ることにいたします。」
「一日も早く、傷と共に…貴方がこの日々のことを忘れ去れることを切に祈りますよ。」
…なるほど。
あの男の死を『病死』とか、そういう無難な形にして処理するわけか。
あんなのでも、騎士団においていた身だものね。
若い宮廷楽師を監禁して心中しようとしたとあっちゃ…相当なスキャンダルなわけだし。
あの男の死を『病死』とか、そういう無難な形にして処理するわけか。
あんなのでも、騎士団においていた身だものね。
若い宮廷楽師を監禁して心中しようとしたとあっちゃ…相当なスキャンダルなわけだし。
彼らが病室から出て行き…ボク一人が部屋に残る。
腹に巻かれた包帯をさすりつつ、ボクはひと寝入りすることにした。
腹に巻かれた包帯をさすりつつ、ボクはひと寝入りすることにした。
それにしても。
名前だけとはいえ、流石騎士団所属。
名前だけとはいえ、流石騎士団所属。
ボクを抱きにきたときに、たまたまあんたが装備していたあの懐剣。
あんたの首を切り裂き、ボクの腹を刺しぬかれ…それでもなお…
あんたの首を切り裂き、ボクの腹を刺しぬかれ…それでもなお…
無邪気なほどに、鮮やかな輝きを見せていたよ。