大人の階段上ったせいで、たらしになったミカどん七番勝負!
(注・包容力のあるミカどんが信じられない方にはお薦めしません)
◆一番勝負・ひつぎさん
「祝う気持ちがあるんなら、あたしの好きにさせろよな」
困った顔をして、こちらを睨む。無論、祝いたい気持ちに嘘はない。表現として
上等かどうかは、知らない。所詮、好きにやるだけ。好きにやらせてもらう。
「こっちの意向は無視かよ」
「貴方のことは、とても尊重しているつもりです」
そうだ、嘘はない。
「どこがだ!」
たとえ、一日前の誰もが油断している晩に、真夜中に。
貴方を想って不法侵入したとしても、すべてが正当化させる程度に、世界はわがまま
にできている。
「アンタの世界観なんざ、知ったこっちゃねー」
未成年なのに、憂い顔で窓辺にたたずみワイングラスを見つめるその横顔には、粗野
に振舞っても隠し切れない気品があった。
「何がワイングラスだ。そこら辺に転がってた湯飲みじゃねーか」
「この生活用品はすべて二人分……」
「だーっ!勝手にじろじろ見てんじゃねー!たたき出すぞ!!」
それはおもしろい。このうかつな愛すべき人は、以前にも消灯後に出歩いて、センサ
ーに引っかかって警備員とすったもんだの大騒ぎをしたらしい。まさか不法侵入者が
学園理事だと知ったら、周囲の大人はどんな顔をするだろう。
いっそ胸を張って言うべきか?
どこで何をしていたのかを。
「あーあぁ。一体なんだってんだよ」
またろくでもない一年が始まるんだ。盛大にぼやいた顔には、笑みが浮かぶ。
「アンタ、フライングもいいとこだぜ」
「そうでもしないと、奪られてしまうでしょうから」
様々な、貴方を取り巻く人たちに。
「いいじゃねーか。大将、そんな欲張りじゃ宮本が泣くぞ」
わかっているのかいないのか、薄赤い頬が暗い部屋に輝く。本当にかわいくない、
やっかいで、いつも噛み付いてくるしつけのなっていない狼。命を狙うことを公言
する大胆で無邪気な振る舞い。
「ひどい人だわ」
「アンタにだけは言われたくないな……」
夜が明ける前に、一つだけ本当のことを言った。
明日が来たらきっと言えなくなる。ほんの少しの調整が入っただけで、成り立たない
程、あやふやで不確か。それを知っているのだ。彼女も。
黙って、カーテンを閉める。
「あたしの好きにさせろよ」
「ええ、そうね」
「アンタを捕まえられたらいいって、ずっと思ってんだ」
「望むところ」
「……嘘つけ、ひつぎ」
少し笑ったら、何もない朝が来る。
◆二番勝負・紗枝
コツコツ。
真夜中に壁の音。静かな暗い部屋に、響いた。
眠りに落ちる直前に、かすかなその音が引っかかった。とりこぼしはしない、
決して。あいつが呼んでる。その音を。
こちらだけを向いて、側にいて。はっきりと言わない彼女の。唯一の、最大限の
コール。目を開けて、体を起こす。壁に近づいて、少し柔らかく拳を握って。
人差し指の骨で、コツコツ。同じ音を返す。
息を吐いた。立ち上がって鍵を開けた。かかっていても入ってこれるから、
開けておかなきゃならない。
うれしいってことを、伝えなきゃならない。
眠りが深いのは本当。眠りにつくでまであっという間なのも、知ってる。
どちらでもいいの。でもよくない。
矛盾した気持ちに溜息をつく時、コツコツと鳴った。
こんなに静かな夜は、あなたに会わないとやっていられない。一度だって、まと
もな顔でそんなこと言えた試しがない。言ってくれないなら、きっと永遠にどち
らも言いやしない。だいぶ、存分に、私たちは、気に入り合っている。そうなん
だって、勘でわかる。だって、静かな夜は、静かな分だけ無性に顔を見たくなる。
手をつないでいて。
鍵は開いていた。
鍵は開けておいた。
電気もつけないでおいたら、電気はつけなかった。
誰かが入ってくる。
足を踏み入れる。
振り返らないでいたら、横に座った。
じっとうずくまる影の隣に、吸い込まれた。
何も聞かなかった。
「どうした?」「眠れないのか?」
どちらの意味なのか、毛布をかけてくれた。
手がひどく冷えていた。
手が暖かい。
朝までなら、このままでいられる。
朝が来たら、いつも通り。
朝が来なければ。
早く朝よ来て。
◆三番勝負・紅愛
「かんぱーい」
「何に?」
「さぁ……今後も受難だらけであろうアンタの人生に、かしら」
「お前は祝いに来たのかけなしに来たのかどっちなんだ」
その両方じゃいけないの、と胸を張った。祝われ疲れた、と心底疲れた顔で
言えるこいつは、その幸せにちっとも気づいていない。
「うわっ」
「何よ」
「……お前なぁ。見つかってもうまくごまかせよ」
シャンパン一杯に顔をしかめる。一つ年を取ったんでしょうが。その無駄に
あふれる威厳に合わせて、黙って飲み干せばいいのに。
「そっか。これで同い年なのね」
「たった一ヶ月だろ」
「よかったわね。これでみんなの弟卒業じゃない」
「待て。聞き捨てならねぇな。百歩譲ってあたしは妹だろーが」
「イヤよ。アンタみたいな柄の悪い妹」
「なんでだよ?あたしは結構いい妹だと思うぜ、姉貴」
「ぜんっぜんかわいくない」
窓にもたれて、ふっと笑ってみせた。意地の悪い笑みではなく、時折なんの
前触れもなく見せる、あの笑みを。大袈裟に溜息をついてごまかした。
またこの一年も、離れることがなければ、惹かれていく。
続きはまた今度。今度ばかりが重なって、本編はいつまでも始まらない。
「ししょー!次、ししょーの番っす!!あたしと一緒に津軽海峡冬景色を
デュエット……」
「あー、今行くから待ってろ。つか、なんなんだそのやたら渋い選曲は」
喧噪の中に舞い戻る前に、片手を挙げた。
「サンキュ、紅愛」
柄が悪いのはどこへやら。そういう態度を取るなら、どこへも行けなくなる。
「……玲」
貴方は奇麗だわ。
年を追うごとに、何か研ぎ澄まされた違うものへと、変貌する。
手を伸ばしても、もう届かない。そんな日はきっと遠くない。
◆四番勝負・みのり
「お世話になってっからな~」
「そうか?あたしは別に世話焼いてるつもりはないぜ。むしろお前の相方の方
を色々世話してやってるぞ」
「紅愛の世話はあたしの世話だ。エンリョしなくっていーぞ」
「そっか?お前ってイイヤツだよな」
「そか?玲もいいヤツだぞ」
これは風呂屋の三助と若旦那の会話ではない。
なぜか微笑ましい会話が湯気の向こうで繰り広げられているのだった。お互い、
微妙な表情になっている。
「アレが、プレゼント?」
「そうよ」
お金がないので(主に食費と数週間前に紅愛を祝ったため)何を贈ろうか思案
していたみのりのもとに、一通の券が舞い降りた。
「肩叩き券ねぇ」
「それくらいで十分でしょって言ったのよ。玲、肩凝ってそうだし」
首をごきごき言わせてた玲を見て、ふと提案した券は背中流し券に発展。
現在に至る。
「いてててて!」
「あ、わりぃ」
「お前、力強えーな」
なぜか、将来が楽しみだぜ、と続く。
「何の会話?アレ」
「さぁ。父と息子の会話かしら」
同い年の父と息子は、剣の話題に花が咲く。
「お前、強くなってんだろーな」
「おう!今度はぜったい勝つかんな!静久に!!」
風呂いっぱいに決意が響く。誰も気に留めるものはいない。
「……かわいいじゃない」
「当たり前でしょ。私が諦めてないんだから」
かわいい相方の方に向かって、かわいくない人が声をかける。
「みのり、そろそろこっち来なさい。体冷えるわよ」
父と息子は、二人の母(?)の元へ。
この後、息子の足で踏むマッサージが父に炸裂する予定……。
(注・包容力のあるミカどんが信じられない方にはお薦めしません)
◆一番勝負・ひつぎさん
「祝う気持ちがあるんなら、あたしの好きにさせろよな」
困った顔をして、こちらを睨む。無論、祝いたい気持ちに嘘はない。表現として
上等かどうかは、知らない。所詮、好きにやるだけ。好きにやらせてもらう。
「こっちの意向は無視かよ」
「貴方のことは、とても尊重しているつもりです」
そうだ、嘘はない。
「どこがだ!」
たとえ、一日前の誰もが油断している晩に、真夜中に。
貴方を想って不法侵入したとしても、すべてが正当化させる程度に、世界はわがまま
にできている。
「アンタの世界観なんざ、知ったこっちゃねー」
未成年なのに、憂い顔で窓辺にたたずみワイングラスを見つめるその横顔には、粗野
に振舞っても隠し切れない気品があった。
「何がワイングラスだ。そこら辺に転がってた湯飲みじゃねーか」
「この生活用品はすべて二人分……」
「だーっ!勝手にじろじろ見てんじゃねー!たたき出すぞ!!」
それはおもしろい。このうかつな愛すべき人は、以前にも消灯後に出歩いて、センサ
ーに引っかかって警備員とすったもんだの大騒ぎをしたらしい。まさか不法侵入者が
学園理事だと知ったら、周囲の大人はどんな顔をするだろう。
いっそ胸を張って言うべきか?
どこで何をしていたのかを。
「あーあぁ。一体なんだってんだよ」
またろくでもない一年が始まるんだ。盛大にぼやいた顔には、笑みが浮かぶ。
「アンタ、フライングもいいとこだぜ」
「そうでもしないと、奪られてしまうでしょうから」
様々な、貴方を取り巻く人たちに。
「いいじゃねーか。大将、そんな欲張りじゃ宮本が泣くぞ」
わかっているのかいないのか、薄赤い頬が暗い部屋に輝く。本当にかわいくない、
やっかいで、いつも噛み付いてくるしつけのなっていない狼。命を狙うことを公言
する大胆で無邪気な振る舞い。
「ひどい人だわ」
「アンタにだけは言われたくないな……」
夜が明ける前に、一つだけ本当のことを言った。
明日が来たらきっと言えなくなる。ほんの少しの調整が入っただけで、成り立たない
程、あやふやで不確か。それを知っているのだ。彼女も。
黙って、カーテンを閉める。
「あたしの好きにさせろよ」
「ええ、そうね」
「アンタを捕まえられたらいいって、ずっと思ってんだ」
「望むところ」
「……嘘つけ、ひつぎ」
少し笑ったら、何もない朝が来る。
◆二番勝負・紗枝
コツコツ。
真夜中に壁の音。静かな暗い部屋に、響いた。
眠りに落ちる直前に、かすかなその音が引っかかった。とりこぼしはしない、
決して。あいつが呼んでる。その音を。
こちらだけを向いて、側にいて。はっきりと言わない彼女の。唯一の、最大限の
コール。目を開けて、体を起こす。壁に近づいて、少し柔らかく拳を握って。
人差し指の骨で、コツコツ。同じ音を返す。
息を吐いた。立ち上がって鍵を開けた。かかっていても入ってこれるから、
開けておかなきゃならない。
うれしいってことを、伝えなきゃならない。
眠りが深いのは本当。眠りにつくでまであっという間なのも、知ってる。
どちらでもいいの。でもよくない。
矛盾した気持ちに溜息をつく時、コツコツと鳴った。
こんなに静かな夜は、あなたに会わないとやっていられない。一度だって、まと
もな顔でそんなこと言えた試しがない。言ってくれないなら、きっと永遠にどち
らも言いやしない。だいぶ、存分に、私たちは、気に入り合っている。そうなん
だって、勘でわかる。だって、静かな夜は、静かな分だけ無性に顔を見たくなる。
手をつないでいて。
鍵は開いていた。
鍵は開けておいた。
電気もつけないでおいたら、電気はつけなかった。
誰かが入ってくる。
足を踏み入れる。
振り返らないでいたら、横に座った。
じっとうずくまる影の隣に、吸い込まれた。
何も聞かなかった。
「どうした?」「眠れないのか?」
どちらの意味なのか、毛布をかけてくれた。
手がひどく冷えていた。
手が暖かい。
朝までなら、このままでいられる。
朝が来たら、いつも通り。
朝が来なければ。
早く朝よ来て。
◆三番勝負・紅愛
「かんぱーい」
「何に?」
「さぁ……今後も受難だらけであろうアンタの人生に、かしら」
「お前は祝いに来たのかけなしに来たのかどっちなんだ」
その両方じゃいけないの、と胸を張った。祝われ疲れた、と心底疲れた顔で
言えるこいつは、その幸せにちっとも気づいていない。
「うわっ」
「何よ」
「……お前なぁ。見つかってもうまくごまかせよ」
シャンパン一杯に顔をしかめる。一つ年を取ったんでしょうが。その無駄に
あふれる威厳に合わせて、黙って飲み干せばいいのに。
「そっか。これで同い年なのね」
「たった一ヶ月だろ」
「よかったわね。これでみんなの弟卒業じゃない」
「待て。聞き捨てならねぇな。百歩譲ってあたしは妹だろーが」
「イヤよ。アンタみたいな柄の悪い妹」
「なんでだよ?あたしは結構いい妹だと思うぜ、姉貴」
「ぜんっぜんかわいくない」
窓にもたれて、ふっと笑ってみせた。意地の悪い笑みではなく、時折なんの
前触れもなく見せる、あの笑みを。大袈裟に溜息をついてごまかした。
またこの一年も、離れることがなければ、惹かれていく。
続きはまた今度。今度ばかりが重なって、本編はいつまでも始まらない。
「ししょー!次、ししょーの番っす!!あたしと一緒に津軽海峡冬景色を
デュエット……」
「あー、今行くから待ってろ。つか、なんなんだそのやたら渋い選曲は」
喧噪の中に舞い戻る前に、片手を挙げた。
「サンキュ、紅愛」
柄が悪いのはどこへやら。そういう態度を取るなら、どこへも行けなくなる。
「……玲」
貴方は奇麗だわ。
年を追うごとに、何か研ぎ澄まされた違うものへと、変貌する。
手を伸ばしても、もう届かない。そんな日はきっと遠くない。
◆四番勝負・みのり
「お世話になってっからな~」
「そうか?あたしは別に世話焼いてるつもりはないぜ。むしろお前の相方の方
を色々世話してやってるぞ」
「紅愛の世話はあたしの世話だ。エンリョしなくっていーぞ」
「そっか?お前ってイイヤツだよな」
「そか?玲もいいヤツだぞ」
これは風呂屋の三助と若旦那の会話ではない。
なぜか微笑ましい会話が湯気の向こうで繰り広げられているのだった。お互い、
微妙な表情になっている。
「アレが、プレゼント?」
「そうよ」
お金がないので(主に食費と数週間前に紅愛を祝ったため)何を贈ろうか思案
していたみのりのもとに、一通の券が舞い降りた。
「肩叩き券ねぇ」
「それくらいで十分でしょって言ったのよ。玲、肩凝ってそうだし」
首をごきごき言わせてた玲を見て、ふと提案した券は背中流し券に発展。
現在に至る。
「いてててて!」
「あ、わりぃ」
「お前、力強えーな」
なぜか、将来が楽しみだぜ、と続く。
「何の会話?アレ」
「さぁ。父と息子の会話かしら」
同い年の父と息子は、剣の話題に花が咲く。
「お前、強くなってんだろーな」
「おう!今度はぜったい勝つかんな!静久に!!」
風呂いっぱいに決意が響く。誰も気に留めるものはいない。
「……かわいいじゃない」
「当たり前でしょ。私が諦めてないんだから」
かわいい相方の方に向かって、かわいくない人が声をかける。
「みのり、そろそろこっち来なさい。体冷えるわよ」
父と息子は、二人の母(?)の元へ。
この後、息子の足で踏むマッサージが父に炸裂する予定……。