……何をやっているのだろう。
『嘘付き』(名前未定)は、新聞部の窓に楕円形の画用紙をペタペタと貼り付けていた。
「何やってんの?」
僕が心の中で思ったそのままのことを口に出すと。『嘘つき』は首だけこちらに向いて(振り向いてのがいいな)、またあのニヤニヤ笑いでこちらを見る。
「……なんだとおもう?」
どうせまた捏造だろう……。
『嘘付き』のあの笑みを見る時は、嘘を付く時もしくは人をからかう時だけしかありえない。……いわばサインのようなものだ。
まあ、その方がある程度心構えが出来ていいのだけれど。
「んー、心霊写真はもうやったしね……。ツチノコもやった。……雪男もやったし……」
次に来るお約束といえば……。
「UFOとか?」
「ピンポンピンポンピンポーン! 冴えてるじゃん『主人公』!」
両手を頭の上で打ち鳴らして僕を絶賛する『嘘つき』。いちいちオーバーアクションな奴だ。
「これはねー、グラスワークって言うんだよ?」
「グラスワーク?」
「えーっ? 知らないのー? ぷぷ、グラスワークを知らないのが許されるのって、中学生までだよねー」
……抑えろ。僕。
「あ、怒った? うそだよ、じょーだん」
「……わかってるよ」
そう、こんな奴だから、こいつに怒ったって暖簾に腕押し糠に釘。
「グラスラークってのはね? こうやって楕円形の画用紙を窓に貼り付けてー、反対側からちょーっとピントずらした感じで撮影すると。
なんと驚き! UFO写真のできあがりー♪」
「……本当にそんなのでできるわけ?」
もうこの際捏造については諦める。
「んー、私も出来のいいグラスワーク写真ってのはそんな見たことないんだけどねー。まあやってみればわかるよ。はい、カメラ」
『嘘つき』から僕に手渡されたのは、言葉通りカメラだった。
……なんで僕に?
「私用事があるからさ。『主人公』適当に撮影して現像にまわしておいてよ!」
「は、はあ!? おいっ!」
部室から俊足で逃げ出そうとする『嘘つき』を羽交い絞めにして止める。僕も手馴れてきたものだ。
「はーなーせ! 用事があるんだってば! 写真撮影くらい1人でできるっしょ!?」
「お前な、肝心な所を人に押し付けようとするんじゃない! どうせ用事とかいってもケーブルでスラムダンクの再放送見るとかそんなのだろ!」
「今日はドラゴンボールGTだもん!」
「同じだ!」
「お願い……『主人公』……。私、今日録画予約忘れちゃったの……」
急に勢いの無くなる『嘘つき』に少し狼狽する僕。
「……それで?」
「ずっと入院してる弟がね? 私の持ってくるスラムダンクやドラゴンボールを録画したビデオを、凄い楽しみにしてるんだ……。
だから、私早く帰って録画しないと!」
「……わかったよ」
「わかってくれたの? 『主人公』!」
「写真撮影終わってからね」
騙されるわけがなかった。
もうこれで何度目だと思っているのだろう。
「ばか! 主人公のわからずや! もー、離してよっ!」
「わっ、こら、暴れるな!」
まるで小さな子どものように暴れまわる『嘘つき』を、僕は躍起になって取り押さえようとする。
「あっ……」
「!?」
突然の艶かしい声に、思わず体を離してしまう。
「もう……主人公……変なとこ触らないで」
「ご、ごめん」
「今度からは気をつけてよ……ねっ!!」
ダッ!
「え!?」
僕が照れて目を逸らしている隙に、既に『嘘つき』は部室から消え去っていた。
「……あー」
また逃げられた。
面倒なことになったりした後の事後処理や。面倒な仕事を任された時はいつもこうだ。
……面倒なことばっかりだな。
「はあ」
まあ、とにかく今はグラスワークとやらを早く終わらせるしかないのだろうと思い、僕はカメラを手に取った。
最終更新:2007年03月28日 21:57