「…あっ…
こ、こんにちわ!
僕、上田(うえだ)といいます。
……上田…雄です……」
(何雄?)
「…虎雄(とらお)…って言います…。
あんまり、似合ってないですけど。
前の所では…猫雄って言われていました…」
(よろしく)
「は、はい。
こちらこそよろしく…お願いします…」
上田 虎雄(うえだ とらお)は、ぎこちなく笑った。


虎雄は嬉しそうに、熱心に本を読んでいる。
絵本のようだ。


虎雄は嬉しそうに、熱心に本を読んでいる。
また絵本のようだ。
(話しかける)
「これ? これ、ね。
僕が一番尊敬している人の本なんだ。
エヅタカヒロさんって言うんだけど。
この人の本は、すごいんだ。
この本によると猫の神様っていうのが熊本に
いるんだよ。
熊本って、九州だよね。
どんなところかなぁ…。」
(ほっとく)
放っておきました。


虎雄は、こっちを見て笑った。
なんか、なつかれているらしい…。
「この国には沢山の神様がいるんだ。
主なものでも6つ。
そのうちの半分が、善き神々っていってね…。」
(猫、鳥、兎、馬、羊、猿でしょ)
「…すごい…。
物知りなんだね。
すごいなあ!」
虎雄は喜んでいる。
(現実を見ろ。そのうち死ぬぞ)
「…え?
…アッ…ごめん。ごめんなさい。嫌わないで…。
うん。現実見るよ」


虎雄は、エヅタカヒロの絵本を大事そうに開きながら言った。
「この本によるとね。
…裁きの鳥っていうのがいるんだ。
人が本当に生きるべきかどうなのかを、いつも見張ってる。
その鳥がどこかに飛んでいったら、人は、終わるんだよ。
…白と黒の、2色からなってるんだ」
(ペンギンみたいだね)
「……ほんとだ、うわっ。
…な、なんで気づかなかったんだろう。
僕、聞いてくるっ」
(子供っぽくてかわいいなあ)
「裁きの鳥が、人間を嫌わないといいよね。
……わー。面白いなあ」


上田「…あなたが、裁きの鳥?」
ペンギン「俺は誰も裁かない。裁くとしたら、俺を裁く。俺のルールでな」
上田「…しゃべった?
ペンギンがしゃべった!」
ペンギン「返事がないと思って話しかけたのか」
上田「え。あ…その…なんというか。
じゃあ、なんで、裁きの鳥と呼ばれるんですか」
ペンギン「昔、一人の女に預かったものがある。人間の女だった。
  それを人間に返すかどうか決めるのが、俺の仕事だ」
上田「それが…裁き?」
ペンギン「さあな」


航「上田君…ああ、キミも、聞いたんだね。
  ペンギンがしゃべるとか…。子供じゃあるまいし……」

石田「…上田、ペンギンがしゃべるって言うのよ。
  …なんか、思い詰めすぎちゃったのかしら」

村田「上田ねえ。ペンギンがしゃべるっていってたよ。
  いい話だねと言ったら、喜んでた」

岩崎「うんうん。上田君のうわさね。
  たしかにペンギンがしゃべったと言ってるね。
  うーん。
  悪い結果にならなきゃいいんだけどねぇ。
  独創的な意見をいう人は、軍隊や学校では生きにくいから」

谷口「上田…俺は奴を、見くびっていたのかもしれない。
  それとも、気合を入れてやるべきなのか」

ペンギン「俺がしゃべるといいふらしている奴がいるが。
  …ペンギンがしゃべるのは当たり前だ」


虎雄は、顔をしかめている。
どこか、殴られたようだ。
「……僕を、殴るの?」
(いや)
「…あ、ありがとう…。ありがとう…」
(気合入れろ)
バシ!
「…わかりました…」


書類点検日
石田「…あのねえ!
  どーしてこんな簡単な事も出来ないの!」
上田「でも…」
バシ!
石田「どこの国の軍隊で上官に口答えしていいと言った!
  お前が言える事は、はいとわかりました!」
航「ま、まあ。石田さん。それくらいにしてあげてよ。
  彼も悪気があったわけじゃないし」
上田「コウ…!」
石田「…悪気があったら、今頃懲罰大隊に送ってるわよ。
  ……ムカムカムカー!
  なによ、その態度!
  私が悪いってかー!?」
航「そんな事は言ってないよ」
上田「コウ、怖いよ…」
石田(プッツーン!)
「あーもー!
  いい、あっちいけー!」
上田「コウ。さっきはありがとう」
航「……」
(なんで石田さんは、上田君にあたるかなあ。)
上田「コウ。
  …コウ……?」
航(…ハァ。)
「上田君。僕は思うんだけど、君はもっと強くなって要領を覚えた方がいいと思う」
上田「……コウ。でも……。」
航「いつも僕がついているわけにはいかないんだ。
  わかるよね?」
上田「…ごめんなさい。嫌わないで」
航「…君は……そういう言い方しか出来ないのか!?」
上田「うわぁ!
  ごめんなさい! ごめんなさい!
  嫌わないで! 嫌われたら僕…。」
航「……もういい、…ごめん。僕を一人にしてくれ。
  考えごとしたいんだ」


虎雄は、以前にもまして熱心に本を読んでいる。
またまた絵本のようだ。
「あ……あの。
僕、本を読んで思ったんだけど、この本によると、嵐の鳥がいるんだ。
ああ、でも普通の鳥なんだよ。
ただの鳥が嵐に向かって飛ぶから嵐の鳥っていうんだ。
嵐を抜けるために飛ぶんだって」
(ペンギンとは話してる?)
「う、うん。話をしてるよ。
あんまりおおっぴらにいえないけど。
良く、みんなが居ない時に話相手をしてくれるんだ。
いいペンギンだよ」
(信じるよ)
「……あ……ありがとう…ありがとう…。
嬉しい、すごく嬉しいよ。
今度、ペンギンに話すよ。いいペンギンなんだ」


ペンギンと虎雄が話している。
上田「ねえ。ペンギンは何を預かったの?」
ペンギン「…宝石だ。この世でもっとも美しい宝石を預かった。
  俺はこれを返したい。借りたものは、返すのが道理だ」
上田「…人、探しているのなら手伝うよ。
  電話帳見るのは得意なんだ。あれも本だから…」
ペンギン「…無理だな。多分、どの電話帳にもない」
上田「…ごめん」
ペンギン「気にするな。…それよりも、また誰かに殴られたな?
  殴られっぱなしか。殴られっぱなしは相手を増長させる。
  それは相手のためにもならん。…ボクシングでも覚えろ。
  お前の身を守るためでなく、相手が道を間違わないように」
上田「だ、駄目だよ。僕、体力ないし」
ペンギン「鍛えればいい」
上田「教える人がいない」
ペンギン「ペンギンはいる。俺が教えてやる」
上田「お金ないんだ…」
ペンギン「世の中が金で動いてると思う奴はクズだ。
  とりわけ子供を相手にしている時はな」
上田「……」
ペンギン「いやならやらんでもいい。
  強制して教えてやるほど俺は親切じゃない」
上田「……ま、待って。嫌わないで…」
ペンギン「……」
上田「やります。ボクシング覚えます…」
ペンギン「…決まりだな。明日から早いぞ」


一匹の猫が綺麗に折りたたんだ紙をくわえている。
虎雄に渡した。
虎雄は熱心に猫の書状を読んでいる。
(覗き込む)
赤い前足型だ、大きな猫の判子のようだ。
「大変だ。どうしよう。
僕、師匠に届けてくる」
(なんて書いてあるんだ?)
「「SPQR。……ええと、新しき善き神、古い善き神の皆様。全ての善き神々の諸柱。
老猫より心より最後のご挨拶を申し上げる。
……猫は……猫神族は、シオネアラダの定めし古き盟約に従って鼓杖をとれり、正義最後の砦に入り、懐かしい歌を歌うなり。
遠からん者は音に聞け近くによって目にも見よ。
我こそはかの女の忠臣にして友なれば、最後の一匹までことどとく義を貫き、もって彼女の慈悲に答えん。
誓って善き神々が善き神々たることを証明せん」
……………。
大変だ。
どうしよう。
僕、師匠に届けてくる」


ペンギン「…あの猫は、死ぬところを見つけたんだな。
  そうか…なんとめでたい事だろう」


夜明け前。
ペンギンが泣いている虎雄に何か言っている。
上田「も、もう駄目です。走れません。絶対走れません!」
ペンギン「訓練というのはそこからだ。
  苦しくなってから初めて訓練効果は発揮される。
  筋肉も、頭もな。立て」
上田「そんな…酷い…」
ペンギン「そうか、ではここまでだ。俺はもう教えん。勝手にやれ」
上田「…まって、待ってください!」
ペンギン「だったら走れ」

虎雄は、ひどくふらふらだ。
歩くのもつらそうにしている。


夜明け前。
ペンギンが泣いている虎雄に何か言っている。
上田「ペンギンは僕が嫌いなんだ!
  だからこんな苦しいことをさせるんだ!」
ペンギン「好きか嫌いかは、これから決める。お前の態度次第だ」
上田「…そんな…酷い、酷いよ…。もっと優しくしても…」
ペンギン「お前より酷い目にあって死んだ奴は大勢いる。
  これまでも、今も、これからも。彼らもお前と同じ事を言ったろうよ。
  …優しいって奴は他人に施すから優しいんだ。
  自分に優しいっていうのは優しいとは言わん。自分勝手だ」
上田「……」
ペンギン「トラオ。お前に優しかった奴に懸けて心して答えろ。
  彼らは自分勝手なトラオに優しくしていたまぬけなのか。それとも違うのか?」
上田「……違う、違うっ。僕は…」
ペンギン「だったら立て。お前は、お前のために生きているワケじゃない。
  正義を果たせ。受けた優しさには、優しさで返せ。
  優しさは弱くては施せない。だから強くなれ。血反吐をはいても。
  与えられたものを自分の物と思うな。
  受けた優しさには利子をつけて返せ。
  それが正義というものだ。
  この世で何よりも美しい、この世にはない架空の宝石。
  心の中だけにある綺麗な宝石。
  それは貸し借りのない心の中でだけ光輝をまとう。
  現実にはないから価値はない。
  だが価値なんてものは自分がつけるものだ。
  …正義と言う言葉は美しい、それをしんしに守る者が使う限りは。
  …お前なら、正義を輝かせる事が出来る。
  正義を輝かせろ、命を賭けて。
  古びてさびた懐かしい言葉に、お前が再び命を与えるのだ」


虎雄は、ふらふらになりながら、歯をくいしばっている。
あなたを見て口を開いた。
「……。君はまぬけじゃない。
まぬけじゃないんだ…」


夜明け前。
ペンギンが虎雄に何か言っている。
ペンギン「泣くのは、もうやめたか」
上田「…自分のために流すのは、やめました。
泣いても仕方がないし、僕に優しくした人は、間違ってなんかいないから」
ペンギン「上を見ろ」
上田「…?」
ペンギン「夜が、明ける。太陽は見えないが、近くにはある。
  わかるだろう、空は紫だ」
上田「…僕は青空を、夜明けを呼べますか?」
ペンギン「時が来れば。お前が命を賭けるつもりなら。あるいは」


虎雄は、どこか、堂々としている。
相変わらずふらふらだけど。
苦しみも悲しみも知っているが、恐れるものなどないように見えた。


ペンギン「喜べ。俺が預かった優しさは、人間に返したぞ。
裁きはなかった」


上田「…今わかった、師匠。今わかりました。今がその時だ。
  夜が明けなければいけない時だ。
  俺はここで死んでも後悔はない」
ペンギン「ふっ…。高らかに鐘をならせ!
  我らは戻ってきたぞ」
上田「草葉の陰から。今はもうない木立から」
ペンギン「人の思い出から。永遠の幻想の中から!
我らは戻ってきたぞ。正義の大旗の下に」
上田「我らは戻ってきたぞ。永劫の闇を抜けて」
ペンギン「俺は一匹の裁きの鳥」
上田「俺は一人の嵐を飛ぶ鳥。俺の一撃が世界の決定!」
ペンギン「俺が膝を屈する時が、正義の最後」
上田「良く聞け闇におぼれし者どもよ。
  今日がお前達の命日だ。それが嫌なら家に帰れ!」


戦闘員
「こちら、航空部隊。なんて鳥の数だ。
幻獣をついばんでる!」
上田「…違うさ。ただ、神々が戻ったんだ。
  悪い幻想が実体となって現れる時は、その逆だって現れる。
  良い幻想が、形をとって。
  少しだけ、時間がずれてしまったけど、でも、遅すぎると言うほどでもない」
ペンギン「待たせてすまなかった」
上田「…そんな事ないよ。僕達だって悪かった。
  ずっと集合の合図を忘れていた。正義の旗を立てるのを忘れていた」


ペンギン「戦いは、これからだな」
上田「長く、なる?」
ペンギン「多分な。永遠に終わらんのかもしれん」
上田「それでもなぜ戦うの?」
ペンギン「俺が納得しないからだ。
  正義が負ける事も、世が闇に包まれる事も。
  俺は納得しない。たぶん永遠に」
上田「…ハードボイルドだね」
ペンギン「ペンギンだがな。俺達は腹を決めた。
  九州で戦う猫の神々と共に、我ら鳥神族は古き盟約に沿って光の種族に味方する。
  人間もどうだ。
  さしあたって連絡事務所を開くつもりだが、どうだ。
  俺達には俺達の言葉を伝える通訳がいる。バイトでもするか」
上田「クスクスクス。それもアルバイトなんだ。時給はどれくらい?」
ペンギン「一日4$だ。経費は別、特別報酬はなし。買収もなしだ」
上田「たぶん、世界で一番楽しい仕事だろうね」
ペンギン「金では替えられん体験なのは保障する」
上田「わかった。引き受ける。
  僕だって、何もかも納得していない」


「うん、あの時の戦闘で、何を言っていたかって?」
虎雄は昔、ペンギンにしてもらったかのように
あなたの髪をくしゃくしゃにした。
「気にしなくてもいい。
あなたの守りは、ここにいる。今ここに、この胸の中に。
あれは、ただそれを確認しただけの事さ」
上田 虎雄はひどく優しく笑った。


(上田虎雄ED)
いや、なんというかね。
あの日は特別だったんですよ。
北海道から援軍が来て後退命令が出たとか、
そういうのじゃなくて、えーと。
まあ、言ってもいいよな。
あの日、みんながペンギンの夢を見たんですよ。
ペンギンが車に乗って旅立つんです。
それがすごく悲しくてね。
部隊皆、目が覚めたら大泣きでした。
 (108警護師団に
    配属されていた学生兵の手記より)

あなたが少しだけ早くおきると、荷物を多く
載せたおんぼろの軽自動車が家の前にとまって
いて、その前に上田 虎雄が腕を組んでいた。
「さよならを、言いにきたんだ。これから少し、旅に出る事にする。
あなたを守るように、世界を守りたいと、そう思ったから。
ね、師匠……もう、恥ずかしがりやなんだから。
……ここは、少しだけ良くなったけど、もっと酷いところは、一杯ある。
……………………」
虎雄はあなたの目を長く見た後で、少し笑った。
「狭いけど、2人と1羽は乗れるかも知れない。
どうする?
まだ発車までには、2分あるけど」
虎雄は、そういうと勝負に勝ったような顔で微笑んだ。




上田虎雄 通常 / 提案 / 派生 / シナリオ