「ボキの名前は嶋 丈晴(しま たけはる)です。
えへへ」
「今まで黙ってたんですけど、
ボキはウォードレスデザイナーなんですよ。
人型戦車もデザインしますけどね。
士魂号Mって戦車を、設計した事があります」
「昨日、シマシマの像を見てきたんですが、
あれってなんなんですかねえ」
(この島を舞台にした小説に出てくる妖精だよ)
「昔からシマシマはいたという話も
聞きましたけどねぇ。
はて……、歴史でも変わったんでしょうか。
えへへ。
それにしても、嶋とシマシマって似てますよね。」
(01ネコリスだよ)
「……そうですか。
……なるほど、なんでボキがここに
送り込まれたのか、なんとなくわかりました」
「何もかもがわかるって、
きっと悲しい事なんでしょうね……。
いや、何でもありません」
「ボキは、早く大人になりたかったんですよ。
もっと大きな機械を、早くいじりたかった
ですからね…。
大人になってから、大人の世界がひどく
つまらないとわかってしまって
後悔しましたけど。
違うんだよな。
本当にモノを作るって…」
「センスオブワンダーってのは初めてのドキドキです。
その心こそは本当の宝物、その先へ行こうとする旅人の唯一の持ち物ですよ。
ボキたちがものを作るのは、本当の宝物が欲しいからです。
それを持つ事が出来るくらい良い物が作れたら、そうすればさぞ、ボキは爽快でしょう」
「センスオブワンダーってのは初めてのドキドキです。
それは毒であり、この毒に毒されて、
その後何年も人生を狂わされた人々がいる事をボキは知っています。
ボキもその一人で、ウォードレスや戦車のデザインというセンスオブワンダーに毒され、
未だこの仕事をしています。
センスオブワンダーは、一瞬でもその思い出は一生続きます。
一生残って、眠る時も起きる時もその人の心に種火になって残り続けます。
ただセンスオブワンダーは、自然界では単独に存在する事はありません。
何かに付随するために、ほとんどの人間はこれ単独の効能を論じる事なく
一生を終えるんです。
恋が好きなのとセンスオブワンダーが好きなのは別の事ですが、
それを分けて考える事が出来る人は、ほとんどいません。
だから人間はあの喜びをまた得ようと模倣します。
模倣をすればセンスオブワンダーが得られると信じているんです。
それが悪いわけではないです。
恋の模倣をしなければ、人はここまで大地を満たしはしなかったろうと思うから」
「…でもボキは、知ってしまったんです。 作る事を。
作る事によって得られる、センスオブワンダーを。
という事で、ボキは自分の登場から考え直してみる事にしました。
明日報告します」
扇浦。
波打ち際に、一人の男が、打ち上げられている。
「…」
もう一時間ほどそうしているが、誰も通りかからない。
波打ち際に一人の男が漂着。
「なんか主人公っぽいですよねぇ。えへへへ」
それで一時間も同じポーズをとっていられるあたり、ただ者ではない。
物音。
嶋は、漂着するポーズをとった。
5分。10分。
犬の鳴き声。
「そうか、犬をつれたサマードレス+麦わら帽子の少女ってのもいいな。
えへへへ、いやあ、悪いですねぇ」
犬が、冷たい鼻を脇腹につけている。臭いをかいでいるようだ。
「……ぬ、ぬぅ!?(我慢だ、我慢しろ、嶋!ガンバぁ!)」
くすぐったいのを我慢しながら、嶋は握り拳を作った。
かぷっ。
嶋は、死んだ。
「いやー。この間ひどい目にあったでござるよ。
なんで忍者口調かは、秘密でござる。
強いて言えば、昨日犬にかまれてボキは開眼したでごんす。
そう、忍者犬。
忍者犬を作ったらきっと楽しい。
という事で、犬を捕まえて今一緒に修行中でござるよ。
名前はそう…、メキシコに吹く熱い熱風という意味で
水前寺丸というのはどうでしょうねえ」
嶋は、沢山の本を持っている
「これは、資料でござる…。
忍者の。
そう忍者……、水前寺丸!」
嶋は、真面目に犬に忍術を教えている。
そもそも忍術ってなんだろう…。
「今日は、人工筋肉で魚を釣る実験をしてみます。
じゃ」
嶋は、水前寺丸と共に颯爽と去っていった。
「結論として水前寺丸に尻を噛まれました。
…そうまでして忍者。それしかないのか」
「やはり恋愛忍者コメディというのは
いかがなものかと」
(なんでこう変な事ばかり……)
「……。
ボキくらいの人材となると、99%のバカと
1%の真面目な仕事で成り立ってるんです。
失礼」
嶋は、走り去っていった。
(ひょっとして何か悩んでる?)
「…悩んではいませんよ。
ボキは生まれて一度だって悩んだ事はない。
やりたい事は決まってる。
ずっと前から。
それは、作る事です。
作って、そしてもう一度感じたい。
センスオブワンダーを。
それが戦車だろうとウォードレスだろうと、
ボキには関係ない。
それを戦争に使ってどうしようという考えもない。
ただ作りたい。
…でも、そのためには回り道も大切なんです。
これが役に立つかどうかなんかわからないけれど。
でも、図面引いてわからないのなら
実際やるしかないでしょう」
「ボキは、センスオブワンダーを自ら作り出す事が出来る事を、本当のクリエイトだと思っています。
だからボキは、本当の意味でのクリエイターではない。
何回かはクリエイトした事はあるが、いまだ百発百中じゃない。
眼差しは優しさが足りず、踏み出す足には重さが足りず、振るう腕には畏怖が払われる程ではない。
実際のところ笑われる事の方が多い。本物は、もっとこうあるのだろうと思いながら生きています。
本物になりたい。本物のクリエイターに」
嶋は、祈るように独り言を言っている。
「クリエイトというのは、もっと稚拙でもいい。
賢くある必要もないと思います。
だが、もっと純粋でなければならないと思います。
ボキの先輩がボキにセンスオブワンダーを
与えたものは、今の技術レベルから見れば
大変に稚拙だった。
だがそこには、作った事への喜びがあり、
誇らしげな感じがあった。
…作ったものではなく、作った者の眼差しが
クリエイトなのだ。
出来たものじゃない。
やろうとした事に敬服すべき意義があるんだ。
何かを作ってやろうという、その心意気が
クリエイト。
それをやってのけるのがクリエイター、
ボキがなるものだ」
「クリエイターは、稚拙でも、愚かでも構わない。
だが作るからには喜びを胸に、仕事をするからには
誇りを持つのは最低条件だ。
誇りと喜びは誰も来ていない所に立った者特有の
共通項よ。
ボキの眼差しは先輩たちほど澄んでるか?
少なくともその努力は欠かした事はない。
ただの一瞬も。
ボキは作りますよ。
それがなんだったのかは、作った後で考えます」
そういうと、嶋は走り去りました。
都「嶋君は、研究室にこもったわ。
設計から試作まで、何もかも一人でするって。
…調子、戻ったみたいね」
朝から遠くで
『ガッタンゴットンキュイーン』
という音が鳴り響いている。
「……出来ましたよ。
とりあえず、今の理想を形にしてみました」
いいか悪いかわからないけど、
使ってみてください」
「さぁて、次は何を作りましょうかね…。
えへへへ」
エンディング
わんわん!
父島守備隊、生き残りの証言
……島を離れるその日。
貴方は嶋と二人で、学校の戸締りをして、
そして二人並んで、長い坂を下りていきました。
「悪いでござるねえ。
水前寺丸を探してもらって」
[水前寺丸]
「わんわん!」
[嶋]
「いやー。
この暑いのも、
気に入ってたんですけどねえ」
(しゃべり方統一したら?)
「いや、これはこれで」
首をしめました。
「ギブ、ギブでゴザル!
水前寺丸、なぜ噛み付く」
[水前寺丸]
「わん!わん!わんわん!」
[嶋]
「どうも最初から最後まで、
このノリでござるなあ。
拙者、凄腕の技術者なのに。
むーん」
嶋は、片目だけ開けてこっちを見ています。
「そうだ。
その、もしよかったらでござるが、
拙者、中央に戻ったら、新型の開発をやろうと
思うのでござるよ。
…あー、そこで、その、テスト部隊を
作りたいなあなどと、うん。
新型を二人三脚で作るというものでござるが……」
水前寺丸に尻をかまれて、
嶋は頭をさげた。
「是非、是非に!」
(そうでござるか)
「変なしゃべり方しますね」
首をしめました。
「ギブ、ギブでゴザル!
水前寺丸、なぜ噛み付く」
[水前寺丸]
「わん!わん!わんわん!」
[嶋]
「どうも最初から最後まで、
このノリでござるなあ。
拙者、凄腕の技術者なのに。
むーん」
嶋は、片目だけ開けてこっちを見ています。
「そうだ。
その、もしよかったらでござるが、
拙者、中央に戻ったら、新型の開発をやろうと
思うのでござるよ。
…あー、そこで、その、テスト部隊を
作りたいなあなどと、うん。
新型を二人三脚で作るというものでござるが……」
(いいよ)
「うっしゃあ!
次々湧き上がる珍妙なアイデア!
ああ、はやく実験したいでござる!」
水前寺丸に尻をかまれて、嶋は頭をさげた。
「嘘です。
真面目につくります」
貴方はため息をついて、
一緒に歩き出しました。
しばらくは、退屈せずにすみそうです
(どうしようかなあ)
嶋が情けない顔をしたので、
貴方は満足して一緒に歩き出しました。
まだ答えを言うのは、早いと思いました。
最終更新:2018年08月08日 02:01