「あったしーの名前はぁー、瀬利恵ーセリエー。
父ちゃん大のサッカーファーン。よ、V、元気?
あたし、自然派の女、篠山瀬利恵(しのやま せりえ)。
非売品だけど予約受付中。惚れるなら今のうちだよ」


(PC男子限定)
「この分校って、話しやすい女がいなくてさびしーっしょー」
(いや、それほどでも)
「……」
瀬利恵は、疑いの眼差しであなたを見ている。
「ま、強がりは男の特権だってママンもいってたからね…。
え、なんの事かって?
いや、アタシも良くはわからないんだけどね」
(篠山がいるから……)
「おほ? なかなか言いますなぁ。
さては……。何かいたずらして隠してるな!?
うっちの弟も父ちゃんも同じなのよね。
え、違うの? おかしいなあ……」


「あ、そうだ。
アタシはあたしの名前、好きだよ。
父ちゃん駄目人間だけど、アイツなりに考えて
一番大好きなのと同じ名前にしたんだよ。
あたしはねぇ、ママンみたいにいい女だから、許せるし愛せるのよね。
男の駄目な所も、引けない所も。
同じようにネ!」


瀬利恵は、変な調子で歌を歌っている。
妙に遅く、妙に起伏に富んだ、そんな歌だ。
「ひっ、ひっ、日々ー 日々ーの生活は楽しいなー
文句言う奴 うなる奴 色々いるけどねー
こーゆーのは 笑ったが勝ちぃー」
瀬利恵は、あなたを見て、八重歯を見せて笑った。


「なんでも歌いながらやるのが私の流儀さ。
黙って仕事してたら、寝ててもわからないだろ?
だから、自分のペースと気分を歌にするの。
あたしは、毎日、歌ってるんだ」
(その割に下手だな)
仕舞まで言う前にヘッドロックされました。
「あ、そう? そんな事言うんだ。
じゃ、当分は絞められたまんまだね、アンタ」
(へえ)
「……そんなに珍しい?
普通だと思うけどね」


「あー。
なんか、ここ、昼寝できないのが、つらっ。
スカート思いっきり風ではためかせて、昼寝したい。
そしたらこの髪も風に躍らせてやるの。
そう、時間は2時間くらい!
だってこの島、暑くて昼はだるいし夜は寝にくいんだよ……」


「そうだ、聞いて聞いて。
あたし、パスタより蕎麦派なのよ。
断然蕎麦、ママンのせいで子供の頃からパスタばっかりだったから憧れてたの。
でも、蕎麦って、あんまり太らないのよね。
好きに食べるようになったら半年で体重が5kgも下がっちゃった……。
このままだと、5年と半年で私、体重0になるかも」


「いやー。
ちょくちょくあたしの所に話しに来るね。
いいよ。あたし、ちゃんと通って来る人、大好き」


瀬利恵は、どこか優しく歌っている。
「ひっ、ひっ、日々ー 日々ーの生活は楽しいなー
あーんまりかわいくないあたしだけどー
好いてーくれるー人いるしー
愛は 愛は 愛は 小さな苗木なのぉ
ドレスをあげて指輪をわたしてー
毎日キスをあげよう
抱きしめて 遠くに遊びに行こう
そうしてー 水をやったならぁー
愛は愛は愛はぁ 大きく育つ……
愛は愛は愛はぁ 立派に育つよぉ
一つの幸せな家が 出来ていくー……」


「昔の人は……星が、人に影響を与えるって、信じていたんだって。
いや……今も信じる人はいるけど……。
天を見上げれば自分の行く先が大きく書いてあるのはいいよね。
迷わないですむもの。
あっちに行けば、ああ死ねる。
こっちに行けば、悲しい恋をする。
それがわかるだけで、どれだけの人が助かるんだろうね」


「星……見るの好き?」
(うん)
「私も好きだよ。星を見るの。
この空と同じ空を、どこか遠くの人も見てると思うから」
(いや、別に)


「世界って、奇麗だね。
私、初めて知った気がする」
(大げさだな)

(そうかい?)
「……あたしにとっては、そう。
人がどういう風に見えているかわからないけれど、
私は今から違って見えたんだよ。
あー、でも、どうしよう。
奇麗だと思ったら、涙、出て来ちゃった」
瀬利恵は、本当に泣いている。


「……思った事を、思ったように口に出すのがいいって、ママン、言ってた。
自分の心が間違っていなければ、恥ずかしがる事はないって。
だからあたしが泣くのは、別に恥ずかしい事じゃない。
……心が、動いたんだから」


「空に見えるミルクの河をこっちじゃ銀の河と言うんだって。
あー、田上のおとっつぁんは、天の大河って言ってたな。
自分から見て右側が理(ことわり)の側、
反対側が不思議の側の大河って言うんだって。
不思議の側にはかわいい軍勢がいて……そして
河を渡ってくる主を待ってるんだって。
かわいい軍勢って、どんなのだろうね。
やっぱり猫かな」
(人もいるよ。不思議の側にはなんでもある)
「……へえ。
なんか、自分で見て来たように優しく言うね。
……いや、からかってるんじゃないよ。
ただ、ひどく自然に見えただけ。
ずっとそこで、生きてたように」
(猫の軍勢……)
「……? 猫、嫌いだった?
あたし、この話をきいて夢に見たの。
小さい頃の話なんだけどさ。
あたし、腰まで水につかって大河を歩いて渡るの。
その先に槍だの剣だのもった猫が並んでて、待ってる…。
かわいい夢だよねえ」


「……(PC)は、へ、へんな所行かないよね?
あ、いや、なんか。
あたしも田上みたいになりたくないなって。
田上、アイツの父親、もう何年も帰って来ないんだ。
希望の種は蒔き終えた。
これから不思議の側の大河にいくって。
そんな事言って姿を消したの。
……そんな寂しい人生……あたしヤだ」


「あ……やばい」
(なにが?/忘れ物か?)
「あたし、アンタの事好きかも。
やばいなあ」


「やばいやばい……どうしよう」
瀬利恵は、うんうんうなっている。


「私、絶対あんたがどこかにいなくなりそうな、そんな気がする。
……いや、ただそう、思ったんだけど。
……だから、あたしは……あんたの事、好きになりたくない……」


「だ、駄目だよ。
だからいったでしょ。
あたしは、あんたの事、好きになりたく……、
あっ……だから……だめ……。

ご、強引なんだから……」


「……あんたは……きっと遠いどこかから来たのね。
あたしには……わかるわ。
たぶん、一等あんたを見ていたのは、あたしだから。
だからわかる……。
なぜそうかなんかわからないけど、あんたは、きっと遠いどこかの人だ。
そしてきっと……またどこかに旅立つ」


「なんだろうね……あんたを見れば見るほど、
どんどん不思議の側の人だってわかるんだよ。
あんたの中には、二つの魂がある。
一つは、あんたの。
もう一つは、こちら側のものが……。
勉強は出来ないけどね。
だけど、それだからこそ、私、多分わかるんだ……」


瀬利恵は、泣いている。
「河が……河が見えたのよ。
不思議の側の大河を渡る、誰かの姿が。
その人は、たぶん、ずっとずっと昔から、
そうして色々な場所を、渡ってきたんだ」


「一番大事なものは、絶対に手に入らないって、ママン、そう言ってた。
最初の亭主が、そうだったって。
宇宙に行くんだって、そう言って帰って来なかったって。
そして、宇宙計画が失敗して、残った人がこの島に来たんだ。
それは、……あたしはその人の子供じゃないから、
だからあたしにはラッキーだったけど……。
その人が生きていたのと、あたし生まれてくるのと、どっちがよかったってきいたら、笑って何も答えなかったの……いや、だから……」
瀬利恵は、はらはらと泣いている。
「ああもう、なんでうまく言葉に出来ないんだろう……。
あんたはきっと、宇宙に行って帰って来ない人だ」


「……ごめん。
あたし……帰る」
瀬利恵は、口に手をあてて走っていった。



窓ガラスを叩く音で目がさめた。
窓の外に、瀬利恵が立っている。
「時間ある?
……じゃ、星見に行こうか」
連れ出されました。
「……奇麗だね」
(ああ/天の川が見える)
「……あの、さ。
……本当は、どこから来たの。
そこはどんな所、何がおいしいの?
どんな人が住んでいるの?」
(第7世界の話をする/故郷の話をする)
…………。
…………。
…………。
「そっか……、いい所……なんだよね。
きっと……。
ねえ、もっと聞かせてよ。
あんたの……いや、あなたの話を」
夜明けまで話しました。


「あんたの故郷は……その、本当の故郷は、その体のものではない、あんたの本当の故郷は、ねえ、見える星は同じかな」
(ああ/うなずく)
「そうか、じゃあ、時々でいいからさ、見上げておくれよ星空を。
あたしも見上げるから。毎日見上げるから。
たとえもう、2度と会えなくても……」


瀬利恵は一人、星空を見上げた。
遠いどこかで、誰かと空で、繋がるようにと。



(瀬利恵ED)


鳥が飛んでいました。
地上の事は、言えません


   父島守備隊、生き残りの証言




……島を離れるその日。
貴方は瀬利恵と二人で、学校の戸締りをして、
そして二人並んで、長い坂を下りていきました。
「ねえ。
……そろそろ、私達の前から消えるんだろ?」
(ああ/……元気で)
「…すごい泣いて泣きじゃくって、
袖ひっぱったら、考え、変える……?
……。
嘘。
困らせるような事は、しないよ。
それに……。
もし考え変えてくれなかったら、私…立ち直れないから。
……何かわからないけど、あんたは、
役目を果たしたんだよね。
それで、きっと世の中はよくなるんだよね」
(うなずいて介入を終える/……星を、見るよ)
「……(PC)……」

貴方は介入を終了させました。
コントローラを、置いてください。
……。

それからときどき、
瀬利恵は一人、星空を見上げた。

遠いどこかで、
誰かと空で、繋がるようにと。




篠山瀬利恵 通常 / 提案 / 派生 / シナリオ

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最終更新:2007年02月24日 18:35